手紙

@nanakamadomomo

第1話出会い

眼鏡を外して見る風景は。いつもより綺麗な気がします。小さい物や細かい物が霞んで目立つ物や大きい物だけが見えます。

まるで、小さかった頃みたいに目の前にある楽しい事だけを考えて。余計な事を考えない。 

世の中の理不尽な事や汚い事を知らない。そんな、純粋さを取り戻したような気がします。

眼鏡を取っていると人の顔もぼやけて見えるから。相手の顔色を窺わなくて良いし、覚えたくもない相手の顔を覚えなくて良いし。なんだか良い事尽くしです。

 あっ、でも眼鏡がないとテレビも黒板も見えないので眼鏡存在は必要です。

ただ、眼鏡を外してみる風景も面白いなと思っただけで。眼鏡の存在自体は否定している訳ではありません。

先生みたいに目が良いのが一番良いです。眼鏡は何かと面倒な事が多いです。

もし、目が悪くなったりしたら。先生も私と同じ様に景色を見てください。先生に取ってつまらないかもしれませんが、

もしかしたら、面白いかもしれません。気が向いた時にやってみてくださいね。

            桃子

〈桃子〉

三年前、私は中学2年。先生は29歳だった。先生は隣の中学校から来て。私のクラスの担任になった。

先生の第一印象は。背が高くガリガリで目つきが悪い。そう思いました。あと、先生の名字が変わってるなと思いました。不死川と書いてふじかわと読むみたい。なんだか不老不死みたい。

先生は熱血とかではなく。かと言って癖がある先生とかでもなく。所謂普通の先生で一部の女子に人気がありました。

それ以外の女子は目つきが悪くて怖いとか痩せ過ぎ無愛想とか言ってましたが。そこが良いんじゃないかと言ってる女子もいました

確かに、先生は笑わなかったです。いつも無表情でした。先生を笑わせようとした男子がいて。男子が先生の前でふざけた行動をしてクラス全員が爆笑していたのに。

先生は微動だもせず。「どうしたの」って言うから。爆笑してた教室が一気に静まりかえりました。笑わせようとした男子もまんまるに目を見開いて口を開けてました。

ある女の子が先生って病気じゃないの?と言い始め。確かに、一回も笑った所見た事ないし、いつも無表情だし、なんか気持ち悪いよねとかそんな陰口で盛り上がっていた。

私は笑わないのではなく笑えないのではないかと思った。何か傷ついたりして笑えなくなったのではないかと思った。

それとも、ほんとに病気なのかなとも思った。そんな事を考えるようになり先生の行動を見るようになった。見ると言っても後をつけたりとかしないで先生が自分の視界に入ったらちょっと見るくらい。

先生を観察してみて思った事は。いつも無表情であり、やっぱり笑わなくて、先生の目は黒目が小さくて三白眼であり、そのせいで目つきが悪く見えてしまうではないかと思った。

先生の体は細くて細いから背が高く見える

のではないかとも思った。実際に背が高いのかもしれないけど。前髪が長く目にかかっていて鬱陶しそうだなとも思った。

先生を観察しても特にこれと言った変わった所はなくて。第一印象と同じ事を思っただけで先生を観察するのを辞めた。

私は友達がいなくて休み時間はいつも図書室に行って本を読んでいた。私がよく読むのは小説で。ジャンルはミステリーとか純文学とかを読んでいた。

私のクラスにも小説を読む人はいるけど。

皆、SFやラノベなど読んでおり。ミステリーや純文学を読んでる人はいなかった。

図書室は広くて私はいつも後ろのはじの方で読む。教室の動物園みたいにうるさい空間とは対照的に。いや、動物園は別にそんなにうるさくないな。とにかく図書室は静かで落ち着く。

小説は良い。色々な世界観を味わえるし言葉の美しさがあって学校でも読めるし。

図書館に行けば沢山の本を借りられるし良い事尽くめだ。皆、ゲームをしたりスマホで動画とかを見てるけど。私はゲームはした事あるけどつまらくて。

本の方が面白いと思った。スマホを持ってないから動画は見れないし。スマホを欲しいとも思わないから別に見れなくても良い。

ある日、図書室で小説を読んでると「太宰治」と声が聞こえて声のする方を見ると先生がいた。

先生は悪さをした子供が親に見つかってしまったかのようにしまったって感じの顔をしていた。思った事が口から出たのか。話しかけるつもりはなかったようなので。

「好きなんですか?」と私の方から話しかけた。先生はこちらを見て。

「好きではないんだけどさ」と答え「中倉さんは太宰治の中でどの作品が一番好き?」と聞かれた。

 どの作品が好きかと少し考え、「女生徒が好きです」と答えた。

 「女生徒か。女生徒のどんな所が好きなの?」と聞かれたので少し考えて。

「なんだろう女の子が主人公なんですけど。その主人公の飾らない日常が良いなって思って。あとこれ写真がついているんですけど。この写真も女生徒の雰囲気にあっていて良いなって思って」

 「そうなんだ。今度読んでみようかな」

先生が私のおすすめの本を読んでくれるなら私も先生のおすすめの本を読もうと思い。

 先生のおすすめの本はなんですか?って聞こうとした時に休み時間が終わるチャイムが鳴った。

あっと思い。先生は「もう、教室行かないとね」声をかけ返事をする前に先に図書室から出ていった。

シンと静まり返った図書室から廊下の喋り声や走ってる足音なんか聞こえてきた。

私は立ち上がって本を見つめ。先生がいた場所を見つめ。すぐに走って図書室から出た  

先生とはあの日以来喋っていない。話しかけようとも思わなかった。変わらない平凡な日々が流れてくるそう思っていた。

 下駄箱で上履きに履き替えようとした時に

紙が入っていた。なんの紙だろうと思って開いてみると死ねと書かれてあった。その紙を丸めて近くのごみ箱に捨てた。

教室に入ると相変わらず騒がしく。自分の席につくと机にも死ねと紙が置かれていた。

クスクスと笑い声が聞こえ。私はその紙も丸めてごみ箱に捨てようとした時に背中を押されて転んだ。

 振り返ると押したであろう男子が笑っていて。他の男子達がお前ヤベーよと言いながら爆笑していた。

 他の子達も笑ってる子もいれば。全く関心がなく自分達の話に夢中な子もいれば。ただジッと見てくる子もいた。

それから、私へのいじめが始まった。上履きを隠されたり、教科書をごみ箱に捨てられたり、私に向かって。死ね、キモい、学校来るな、などそんな悪口を言ってきたり、押してきたり足をかけてきたりして転ばせようとしてきたりしてきた。

先生のいる時にはしてこなくて。先生のいない時にしてきたから先生は気づいていなかった。

いじめは日に日にエスカレートしていったが私は気にしないようにしていた。いちいち気にしていたらキリがないし、刺激させないようにしたかった。いつか飽きて終わるだろう。そう思っていた。

 でも、全然飽きる様子はなく。むしろ皆、楽しんでる感じだった。人をいじめて楽しむ人がいる。人間って怖い生き物なんだなって思った。

人間が一番怖いって聞くけど確かにそうだと思う。幽霊だって、動物より人間の霊の方が怖いし。戦争、薬、爆弾、人が恐れを感じてる物の多くが人間自身が作り出しているし

地球温暖化対策しようとか口では言ってるけど。平気で環境を壊し、人を殺しあったり騙しあったりして生きてるのも人間だ。

そんな怖い生き物として産まれてきた自分が嫌になる。早く死んでしまいたい。

いや、この瞬間に自分の存在自体なかった事にしたい。

いじめられてからそんな事を思うようになってしまい。いや、前々から薄々そう思っていたけど。  

だから、いじめがきっかけではないのかなと思い。いじめられなくても何かのきっかけで思うようになってかもしれない。

ある日私は本が鞄の中からなくなってる事に気づいて。何処かに隠されたのかと思うと 

「ねぇ見て見て」と女子に呼びかけられたので見ると私の本を持っていて。窓を開けてて本を落とそうとしていた。

「あっ、やめて」と言いかけて近寄ろうとするとスッと手を離して本が落下していった 

ここは3階であったから慌てて窓から身を乗り出して本を見るとここからじゃあよく分からなくて。

走って裏庭まで降りていった。後ろからナイスとか言う笑い声が聞こえてきた。裏庭に着き本を探すと本はツツジの木の中に紛れ込んであり。損傷がなかったので安心したがイライラが込み上げてきた。

どうして私がこんな目に合わなきゃいけないんだろう。私は彼らに何もしてないし話した事すらないのにどうしてこんな目に。理由は分かっていた私をいじめるのが楽しいからだろう。

いじめるのは私じゃなくても良い。誰でも良いんだ。抵抗しなかったら誰でも良いんだ

私は明日から学校を行かない事にした。元々学校は嫌いだったからちょうど良かった。

学校を行かなくなってから最初は家でずっと本を読んでいたけど。段々飽きてしまい。やっぱり好きな事だけすると好きな事の価値を見出せないから勉強するようにした。

お母さんのタブレットで勉強方法を調べていったら。無料で見れる勉強動画って言うのがあるみたいで。

その動画を見ると大体10分くらいで5教科全部を教えてくれる動画で学校の授業より分かりやすかったから。その動画を見て勉強するようになった。

学校に行かなくても勉強できるってすごいなと思い。この時代に産まれてきて良かったと思いました。

私の家は共働きで夜遅くに二人とも帰ってくる。だから、基本私は一人でいる。

休日にはどちらかいるけど。でも、二人揃っても会話はしない。もう、何年も二人が会話してる所を見た事がない。会話もしないのになんで離婚しないんだろうと不思議に思う

離婚は色々面倒だからしないとか聞いた事がある。実際そういう人の方が多いとかテレビでやっていた。私のとこもそうなのかなと思った。

私は両親と会話しない。話しかければ応答してくれるとは思うけど。話しかけられる事はありません。

両親は私に関心がない。私の事なんかどうでもいいみたい。

でも、別に気にしてない。変に干渉されるより見捨てられる方が自由で気が楽だ。  

両親は私が学校に行ってない事を学校からの電話とかで分かってるだろう。

それでも、何も言ってこない。両親は私が深夜外出したって。何も言ってこないんだから学校行かなくなったくらいではどうって事ないんだろう。

私はほとんど自分の部屋にいるけど。運動がてら近所を歩いたりもする。クラスメイトに遭遇したくないから皆が授業中の時に歩く

あと、夜中に歩いたりもする。夜中に歩くと昼間と違って、静かであまり人も歩いていなく、ちょっとした夜景が見えたりして、星が見える事もある。

夜は好き。夜中の静けさは皆死んでしまい自分だけが生きてるような錯覚に陥る。

皆死んでしまったから空気が綺麗で。こんなにも静か。そして、もうすぐ自分も死ぬ。

 そんな妄想を膨らませながら歩いたりもする。あっ、でも、警察に補導されないように注意しながら歩かなくちゃいけないのが。

 面倒だけど。今んとこ補導された事はない

し、変な人に遭遇した事もない。ここは、都会でもないけどド田舎でもない。

お年寄りが多く、若い人が少ない。変な人に遭遇しないのはそのせいだろうか。

 まあ、殺されても別に良い。私が死んでも泣いてくれる人はいないんだから。どうだっていい。

むしろ自殺より殺される方いい、自殺は面倒だし、失敗して後遺症が残るかもしれないし、成功しても何かと他人に迷惑をかけるし

その点殺されたら殺した人が全て責任を背負う事になる。私は何も責任を負う事なく、可哀想だと同情されればいいだけ。

ああなんて気が楽なんだろう。でも、殺されるのは凄く痛かったり、苦しかったりするからやっぱり殺されるのは嫌。

自殺だって同じ事だけと自殺は自分自身でやるからコントロールできるけど。

殺されるのは他人にされるのだからコントロールできない。痛みも苦しみなかったら良いのに。

最近、死の事ばかり考えてしまう。暇だから考えてしまうのだろうか。考えても答えがでない事をよく考えてしまう。

自殺した人は年間何人いるのだろうと調べてみたら、約2万人いてびっくりした。こんなにも多くの人が自殺するんだと思い。

ほんとか嘘か分からないが、あるネットの記事には本当の自殺者の年間は5万人くらいいると書かれてあった。

自殺未遂者は年間何人いるかと思い調べてみると約50万人いて、自殺を成功した人より失敗した人の方が多いんだと思った。

この数を見ると自殺ってさほど珍しい事ではないかと思うようになった。

死にたいと検索すれば掲示板とかで、死にたい、辛い、生きる意味が分からない、消えたいなど数多くの人の書き込みがあった。

自殺未遂者の方もいて。なんで失敗したんだろう。成功したかったと嘆いてる書き込みもあった。

死にたくても死ぬのが怖い人もいて、死にたい人は自殺志願者より多い事が分かった。 私と同じ思いの人が数多くいて、なんだか安心した。

自殺方法と検索してみると。自殺手助けというのが出てきて色々な自殺方法が具体的に書かれてあるサイトがあった。こんなサイトあって大丈夫なのかと思いつつそのサイトを見ていた。

自殺って言っても沢山の自殺方法があり。

こんな方法もあるんだなくらいで。サイトを見ていて今んとこやってみようとは思ってはいない。

 その自殺サイトには今から自殺する人へとクリックするのがあって押してみると。(年齢は具体的な数字ではなく十代とか二十代とかで選択する)教えたくなかったら教えなくても良いみたいで。

性別、男性、女性だけではなく。体は男だけど心は女とか、体は女だけど心は男とか、

そういうのもあった。

 自殺する理由。理由の一覧があり。いじめ虐待、生きるのが嫌になった、うつ病、借金など様々な理由が書かれており。どれも当てはまらない時はその他と書かれた所を選択すると文章が書き込める形になっていた。

どの方法で自殺するか。これも自殺する理由と同じように理由の一覧がありどれも当てはまらない時はその他があった。

 もう一つ。戻ってきたよとクリックするのがあって押してみると。さっきと同様に年齢性別、なぜ戻ってきたか、どの方法の自殺を実行したかなどが書かれてあった。

 何故このようなページがあるのか分からないけど。私が自殺する時は書いてみようかな

くらいに思った。

学校に行かなくなってからの生活は本を読む、勉強する、パソコンをする、散歩、図書館に行くを主にしていた。

たまにテレビを見たりもするがすぐに別の事をする。元々インドアだから家で過ごすのは好きだけど。たまに何にもやる気が出ない時がある。

そういう時は横になって音楽を聴いたり長時間散歩して歩いた事ない所を歩く。

そんな風に毎日過ごしていたが。ベットに横になって音楽を聴いていた時ピンポーンと高い音が響き。

 誰だろうと玄関モニターを見ると先生がいた。学校に連れ戻そうとしたのかなと思い居留守しようかと思ったが少し顔出すくらいなら別に良いだろうと思い。

階段を下りてドアを開けた。ガチャと音がなり先生がこちらを見て、「元気にしてたか?」と言ってきた。

 学校に行ってた時と変わらず健康だから。「はい」と返事をすると「これ」と言いプリントの束を手渡された。

 手渡されたプリントを見てると。「このプリントは今、授業でやってる所のプリントで

これは、親御さんに渡しといて」とかプリントの説明をして「勉強の方はどう?最近はネットとかで無料見れる勉強動画もあるみたいだし、分からない所があったら先生に聞いてよな」と言ってきた。

 なんで、学校に来いとか学校に来ない理由とか聞いてこないんだろう。今は様子を見てるだけなのか。

まぁいいや、プリント届けてくるのはこれっきりだと思うし私は学校に行かないからこの先生と関わるのはこれで最後だ。

「ありがとうございます」と言いお辞儀する。「うん」と言い「寒くなるから、風邪ひかないように」と言い。何も返事をしないで見てると「じゃあまた」と言い歩いていった   

先生がいなくあった後。玄関を閉めて家の中に入って自分の部屋に行く。

 プリントをめくっていって全部見終わったら机の上に置き、ベットに横になり、先生の事を少し考え目を瞑った。

それからも先生は2週間に1度プリントを持って家に来るようになった。

プリントの説明をして何か一言。勉強は大丈夫か?何処か分からない問題はあるか?ずっと一人で平気か?とかそんな様な事を言ってくるので。

勉強は無料のネット動画を見て勉強してるから大丈夫だと言い。先生は数学担当だから数学の分からない問題は聞いたりして。小さい頃から一人だからもう慣れたと先生の質問に答えていく。

 質問に答えると先生は「そっか」と決まってそう言う。何か一言いい終えると「よく寝て、よく食べなよ、じゃあな」とか言って帰っていく。

 あれっきりかと思ったら。意外に続いてて

そんな、わざわざプリントなんか届けなくたって良いのに、こんな事したって学校なんか

行かないよと内心思っていた。

だから、今度来た時言ってやろうと思ったプリント届けても学校行きませんよって。

 ピンポーンって音が響いて玄関を開けるといつものように先生がいて「プリント届けにきたよと」言い「えーとこれは」とプリントの説明をし始めようとしたので。

 「私、学校行きませんよ」と説明を遮った

「え」と先生は驚いていたので「プリントなんか届けても学校行きませんから」と言ってやった。

 先生は一瞬固まったが「そうか」と言って視線を下ろし「あ、えっとこのプリントは」と説明しだして。

「学校来ないのって何か原因があるのかなあったらいつでも先生に話しにきて欲しい」と言い「じゃあ」と言って帰って行った。

 もうこれで来ないだろうと思い玄関を閉めて自分の部屋に行くと。何故だか涙が込み上げてきて。

「あれ、なんで」と手で涙を拭った。ずっと本を読んでいるとだんだん眠くなってきたので。眼鏡を外して机に伏せて寝てた時。ピンポーンと音で目が覚めて誰と思い玄関モニターを見ると先生がいた。「嘘」と言葉が出て。

 走って玄関を開けると先生がいた。「プリント届けにきたよ」と今まで通りの様子でびっくりした。

 あんな事言ったのにまだ来るなんて。神経図太いなと思う反面。今まで通り来ると思わなくて。なんだか、あんな発言したのが申し訳なくなって、モヤモヤが溜まって、次来た時に謝ろうと思った。

 玄関を開けると先生がいて。いつも通りに「プリント届けにきたよ」と言ってきて「今日のプリントは」と説明を始めようとした時 

「先生」と声をかけると「どうしたの?」

と言いこちらを見てきて、私も、先生の目を見て。

「この前はあんな事言ってごめんなさい」と言うと「あんな事?」と意味が分かっていなかったから。

 「プリントなんか届けても学校行きませんって言った事」と言うと「ああ、その事か全然大丈夫だよ」とプリントの説明をして何かいつものように一言言って帰っていった。

 先生が帰ってからもしばらく先生のいた面影を見てから家の中に入って見たい番組もないけどテレビ見ていた。

 あの日から、先生の事ばかり考えていた。

先生は親切心でプリントを届けてくれていて私に好意があるなんて絶対ないのに。

 プリントを届けてくれるのが嬉しかった。

いや、違う。私に優しくしてくれるのが嬉しかったんだ。

あの日以来。プリントを届けてくのが待ちどおしくなって早くプリント届けに来ないかなと思うようになった。

でも、あの日以来来なくなった。忙しいのかなと思いつつも待ち続けていたが1ヶ月たっても来なくて。

もう来ないのかと思うようになってきた。私が学校に来ないから嫌気がさしてきたのかなとか学校に来ないからプリント届けても無駄だと思われたのかなとかそんな事を考えていた。

そんな事を考えていたら寝れなくて。時刻は深夜11時半。もっと遅くに出る事もあるから今日は早いくらいと思いながら散歩に出掛けた。

 冬の夜は一層に寒くて、やっぱ家に帰ろうかと思ったが家に帰っても特にやりたい事もないし寝れないからそのまま歩く事にした。

 風が顔に向かって吹いてきて寒いと心の中で呟いた。今日は川が見える橋の所まで行こうと思った。

 あそこは月や星がよく見えやすい所で川の流れる音も聞こえてきて気分が落ち込んでる時によく来る所だ。

 あそこにいると落ち着く。月や星が見えなくても川の流れる音を聞いてるだけでもいい  

そうしてるだけでいいのだ。もちろん、月や星が見えた方が良いけど。真っ暗な空を眺めるのだって面白い。

 厚い雲に覆われて月や星が見えなくなった空は。光を見出せなくなった人間みたいだ。月や星が光で厚い雲が闇。

 光と闇が交互に来るのが一番良くて。理想を言うなら光しか来ない方が良いのだろうけど現実はそういかない。

 だから、光と闇が交互に来るのが良い。バランスが保たれていれば闇の時でも光が来ると信じて生きていけるが。

 じゃあ、闇しか来なくなって光がもうずっと来なかったら。どうすればいいのだろう。

光が来ると信じ続ければ光は来るのだろうか何年も光が来なくても。それでも信じ続ければ来るのだろうか。

 そんな考えても答えが出ない事をよく考えてしまう。

「バカバカしい」独り言をぼやいたら橋に着いた。空を見ると厚い雲に覆われて月や星が見えなかった。

「はあ」と溜息が出てしまった。川の流れる音が聞こえてくる。夜中だからか昼間より大きく聞こえる。

真っ暗な夜空を見つめて帰ろうかなと思い歩こうとした時「ねぇ」と話しかけられた。なんだろうと思って振り向くと若い高校生か大学生くらいの男の人がいた。

髪は金髪で服装も派手で耳にピアスが沢山付いていた。ヤンキーなのかなと思った。ヤンキーは「君、可愛いね一緒に遊ばない?」と言ってきた。

「結構です」と言い早歩きで歩くとヤンキーもついてきて「そんな事言わないでさ、ご飯とか御馳走するよ」とか言ってきて断っても諦めてくれない。

 無視して歩き続けていくと「なんだよ、無視すんなよ」と言って腕を掴まれた。

 ヤバいと思って振り払おうとしたけどビクともしない。もう片方の手も掴まれて。「よくも、無視しやがったな」と睨まれた。

「まぁ、良いや、ここ夜になると全然人通らないから、ここでヤレばいい」と不気味な笑みを浮かべて押し倒された。体が震えて動けない。声も出ない。

もう、ダメだと思った時に「おい、何やってんだ」と男の人の怒鳴り声が聞こえてきた怒鳴り声のした方を見ると先生がいた。

ヤンキーは舌打ちをして「邪魔が入りやがった」と言い走って逃げていった。

先生が走ってきてくれて「大丈夫か?何もされなかったか?」と倒れた私を屈んで抱きあげた。

私は声が出なくて先生の質問には答えられなくて無意識に先生のコートの袖を掴んで抱きついてしまった。

そしたら、涙がぼろぼろ出てきたが。すぐに先生に抱きついたと脳裏に浮かんできて。

私はなんて事をしてるんだ。すぐ離れないと思い離れようとした時。先生の方から抱きしめられた。

えっ、と思ったが「もう、大丈夫だから」と先生が言い。ああ、そうか先生は、私が恐怖心からこの様な行動を取っいてると思ってるんだな。それも間違ってはいないけど。

先生は優しいからそうしてくれるのであって私が好きだからそうしてくれるのではない分かってる事なのに胸が苦しい。

また、涙が出てきたが先生の胸から離れて「もう、大丈夫です、助けてくれてありがとうございます」と言い帰ろうとすると。

「家まで送っていくから」と言われ「なんで?」と聞くと「さっきみたいになるかもしれないから、それに夜一人で女の子が歩くのは危険な事だから」と先生は真剣な眼差しでこちらを見た。

確かに、さっきみたいな事になるかもしれないなと思い「分かった」と言った。

喋らないで先生と一緒に帰って行った。家の前まで着くと「もう、こんな夜遅くに歩いたらダメだよ」と言われ「はい」と返事をすると「プリント届けられなくてごめんね。職員会議とか部活とかで忙しくてね。中々行けなくて」と言った。

 忙しくて届けられなかったんだ。私に嫌気がさしたからじゃないんだ。良かった。心の中で思い。

 「大丈夫ですよ」と言った。「今週中届けるから」と言い「じゃあね」と言って帰って行った。

 自分の部屋に戻りパジャマに着替えて横になる。先生の事を抱きしめた感覚がまだ残っておりぬいぐるみを抱きしめたが柔らかすぎて抱きしめるのをやめた。

 先生を抱きしめた感覚は硬かった。痩せてるからか男の人だからか硬く感じたのかなと思い眠りについた。


 先生が言った通り今週中に先生が来た。先生が帰った後。自分の部屋でプリントを見てたら。離任式、退任式と書いてある紙があり何気なく見ていたら先生の名前が書いてあった。

 しかも、退任式の方に。なんで?辞めちゃうの?私のせいなの?私が学校行かないから先生やめさせられちゃうの?

 そんな事が頭の中に浮かんできて首を横に振り。考えすぎるのは良くない。不登校の子がいて辞めさせられるなら数多くの先生が辞めてるだろう。次来る時になんで辞めるか先生に聞いてみれば良いんだ。

 ピンポーンと音が鳴って玄関を開けると先生が「プリント届けに来たよ」といつも通り来て先生のプリント説明が終わってから。

 「先生学校辞めるんですか?」と聞いた。

先生は一瞬動きを止めたがすぐ元に戻って。

「そうだね、プリント見たの?」と聞かれたので「見ました」と答えた。

 「そっか」と言い少し俯いた。「なんで、学校辞めるんですか?」とずっと知りたかった理由を聞いた。

 先生は少し戸惑いながら「教師向いてないなって思ったからかな」と言ったから「私のせいですか?」と聞いたら。

 「中倉さんのせいじゃないよ。前からずっと思ってたんだ。でも辞める決心が中々つかなかったから先延ばしになってしまってね。

お袋の体調も悪いみたいだから実家に帰ろうかと思っててね」と言い先生は目を逸らした

 「そうなんですね」とその日はその会話で

終わった。夜の眠れなくてベットに横になって先生の事を考えていた。

どうして、こんなにも先生の事が気になるんだろう。誰かを気にかけた事なんて今までなかったのに。

気づいたら先生事ばかり考えているし先生がプリントを届けに来てくれたら嬉しいしもっと先生と話したいし先生に触れたい。

どうして、どうしてと思い。その事について考えていったら。私先生の事が好きなんだと答えに辿り着いた。 

 好き。私は先生の事が好き。その答えは間違ってはいない正解だと思う。私が先生を好きと答えが出たら。なんだか、気持ちが楽になった。

 ゴールがない迷路に迷い込んでしまって。もう、ダメだと諦めてた所を実はちゃんとゴールがあったみたいな。そういう感じに近かった。

 先生を好きその答えを導きだせて舞い上がっていたが。じゃあ、私はどうすればいいのだろうと思った。

 先生に告白する?年が一回り離れている子を大人は好きにならない。好き以前に相手にもされないだろう。

 大人と子供が付き合うのは法律ではダメらしいから大人はそれに従っているのだろう。

どうして、こんな法律あるのだろう。

 人を好きになる事なんて誰にもとめられない事なのにどうして法律の壁を作るんだろうか。お互いに愛し合っていればそんなの関係ないじゃないかと心の中で自己主張した。 

まあ、心の中で自己主張した所で法律なんぞ変わらないのは分かってる。先生と生徒の恋愛なんて周りの大人も許さないし先生も

困るだけだよな。

 諦めよう。そうした方が良い。それから、

先生の事を諦めようとした。先生の事を考えないように勉強に熱を入れたり本をいつもより沢山読むようにした。

 けど、無理だった。考えないようにすればするほど考えてしまう。考えないようにするにはどうしたらいいかネットで調べてみたら

 考えないようにするにはではなく忘れたいものを忘れるにはどうすればいいかとヒットしたのでその記事を開いてみた。

 忙しくする、勉強を沢山したけどダメだった。

趣味に没頭する、本も沢山読んだけどダメだった。嫌な事を経験する、嫌な事を経験するか。

確かに嫌な事があればその事に意識がいって先生の事をあまり考えないようになるかもしれない。

よし、これで行こう。でも、嫌な事を経験するっていっても家にいたら嫌な事はないから学校に行こうかなと思った。

私は学校に行く事にした。朝、学校に行く支度をして制服に着替えて学校に行った。教室についてドアを開けると。

 皆、一斉にこちらを見たがすぐに自分達の話の中に入っていった。自分の席に着く机の中はプリントの束で溢れかえっていた。

 席について本を読んでるとチャイムが鳴って先生が入ってきた。最後まで学校にいたが

何もされなかった。

 私のいじめはどうやら終わったみたいだ。


せっかく嫌な思いをしに学校に来たのにと思ったけど。嫌な思いをしに学校行くなんてなんだか、おかしい。

放課後先生が「最後までよく頑張ったね」と言ってきたのは嬉しかった。

自分から話しかけられない私にとって先生の方から話しかけてくれるのは嬉しい事なのだ。

それから、私は先生を見る為に学校に行った。先生を目に焼きつけておけばしだいに飽きて忘れるだろうと思った。

嘘、本当は先生の事を見ていたいからそうしてるだけであって先生の事を忘れたいとは1ミリも思っていない。

 本当は先生の事だって諦めたくない。諦めるなら告白して諦めたい。学校に行くようになってからそう思うようになった。

 告白しようにもどうやって告白すればいいんだろうか直接は絶対無理だから手紙を書こうと思った。

 どういう手紙の内容にしようか迷いに迷った末この文章に決めた。

いつ渡そうか。最後に学校行く日に渡そうと思った。その方が気まずくない。その日が来るまで休まず学校に行った。

そして、その日がきた。いつもより短時間の授業で先生は皆にお別れを言って授業が終わった。

皆、荷物を持って一斉に帰った後先生を呼び出した。あまり一目のつかない所に誘導し

「一年間ありがとうございました」と言い手紙を渡した。

 先生は驚いた顔をして「こちらこそ一年間ありがとう」と言い手紙を受け取った。

 「さようなら」と言い小走りで下駄箱に向かった。下駄箱で靴に履き替え上履きを持って走って帰った。

 顔が熱く胸がドキドキする。家に着いた頃には全力疾走したから。ぜぇぜぇと息継ぎし心臓がバクバクしていた。

 家に入ってコップ一杯の水を飲み。私服に着替えてベット入って毛布の中に潜った。

 告白しちゃった、告白しちゃったと独り言を言い毛布をギュっと掴む。この興奮は2週間くらい続いた。

 〈不死川〉

彼女の事を忘れようとしても忘れられなかった。あれは十五年前僕が中学2年の頃だった。

僕と彼女は同じクラスだったが前期まで話した事なかったけど後期になってから席替えで隣の席になり。

授業中彼女から話しかけれた事がきっかけで話すようになった。内容は「この問題の答え分かる?」だった。

その日は数学の授業でどうやら黒板の問題を当てられて。あともう少ししたら前に書きに行かなくちゃいけないみたいで。

答えが分からないから教えて欲しいみたいで軽く解き方の説明をして答えを教えた。

「せんきゅー」と言い彼女は黒板の答えを書きにいった。問題は正解で彼女は恥をかかなくてすんだ。

彼女は数学が苦手だったけど国語が得意であった。僕は数学が得意だったけど国語が苦手だった。

授業が終わった後「不死川、数学の授業の時マジで助かったよー、不死川数学得意なの?」と言ってきて少し動揺した。

僕にこんな風に話かけてくるクラスメイトはいなかったからだ。いじめられてはないけど友達も中学に入ってからできなかった。

学校で誰かと話をする事もなかった。そんな僕が今クラスメイトに話しかけられている

「別に、そんな得意って言うほどでもないよ」と下を向いて言った。「えー、そうなの?あの問題結構難しい応用問題だったとか先生言ってたけど」と言い「あっ、そっか」と何かひらめいたみたいな顔をして。


「できる人ほど謙虚って言うよねー、だから不死川は数学できるんだよ」と声を弾ませていた。

「そうかな」と下を向いたまま言うと「そうだよー、先生が難しいって言った応用問題解けるんだから不死川すごいんだよ」と言ってきた。

そんな風に誰かから褒められた事はなかったので勇気を振り絞って「ありがとう」と言おうとした時「美香、トイレ行こうー」と声が聞こえ「分かったー今行くー」と言い。

「またね」と言い彼女は彼女の友達と共に教室からいなくなった。

彼女。いや、宮原美香は明るい女の子だった。クラスの人気物で先生とも仲が良く。誰にでも話かけたりしていてどこのグループにも溶け込んでいた。

彼女は輝いていた。いつも笑っていた。僕と彼女は正反対。僕もあんな風になれてら良いのに彼女を見るたびにそう思っていた。

 休み時間彼女が友達と自分の席で話してた時「ねぇ、不死川」と彼女に話しかけられ。

僕は、その時ぼーっと窓の外を眺めていて急に話しかけられ「なに?」と彼女の方を向いて返事をすると「今度、数学教えてよ」と

満面の笑みをして言ってきた。

 「えっ」と思わず声を出してしまい「ちょっと美香、不死川の事からかいすぎでしょ

不死川困ってるよ」と彼女の友達が笑っていた。

 「からかってないよー、あたし国語得意だから国語なら教えられるから」と言い彼女は

友達との会話の輪に入っていった。

 僕が彼女に数学を教え彼女が僕に国語を教える。なんで急にそんな事言いだすんだよと思い机に顔を伏せて窓の外を眺めた。

 まぁ、こんないい加減な約束みたいなの実行されるわけないよなと思い目を瞑った。

 彼女は朝と帰りに、「おはよう」や「またね」と挨拶してきたり

 「ねぇこれ分かる?」と数学の問題の答えを聞いてきたりする。なんで僕に話しかけてくるんだろうと思ったが。きっと理由なんかないんだろうな。

 彼女は誰にでもこんな風に話しかける性格

の持ち主だ。誰かに話しかけるのなんて毎日歯を磨く事と同じくらい意味なんてないんだろう。あんな風に生きられたら人生楽しそうだなと思った。

彼女はいつも誰かと一緒にいた。まぁ、普通は誰かと一緒にいたりする物だよな。特に学校なんて友達とかと長い時間一緒にいるよな。

一人でいるのなんて僕みたいな人間だけだ

一人、一人ぼっち。あまり深く考えるのはやめよう気分が悪くなるだけだ。

 休日図書館に行った。僕は休日よく図書館に行って勉強する。友達もいないしやる事がないから勉強してるって感じで。家より図書館の方が勉強捗るから図書館でしてる。

 その日も休憩の時ズラッと並べられてある本棚の中を歩いてみたり手に取ってどんな本か開いて見たりした。

 午後四時頃そろそろ帰ろうかなと思い鞄を持って図書館から出る。歩いてる最中彼女の事を考えた。

 彼女は休日何をしてるんだろうと。友達も多いから遊びにでも行ってるのかなと考えながら歩いたら人にぶつかった。

 その人が持っていた本が地面に落ち「すみません」と言い拾うと「いえ、こちらこそちゃんと前を見てなくてすみませんって不死川?」顔を上げると彼女がいた。

 「宮原」と声を出すと「やっぱ不死川だ」

と笑みを浮かべ「あっ、拾ってくれてありがとう」と言ってきてので「あ、本」と彼女の前に本を差し出すと「慌てすぎ」と笑って本を受け取った。

 「今日何してたの?」と彼女が言ってきたので「えっと、図書館で勉強してた」と言うと「勉強してたの?偉いね」と言ってきたので「他にやる事がないからだよ」と褒められたのが少し恥ずかしかったので少し俯きながら言うと。

 「えー、そんな事ないよ」と言ってくれた

僕も話題をふりたいと思い「宮原は今日なにしてたの?」と聞いた。

 「今日はー、友達と遊んで帰りに本屋さんによって本買ったよ」と言い「ほら、この本買ったんだ」と本を見せてくれた。表紙に晩年、太宰治と書かれてあったので「太宰治って走れメロスの人」と呟くと。

「そうそう、今授業でやってる人の小説だよ」言った。そんな昔の人の小説読むんだと思った。

「じゃあ、またね」と彼女が言い帰ろうとしたので「あのさ」と大きな声をだしてしまった。何故引きとめたのかよく分からないけど声が自然に出た。


「どうしたの?」と彼女が振り返る。引きとめたはいいけど、どうしようと思っていると。彼女が言ってた数学を教えてが頭に浮かび。

「前に宮原が俺に数学教えてって言ってたじゃん。だから、教えるよ数学」と言い彼女の顔を見た。前髪が長くてあまり彼女の顔が見れないが目をまんまるに見開いていた。

やっぱり本気じゃなかったのかなと思い、

「ごめん」と言おうとしたら「教えてくれるの?」と言い目をキラキラと輝かせていた。

 えっと思い「あ、うん」と言うと「ほんとと教えてくれるんだ嬉しいな。てか、覚えててくれてたんだね」と小さい子供が新しいおもちゃを手に入れたかのように彼女ははしゃいでた。

 こんなに喜ばれるとは思わなかった。むしろ、あれ冗談で言ったのに間に受けてんの?とか言われるんじゃないかと思っていた。


 「今暇?」と聞かれたので「うん」と答えると「じゃあ、私んち来てよ。ここから近いからさ」と言ってきて腕を引っ張れた。

 「えっ、今日?」と腕を引っ張れながら言うと「うん、やだ?」と腕を離し目を見て言ってきたので「嫌じゃないけど」と目を逸らす。

 「じゃあいいじゃん。あと、私の親共働きだからこの時間家にいないから安心して」と言い歩きだした。

そういう問題じゃなくて軽々しく異性を自分の部屋に上げていいのかなと思ったんだけど。それとも僕は異性として見られてないのかなと思いながら彼女の後をついて行った。

ここが私の家だよと言い玄関に入った。彼女の家は一軒家で掃除とか整理整頓とかちゃんとされてあった。

「飲み物取って来るから。先二階上がってて部屋は一番奥にある部屋だから」と言い台所に行った。

 二階に上がり一番奥にある彼女の部屋に行った。彼女の部屋は本が沢山あり、整理整頓や掃除もされていて、勉強机ともう一つこたつみたいな机の下に座布団が引かれてあり、ぬいぐるみなんかも置いてあった。

 これが女子の部屋なんだなと見ていると。

「お待たせー」と彼女が飲み物持ってやって来た。

 「そこに座ってていいよー」と座布団を指さしたのでそこに座ると「あっ、麦茶でよかった?」と言って心配そうな顔をしたので。

 「全然大丈夫だよ」と言うと「良かったー

聞くの忘れてたからさ」と言い麦茶とお菓子を僕の前に置いた。

 「ありがとう」と言うと「どういたしまして」言いニコッと歯を見せて笑った。

 「宮原の部屋って本が沢山あるんだね」と

後ろの本棚を見ながら言うと「ああ、これ」

と彼女も本棚を見て「私、小説好きなんだ」

と言った。

 小説が好きと心の中で呟き本棚に入ってる本を見ると太宰治、夏目漱石、芥川龍之介、など昔の作家の人の本が入っていた。

 「小説好きなんだ意外」と本棚を見つめていると「そうかなー」と言ってきた。

 「学校で読んでる所とか見た事ないし」と

言うと「学校だとあんま読まないかもしれないけど、家とかだと結構読むよ」立ち上がって本棚の前に来た。

 彼女の後ろ姿を呆然と見て「数学教えるんだったよね」と目的を思い出すと「あっ、そうだったね、忘れてた」と座布団に座り鞄の中から宿題のプリントを出してきて「ここ、

分かんない」と言ってきた。

 30分程彼女に数学を教えると「不死川の

教え方先生より分かりやすいー」絨毯に寝転んで「ありがとう、休憩しよう」と言ってきた。

 僕も少し疲れたから楽な姿勢でいたら「寝転んでいいよ」と言われたので寝転んだ。

 彼女はほんとに数学苦手なんだなと教えててつくづく実感した。なんで数学苦手なんだろうと思い。

「数学のどこが苦手なの?」と聞いてみると

「うーん、なんだろう。訳分かんないからかな」と言ってきて。訳が分からない所と思いながら。

「例えばどんな所?」と聞くと「うーん」と眉間に皺を寄せ「説明できないけど分かんない」と笑った。

「じゃあ、まず公式覚えて」起き上がると「公式?」彼女も起き上がった。

「そう、公式、例えば」数学の教科書をペラペラめくり 

「ここのy=ax+bの覚えて練習問題に当てはめると解ける」と言いながら解いてみた。

「ほら、解けた」と彼女に見せると

「ほんとだ」

「試しに二番解いてみて」

「分かった」と言い問題を解いた。

数分後に「できた」と声がしたので答えを見ると正解してた。

「ほんとだ。あってる」と言い

「不死川すごい」と笑った。よく笑うなと思い。

「公式覚えてればちゃんと解けるから、まずは公式覚えよう」言うと

「うん、分かった」と言った。

「じゃあ、僕はこれで帰るよ」立ち上がると彼女も立ち上がり「次来るときは私が不死川に国語教えるね」と言ってきた。

「うん、ていうか一緒に勉強しようよ。嫌だったらいいけど」と言う。

「それ良いね」と笑って

「じゃあ、いつする?」と聞かれたので

「いつでも良いよ、僕ずっと暇だから」

「じゃあ次の土曜日しよう」

「分かった」と言った。

「門前まで見送りするね」彼女と一緒に玄関に出た。

「今日はありがとう」

「大丈夫だよ」

「またね」

「うん、また」家に帰った。

家に帰ってリビングに行くと

「おかえり、どっか寄ってたの?」と母に聞かれたので

「本屋寄ってた」

「そう、もうすぐ夕飯できるよ」と

「分かった」リビングを出て自分の部屋に向かった。

それから休日は彼女の家で勉強するようになった。彼女に国語を教えてもらった。彼女が僕に向けた言葉と同様に先生より彼女が教える国語の方が分かりやすかった。

 毎回午後に勉強して雑談とかもして家に帰る。小説の話題を彼女がよく話してくる。

この小説は面白かった、この小説は途中までは好き、この場面の主人公が発した言葉が、気に入っているなどなどそんな話をしてくる 

小説の話をしている彼女はいつも以上にイキイキして楽しそうだった。

 そんな彼女を見るのが好きだった。こっちまで楽しい気分になる。

 毎回彼女の家ばかり(ばかりと言うか一回も家に上がらせたが事ないけど)で申し訳ないと思い。

「毎回宮原の家ばかりでごめん」と言うと

「大丈夫だよ、気にしなくていいよ」と言われた。

 本当は僕だって彼女を家に呼びたいけど、

母は働いてないから家にいない事は滅多にない事だし、土日は父が休みだから家にいるし

 両親がいる時に女の子を家に上げると面倒な事になるから上げたくない。

 彼女みたいに土日に親が働いていたら家に上げられたのに。

 中間試験があり、国語のテスト返しの時。

先生から「不死川良く頑張ったな、最高得点だぞ」と言われ答案を見ると95点だった。

 国語はいつも赤点ギリギリだった僕がこんなに良い点数を今まで取った事がなかった。

 これも彼女が勉強を教えてくれたおかげだと思い席に着くと。

「何点だったの?」と彼女に聞かれ

「95」と言うと

「95、すご」と大きな声を出すので一斉に皆こちらを見て

「95、ヤバ」と一瞬ザワめいた。

「まだ、答案返してるんだから静かにしなさい」と先生が言ったので静かになった。

「やったね」と彼女が小さくガッツポーズをする。

「ありがとう」小さく声で言う

「えっ、今なんて言ったの?」

「なんでもないよ」

と恥ずかしくなって下を向く

「嘘、ちゃんと聞こえたから」と言い

いたずらっ子みたいに笑みを浮かべていた。

 彼女の数学は80点取り

「こんなに良い点数始めて取った」とはしゃいでた。

「ありがとう」

「聞こえなかったからもう一回言って」

「ありがとう」

とさっきより大き目な声で言い

「最初から聞こえてたよ」

「バカ」と言い彼女の顔が赤くなっていた。

ある時彼女はこんな事を言ってきた。

「ねぇ不死川明日世界が終わるなら今なにしたい?」との事を

「急にどうしたの?」と聞き返す

「もしもの事だよ、ねぇなにしたい?」

僕は少し考えて「写真を撮りたい」と答えた。「写真?」と彼女がはてなマークを浮かべてたので。

「そう写真」

「なんで写真撮りたいの?」

「なんでだろう、終わる瞬間を取りたいからかな」

 「何それ」と彼女が笑った。

彼女の笑いにつられて僕も笑った。自分でも

可笑しいと思ったから。

世界が終わるのに写真を撮っても意味ないじゃないか。撮っても何もかも終わってしまうなら撮らなかったのと同じじゃないか。

「宮原はなにしたいの?」

「うーんとね」とほんの少し間を置き

「不死川と話していたい」

「えっ」と声零れた。

「やだ?」とこちらを見てきたので

「嫌じゃないけど」下の向く。

 「良かった」と微笑んでいた。

「なんで僕なの?」と彼女と顔を合わせるのが恥ずかしくて下を向いたまま言うと

「一緒にいて楽しいからかな」

「友達とかと一緒にいても楽しくないの?」

「うん、窮屈」と即答して。

 「自然体でいられるのは不死川だけだよ」

と言い手を重ねてきて。

 「いつも不死川の事ばかり考えてる」と言い手を握ってきた。心臓が破裂するんじゃないかって思うくらいバクバクして頭がこんがらがっていた。

 女の子の手は柔らかいんだなと思い手を握り返せば良いのかなと思い手を握り返そうとすると。

 すっと彼女の手が離れ。えっと思い彼女の方を見ると彼女は立ち上がって本棚の本を取り出し僕に渡してきた。

 「この本一番好き本なんだ」と言い

「そうなんだ」と表紙を見ると人間失格、太宰治と書いてあった。

 「この本貸してあげる」と言い

「最後まで読んでね」と言った。

「あっ、うん」と言うと

「約束だよ」と笑った。

彼女とのやり取りはそれが最後だった。本を貸した日から彼女は学校に来なくなった。

最初は風邪かなとか思っていたけど。2週間も休みが続くと何かあったのでは思うようになった。

朝のHRの時担任が深刻そうな顔をして。「皆、大事な話だから真剣に聞いてくれ」と言い。

「宮原が山の中で首を吊って亡くなった」

クラスが一気にざわめき始めた。「静かに、話はまだ終わってない」と担任が言いざわめきが収まった。

 「何か宮原から悩みとかを聞いた人はいないか?些細な事でも良い、もしあったら先生の所まで来て欲しい」

 それからの事は良く覚えていない。ただ、周りが彼女の話題で盛り上がってたのは覚えてる。笑い声が聞こえてきたり、泣いてる子もいたと思う。

 悲しいと言うよりか呆然とした。涙も出なかった。なんで自殺したんだろうとか。なんで僕に話してくれなかっただろうとか。

 悲しくてやりきれない気持ちになったとか

そんな事は思わなかった。

 彼女はもうこの世界にいないんだとそう思っただけだった。彼女がいなくなっても僕の生活は変わらなかった。

当たり前と言えば当たり前なんだろう。誰か一人が亡くなって世界が180度変わるならばもうとっくに世界は終わってる。

クラスの皆だってそうだ。最初は彼女の話題で満ち溢れて、彼女の席に花まで置かれてあったのに。

1週間もしない内に彼女の話題はされなくなり、花の水も変えられなくなり、花が枯れた。

花が枯れても誰も替えなくて、彼女の机にぽつんと枯れた花が寂しそうに置かれてあるだけだった。

放課後枯れた花をごみ箱に捨てた。彼女の机に枯れた花なんか置いて置きたくなかったから。

いや、花自体置きたくなかった。花はいつか枯れてしまうから枯れる物なんて置きたくない。

どうせ置くなら本とかを置きたい彼女の好きな小説とか、そんな事を考えていた。

こんな事考えても無駄なのに彼女はもういないのに何度も思ったが考えるのをやめられなかった。

新しく花を置く人はいなかった。机の上にいつも脇役の花瓶が。花がなくなったおかげで主役になって置かれてあった。

彼女から貸して貰った本は読み終わっていなかった。まだ、1ページしか読んでない。

貸して貰った日に家に帰ってすぐ読んでみたが昔の文章は読みにくくて内容がいまいち

よく分からなくて読むのをやめた。

 こんな訳の分からない文章最後までよく読めるなと思い。昔の言葉と今使ってる言葉は違うのだから、昔の小説も今風の言葉にしてくれたらいいのにと思った。

 この小説読みたくないな、このまま返そうかなと思ったが。でも、返した時どこが良かったとか聞かれたら答えられないし約束しちゃたからな。

気が変わったら読みたいって思うかもしれないし。まだ、借りたままでいよう。

そう思っていたがその日以来貸して貰った本を手にする事はなかった。

約束は果たせなかった。いや、正確には彼女が生きてる時に果たせなかった。この本をどうしたら良いか考えて彼女の両親に返そうと思ったが。

いつ訪ねてもいなくて。少し間を置いてから尋ねてみようかと思って家に行ったら家が売られてあった。

行き場がなくなった本は勉強机の奥の方に

しまって鍵をかけた。仕事で関東に行く時。引っ越しの荷物整理をしてる時にその本を再び手にした。

 忘れてた訳じゃないけどあの日以来机の引き出しにしまいぱっなしにしていた。再び手にした本を見てこの本も持ってこようか迷ったけど持って行かない事にした。

 教師になったのは子供が好きだからとか、

この先生のおかげで自分は救われたとか、教えるのが好きだからとかそんな理由じゃない

 人と関わるのが苦手だからあえて人と関わる仕事をしようと思い、教師を選んだ。要するに苦手を克服したかったからだ。

 そんな理由で教師になったのだけど自分が思ってたより2倍くらい。いや、もっとだな

教師の仕事は大変できつかった。今すぐにでも辞めたいと思ったが。すぐ辞めた人をどの会社が採用してくれるんだろうと思い辞められなかった。

 仕事はきついし大変だが公務員って事もあり余程の事がなければ首にならない。教師をやってて良かったなと思うのはその面だけだった。

他にも良かった所はあったが圧倒的に嫌な所が強くて良い所が霞んで見えてくる。

 保護者のクレーム対応(モンスターペアレントって奴だな)無茶苦茶なクレームを入れてきて何時間もその話を聞かされたり、長文の手紙が送られてきたりするし。

毎日残業でいつ帰れるのか分からないし、土日の休みがないし、こんな大変なのに給料が割りあってない。

 なんでこんな仕事選んだんだろうと後悔している。今更後悔したって遅いって事も分かりきってるけど。

 そんな事を言ってもこの仕事を5年も続けてきた。もう、そろそろ辞めても大丈夫だろう。

 全然実家に戻れてなかったし最近お袋の体調も悪いみたいだから実家に帰ろう。6年目は隣の中学に行く事が決まった。

 この学校で1年過ごして辞めよう。新しく転職先を探していかないと思った。

一番最初にクラスメイトと顔を合わすのは緊張する。教師1年目の時よりかはだいぶ慣れたけどそれでも緊張する。軽く深呼吸をしてドアを開ける。

生徒が皆席に着いている。遅刻、欠席の連絡はなかったから今日は皆揃っていると思い教卓でちゃんと皆揃っているかもう一度確認する。

皆揃ってるなと思い「学級委員はまだ決まってないから、代りに誰か号令やってくれる人いないか?」と言うと。

「はい」と以前学級委員やってたであろう男子が真っ直ぐ手を伸ばしていた。クラス名簿を見て「じゃあ、佐川君お願い」と言うと

「起立」と大きな声で言い。皆一斉に立ち上がり「礼」と軽くお辞儀をして「おはようございます」大きな声が返ってきた。

「おはようございます、皆の顔と名前を覚える為に出席を取ります」(一回の出席を呼ぶだけで皆の顔と名前は覚えられないけど)出席名簿を見ながら名前を呼んでいく。

順調に呼び上げていき「中倉桃子」と読み上げ「はい」と声をした方を見る。

目を疑った彼女がいた。信じられないどうしてと思って数秒間彼女の方を見た。

すぐに自分は出席を取っているんだと思考が巡り、「すみません」と言い出席を呼んでいった。

今日の予定などを話軽く自己紹介などもしていった。登校初日と言う事もあり早めに授業が終わった。

生徒が帰ってから職員室で業務をこなして

る時。彼女、中倉桃子の事を考えてた。彼女がいるわけないじゃないか。彼女はもう死んでるんだから。

でも、異常に彼女と似てた。いや、似てるどころか彼女そのものだった。そんな事あるのかよと思い。

彼女の産まれかわりだったりして。ふと、

思い。「何考えてんだ俺」と独り言が漏れてしまい。

隣の席のおばさん教員が眉間に皺を寄せてこちらを見てきたので。

「あっ、すみません独り言です」と言うと何も言わずに見るのをやめた。

それから、中倉桃子を意識するようになった。別にストーカーみたいに後を付け回したりした訳じゃないけど(そんな事したら一発で首。首じゃなくてもしないけど)あの子が視界に入る時はあの子の事をずっと見てた。

一回り下の女の子を見てるなんて自分でも気持ち悪いと思うが見るのをやめられなかった。

あの子は彼女と対照的な性格だった。いつも一人でいたし、あまり笑わなかったし、冷め切った目をして近寄りがたい雰囲気を出していた。

この子は自分と似てる。そう思った。後は眼鏡をかけていた事かな。丸くて黒い眼鏡をかけておりそれがあの子に似合っていた。

彼女と1つだけ同じ所は本を読んでいた事だ。図書室に用事があって行った時あの子は一番後ろの隅の方で読んでいた。

毎回、休み時間に教室にいないと思っていたらここで本を読んでいたのか。何の本を読んでるのか気になったが、邪魔しちゃいけないと思い話かけなかった。

あの子は数学の成績は良かったが国語の成績が悪かった。本を読んでるなら国語の成績も上がるんじゃないかと不思議に思ったが。

本を読んでるのと国語の成績が良いのは必ずしも比例する訳ではないのかもと思った。

あの子を見てると昔の自分を見てるような気持ちになった。

 彼女と同じ顔なのに中身は正反対で僕に似てる。妙な親近感が湧いてきたが首を横に振り自分は教師なんだぞと呟いた。

 でも、あの子が読んでる本がどうしても気になって、授業準備が終わった後図書室に行った。

いないかなと思ったがあの子は前見た時と同じ席で本を読んでいた。

 あの子に向かって歩いていき話しかけよう

と思ったが真剣な目で本を読んでるあの子を

見ると話しかけづらかった。

 本の表紙が見え女生徒、太宰治と書かれて

あり「太宰治」と心の中で思った事が口に出てしまい。

 あの子が顔を上げてこちらを見て「太宰治好きなんですか?」とジッと見つめてきた。

「好きではないんだけどさ」好きって言うかむしろ苦手だけど心の中で思い。

「中倉さんは太宰治の作品で一番好きなのは何?」と聞くと

「女生徒ですかね」

彼女は人間失格であの子は女生徒かと思い。

「どんな所が好きなの?」言うとあの子は女生徒の良さを語った。

 「そうなんだ。今度読んでみようかな」と思ってもない事が口に出た。

休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。あの子はまだ何か言いたそうな顔をしてたがチャイムが鳴ったので職員室に戻らなきゃいけない。

 「もう、教室行かないとね」と声をかけ早足で図書室から出て行った。あれ以来あの子と話していない。話せるなら話したいが別に話さなくても良いと思っていた。

 あの子も先生といえども30手前のおっさんに頻繁に話しかけられたら嫌だろうし見てるだけで充分だった。

ある日突然あの子が学校に来なくなった。

最初は風邪だろうと思ってたが、2週間も学校に来ないからあの子の家に電話を掛けたが

いつ掛けても出ないから。

あの子の親御さんに電話を掛けた。「桃子さん2週間も学校に来てないんですが何かありましたか?」

「何もありませんよ、いつも通り元気ですよ。忙しいのでもう切っていいですか?」と関心がない様に見えた。

「突然のお電話失礼いたしました。差し支えなければ。お時間が空いてる時間を教えいただけませ」

最後まで言い終わらない内に電話を切られた。父親の方にも電話を掛けてみたが母親同様な関心がない様に見えた。

あの子は両親に見捨てれているのか、だとしたらあの子は今大丈夫だろうか。来てた時はお弁当もちゃんと食べてるのを見たから生活面では大丈夫なんだろう。

見捨てられてるけど生活面では困ってないこれであってるのだろうか。それともただの思い込みなのか。

どうすれば良いのか考えた。まだ、見捨てられていると確信がある訳でもないし、あの子から何か証言を聞いた訳でもない。

それに、あの子はそれを望んでないかも知れない。ただのお節介だと思われるかも知れない。

じゃあ自分にできる事はあの子を見守る事しかないんじゃないか。様子が可笑しかったり、あの子が助けを求めてきたら全力で助ける。

様子を窺うためにあの子にプリントを届ける事にした。あの子が家でも勉強できてるのかと思い。

ネットで調べてみたらどうやら勉強を教えてくれるネットの無料動画があったので試しに見てみると10分くらいで分かりやすく教えてくれる動画だったのでこれをあの子に教えようと思った。

一応電話を掛けて見たが案の定出てくれなかった。いなかったらまた行けばいいし、とりあえず行ってみよう。

インターフォンを押しピンポーンと甲高い音が響き渡りあの子を待つ。立派な一軒家で

新築なのかなと思うくらい綺麗だった。

数分待つとあの子が出てきて、不審者を見るような目で俺を見てた。

 家に担任が来るなんて嫌だよな、そういう目で見てくるのも無理はない。

あの子にプリントを渡して説明して、ネットで無料で見れる勉強動画を教えてあげたら、もう、使っていたみたいだった。

 あの子は学校来てた時と同じ体型だったし

特に可笑しい所はなかった。気のせいだったのかなと思いつつも様子を見ていった。

 その日もいつも通りあの子の家に行ってプリントの説明をし始めようとした時。「私、学校行きませんから」とあの子がこちらを睨んでいたので

 「えっ」と咄嗟に出てしまい「プリントなんか届けても学校行きませんから」と言い睨み続けていた。

学校に来て欲しくて。プリントを届けてたんじゃない。ただ、急に学校を来なくなって心配だったんだ。

なんて、そんな事を思っても口に出せず。呆然とプリントの束を持って立っているしかなかった。

あの子は俺の事を敵だと思ってるんだろうな。そう思い「えーとこれは」と知らない人に話しかけられたと思ったら。

実は自分が忘れてるだけで本当に面識があった人で。この人誰だっけと思い出すかのようにプリントの説明をした。

 プリントの説明してる間にもあの子は早く帰れと思ってるんだろうなと思いながらもやる意味がよく分からないプリントの説明をしていた。

 プリントの説明を終えて重苦しい空気の中

「学校来ないのって何か原因があるのかな。

あったらいつでも先生に話して欲しい」

俺にはこんなありきたりの事しか言えない

原因があるとしてもこんな俺じゃ話してくれないだろう。

 情けない、何してんだよ俺。「じゃあ」と言いその場を立ち去った。

 もう行かない方が良いのかと思ったが頭の片隅で行った方が良いと思い。どうしようかと悩みに悩みまくった。部活動の試合も今月多いから部室に顔を出した方が良いし、合唱コンクールも近いから放課後20分間練習しなきゃいけない。

 仕事は山ほどあり、あの子に面倒を見る時間があまりなかった。正直プリントなんか届けなくても何の問題にもならないだろう。(

不登校の生徒は何人か他のクラスにもいたが

担任はほったらかしてる様子でいた。

それでも、今まで通りあの子にプリントを届ける事にした。先生だからそうしたではなく自分がそうしたいからの言い方の方が正しい。

嫌がられるだろうけどそうしなきゃ気が済まなかった。ごめんと呟きながら玄関を押した。

出て来る訳ないよな。やっぱり辞めようと思った時ガッチャと扉が開きあの子が出てきた。

目を疑った。本当に出て来ると思わなかった。「プリント届けに来たよ」とこの前に事なんか気にしてないよ的な素振りで少し明るめに話しかけた。

あの子は何も言わずライオンがシマウマを草村からジッと見ているようにこちらを見てるだけだった。

最後まであの子は何も言わなかったけど。

出迎えてくれたという事は少しでも自分に心を開いてくれたという事ではないのか。

 それとも、違うのか。いやいや出迎えてくれるのだからきっと少しでも良い方向に進んでるに違いない。

 そう、信じたい。人間は迷ったら自分の都合の良い方に考えてしまいがちだとテレビで言っていた事を思い出した。

 確かにそうだと思う。悪い方ばかり考えていたらやってらんない。少しでも希望がある方が良い。そっちの方が生きやすい。

 あの日から前みたいにプリントを届けに行った。あの子と少しでも一緒にいられるのが

嬉しかった。あの子といると彼女と過ごした日々を思い出す。人生で一番楽しかった日々

そんな日はもう訪れないだろう。

 あの子にいつものようにプリントを届けに行きプリントの説明を始めようとした時。

「先生」と話しかけられたので「どうしたの?」と返事をする。

やっぱりプリント届けに来るの嫌だったのかなと思い何を言ってくるんだろうと待ってると。

「この前はあんな事言ってごめんなさい」

「あんな事?」この前言った事かな

「プリントなんか届けても学校なんか行かないって言った事」

やっぱりそうだ。「ああ、その事か、全然大丈夫だよ」と全く気にしてなんかいない素振りをしてプリントの説明を始めた。

まさか謝ってくるとは思っていなくて少し驚いた。あの子は何も悪くない。悪いのはあの子に気を使わせてしまう俺だ。

もしかしてその罪悪感でプリントを貰ってくれてるのか。一瞬そう思ったがそんな事ない、そんな事ないと首を振る。

この考えすぎてしまう癖を治したい。悪い癖だ。あの子の家にプリントを届けに行きたかったが忙しくて中々届けられなくなってしまい。

落ち着いたら届けに行こうと思って残業を終えて家に帰ろうとした。ほぼ毎日残業で嫌になるが。もうこれで最後だからと言い聞かせて仕事をする。

次の転職先も決まってないし、何が良いのかなと考えながら歩いていると「無視すんじゃねぇよ」と声が聞こえてきたので。

なんだと思い声のする方を見ると。あの子が倒れていて金髪の男がいた。

「おい、何やってんだ」頭で考えるより先に声が出てた。自分でも驚く程大きい声でこんな声出さるだとすら思った。

すぐにそんな事を考えてる暇はないと思い

あの子の所に走って向かう。あの子の所に向かうと倒れたままでいたので「大丈夫か?」と声をかけ起き上がらせた。

 あの子は全く動かなく。何かされたのかと思っていた時あの子が抱き着いてきた。

 えっと思い胸の中におさまったあの子を見ると顔は見えないが泣いているように見えた

怖かったんだろうな。そりゃ怖いよなと思いあの子の方をもう一度見ると彼女の手に触れた事を思い出した。

柔らかくて、自分より小さい手。彼女を抱きしめたらこんな感覚だったのかなと思いあの子に抱き着いてしまい。

 「もう、大丈夫だよ」と声もかけていた。

離れなきゃと頭で思っても体はこの状態でいたいのか動いてくれなかった。

不謹慎だと思うが。凄く心地良くて落ち着いた。久しぶりにこんなに心が安らいだ。

砂時計みたいにゆっくりと砂が落ちていき疲労やストレスなどいらない物が落ちていってくれてるように思えた。

また、ひっくり返したら疲労もストレスだって元に戻って来るけれど。このひと時だけでもそれらを忘れていたい。

生徒にこんな事を思うなんて教師失格だと

思うが。教師だって一人の人間だ。思うだけなら別に良いだろう。

 あっ、でも今行動に移してしまったから教師失格になってしまったのか。もう、こんな事をしないようにしないと。

 じゃないと辞めさせられてしまう。でも、あの子が訴えたらすぐに辞めさせられてしまうよな。

 ああ、もう大人やめたい。あの頃に戻りたいと思い。美香と心の中で呟いた。

あの子を家まで送って行った。そのおかげで帰って来たのが1時くらいですぐに寝た。

 飯は職員室で済ませてきたし、風呂は朝シャワーすれば良い。とにかく疲れて早く寝たかった。ベットに入って数秒で眠りの世界に入り7時頃目が覚めた。

一応あの子の両親に深夜外出をしてた事を連絡すると二人とも謝っていた。見捨てられてたのかと思ったが気のせいなのかなと思い

あまり深く考えないようにした。

 そうこうしてるうちにあの子が学校に来るようになったので。もう、大丈夫かなと思い様子を見たけど大丈夫そうなので。

今まで通りあの子とあまり関わらなくなっていった。これが本来の姿なのでこの方が良いだろう。色々。

どんなに心地良い夢でもいつか覚めるし覚めなきゃいけない。それがこの世界なんだ。

 心地良い夢のままでなんかいられない。ましてそれが現実になるなんてありえない。だからもうあの子とは終わり。そう思っていた

月日は流れ今日で生徒と接する最後の日になった。最後と言っても。いつもと変わらず

最後に一言何か言って終わり。

そんなもんだドラマみたいに感動的な別れなんかない。

あー、これで教師終わりだと思うと嬉しくてたまらない。我ながらよく続いたなと思い

今日は久しぶりにビールでも飲もうかなと職員室に向かおうと歩き始めた時。

「先生」と呼びとめられ。誰だと思い振り返るとあの子がいた。まだ、帰っていなかったんだ思い。

「どうしたの?」と声をかけると「あの」

と言い「ちょっとこっちに来てください」と言われたので「ああ、うん」と返事をし。あの子の指示通りの場所に移動した。

なんで移動するんだろうと思ってると。

「一年間ありがとうございました」と手紙を

渡してきたので。手紙を渡してる所を見られたくないから一目のない所に誘導したんだなと思い。

「こちらこそありがとう」と手紙を受け取ると「さようなら」と言い小走りで行ってしまった。思春期だから色々大変だろうなと思い受け取った手紙を見る。

お礼の手紙か、嬉しいな。なんだか、ドラマみたいだ。家に帰って読もうと思いポケットにしまい職員室に向かった。

家に帰り冷蔵庫からビールを取り出し。ビールを飲みながら手紙を読んだ。白い紙に綺麗な字が書かれており。どれどれと読み進めていく。

 不死川先生へ

いきなりなんですけど私先生の事が好きです先生がもし私に好意があるならば私に手紙を送ってください。なければ送らなくていいです。

 ○○県××区○○市

           中倉 桃子

 ビールを吹き出しそうになり慌てて手で口を覆う。あれ、可笑しいな。

まだ、1本しか飲んでないのに酔ってるのかなともう一度手紙を読み返したが書いてある内容は同じ。

 疲れてるのかなと思い。日にちを空けて読んでも書いてある事は同じだった。

まさか、あの子に好かれてるとは夢にも思わなかった。なんで俺なんかの事好きになったんだろうと思い。

中学生からしたら29なんておじさんだろ

もうすぐ30だし。顔がカッコ良い訳でもないし、かと言って面白い訳でもないし。

 なんで俺なんだと心底不思議に思う。自分の良い所を考えてみたが。自分でも悲しくなるくらい自分の良い所が浮かばない。

 悪い所なら思い浮かぶのにな。なんでだろう。と溜息を洩らした。

幻なんじゃと思って何度も手紙を見るけど何度見ても現実である事を思い知らされる。

 現実、現実。これが現実なんだと手紙の内容を何回も読んではいきなりなんですけどの所で「いきなり過ぎるだろ」とツッコミを入れ。読み終わった後。目を瞑る。

受け入れられない現実を間の当たりにして

実家の宮城に引っ越した。お袋に挨拶をし、

何十年前かに使ってた自分の部屋に行き荷物整理をする。

部屋は変わっていなく昔に戻ってきたみたいだ。机の引き出しを開けて本を取り出す。

そう、彼女に貸してもらった本だ。

久しぶりに見た本は当たり前だけど何も変わっていなかった。もう一回部屋全体を見渡す。

変わっていない物の中で変わってしまったのは自分だけだなと思い。本を引き出しにしまう。

これからどうしようかと思い。パソコンで

新しい転職先を探し、何社か応募し、面接の為に髪を短く切り。合格した奴から一番良い奴を選ぶ。

 これが一番良いなと思った会社は営業で仕事内容は商品やサービスの活用紹介をするらしく家から電車で30分。交通費も負担してくれるし、ボーナスもちゃんと出るし残業代も出る。よし、この会社に決めた。

最近はブラック企業とかもあるみたいだからこの会社はそうじゃないと良いな。

そう思いながら会社で勤務していたけど、

求人案内の条件通りで部長も上司も同僚も優しく。人間関係も良好だった。

 もちろん嫌な事はあるけど。教師をやっていた頃に比べれば全然マシ。早く転職してれば良かったなと思う。

一人暮らしの時はろくに料理をせずお惣菜や弁当ばかりだったので久しぶりに食べたお袋の料理は美味くて。改めてお袋のありがたさ実感した。

月日が流れ仕事内容にもだいぶ慣れてきた頃。ふと手紙の事を思い出し引き出しの中から取り出した。

 どうしようか。好意がなければ返事はいらないと書かれてあるし。でも、何故だか返事を書いてみたいと思った。

自分があの子に好意があるのかよく分から

ないが。(手紙を書きたいと思う時点で自覚してなくても好意があるのかもしれないが)

とにかく返事をしないままでいるのが嫌だった。会社帰りに100均でレターセットを買い。

休みの日に手紙を書く事にし、どんな内容にするか迷いに迷った末この内容に決め紙に書いていき。会社に行く時にポストに手紙を入れた。

あの子はどんな顔をしてこれを読むんだろうと駅で電車を待ってる時にふと思った。

〈桃子〉

先生が学校からいなくなって1ヶ月たった

けど私の生活は変わらなかった。

学校に関して変わった事と言えば新しいクラスになり新しい先生になっただけで。後は変わってない。

いつもと同じ平凡な日々が流れて来るだけ

平凡な日々を送れるだけでも幸せな事だと思うけど。平凡過ぎて変化が欲しくなる。

そう、何か新しい変化。

頭では期待しないようにしてるつもりだけど。もしかしたら、返事が来るかも知れないと微かに期待してるみたいだ。

大人が子供相手に本気になる訳ないと充分理解してるがそれでも期待してしまう。

自分でも馬鹿だなと思うが。でも、諦めきれない。こんな気持ちになったのは始めてだった。

先生の返事を待ち続けて2ヶ月くらいたったが返事は来ない。最初の内はポストを何度も往復してたが。

段々にポストを往復する事もなくなり、ポストを見るのも2週間に1回くらいしか見ないようになった。

日に日に期待が薄れていき。やっぱ来る訳ないよなと思うようになりポストを見るのも辞めた。

過ぎていく時間の中私はぼんやりと過ごして行った。つまらない学校に行く、読書をする、散歩。主にこれら3つの往復だった。

その日は学校帰りで家まで歩いてると郵便局のバイクがあり。私の家に何か入れてるのを見て。走って家まで行った。

ポストの中を見ると一通の手紙が入っていた。宛名を見ると不死川と書かれてあったので急いで家に入って手紙を見た。

 中倉さんへ

中倉さんが僕を好きだなんて夢にも思いませんでした。実は言うと僕も中倉さんの事が好きでした。

でも、教師と言う立場の僕が生徒の君に恋をするなど世間が許してくれないだろうと思い。諦めようと思ってました。

だから、中倉さんが手紙をくれた事が嬉しかったです。頭では諦めようと思っても、どうしても諦めきれなかったから。

 僕は教師を辞めたから世間体の事をあまり気にしなくてよくなりました。教師の時に告白されたら断らなきゃいけなかったけど。

 今ならその心配はしなくていい。僕は中倉さんの事が好きだけと本当に僕なんかがで良いの?    不死川 豊


まさか、先生から手紙がくるなんてと思って読んでいた。本当に先生の手紙だ。嬉しい嬉しすぎる。嬉しすぎて今日死んでもいいと思った。

走って自分の部屋に行き。机の引き出しからレターセットとを出し、鞄から筆箱を取り出して手紙を書く。

よし、書けた。明日学校に行く時ポストに出そう。そう思いベットに横になる。先生が私を好きだなんて嘘みたいだ。

でも、嘘じゃない本当なんだ。ぼんやり天井を見つめて。好きは自分には無縁な物だと思ってたけどちゃんと自分にも縁があったんだと思った。

傍にあったぬいぐるみを抱きしめ。先生に会いたいと思った。会った所で何を話せば良いのかも分からなかったけど。

先生の顔が見たかった。

 〈不死川〉

あの子からの手紙はすぐに来た。会社帰りに何気なくポストを覗いてみたら手紙が入っていて。

誰かなと思い宛名を見るとあの子だったので驚いた。こんなに早く来るとは思わなかったから。急いで家に入って手紙を見る。

不死川先生へ

先生が返事をくれるとは思っていませんでした。返事がきてすごく嬉しかったです。

私は先生じゃなきゃ嫌です。それは、先生の事が好きだから。私は本当に先生の事が好きです。

            中倉 桃子

手紙を読み終え。なんだか胸が痛くなってきた。その胸の痛みはきっと罪悪感からだろう。

あの子は本気で俺の事が好きなのに、自分はあの子を好きでない。

好きではないと断念するのも違うな。なんだろう。上手く言葉に表せないけどあの子の事が気になって手紙を送った。

気になるって事は好きと表現する事もできるけど。この気になるは好きの気になるじゃない気がする。

「おかえり、豊」と声が聞こえ振り向くといつの間にかお袋が廊下にいた。

「ただいま」と手紙を鞄の中に入れる。

「さっきから、ぼーっと突っ立てどうしたの?」と心配そうな顔をしていたので。

「会社のプリント見てた。変更があったみたいで」

「あら、そう」とリビングに向かって歩きだし。ご飯とお風呂どっちする?と聞かれたので飯にすると答えた。

休日に手紙を書いた。書いてる最中何度も自分はあの子の気持ちを踏みにじっているんだと思い知らされたが。

それでも、書くのをやめなかった。俺はどうしてもあの子に手紙を出したかったからだ

なんでそこまでして手紙を出したいのか自分でもよく分からなかったが。とにかく出したかった。

理由は上手く説明できないけどこの絵が好きと同じくらい意味はなかった。

〈桃子〉

先生と文通するようになって1ヶ月がたった。先生と文通するようになって私は自分が生きてるんだと思うようになった。

 生きてるって先生と文通する前から私は生きてるけど。その生きるじゃなくて、なんだろう。

 生きるって言い方より存在しているの方が良いな。そう、私は先生と文通する事により自分が存在してると思うようになった。

 今まで存在すらできなかった私を先生が存在を認めてくれてたんだ。周りから可笑しいと思われるだろうけど私はそうだと信じたかった。

〈不死川〉

 あの子と文通するようになって1ヶ月たった。自然と罪悪感は感じなくなっていた。自分から言わなきゃあの子に分かる訳でもないのにましては遠距離なのに。

罪悪感なんて感じても意味はないだろうと思うようになった。今さら文通を辞めようと言ってもあの子を傷つけるだけだし。本当の事を言ったらさらにあの子を傷つけるだけだろう。

 それに文通をするのが今一番の楽しみになってしまった。あの子との文通を辞めたくない。それはあの子だって同じだろう。

だから、自分から自爆するような事はしない。周りからなにを言われてもあの子からやめようと言われなきゃやめたくない。

本当の俺を知ってたら。それでもあの子は俺を好きと言ってくれるだろうか。

そんな答えの分かりきった事を考えるのはやめよう。胃が痛くなるだけだ。

〈桃子〉

学校をサボるようになった。サボると言っても毎日サボってる訳ではない。一週間に12回くらいだ。

サボってる時は。散歩してるか図書館にいるかのどっちかだ。たまに家にいる時もあるがほとんどはこの2つである。

中2の学校に行かなかった頃の生活に似ている。散歩するコースは決まってないけど、

学校がある反対側を散歩するようにしてる。

 散歩は好き。色々な景色を手軽に見れるから。歩くと良く寝むれるし、ストレス発散にもなるから良い事尽くめだ。

いつもの様に散歩していると「ちょっと、君」と話しかけられ振り返ると警察官がいた

「はい」と返事をすると。

「君、中学生?こんな時間に何してるの?

学校は?」と警察官はこちらを見てきた。

「今日学校休みなんです?」

「そうなんだ。じゃあ学校名と名前教えてくれないかな?」

面倒な事になったなと思い。黙ったままでいると「早く教えてよ」と催促してきた。

 教えなきゃ帰らせてくれないなと思い。名前を教えようとした時「あのすみません、その子私の妹なんです」と声が聞こえてきた。

声のする方を見ると若い女の人がいた。

「今から病院行くんです」と言いこちら見て

「ねぇ、マキ」と言ってきたので

「うん、お姉ちゃん」と言い返した。警察官は少し驚いた顔をして「そうでしたか、すみませんお時間を取ってしまって」と謝ってきた。

「大丈夫ですよ、マキが先に行っちゃうからこんな風になってしまっただけですし」

女の人が腕を組んできて「さぁ、行こうかマキ」と言い歩きだしたので「うん」と言い

一緒に歩いた。

しばらくそのまま歩き女の人は腕を組むのをやめ「もう、大丈夫だよ」と言ってきた。

「えっ」と言うと「もう、警察見えなくなったから」とこちらを見た。

 助かった。「ありがとうございます」とお辞儀をする。「どういたしましてー、サボるのは良いけどあんまりうろつかない方が良いよ」と言いその場を去って行った。

長い黒髪、濃い化粧、派手な服、シャンプーなのか柔軟剤なのか香水なのか分からないけど良い匂いがして綺麗な人だった。

 もう一度会いたい。そう思い散歩する回数を増やしたけど会えなかった。当たり前だ。もう一度会える確率なんてすごく低い。

この前だって偶然出会っただけだ。警察に補導されなきゃ出会わなかったし、向こうはもう忘れてるかもしれない。

 そう考えるとバカバカしくなり諦める事にした。忘れらるようにサボらず学校に行くようした。

そうしてくと1回しか会った事のないお姉さんの事なんか次第に記憶が薄れていくような気がした。

 お姉さんの記憶が薄れていった頃。私は学校帰りに寄り道をしていた。

その日は綺麗な夕日が出ており。暖かい光が町全体を優しく包み込んでいるみたいだった。まるで母の愛情みたいに。

当てもなく川沿いを歩いていき、橋の下に行くと人影があった。いつもなら人がいるとすぐ移動するのだか、なんか見た事あるような気がしてその人影に近づいて行った。

徐々に近づいて行くとその人の事を思い出した。もう一度会いたいと願っていたお姉さんだった。

真っ直ぐ前を向き体育座りで煙草を吸っていて、こちらの存在に気づいていなさそうだった。

お姉さんに傍に行き話しかけた。「こんにちは」と。初対面の人に話しかけるなんて変だと思うし、普段の自分じゃ絶対やらない事だけど。

お姉さんには話しかけたいと思った。例え嫌な顔されても、無視されても、忘れらてても良い。今やらなきゃ後で後悔すると思うから。

お姉さんはこちら見て「あの時の」と少し驚いた顔をした。覚えててくれた。それだけでも嬉しかった。

「無事に帰れた?」

「はい、帰れました」

「そう、良かった」

「お姉さんはいつもここにいるんですか?」

「たまにいるかな」

「そうなんですね」

「お嬢ちゃんは?」

「今日始めてきました」

「そうかー、ここ結構良い場所だよ」

「そうなんですね、良い場所なんですね」

「うん、良い場所」と言い沈黙が続いた。

煙草を地面に押し付け「座りなよ」と手招きしていたのでお姉さんの隣に座ると煙草の匂いがしてきた。

お姉さんはこの前と同様に濃い化粧で派手な服を着ていて。川を見ているような気がした。私もお姉さんと同じ川を見る事にした。

橋の下だから薄暗く、ザーと川の流れる音が響いた。ぼーっとしていると当たりは暗くなっていった。

今何時なんだろうなと思ってると、お姉さんが立ち上がり「ねえさ」と話しかけてきた

「はい」と返事をすると「もし、良かったら夕飯食べてかない?」とこちらを見てきた

夕飯、夕飯、私誘われているんだと思い。

「はい!」と少し大きめな声で言うと「良かった」と笑い「着いてきて」と先に進んで行ったので。急いで立ち上がって後を追いかけた。

後に着いて行くとコンクリートのアパートに辿り着いた。2階立てのアパートであり、お姉さんが階段を上がって行ったので後に続いて階段を上がるとギシギシと大きな音が聞こえてきた。

所々剥げてるし、このアパート古いんだろうなと思った。一番奥の部屋に行くとお姉さんは鍵を取り出して扉を開けた。

 「さぁ、入って」

「お邪魔します」軽くお辞儀をして入る。お姉さんが鍵を閉めて電気を付けて。「ここが私の部屋だよ」と言った。

 物は多いが整理整頓されており清潔感がある部屋で微かに煙草の匂いした。「そこに座ってて」と座布団を指していたので言われた通り座る。

冷蔵庫を開けて「飲み物麦茶で良い?」と言ったので「はい」と返事をする。「オッケー」と言い。

数分後に「はい」と麦茶の入ったコップを渡された。「ありがとうございます」とコップを受け取る。

「いいえー、ジュースとかあったら良かったんだけど。私、ジュース飲まないからさー

今度買ってくるね」

「そんな、わざわざ良いですよ。私、ジュースより麦茶の方が好きですし」

「そうなの?あたしと一緒じゃん」とニコっと笑った。ジュースより麦茶の方が好きと言うのは本当にそうだった。

ジュースは甘ったるいからたまに飲むのは良いけど。毎回飲みたいとは思わない。

その点麦茶はいつも飲んでるし、あのシンプルな味はジュースより好きだ。

お姉さんはまた冷蔵庫の中を見て「何作ろうかなー」と独り言を言い「あっ」と小さな声を上げ。「アレルギーとか嫌いな食べ物とかない?」とこちらを見てきた。

「アレルギーはないです、嫌いな食べ物もないです」と言うと「嫌いな食べ物ないの?すごいねー、私なんかありまくりだよー」と笑っていた。

「じゃあ、これにしようかな」と作る料理を決めたらしく具材を取り出していった。「私も何か手伝います」とお姉さんの傍に行くと「じゃあ、鶏肉切ってくれないかな?」とビニール袋に入った鶏肉を渡された。

「これ全部ですか?」

「うん、全部切っちゃて」と言いお姉さんは野菜を切っていった。人参と玉葱が素早く微塵切りにされていく。

私も鶏肉を切ろうとしたが切れない。あれなんで切れないんだろう。力を振り絞って切ろうとしてるのに全然切れない。

「できた?」とお姉さんがこちらを見てきたので「切れないんです」と言うと「ちょっと貸して」と鶏肉を持ってすいすいと切っていった。

私は力振り絞って切ったのに。お姉さんは

軽々と切っていくのですごいと思った。

 「お嬢ちゃん、鶏肉の皮を上にして切ったから切れなかったんだよ。鶏肉を切る時は鶏肉の皮を下にして切らないと」と言い残りの鶏肉を切ってと言われたので言われた通り切るとさっきの半分の力で切れていった。

「お姉さんすごいですね」

「ありがとう、一人暮らし長いと自然に身についちゃうんだよね」

「鶏肉切れたら座ってて、後は私がやるから」「はい」と返事をし。座布団に座ってお姉さんの方を見る。

料理を作るお姉さんの姿はいつもより逞しく見えた。まるで昔のお母さんを見てるみたい。

次は部屋の中を見てみる。お化粧品や化粧水や美容液などがたくさんあり、かごの中に詰め詰めに入っていたり。

タンスに入りきらないのかたくさんのお洋服がハンガーにかかっていたり。色とりどりの香水が置かれてあったりした。

ジューとフライパンで炒める音が聞こえ香ばしい匂いが漂ってきた。料理を作る音ってよく分からないけど安心する。

フライパンで炒める音聞きぼんやりとお姉さんの背中を見ていた。

「お待たせー」とお姉さんが私の前にお皿とスプーンを置く。ふわふわの卵の上にケチャップで「ようこそ」と書かれてあった。オムライスだ。湯気が立っていて美味しそうな匂いが部屋中に広がる。

「ケチャップもっとかけたかったらかけて良いからね」とお姉さんが傍に置いてあるケチャップを指さした。

「いただきます」と二人手を合わせて言う

オムライスをスプーンですくって食べる。美味しい。卵がトロトロしてて、チキンライスの部分もお店のみたいだ。

「どうかな?」とお姉さんが心配そうに聞くので。「すごく美味しいです。お店のみたい」と言うと「良かったー」と心底嬉しそうに笑った。

 「あたしさ、今まで手料理食べさせた事なかったからさ、大丈夫かなって料理作ってる時からずっと心配してた」

「そうなんですね。でも、こんなに美味しいんだから心配する必要なんかないのに」

「そう言ってくれてすごい嬉しいけどさ、

味覚なんて人それぞれだからどうかなーって思ってね」とお姉さんが麦茶を飲んでいく。

人それぞれか。確かに好き嫌いとかはあると思うけど。美味しいとか不味いとかはそんなに大差ないんじゃないかな。

 美味しい料理の特徴掴めていれば大体は美味しいと思うし。お姉さん料理上手いのにこんな事考えてるなんて。意外だな。

 オムライスを食べ進めていく。お姉さんが食べ終わり食器を洗っている。私も食べ終わり食器を流しに持っていった。

「ごちそう様でした。すごく美味しかったです」

「ありがとう、また食べに来てね」と笑顔で食器を受け取り洗っていく。「はい」と返事をすると「敬語じゃなくて良いから、気楽に喋ろう」と洗い終わって水を止める。

キュッと蛇口を捻る音がなり「ね」とこちらを向いてきたので「うん」と頷いた。

「夕飯ごちそう様でした」とお辞儀をする

「いえいえー、いつでも来てね」とお姉さんが手を振る。手を振り返して家に帰った。

 家に帰ると既に電気が着いており居間に母がいた。そのまま自分の部屋に行こうとすると「桃子」と呼び止められたので振り返ると

母がいた。

 「はい、今月のお金」と4万円を渡された

「ありがとうございます」と受け取ると「仕事が忙しいから行くね」と家を出て行った。

仕事じゃなくて。あの人の家に行ったんだろうなと思い。渡された4万円を封筒に入れ机の中にしまった。

自分の部屋に行きベットに横になった。オムライス美味しかったな。誰かの手料理食べたの久しぶりだな。

嬉しいな、嬉しいな、一滴の涙が出てスーッと耳の後ろまで来たので手で涙を拭った。

なんで涙が出て来るんだろう。

 お姉さんの所には週2くらい訪ねている。

本当は毎日でも行きたいけど毎日来たら迷惑だと思うからこのくらいのペースで来てる。

いつもお姉さんは笑顔で「いらっしゃい、

待ってたよ」と出迎えてくれる。お菓子などを用意してくれて食べながら他愛のない会話をする。

ほとんどいるが。たまに留守なのか寝てるのか出て来ない時もある。いつも家にいるから「お姉さんは働いてるの?」と聞いた事がある。「ちょっと待って」と財布を取り出し名刺を渡してくれた。

「お姉さん、体を売ってるんだ」

「体を売ってる?」意味が分からなかった。

「そう、体を売ってるの」

「キャバクラとか?」

「うーん、ちょっと違うな」

名刺を見ると風俗嬢マキと書かれてあった

家に帰って調べて見るとその体を売る意味が

なんなのか分かった。

なんでお姉さんがこういう仕事をしてるのか気になったが。色々事情があるんだろうと思い聞かなかった。

次の日いつもの様にお姉さんの所に行くとお姉さんはお酒を飲みながら「あたしさ、早く家から出たかったの」と話し始めた。

「私の親ろくでもない親でさ、パチンコばっかやって借金作ったり、気に食わない事があると暴言吐いてきてり殴ってきたりして。

もう、悪い所だらけで良い所一つもないんだよ。笑えるよね。それで色んな人に話したりとかしたけど結局無駄だった。話した事今でも後悔してる。

後悔したってもう遅いって事は分かってるんだけどね。だからさ、早く家出たくてさ。高校卒業ともに家出たんだ。

現在はこのボロアパートに住んで今の職業に就きお嬢ちゃんと巡り合えてあたしは今とてつもなく幸せだよー」とお姉さんは私に抱きついてきた。

良い匂いがしてサラサラの髪が肩に垂れ下がる。いつも笑ってるお姉さんからは想像つかない過去で唖然としていた。お姉さんの頭をそっと撫でる。

「ありがとう」そう言った声は涙混じりであった。お姉さんは泣いていたのかそれとも泣くのを我慢していたのか良く分からないけど。

「私も、家に帰ってもいつも一人だから。

お姉さんと一緒に居られるのが幸せだな」嘘は言ってない。本当の事だ。お姉さんは黙ったまま私を強く抱きしめた。

 しばらく、このままでいたが。お姉さんがスッと離れていきちょっと煙草吸ってくるとベランダに行った。

お姉さんの目が充血していた。泣いていたのかなと思いベランダに行った。お姉さんが柵に持たれかかる形で煙草を吸っていた。

 「どうしたの?」と切れ長の綺麗な目がこちらを見る。勢いで来ちゃったけど何話せば良いんだろうと考える。

煙草の匂いが漂ってきたので「煙草って美味しいの?」と煙草の話題にする事にした。

 「美味しい、うーん」眉間に皺を寄せ「美味しいと言うよりかは安心するかな」と煙草を吸って吐いた。白い煙が空中に散らばっていく。

「吸ってみたいの?」

「吸ってみたいとは思わないけど気になったから」

「そう、まあ煙草は興味が出ても吸わない方が良いよ。あんなのただの中毒になってるだけだから」と灰皿に煙草を押しつけ「中入ろう」と言った。

中に入って座布団に座るとお姉さんが残りのお酒を飲んでいく。

「お酒は美味しいの?」

「お酒は美味しいよ、でも最初は不味いと思うけど段々に美味しくなってく」と言い缶を机に置く。

「飲みたいの?」

「飲んでみたい」と言うとお姉さんがまたお酒を飲みだしてこちらに近づいてきてキスをしてきた。

お酒が口の中に入ってくる。甘くないジュース見たいな感じで苦い。唇がそっと離れていく。

 「こんな感じ」とお姉さんは笑ってた。心臓がバクバクして顔が熱くなっていく。恥ずかしくて顔を背ける。

「もしかして、始めてだった?ごめんね。

でも、女の同士は数に入らないから」と後ろから抱きついてきた。

 嫌じゃない、むしろ嬉しかった。私は異性が好きで同性は恋愛対象じゃない。だけど、

なんでこんなに。

 「始めてですけど、お姉さんが始めてで良かった」たぶん先生は私にキスしないだろう私が未成年だから。それともお願いしたらしてくれるのかな。

「嬉しいな。私もお嬢ちゃんが始めてだったら良かった」ともう一度柔らかい唇が触れ目を瞑る。唇を離した後「今度何処か遊びに行こう」と言われた。

「何処に遊びに行くの?」

「何処にしようかねー」

「私が決めても良い?」

「いいよー、楽しみにしてるね」

「うん、楽しみにしてて」と言いその日は帰った。お姉さんと何処に遊びに行くかパソコンや雑誌で調べ。

 電車で30分、小さい時よく行ってた遊園地に決めて2週間ぶりにお姉さんの所に向かった。

 お姉さん絶叫マシンとか乗れるのかな。そもそも遊園地とか好きかなとか思いながら歩いていくとアパートにパトカーが止まっていた。

 人だかりができてて、「自殺」「若い女の人」と聞こえてきてなんだろうと思いながらも階段を登ってお姉さんの部屋に行こうとすると。

「君ここに入っちゃダメだよ」と警察官に言われた。「私、お姉さんに用があって来たんですけど、何かあったんですか?」

 「それがちょっとね」と困った感じで言ってたので「自殺したんですか?」と人だかりの中で聞こえた事を言った。

 「まあ、そうだね」と答えた。ああ、あれはお姉さんの事だったんだ。「ちょっと君」警察官の横をすり抜けてお姉さんの部屋に入った。

 お姉さんはいなくて代わりに警察官がいて首吊りの縄が結ばれてあった。首吊りをしたのかと思うと「君、ダメだよ中に入っちゃ」とさっきの警察官に腕を掴まれて外に出された。

 家に帰ろうとすると「ねえ」と話しかけられ振り返ると女の人がいた。

お姉さんと同い年くらい人で話を聞くとお姉さんの隣の部屋でお姉さんと仲が良かったらしい。

どうやら、私がお姉さんの部屋に入ってくのを何回も見た事があるから話かけたらしい

 発見したのは大家さんで今月の家賃が未払いなのを請求した時扉が少し開いてたので開けてみると首を吊っていたらしい。

 もう少し早く見つけられれば助かってたかもしれないらしい。「悲しいよね、なんで自殺なんてしたんだろう」と女の人は涙ぐんでた。

 私はお姉さんが亡くなったのに涙が出なかった。悲しい、悲しいのに涙が出ない。


約束は果たされないまま終わった。


〈桃子〉

 2年後私は高校生になった。高校生になって変わった事と言えば眼鏡からコンタクトにした事と髪をロングヘアにした事と携帯を持つようになったくらいで後は変わってない。

 私は通信制の学校に行く事にした。全日制の高校にだって行けるけど。あまり通わなくていい通信制を選んだ。

 学校に行ってない時は図書館で勉強している。毎日朝一で図書館に行って自習室で勉強する。平日の自習室は誰もいないから好きな席を選べる。

 閉館時間ギリギリまで勉強して家に帰るの繰り返しで特に変化はない。毎日同じ日々を過ごしている。

 帰り道に参考書を買いに駅前の本屋さん行こうと歩いてると。

「なんだよ、お前」と声が聞こえたので見てみると男子高校生3人が1人の男子高校生を囲んでいてその男の子を殴ってた。

その男の子は抵抗する素振りもなく殴られてた。「また、口答えしやがって」とリーダー格ぽい男の子に胸ぐらを掴まれて一発殴られて3人の男子高校生は帰って行った。

その男の子は地面に座って痛々しい頬を抑えていた。痛いんだろうなと思いハンカチを公園の水道で濡らして。

 「大丈夫?」と言い渡した。その男の子は驚いた顔でこちらを見て「ありがとう」とハンカチを受け取った。

 「頬に当てて冷やしてね」と言いその場を去った。その男の子は先生に似ていた。ガリガリで背が高くて前髪が長い所が。目つきは悪くないが黒目が小さかった。

 図書館に行きいつもの席に着くと勉強を始める。1時間やって15分休憩を繰り返す。その時も休憩時間の時に本棚に行って手探りで本を触ってた。

 気になる本があったのでどんな本か見ようと本に触った時手が触れたので驚いて手を離すと昨日の男の子がいた。

 そう、先生に似ている男の子だ。彼も驚いた顔をして「どうぞ」と本を譲ってくれたけど「先に良いですよ」と言い自習室に行こうとしたら。

 「待って」と話しかけられたので彼を見ると「あの、缶ジュースとか飲みませんか?この前のお礼がしたいんです」と言い目を逸らした。缶ジュース、昨日のお礼。

「いいですよ」と返事をした。図書館を出て近くの公園に行き缶ジュースを買ってベンチに座った。

私はカフェオレで彼はりんごジュースを買った。「ありがとう」とお礼を言うと「こちらこそありがとう」と言い下を向いた。

しばらく沈黙の中「僕、○○学院の清水裕って言うんだ」とこちらを見てきた。

「私、○○高校の中倉桃子って言うんだ」

「何歳なの?」

「高校1年生だよ」

「そうなんだ。僕も高校1年生だよ。同い年だね」

「うん、今日学校ないの?」

「今日はサボったんだ。中倉さんは学校ないの?」

「私は、通信だから今日はないんだよ」

「そうなんだ」とまた沈黙になった。やっぱり彼は外見だけでなく内面も先生に似てる。

自信がなく少しおどおどしてる感じが似ている。最近先生から手紙が来るのが遅くなってる。遊びに行こうと約束したのに急に仕事が入ったとドタキャンされた。

 「ねえ、遊びに行かない?」と思いつきで言葉が出た。初対面の子に自分は何を言ってるんだろうと思ったが。初対面だからこそ言えたんだと思う。

 同じクラスメイトでもあるまい。もうこれっきりかもしれない。裕は驚いた顔をして頬を赤く染めて「行きたい」と言った。

 彼とメール交換をし、1週間後に遊園地で遊ぶ約束をした。先生と行くはずだった遊園地に。

 当日私は、先生と行くつもりで買った可愛い洋服を着て出掛けた。5分前に着いたのに既に彼は来ていた。

 「お待たせ」と声をかけると「全然待ってないよ」と言った。裕は黒のジーンズに黒のパーカーと黒で埋め尽くされていた。

 暗い色が彼には似合っていて。先生もきっと暗い色が似合うんだろうなと思った。私達は電車で30分する遊園地に向かった。

 電車の中は平日の昼間だからかあまり混んでなく二人揃って席に座れた。席に着いても喋る事はなく目的地に着くのを待った。

 目的地到着、チケットを買って中に入る。

休日よりかは多くないがそれでも人が沢山いた。

親子連れ、友達同士で遊びに来てる人、カップル、一人で来てる人、色々な人がいた。「どれに乗ろうか」と裕が嬉しそうに笑う。

「あれにしよう」とメリーゴーランドを指さした。

 「行こう」と裕の手を握った。メリーゴーランド、コーヒーカップ、ジェトコースター

等々色々な乗り物を乗った。

 お昼の時間になり、遊園地に内ファーストフード店に行き。ハンバーガーとポテトと飲み物を買ってイートインコーナーで食べた。

 「遊園地って楽しいね。僕、遊園地来たの始めてでさ」と小さい子供のように目を輝かせていた。

「遊園地楽しいよね。私も小さい時よく来てたけど。今じゃ全然行けてなくて一緒に行ってくれてありがとう」

「お礼を言うのは僕の方だよ。ありがとう」

 「どういたしまして、片付けたら次の乗り物乗ろうか」と席を立った。

バイキング、フリーフォール、お化け屋敷

などに行き休憩がてらクレープを食べ最後に観覧車に乗った。

 ゆっくりと動く観覧車にお互い向かい合って座る。窓を見ると夕焼けが見えた。綺麗な夕焼けだった。あの時のように。

 「夕焼け綺麗だね」

「そうだね、綺麗だね」ジッと夕焼けを見つめる。先生と夕焼け見たかったなと思っているとそっと手が触れた。

 隣に裕がいた。恥ずかしのか下を向いていた。よく下を向くなと思い手を握る代わりに優しく抱き着いた。先生を抱きしめた時と感触が同じだった。硬い感じが。

裕は下を向いたままだった。早く顔を上げて欲しい。

「始めて会った時から。僕、中倉さんの事が好きなんだ」と下を向いたまま言った。やっぱり好きなんだと思い。

 「ねえ、顔上げて」と言い裕が顔を上げると目を瞑ってキスをした。そっと唇を離すと裕の顔が真っ赤で笑ってしまった。

 「始めてだったの?」

「始めてだよ」と体の向きをこちらに向けた「そう」とまた抱きつこうと思ったが裕の方から強く抱きついてきて唇が触れた。   

 

 〈裕〉

自分で言うのはなんだけど僕の家はエリートだった。父さんは医者でいくつもの病院の経営者であり、一番上の兄さんも父さんと同じ医者で。二番目の兄さんは早稲田大学に所属しており将来は教授になるみたいだし。母さんも元教授だ。

 そう、僕以外の皆が優秀なんだ。僕はというと中学受験に落ちて公立の中学に通い。少しランクを下げて受験したのに高校受験にも落ちた。

母は僕の前では「大学良い所入れば大丈夫よ」と言ったが夜中喉が渇いて水を飲みに台所に行こうとしたら母さんと父さんで話し合っていた。

 「裕ちゃん良い大学入れるかしら。中学も高校も落ちゃったし。もっと沢山勉強させなきゃ」

「まあ、そう焦るな。中学、高校なんて過程にしか過ぎない。本番は大学だ。大学さえ良い所入れば良いんだ」

二人とも僕に気づいてなく僕はバレないように自分の部屋に戻った。大学も落ちたら母さんも父さんもガッカリするだろうな。

なんで僕は兄さん達みたいに頭が良くないんだろうと何度も思う。高校は男子校で。母さんが共学だと異性がいるから集中できないだろうとの理由で男子校にさせられた。

 共学が良かったけど母にそんな事を言っても無駄だろう。「ヨウちゃんみたいに常に学校で一番なら良いけど。裕ちゃんはまだ一番になった事ないでしょう?」と言われるに決まってる。

 小さい頃から兄さん達と比べられてきた。それもそうだろう。兄さん達は常にトップでいるのに僕はそうじゃない。

僕が親でも比べてしまうだろう。比べるなと言う方が難しい。学校に行き始めたけど友達はできなかった。

元々喋るのが苦手なのと自分と趣味の合う人がいなかったからだ。グループはあっという間に出来上がり一人ぼっちになった。

まあ、友達なんか出来ても遊んでばっかいないでもっと勉強しないって母に言われるんだろうな。

それでも良かった。友達がいなくて一人ぼっちなんて慣れっこだった。ただ、いじめられるのは嫌だった。

クラスの中心人物に僕は目をつけられてしまった。理由はそいつとぶつかってしまったからだ。(ぶつかったというか向こうからぶっかって来たんだけど)

思いっきりぶつかり「ごめん」と謝ると、

「いてーな」と睨まれて怖くて目を逸らしてしまい「こいつ女見てー」と笑って歩いていった。

次の日学校に行くと「清水クンだよねー」と昨日のぶつかった高橋と言う男に話しかけられた。

 「うん」と返事をすると「お前ほんと女見てーだよな」と肩を掴まれて笑っていた。いつも高橋と行動してる木村と松本もゲラゲラと笑っていた。

 「ほんとは女なんじゃねえの?ちゃんとちんこあんの?」

「お前やめろって、からかいすぎだろ」と木村が不気味な笑みを浮かべて言ってくる。

「ごめんーごめんー、俺はただ清水クンと仲良くなりたかっただけなんだー、許して」とこちらを見てきた。

 口は笑ってるのに目は全く笑っていなくて怖かった。「うん」と頷くと「よしゃー、俺らもうトモダチだね」と肩を寄せてきた。

 それから地獄の日々が始まった。雑用を押し付けられるは、変顔してだのものまねしてだのと命令されるは、宿題移させてと言われてノートを貸したら窓に放り出されるは他にも色々あった。

 一回「もうやめてよ」と言ったら「はあ?

てめえ何逆らってんの?」のと空き教室に連れて行かれ「調子乗んなよ」と押され。床に倒れて起き上がろうとすると馬乗りで乗ってきて。

 「今後調子乗んないようにお仕置きするねー」と殴ってきた。

痛い。頬が熱い。僕は抵抗しようと必死で

体を動かしたがビクともしない。

それもそうだ。高橋はガタイも良くて柔道部に所属している。帰宅部でガリガリの僕が敵うはずがない。

 やめてよ、やめてよと声を上げる限り叫んだが「うわー、やっぱこいつ女だよ。やめてよーやめてよーって叫んでるし」と大笑いしてやめてくれない。

 やめてくれよ、やめてくれよ。なんでこんな奴らなんかに僕はいじめられなきゃいけないんだよ。

 ジンと目頭が熱くなり涙が出そうになる。

こんな奴らなんかに泣いてたまるもんかと涙が出ないように目をギュっと瞑る。

 「このぐらいにしとこうかな、あんまやりすぎて痣に残ったら面倒だし」と高橋が殴るのをやめる。

 やっと終わると思ったのも一瞬「じゃあ、こいつ脱がして写真撮ろうぜ」と松本が今思いついたかのように言う。「いいねー」と木村も笑顔で言う。

 「そしたら、もう抵抗できなくなるな」と

ニヤッと笑う。

「やめて、それだけは」

「お前が逆らうからイケないんだろ?逆らわなきゃこんな事しなかったのに。被害者面すんなよ」 

ベルトに手をかけられた時「おい、お前らなにしてるんだ」と先生が入ってきた。「遊んでただけです」と高橋が離れて3人とも走って逃げて行った。

 「君も早く帰りなさい」と言い先生は歩いて行った。助かった。早く家に帰ろうと鞄を持って走った。

 家に帰り冷凍庫の保冷剤を取ろうとすると「おかえり」と背後から母さん声が聞こえ。ただいまと返事をすると「どうしたの?腫れてるじゃない」と顔を見て心配した。

 「ああ、ちょっと転んじゃって」

「そうなの?病院行かなくて大丈夫?」

大袈裟だなと思い「冷やせば大丈夫だから」

と保冷剤を持っていった。

 親には心配かけさせたくない。ただでさえできが悪いのにいじめられてるなんて知ったら。

保冷剤をハンカチに包み頬に当てた。熱い頬が冷やされていく。勉強しなきゃと勉強机に向かった。

 次の日からいじめがエスカレートしてきた

教師に卑猥な事言ってこいとか万引きしろとかの命令になってきて。

机を蹴っ飛ばしてきたり、体操服入れの袋でサッカーしてきたり、他の事は我慢できたけど教師に卑猥な事を言うのと万引きだけはできなかった。

できないと「雑魚の癖に」と殴ってきたり蹴ってきたりしてきた。

 殴られたり蹴られたりするのは痛いし嫌だけど。それ以上にそれらの命令を聞くのが嫌だった。

教師に卑猥な事言って成績が悪くなったら嫌だし、万引きして捕まったりなんかしたら

母さんも父さんも泣くだろう。

いや、一家に泥を塗らせる事になる。そんな事になったら僕の人生終わりだ。学校に行きたくないけど休みたいなんて言えない。

心配かけさせたくないし仮に休んだとしてもすぐ学校に行かなきゃいけない。休んでからの学校なんて気分が重くなるだけだ。

放課後高橋達に指定された公園に来るように言われ公園に着くと「お金貸してよ」と言ってきた。

お金貸してよか。どうせ返さないんだろうのに「もう、いい加減にしてくれよ」

「やめてよ、こんな事」と言うと拳が飛んできた。

 頬に激痛が走りしゃがみ込む。「なんだよお前」胸ぐらを掴まれた。「また、口答えしやがって」ともう一発殴られた。

 痛くてたまらなくて涙が出そうになったが唇を噛みしめて我慢した。早く終われ、早く終われと心の中で願った。

 気づいたら地面に座っていて涙が流れていた。思いだしたかのように頬から激痛がきて

イタっと言い頬を抑える。

 痛いし熱いし、早く家に帰って冷やさないと。立ち上がろうとした時「大丈夫?」と声をかけられた。

見上げると女の子が立っていてハンカチを渡された。「頬に当てて冷やしてね」と言いすぐに歩いて行った。

 渡されたハンカチを頬に当てた。熱い頬が冷やされていく。早く家に帰らなきゃと立ち上がるとまた涙が出てきた。

 あれ、おかしいなと手で涙を拭ったが中々とまってくれなかった。

辛い日々が続く中。学校に行く電車を待っていた時。ふと、今電車に轢かれてしまえば学校に行かなくて良いのかなと思った。

学校に行ってもあいつらにいじめられるだけだし、家にいたって僕は皆の足を引っ張ってばかりだ。

僕ってなんだろう。兄さん達みたいに勉強ができる訳じゃないし、かといって何か特技がある訳でもないし、学校ではいじめられるし。

最初からいない方が良かったんじゃないか

そしたら、母さんや父さんに無駄な心配せさせなかったし、こんな思いしなくて済んだのに。

足が動き黄色いの線を越える。快速特急が来るとのアナンスが響き電車の音が徐々に近づいてくる。

もうすぐだ。あともう少しで僕はと目を瞑って前に出た時女の子の顔が浮かんだ。僕にハンカチを渡してくれた優しい女の子。

ハッと思い目を開けるとゴーと電車が通過する音が響きその場にしゃがんでいた。電車が過ぎ去った路線を呆然と見ていた。

僕は今何をしようとしたんだ。当たりを見ると驚いた顔で見てる人、スマホを僕に向けて写真を撮ろうとしてる人、全く僕に関心もなく懸命にスマホをいじってる人など様々な人がいた。

僕は急に恥ずかしくて惨めな気持ちになり

走って改札を向けた。どうしよう、何処に行けば良いんだろうと思い。長時間いても大丈夫な図書館に行く事にした。始めて学校をサボった。

平日の図書館はそれなりに人がいたけど沢山の本に囲まれていると徐々に気持ちが落ち着いてきた。

勉強するのもなんだから本でも読もうと思った。小さい頃よく母に図書館に連れてこられて沢山の本を読まされた。

本は良いのよと何度も言われたけど。その頃はゲームとか漫画とかの方が読みたかったし、やりたかった。

何の本を読もうかと本を見ていると気になる題名があり、あれを読もうと本に手をかけると反対側から手が伸びてきて僕の手に触れた。

手はすぐに離され。顔を見るとこの前ハンカチを渡してくれた女の子がいた。

驚いた顔をしてこちらを見ている。「どうぞ」本を取って渡そうとすると「先に良いですよ」言い歩きだした。

待って、行かないで。「待って」咄嗟に声が出た。女の子は振り向いてどうしたの?と言わんばかりの顔をしていた。

呼び止めたのは良いけど何を話せば良いんだろう。ああそうだ。ハンカチを渡してくれたお礼とかを。

「あの、缶ジュースとか飲みませんか?この前のお礼がしたいんです」僕は初対面同然の人に何を言ってるんだろう。断れるに決まってる。

だから「いいですよ」と返事をされた時は心底驚いた。女の子は中倉桃子と言い、年も同い年だった。大人っぽいから年上かと思っていた。

桃子は通信制の学校に通っている。だから

今日は休みで。図書館で勉強してるみたい。桃子は僕と違って落ち着いている。

 男子校だから女子と話す接点があまりないけど。女子高生ってもっとうるさいイメージを抱いていた。

 駅だろうとバスだろうと歩いてても喋っていたし、大声で笑って、スマホを懸命にいじる。

 そんなイメージがあったけど。そういう子達が目立って見えていただけで桃子みたいな子もいるんだな。

 僕はそんな桃子が好きだった。

いや、始めて会った時から恋をしてたんだと思う。

 だから、桃子と別れるのが嫌だった。ずっとこのままでいたい。でも、メアドとか聞く勇気もない。

 「ねえ、遊びに行かない?」と聞かれた時は心臓が止まるかと思った。聞き間違いだろうか。「今なんて言ったの?」と聞き返すと

「遊びに行かない?って言ったんだよ」と笑っていた。

 聞き間違えじゃなかったんだ。僕はその場で走りたいほど嬉しくてたまらなかった。もちろん「行きたい」と返事をした。

 家に帰っても浮かれ気分で僕はベットに倒れ込んだ。楽しみだな、何処に遊びに行くんだろうとスマホを手に持つと桃子からメールが来た。

驚いて開くと○○遊園地でも良い?との事だ。いいよと返信する。遊園地か始めて行くなと思い。

○○遊園地を調べてみると電車で30分。絶叫マシーンが数多くあった。怖いなと思ったが桃子にカッコ悪い所は見せたくない。

酔い止めを飲んで乗れば大丈夫だと言い聞かせた。何を着てこうかとタンスの中の服を見ていったが。地味な服しか入っていなかった。

デートとか行く時ってどんな服が良いんだろうと調べて見たけどよく分からなかった。

あんまり派手なのも変だから。地味の方が良いかなと思い黒のズボンに黒のパーカーにした。

 早くその日が来ないかな。僕はその時いじめの事なんか考えていなかった。桃子の事ばかり考えていた。

 今日の夜はぐっすり眠れたが朝起きたら憂鬱になった。ああ、学校行きたくない。でも

行かないと桃子に会えない。

 1週間の辛抱だと思い学校に行くとアイツらいなかった。休みかなと思ったが3日くらい休みが続いた。

 風邪を拗らせたのかと思ったら。HRの時先生が教卓の前に立ち「皆、聞いてくれ」と言った。

 なんだろうと思ってると「高橋と木村と松本が退学したんだ」クラスが一気にざわめく

えっ、退学。なんで?

 先生は話を続ける。「だけど、まあ3人がいなくなってもクラスの皆で協力しあって頑張っていこうな」と言いその話は一切しなくなった。

 なんで退学なんてしたんだろう。理由がなきゃ退学なんてしないだろうし。そう、思ってると。

 「やっぱアイツら万引きして退学になったんだろうな」と後ろで喋る声が聞こえた。

「えっ、なんでお前知っての?」

「万引きしてる所見たんだよ」

「それで、どうなったの?」

「店員に見つかって、ちょっと君、鞄に入れた所見たよって言わられて。3人共走って逃げだして店員も追いかけて高橋の手を掴んだんだよ。そしたら、高橋が店員を殴って」

「店員殴ったん?」

「そう、アイツ殴ったんだよ。それで殴られた店員が思いっきり頭打ってさ。血が出てたよ」

 「頭から?」

「そう」

「ヤバいな、頭から血が出るとか」

「そうだよな、アイツ柔道部で一番強いからな」

「でも、アイツらいなくなって清々したわ」

 「確かに、アイツら自分達が一番偉いみたいな態度取ってウザかったよな」

「そうそう。万引きと暴行して退学とか自業自得だよな」

「ざまあみろってな」

後ろで大笑いしてる声が聞こえてきた。アイツらはもういない。僕はもう苦しまなくてすむ。

あの時死ななくて良かった。桃子のおかげだ。桃子がいなかったら僕は今頃死んでた。嬉しくて涙が出そうになる。

 

早く、早く桃子に会いたい。


デート当日僕は母にマックで勉強してくると言い家を出た。今日は学校が休み。しかも平日だ。

休日に行くより平日に行った方が空いてるから助かる。スマホを見ると僕は集合場所の駅に30分も早く着いた。

欠伸が出る。昨日は興奮して上手く寝れなかった。本でも読もうかなと思い鞄の中から本を取り出す。眠いなとまた欠伸が出る。

本を閉じて少し休憩する。両腕を伸ばしてると桃子が歩いてきた。スマホを見ると5分前だった。

「お待たせ」と声をかけられ「全然待ってないよ」と言う。今日の桃子は一段と可愛かった。

濃い青のワンピースに黒のスニーカー。唇には淡い赤色のリップが塗られており、長い髪はパーマで巻かれてあった。

大人の女性って感じがした。僕の為にこんなにオシャレしてくれるなんて。

桃子がますます好きになった。

「行こうか」

「うん」僕たちは電車に乗った。

 目的地到着。チケットを買い中に入る。まあまあ人がいる事に驚く。平日でも遊園地に行く人っているんだな。

 当たり前か。桃子が黙って遊園地内を見つめていたので「どれに乗ろうか」と声をかける。「あれにしよう」とメリーゴーランドを指さした。

 馬が回る奴かと思い見つめる。「行こう」

と手を握られてドキッとした。こういうのは

男からするものなのに。

 メリーゴーランドもコーヒーカップも大丈夫だったけど次はジェトコースターだ。酔い止め飲んだけど大丈夫かな。

 ジェトコースターは写真で見るより迫力があり。あんな高い所に落とされるのを好きな人がいるんだなと不思議に思った。

 桃子の方を見ると怖がる様子もなく「早く順番来ないかな」と嘆いていた。怖がらないなんて当たり前か。怖がるくらいなら最初から遊園地に来ようなんて自分から言う訳ない。

大丈夫、きっと大丈夫だと自分に言い聞かせていたけど。いざ乗ってみると怖い。しかも、一番前だ。

 ゆっくりと下から上へ上がっていくのが余計に怖い。下を少し覗くと自分はこんなに高い所にいるんだと改めて実感する。

 桃子の方を見ると涼しい顔して両手を上げたり下げたりしていた。よくこんな高い所にいても平常心保っていられて、手なんか上げてられるよなと思った。

 その点僕は安全バーをしっかり掴み。目を瞑って下を向いた。

早く終われ、早く終われ。

「目瞑ると余計に怖くなるよ」と桃子に話しかけられた。えっと思い目を開けて桃子の顔を見る。

 「目瞑ると高さによる視覚的な恐怖感から逃れられるけど、先のコースが見えないから

どのくらい落下が続くとか次にどういう動きがするのとか分からなくなるから恐怖が増してしまうの、だから目を開けてた方が良いの  

あと、一番前って一番楽しめる所なんだよ一番後ろだと怖いだけだから。両手を上げるとバランスが取れるから両手を上げてるの」

機械がピタっと止まる。これから落下するみたいだ。「まあ、騙されたと思ってやってみなよ」桃子が両手を上げてる。

 騙されたと思ってか。僕も両手を上げた。

さっきまでがっしり掴んでた頃と違ってバランスが保たれているような気がした。

 機械が落下していく。さっきまでゆっくり動いてたのにもうスピードで動いていく。

皆「キャー」と叫び声を上げる。僕も何を言っているのかよく分からない叫び声を上げる。

桃子は「楽しい」と嬉しそうに笑っていたもうスピードで走るジェトコースターは楽しかった。

普段じゃこんな体験できないから新鮮に感じた。バカみたいに思いっきり叫ぶのは気持ち良かった。

他にも色々な乗り物に乗ったけどどれも楽しかった。遊園地ってこんなにも楽しい場所なんだと思った。

 酔い止めを飲んだおかげか酔わなかったし

飯も食べれた。最後に観覧車に乗った。桃子と向かう合う形で座る。

 ちょうど夕焼けが見える時間帯だった。綺麗な夕焼で。桃子はどこか淋しげな顔をして夕焼けを見ていた。

 「夕焼け綺麗だね」

「そうだね、綺麗だね」夕焼けの方に釘つけで僕の方を見ない。桃子にエスコートされてばかりだったから今度は僕が。

 桃子の隣に座り手に触れたけど恥ずかしくなって下を向いた。さっきまで手を繋いで歩いていたのに情けない。

 そう思ってると腕が首にきて体を僕に押しつけてきた。手を握り返すかと思ったら抱きつくなんて桃子には敵わないな。

 観覧車の中二人っきり、綺麗な夕日、抱きしめられる。この3つが揃ってるのに告白しない理由なんて恥ずかしさだけだろう。

 「始めて会った時から。僕、中倉さんの事が好きなんだ」下を向いたまま言った。恥ずかしくて顔が見れない。桃子は今どんな表情をしてるのだろう。

「ねぇ、顔上げて」と言われ顔を上げると

桃子は目を瞑って近づいてきてキスをした。

顔に全身の熱が集まってくる。

 明日僕は死ぬんじゃないかな。そう思う程

身体中が歓声を上げている。唇が離れていき

桃子の顔を見ると。

 桃子は僕の顔を見るなり「フッ」息を吹き出し「あっはは」と大きな声を出して笑う。

「始めてだったの?」と少しバカにしたように感じで言い「始めてだよ」と少し強く言い返した。

 始めてに決まってんじゃん。

バカにされてるような気がして桃子の手を引き強く抱きしめ後。キスをした。


 初恋が両想いになるなんて漫画みたいだ。


〈不死川豊〉

 その夜夢を見た。すぐ夢だと分かった。だって彼女いたから。

教室の席に彼女は座って本を読んでいた。僕は彼女を呆然と眺めていた。十四年前の彼女を。

彼女はすぐに僕に気がつき「不死川」と僕の傍に来た。

「久しぶりだね」

「そうだね」

「十四年ぶりだよねー、不死川大人になったねー」とマジマジに僕を見る。

 「そうだね、大人になったから」

「最初見た時分かんなかったもんー」

「君は変わってないね」

「だって私は14歳のままだから」

あっ、そっか。彼女は死んでたんだ。無神経な事言ったな。

「そんな顔しないでよー」と僕の肩を叩く。

 そんな顔か。

「不死川さ、彼女とかできたの?」

「いないけど」

「じゃあこれは何?」彼女が手紙を持ってた。あの子との手紙を。

「それは」返す言葉が見つからない。

「説明できないんだ。手紙に好きとか色々書いてあるのに彼女じゃないんだ。この子は不死川の事が好きなのに不死川はこの子の事好きじゃないの?」

「好きではない」あの子には好きと言う感情は芽生えない。長い年月をたってもあの子の事は好きになれないだろう。

「好きじゃないのに、なんでこんな手紙いつまでも続けているの?」

 「それは」

分からないなんで続けているんだろう。

「こんなのこの子の気持ち踏みにじって、弄んでるだけじゃん」彼女が僕を睨む。

「不死川ってそういう人間だったんだ」

そうだ、僕はそういう人間だ。彼女の言ってる事は何一つ間違ってない。

「そうだね」と言うと彼女は手紙を机に置き「がっかりだよ」と言い教室から出て行った。

 一人教室に取り残され呆然と立ち尽くす。

まだ、いるかなと扉を開くと彼女はいなかった。

扉を閉めようとした時「不死川」と呼ぶ声が聞こえ振り返ると数十メートル先に彼女がいた。

「宮原」と言い彼女の傍に行こうとすると

彼女が走り出した。僕も全力で走ったけど追いつかない。

「待ってくれよ」と言っても彼女は走るのをやめない。どんどん差が開いく。

止まってくれよ、どうして止まってくれないんだよ「宮原」と思いっきり叫んで目が覚めた。

ハッと思い上半身だけ起き上がると汗だくだった。なんでこんな夢を。もう一度寝ようとしたけど中々眠れなかった。

 結局寝れなくて、寝不足のまま会社に行った。仕事が終わり今日は早めに寝ようと思い帰ろうとすると。

 「おい、不死川」と話しかけられ振り返ると井上がいた。井上は同僚で同い年たまに飲みに行くくらいの仲だ。

始めて話かけられた時に「不死川って不老不死みたいだな」と笑われたのが印象的だ。

「今日飲みに行かね?」飲みにか。俺は寝不足だから一刻でも布団に入って寝たい。

「今日はいいや」

「そんな事言わないで、明日は休みなんだからさ飲みに行こうぜ」

いつもなら断ったら「そっか」って言うのに今日はしつこいな。

「寝不足なんだ、また別の日に飲み行こう」

よしこれで帰れると鞄とコートを手に取ると「そんな事言わず頼むよ、おごるからさ」

と井上はしつこく言ってきた。

なんかあったのかと思い「分かったよ」と返事をした。俺らはいつもの居酒屋に入る。

店内は賑やかで笑い声が聞こえてくる。

 とりあえずビールとつまみを注文する。待っている間雑談してると「お待たせしました」と威勢の良い店員さんがビールとつまみを置いてく。

 雑談しながらビールとつまみを消耗していくとビール4杯目に入ると「あー、結婚してぇ」と井上が言い始めた。

 「結婚かー、結婚して何したいの?」

「子供が欲しい!男の子でも女の子でも良いけど最初は男が欲しいな。そんでもって休日にキャッチボールする!」井上は目を輝かせている。

 「お前野球好きだもんな」

「そうそう、野球子供にやらせたい!」

「良いんじゃないの結婚して子供作って」つまみを食べる。これ上手いな。

 「そうなんだよ、そうなんだけど相手がいねえんだよ」と井上は落ち込んだ様子でいた

「相手かー」

「職場は男しかいないから無理だしさ、かといって出会いもないし」

 「婚活とか行ってみたら?」

「俺ああいうの嫌なんだよ。やっぱ出会いは自然の方が良いじゃん。それにあれって良い面しか見せてないし。付き合ったら性格変わったとかなったら嫌だし」

 「ああそう」

「なんだよ、そういう不死川は結婚願望とかあるのかよ」

「ないね」

「即答かよー、じゃあ彼女はいんのか?」

 彼女、彼女。今日見た夢を思いだす。彼女とあの子

「なんだよー、彼女いるのかよー」

井上は顔が赤くなっていた。酔っぱらったんだな。

 「あ、うん」

「なんだいたのかよー、なんで俺に教えなかったんだよ」と空のビールを持って左右にふらふら揺れていた。

「なんだろう、教えなくても良いかなって思って」

 「なんだよそれー、水くせえなー飲みに行く仲じゃねえかよー」

「そうだね」

「出会いはどこ?、年齢は?、付き合ってどれくらい?、最後までしたか?芸能人で言うと誰に似てる?」

 井上が急に普段に戻って職務質問みたいに聞いてきた。 

「出会いは学校、年齢は年下、付き合って2年くらいかな、最後までしてない、芸能人よく知らないから分からないけど昔気になってた子に似てる」

 「付き合って2年もたつのにしてないのかよー、キスはしたのか?」

全部の質問に答えたのに一番最初に来るのが

これかよ、まあいいけど。

 「キスもしてない。何もしてない」

「えー、なんだよそれー、したいと思わないのかよ」

「思わないな」全くしたいと思った事がないだって好きじゃないから。

 「スゲェなお前、学校で年下って教師?」

「まあそうだね」何が凄いんだよ。

「そういやお前教師やってたって言ってたよなー、教師と同士が恋愛ねー、どんくらい会ったりしてるの?」

 「2年前の辞任した以来会ってないよ」

「はあ?2年も会ってないの?お前らよく正気で居られるな」

「そうだね」確かにそうだな2年も会ってない。

 「まあいいや、俺がつべこべ言える立場じゃないからな、あー彼女欲しいー」と井上は机にうつ伏せた。

家に帰ると真っ先に風呂に入り寝巻に着替えてベットに入る。あー疲れた。

瞼が重くウトウトする。すぐにでも眠りに入りそうな時あの子の事が頭に過った。

1年前遊園地に行きたいとあの子が言ってきた。遊園地か。知ってる人に遭遇しないかなと思いつつもいいよと返事をした。

夜行バスを予約して。あとはその日が来るのを待つだけだった。順調に日々が過ぎて行き。いよいよ明日だなと思った時に仕事が入ってしまった。

人手が足りなくて早急に手配が執拗だったから仕事を優先してしまった。あの子には家電に電話をかけて「ごめん、仕事が入ってしまったから行けない」と言った。

「そっか、大丈夫だよ」とあの子は返事した。申し訳なかったがどこかほっとした自分もいた。

今あの子は何を考えて誰と過ごしているんだろう。この2年の間でどんな風に成長したんだろう。そう思って眠りついた。


不死川先生へ

眼鏡を外して見る風景は。いつもより綺麗な気がします。小さい物や細かい物が霞んで

目立つ物や大きい物だけが見えます。

 まるで、小さかった頃みたいに目の前にある楽しい事だけ考えて。余計な事を考えない世の中の理不尽な事や汚い事を知らない。

 そんな純粋さを取り戻したような気がします。眼鏡を取っていると人の顔もぼやけて見えるから。

相手の顔色を窺わなくて良いし、覚えたくもない顔を覚えなくて良いし。なんだか良い事尽くしです。

 あっ、でも眼鏡がないとテレビも黒板も見えないので眼鏡の存在は必要です。

 ただ、眼鏡を外してみる風景も面白いなと思っただけで。眼鏡の存在自体は否定している訳ではありません。先生みたいに目が良いのが一番良いです。眼鏡は何かと面倒な事が多いです。

 もし、目が悪くなったりしたら。先生も私と同じように景色を見てください。先生に取ってつまらないかもしれませんが。

 もしかしたら、面白いかもしれません。気が向いたらやってみてくださいね。

            桃子

桃子へ

目が悪いとそういう楽しみ方があるんだね

確かに年を重ねていく事に純粋さは減るかもしれないけど。

年を重ねていく事に子供の頃とは違う楽しい事が増えていくと思うよ。

 もし目が悪くなったら一緒に眼鏡を外して景色を見てみようか。

            不死川豊

不死川先生へ

今日は雲一つない青空でした。先生は私がいなくなったら悲しいですか?私は先生がいなくなったら悲しいです。

だけど人間って不思議な物でどんなに悲しくて涙も枯れはててもいつか立ち直りますよね。

それが短いのか長いのかは人によるけど殆どの人が立ち直る。中には耐えられなくて死んじゃう人もいるけど、そんなの少数の人です。

私はその立ち直ると言うのが少し寂しく感じます。私の事を最初からいなかったみたいに扱われる感じがして。

知ってますよ。立ち直る事ができないのがどれだけその人に負荷がかかるかって事は分かってますよ。

分かってるけど寂しいんです。私がいなくなったら先生が立ち直れなくて死んで欲しいなんてこれぽっちも思ってないけど。私の気持ちを知って欲しかっただけです。

              桃子

桃子へ

こちらは大雨でした。おかげでびしょ濡れになりました(笑)僕は桃子がいなくなったら悲しいです。

 そうだね。人間は立ち直る生き物だよね。どんなに辛い事や悲しい事があっても時間と共に少しずつ回復して立ち直っていく。

 確かに桃子の言うように寂しいと捉える事もできるけど。だけどそれがなきゃ生きていけない。

 その事を桃子は十分分かってる。分かってるけどそんな簡単に割り切れる程人って簡単じゃないと僕も思います。

 僕が簡単に割り切れない人なだけで割り切れる人だっていると思うけど。僕も桃子と同じような事を考えたりする。

 僕達は似てるね。ほんとに。

             不死川豊

桃子へ

 この前は急に仕事が入ってすまなかった。

また、今度行こう。

             不死川豊

不死川先生へ

 カップルが遊園地に行くと別れるみたい。

だからもう遊園地は行かなくて大丈夫。

             桃子

 不死川先生へ

 先生の夢を見た。近づこうとしたら先生が逃げて行って。名前を読んでも止まってくれなくて、いなくなっちゃうの。必死に探しても何処にもいないの。

 先生は私から逃げたいの?なんてね。

             桃子

桃子へ

 桃子から逃げたいなんてこれっぽちも思わないが。僕が桃子に相応しいのかって何度も思うよ。だって十五歳も離れているんだ。

 相応しいかって思わない方が変だと思う。

桃子は同い年の子と付き合った方が桃子に取っても僕に取っても良いんじゃないかと思ったりする。

           不死川豊

不死川先生へ

 やっぱり先生は私から逃げだしたいんじゃないの?相応しいかの所で遠まわしに逃げだしたいと言ってるように聞こえてくる。

           桃子

 桃子へ

 僕は自分の気持ちが分からなくなってきてる。僕が桃子から逃げだしたいと思ってるのが本心なのか違うのか分からない。

 僕は桃子から逃げだしたいのかもしれない

           不死川豊

 不死川先生へ

 何それ。嫌ならハッキリ言えばいいのに。

意気地なし。

           桃子

 桃子へ

 ごめん。君とはもう一緒にいれない。

           不死川豊

 

 〈桃子〉

 裕を家に呼んだ。お茶の入ったコップを持って2階の自分の部屋で過ごした。私の部屋を見るなり。

「桃子の部屋ってもっとシンプルな部屋かと思ったけどぬいぐるみとか置いてあるんだね」と言ってきた。

「そう」と返事をし。裕にコップを渡すと「ありがとう」とお礼を言われる。

裕の横顔を見る。前髪が長くてあまり顔がよく見えないけど肌が白く鼻筋が通っていて黒目が小さい。後ろの髪も少し長くて女の子みたいに見える。

どこか自信なさげな目。華奢な体。先生の子供の頃ってこんな感じだったのかと思い。  

ベットに横になって裕を呼んだ。裕がこちらを見る。「来て」と言うと裕は顔を少し赤くしてこちらに来た。

 「どうしたの?」

「しようか」

「えっ」と言い「僕ゴム持ってないよ?」と言った。

 「入れなきゃいいじゃん」

「そっか」と言い裕が上に乗っかる。徐々に唇が近づいてきてそっと目を閉じる。

 唇が触れた。生温かく柔らかい唇が。先生どうしてなの。どうして一緒に入れないの。

年齢の事気にしてるの?それとも他に好きな人ができたの?

 ねぇどうして。唇が離れていき目を開けると裕が驚いた顔をしていた。何故そんな顔をしているのかすぐに分かった。

 私が泣いてるからだ。「ごめん」と言い抱きしめられた。彼が悪いんじゃない。私が泣いてるから。

 「裕は私がいなくなったら悲しい?」

「悲しいよ」と言い抱きしめる力が強まった

「でも、忘れちゃうんでしょ。最初からいなかったみたいになっちゃうんでしょ」裕は黙っていた。

 「ごめん」と言い裕の頭を撫でた。

 

 先生。あなたが私に会いに来てくれないなら私があなたに会いに行きます。

 

〈不死川豊〉

 朝から雪が降っており当たりは真っ白で覆われていた。もうそんな季節か早いなと思い仕事に出掛けた。

 職場に着きおはようございますと言いながら入る。「おはよう不死川」と井上が肩を叩きながら挨拶をしてくる。

 「今日の雪凄かったな」

「そうだな、積もっていたな」

「帰りの電車遅延にならなきゃ良いけど」

「そうだな、遅れなきゃ良いよな」窓の外に目をやる。

 朝と同じく雪が淡々と降っている。あれ以来あの子から手紙が来ない。これで良かったんだとデスクに戻る。

 今日はいつもより早めに仕事が終わったが

雪で電車が遅れていつもより帰るのが遅くなった。

 ザクザクと足音を鳴らしながら家に帰る。

寒いから早く家に帰りたいと思いながら歩くも雪のせいか中々前に進ない。

 やっと家の前までたどり着いた。帰ったら風呂に入ろうと思い門前まで行くとあの子がいた。

 驚いて目を疑った。幻?いや現実だ。あの子が肩を震わせながらドアの前に立っている

こちらに気づいたのか「先生」と声かけてきた。

 あの子の傍に行く「先生」となにか言いたそうにしてたが「早く中に入って」と家に入れた。話が長くなりそうだから。

 あの子を家に入れリビングに行き暖房を入れる。「体が冷えてると思うから風呂に入りなさい」と中学の頃着てたジャージを渡した

 「先に話がしたくて来たんだけど」

「風呂に入ったら話聞くから」と言うと渋々と風呂に入った。

 まさか家に来るとはなとパジャマに着替えて脱いだ服は数分後に(あの子が風呂に入ったであろうと思い)洗濯機の前にある籠に入れた。

 ソファに深く腰をかけた。暖房の暖かい風が体に向かってくる。数十分後にあの子が「お風呂ありがとうございます」と言いながら出てきた。

 「僕も風呂に入ってくる」と言い風呂に入った。温かいお湯が冷え切った体を温めてくれる。これからどうしようと考えてもあの子を家に帰らせるしか思い当たらなかった。

 でも、この雪の中であの子一人家に帰らせるのもなと思い悩んだ。風呂から出てリビングに行くとあの子はソファに腰をかけていた 

隣に座り桃子と話しかけると「なに?」と言い体を寄せてきた。

「いつからそこで待ってたの?」

「30分くらい待ってたかな」

「どうやってここまで来たの?」

「夜行バスで来た」

 「親御さんはその事知ってるの?」

「うん、伝えておいたよ」

「本当に?」

「本当だよ、いいよって言われた」

 「そう」と下を向いた。なるべくあの子の顔を見ないで「今日は雪も積もってるし遅いからここにいても良いけど、明日には帰ってもらうからね」と言った。

 腹が減った何か食べようと立ち上がるとあの子に手を掴まれた。「何それ、なんでそんな事言うの?」と睨んできた。

 「だって、急に家に来られたって困るよ。

明日だって仕事があるんだし」と言うとあの子は泣きだしそうな顔をしてリビングを出て二階に上って行った。

 面倒な事になったなと思い冷蔵庫の中を見る。昨日作り置きしてた野菜炒めを電子レンジで温めてご飯と一緒に食べた。

 飯は食べてきたのかなと思い二階に行くと自分の部屋のドア数ミリ空いており、中に入るとあの子が毛布にくるまっていた。

 「ごめん、さっきは言い過ぎた。飯は食べてきたか?食べてないなら一緒に食べよう」

と声をかけた。

 毛布から顔を出して「食べる」と言った。

リビングに行きあの子と飯を食べる。黙々とあの子は食べていく。

 「家に先生しかいないんですか?」

「そうだね、お袋は腰を痛めて今入院してるんだ」

「そうなんだ」

あの子はご馳走様と言い食器を持って流しに持っていき洗い始めた。「そんな洗わなくて大丈夫だよ」

「勝手に来て先生困らせちゃたんだし、せめて洗い物くらいやらせてください」と食器を洗っていった。

「先生も食べ終わったら言ってください。洗いますから」と自分の分の食器を洗い終わったのか蛇口を止めた。

「ありがとう」と言い食器を流しに置いた

あの子が洗い物する姿が彼女と重なった。眼鏡をかけてなくて髪も長いあの子は彼女その物だった。

 思わず触れたくて手を伸ばすとあの子が急に顔を上げた。「洗い物終わったから先生の部屋で話したい」瞬時に手を引っ込めて「ああ、うん」と返事をした。

 二階に上がって自分の部屋に行きストーブを付ける。あの子はベットに座り。その隣に俺も座る。

 俺の顔を見て「先生」と言い出した。「先生はなんで私と一緒に入れないの?誰か他に好きな人でもできたの?それとも年齢の事を気にしてるの?単純に私の事嫌いになっただけ?」とジッとこちらの顔を見てくる。

 なんて答えれば良いのだろう。なんて答えれば納得してくれるのだろう。必死に考えた

けど良い答えが見つからない。

 あの、そのを繰り返すとチャックを開ける音が聞こえてきた。あの子の方を見るとあの子が服を脱ぎ始めていた。

 「何してるの?」と言うとあの子は全ての服を脱ぐと「先生に触れて欲しいの」と俺の手首を掴んで自分の胸に当ててきた。

 「私はずっと先生に触れて欲しかった。だけど先生は触れてくれなかった。だから私に触れて。じゃないと私にダメになっちゃう。

先生が私を確かめて」と言い力強く手を胸に押しつけてきた。

 漠然とあの子の顔を見ると悲しそうな顔をしていた。今にも壊れてしまいそうなおもちゃのようにあの子も壊れてしまいそうだった 

裸体を見ると真っ白な肌に少し膨らみのある胸にピンク色の乳首がぽつりと浮かんでいた。

 あの子肩が震えている。自分勝手な理由であの子をここまで追いつめてしまった。俺はあの子の気持ちを踏みにじったんだ。

涙が出そうになったが俺に泣く権利はない

泣く権利あるのはあの子だ。泣きたいのはあの子なんだよ。

 涙が出ないよう唇を噛み締めてあの子に抱きついた。「ごめん」と言って。

 「君の事は最初から好きじゃなかった。昔好きだった女の子が君そっくりで。だから、

君の事を気にかけたんだ」本当の事を言った

嫌われたかった。

 そうしたらもう俺の事なんか忘れて新しい恋に挑戦して欲しいと思った。中途半端に優しくされるより思いっきり突き落とした方があの子にも良いと思った。

 「先生」とあの子が俺を呼ぶ。抱きつくのをやめて恐る恐るあの子の顔を見る。

目を疑った。あの子は笑っていた。心底幸せそうな笑みを浮かべて。「先生、それでも私は構いません。先生が私を愛してくれなくても良いです。だから、傍に居させてください」と言い手を握ってきた。

なんで笑っているんだよ。悲しむか怒るかのどっちかだろ。なんで、なんで。

 唇を強くギュっと噛み締めても涙がとまらなかった。「なんでそこまでして俺の事が好きなんだよ」

「好きに理由なんてありませんよ」

「理由なんてないか」

「でも、先生は嫌みたいだから。大人しく先生と別れますね」とあの子は悲しそうに笑っていた。

 あの子は自分のベットに寝させ。俺はお袋の布団で寝た。中々寝つけなかった。あの子はもう寝たのだろうかと部屋を覗いてみたら寝息を立てていた。

 寝てるんだなと思い、机の引き出しにしまいぱっなしにしてた。本を取り出した。そう彼女から借りた本だ。

 本をパラパラとめくって見ると最後のページに紙が挟まっていた。なんだろうと思い紙を手に取ると。それは僕当ての手紙だった。

 不死川へ

 この手紙を手に取ったって事は最後まで読んでくれたって事だよね。

私は不死川の事が好きです。でも、私はもうすぐいなくなります。だから、思いだけでも知って欲しくて手紙を書きました。

不死川。私と一緒に勉強してくれてありがとう。そして、一番好きな本を最後まで読んでくれてありがとう。

短い間だけど不死川と過ごした日々は幸せだった。さようなら。

            美香より

手が震え。急いでお袋の部屋に行った。なんだよ、これ。なんでこんな、こんな事。

「最後まで読んでね」と美香の声が聞こえてきた。ああ、だからか。だから最後まで読んでって言ったんだ。

 涙が頬を貫いた。ああ、そうだ。俺はずっと悲しかったんだ。美香がいなくなった現実を受けとめられなかったんだ。

 受けとめようともせず逃げて。ずっと、ずっと逃げ続けて。逃げ続けた結果。桃子を傷つけてしまった。

 もっと早く。美香が生きてた頃に見つけられてたら何か変わっていたのかな。そうしたら桃子を傷つけなくて済んだのかな。

 涙が溢れ出して止まらなかった。あの時泣けなかった分。存分に泣いた。泣いて泣いて泣きまくった。

 涙が出なくなった時に。美香の墓参りに行こうと決心した。中学の同級生や先生などに手当たり次第に聞いてどんなに時間がかかってでも美香の墓参りに行けるようにしよう。

 そして、墓参りをし終わったら。美香の事を受けとめよう。前に進もう。そう思い眠りに入った。

朝早く目が覚めて時計を見ると6時だったもう、桃子は起きてるのかと部屋を見に行ったら既にいなかった。

リビングに行ったのかと階段を下りていくと桃子が玄関で靴を履いていた。「桃子」声をかけると、桃子は驚いた顔をしていた。

「起きたんだ」

「さっき目が覚めたんだ」

「そうなんだ」

「もう、行くの?」

「うん」

 「朝ご飯くらい食べって行ったらどうだ」

「大丈夫」

「そうか」

「もう行くね」

 「あっ、待って」自分の部屋に行き財布を取り出す。3万円を桃子に渡した。

「いらない」と言い桃子が返そうとしてきたけど「夜行バスとかでお金かかっただろうし新幹線で帰って欲しいんだ。それにこの前も遊びに行けなかったし、余ったお金は何か欲しい物でも買ってよ」と言うと分かったと受け取ってくれた。

 「先生さようなら」と言うと同時に抱きついてきた。「さようなら桃子」と抱きつき頭を撫でた。

 桃子はこの家からいなくなった。今までの手紙はどうしようかと悩んだが。捨てる事にした。

 

さようなら桃子。今までありがとう。


〈桃子〉

先生が私を好きじゃないって事が分かっても私はまだ先生が好きだった。

絶対叶わないけど私が先生の好きだった女の子になれたら良かったのにと思った。

私は貰ったお金をポケットの中で握っていた。ドラックストアがあったので貰ったお金の一部でコンドームを買った。

家に帰りポケットに握っていたお金は机の引き出しの中にいれ裕に電話をかける。すぐに裕は出てくれた。

「今、家に来れる?」

「来れるけど、急にどうしたの?」

「別にどうもしてないよ。なるべく早く来てね」と言い電話を切った。

 コンドームを机の上に置き。今までの手紙を見た。この手紙は全部燃やそう。

 数十分後にピンポーンと音がなりドアを開けると裕がいた。「何かあったの?」と言う裕の手を引きキスをした。

 先生。私、先生が寝てる時にこっそりキスをしたんだ。先生。寝てる時泣いていたよ。好きだった女の子の事考えてたの?

 私、本当に先生の事が好きだった。先生が私の光だった。でも、今は光がなくなってしまった。

 だから死のうと思う。先生が私を好きじゃないって分かったから死のうって思ったんじゃないよ。

先生がいなかったらもっと早く実行してたと思う。前々から死のうと思ってたんだ。

 

先生、今までありがとう。さようなら。






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