廃神社に居るモノは【白物語TRPG用怪談】

@chocomintoo

廃神社に居るモノは

 これは友達が昔地元で体験した話らしいから真偽は分からないんだけどね?


 そいつが通ってた学校から近いところに、地元民でもあんまり近づかない山があって、友達・・・仮にA君としておくけど、そのA君も入ったことはなかったらしいんだ。

で、いつかの夏休みの終わり際にA君と仲のいいB君が「夏休み最後に肝試ししよう!」って言いだしたんだよ。

なんでも、あの山のどこかに怖い廃屋があるって話を聞いたから見に行こうってさ。

決行は8月31日の夜。翌日は学校が始まるから、そこで体験したことをクラスのみんなに話して自慢しようっていう計画だったんだって。

大人にバレると怒られるから、参加はごく少人数、時間もかけすぎないように、出発は家族全員が寝静まってから・・・とかそんなことをB君は提案したみたい。B君はなかなかやんちゃな子だったから、こういうことをこっそりやるのは慣れてたみたい。


 結局参加することになったのはA君・B君・C君の3人。

A君は懐中電灯を持ってくる係、B君はうわさで聞いた廃屋の場所までの案内係、C君は「幽霊を追い払うのに効くって聞いたから」ってお家にあった粗塩を持ってきたからお清め係だってさ。まあC君のは単にほかに空いてる役割がなかったからなんだけど。


 当日、午後1時半ごろ。いざ山の入り口に集合して、B君の先導で山に入ったんだ。

A君は特に夜中に家を抜け出すことなんて初めてだったから、みんなでこっそり作戦決行するのが楽しくてすごくワクワクしてたんだって。


この時点では、ね。


軽く30分くらいかかったかな?B君に先導されて少し山道からそれたところに行くと、少し開けた場所にボロボロの廃墟があったんだよ。

手前には大きな折れた柱みたいなのがあって、足元は石畳の名残みたいなものがあって、奥のほうにはちょっと大きめの古い木造の建物が建ってた。

それでまずA君がライトであたりを照らしてみたら、この柱、表面が赤いんだよ。それが間隔をおいて2本。しばらくこれ何だろうねって話してたんだけど、C君がボソッと。

「・・・これ鳥居じゃね?」って。

そう言われてみると確かに、この石畳みたいなのは参道で、じゃあ奥の建物は本殿なんじゃないかって気が付いて。そう考えたとたん、境内の風が異様にじっとり湿っているような気がしてさ。

ちょっと怖くなってきたんだけど、3人もいるし、なんならC君が塩も持ってるから、せっかく来たんだし奥の本殿みたいな建物に入って探索しよう!ってことになったんだ。


 そうしていざ中に入ってみたけど、あんまり物とかはなくてがら~んとしていたんだ。

当時の神事に使う道具とかお札とかないか期待してたんだけど、まぁゲームの世界じゃあるまいしね・・・。

特にめぼしいものも無くて、ちょっとシラケてきちゃって。適当に探索して帰るつもりで、奥まで来たんだけどさ。

何か、小さめの木箱がひとつぽつんとおいてあったんだ。

B君がこれを見てテンション上がって、「よしこれ開けようぜ!!」って躊躇なく開けちゃったんだ。

中には古い紙がいっぱい入ってた。昔のミミズみたいな字だし、懐中電灯の明かりだけじゃ読みにくくってなんて書いてあるのかはよく分からなかったけど、B君が「すげえ!お札がたくさん入ってる!!」って何枚も出して眺めたりしてた。


 そうしてはしゃいでたら・・・急に悪寒がし始めたんだ。なんだか・・・誰かに見られているような感じ。そ~っと見回してみたら、B君のすぐそばに女の人が立ってたんだ。長い髪が垂れ下がってて顔は隠れてたけど、それでも、今お札を持っているB君を凝視しているのは分かった。

・・・よく見ると小さな赤ん坊らしいものを抱いてるのが分かったけれど、母親らしいその女の人に顔をうずめていて、こっちもどんな顔なのかは見れなかった。


これは確実に生きた人間じゃないってA君は感じたんだ。微動だにせず、ただじぃぃぃ・・・っとB君の方を見てるみたいだった。怖くて、でも目をそらせなくて、A君が動けずにいると、C君が喋りだしたんだ。「もう2時半じゃん!あんま遅くなるとまずいしそろそろ帰ろうぜ!」って。そのとたん親子の姿は消えて、もう周りには誰もいなかった。B君C君はさっきの人には気づかなかったみたい。B君も木箱のふたを戻したし、「家を抜け出したのがバレる前に帰ろうか」って本殿を出たんだ。

早く帰りたくて、境内をまっすぐ急いで進んでたんだけど、元鳥居のところを通り過ぎるまで、誰かに見られてる感覚はずっと続いてた。


まるで咎めるような・・・あるいは恨んでいるかのような視線を向けられてる気がしてた。


そのまま山を下りて、とりあえずおまじない感覚でC君の持ってた塩をかけてもらってからそれぞれ家に帰った。


 翌日。学校の通学路でA君はC君と合流したんだ。昨日の冒険について話しながら教室まで来たんだけど、B君がいつまでたっても現れない。昨日の出来事をクラスのみんなに話そうにも、企画を立てたB君が来ないんじゃ始められない。けれどB君が教室に入ってくることはなくて、そのままHRが始まって、担任の先生が「B君は今日はお休みです」って言ったんだ。

それを聞いて、C君は昨日の肝試しが怖かったのか、それとも昔話みたいにバチでも当たったのかな?なんて軽く言ってた。


けどA君はやっぱり気になって、その日の夜におばあちゃんにちょっと聞いてみたんだ。「山の方に廃屋があるって聞いたけど本当なの?」って。

すると、おばあちゃんが急に怖い顔になって、「確かにあるけれど、絶対に行っちゃいけないよ」って神妙に言ったんだ。


「元々は信心深い村の神社で、そこでは子供が生まれたら、お七夜のお祝いの時は必ずそこで命名書を書いて、お宮参りの時にそれを産土神様の元に収めていたんだ。でも今はもうその村も無くなって、神社は誰の手も入っていない。

神社というのはね、神様にあの世からこの世に降りてきてもらうためのものでもあるんだよ。

手入れがされているうちはいいんだけど、ほったらかしにされると、とたんにおかしな場所になることがある。

村の人たちやいろんな魂を守ってくれてた産土神様ももういないだろうね。こういうところはあの世とこの世の通り道も開いたまんまだったりするから、いろんなもののたまり場になるし、気の流れがおかしいから害のない幽霊でも歪んで悪霊になってしまうことがある。悪戯でもしたらどうなるか分かったもんじゃないよ」って。


 その話を聞いた次の日、A君はB君の家にお見舞いに行った。そしたらB君は部屋でずっと青ざめた顔をして、終始おびえた様子だった。なんでも、「ずっと赤ん坊を抱いた女の人に見られてる気がする」って。ずっと近くに居る気がするって言い出したんだ。

A君が、「Cが持ってきた塩撒いてもらったじゃん。それに俺たち中に入っただけで何もしてないし、大丈夫なんじゃないの?」って言うとね、B君は「・・・・・・・あのときのお札、1枚もってきちゃったんだ・・・・・」って。

ポケットから昨日見たお札を震えながら取り出したんだ。肝試しの証拠品として持ってきたんだって。

それを見て気が付いたんだけど・・・これ、お札じゃない。読みにくいけれど、たぶんおばあちゃんが言ってた命名書だって。誰かがあの神社で我が子のために考えた名前が書かれてる大事なものを、あそこから盗み出してしまったんだ。

「すぐ返しに行けよ!」って言ったんだけど、「一人じゃいやだ!せめて付いてきてくれよ!」って縋られて。・・・でもA君自身、あんな不気味な場所にはもう行きたくないから、無理やりB君を突き放して、さっさと部屋を出ようとしたんだ。


そうしてドアを出る直前。

それまで居なかったはずの、あの女の人・・・親子の霊とすれ違った。相変わらず顔は髪の毛で見えないけれど・・・抱いている子供の様子は前とは違ってた。


今度は抱かれたままB君のほうをみてた。青白い顔で、でも目だけはくりぬいたみたいにどす黒かった。その子供が耳障りな笑い声をあげていて、母親がB君のほうへ片腕をぬぅっと伸ばしながら歩いていくのが見えて・・・


これ以上はもう耐えられなかった。A君はとにかく走ってB君の家を出た。最期にB君の叫ぶ声が聞こえた気がしたけれど、怖くてもう逃げることしかできなかった。


つまり、B君は神様のバチにあたったんじゃなかった。大事な命名書を盗られた、あの親子の霊に祟られたんだ。

走って走って、自分の家に帰って、塩をたくさんかけてから、布団にこもった。


 それ以来、B君が学校に来ることはなかった。会いにもいかなかった。

B君がどうなったのかは分からないし、考えたくもなかった。

ただ、しばらくしてB君は引っ越したって話を聞いたし、B君の家は空き家になった。


今となってはずいぶん前の話だから、誰もB君のことは話さないけれど、A君自身は忘れたくても忘れられないんだって。

あの異様な親子の姿も、・・・自分が見捨ててしまったB君の叫び声も。

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