エピローグ(下)「変わらない、愛」(完)
「アルシュラお
「わぁぁぁん!」
母親のリルルを目がけ、
「だめではないですか。お
「だって――――!!」
「あらあら、アルシューったら」
元気に
「みんな赤ちゃんばっかりかまって、アルシューかまってくんない! つまんない!」
「
「つまんないー! おかあさま、あそんで! フィルもあそんで!」
「先ほど申し上げた通り、お
「やだやぁだ!」
「ああ、やっぱりこちらにいらした!」
もう
リルルたちとは全く
「す、すみません! アルシュラお
「いいのよ、ティコ君。あなたのせいじゃないわ。
お気に入りの少年の登場に、リルルは
「アルシュラが
「し、失礼いたします……リルル様……」
深い
「アルシュラお
「やぁだ! おにわ、ひとがいっぱいであそべないもん! あそびたい!」
「アルシュー、わがままを言ってはダメよ。フィル、アルシューを」
「はい」
「おかあさま!」
「ごめんね、アルシュラ。お
母のぬくもりを求めて体を
人は変わる。変わっていく――確実に。
「でも、ティコ君を困らせるのはいけないわ。ティコ君はあなたがいなくなって、心配して、
「いやー!」
「でしょ。ティコ君が困るのも、あなたが
夫の
「アルシュラ。ティコ君の気持ちを
「いや! いやいや! アルシュー、ティコくんすき! きらいになられるのいや!」
「なら、ティコ君の言うことを聞かなくっちゃ。ティコ君はとっても
「うう…………」
「お
「アルシュラお
「うん!」
ぱっ、と明るくさせた顔をアルシュラが上げた。
「フィルは、アルシューのあいぼー! ティコくんはわるものやく!」
「あああ……またボクは悪者役ですか……」
「えっ? アルシュラ、あなたは何の役をするの?」
そんな母親に。アルシュラは満面の
「りろっと!」
「――――」
激しい風に吹き付けられたかのように、リルルの心が
「かいけつれーじょー、りろっと! アルシュー、りろっとになるのすき! ね、りろっとごっこ、してくれるよね!?」
「もちろん。お約束いたします、アルシュラお
固まっているリルルの横で、まるで冷静なフィルフィナが深々と頭を下げる。
「またボクはアルシュラお
「ぼかぼかたたくの、やめる。ぽかぽかにするから」
「ああ……お
「リルルお
「は、は、はひ、はひ――――」
「……さ、さあ、アルシュラお
「いや! たくさんずつ、いろいろたべる!」
ティコに手を引かれ――いや、ティコの手を引いてアルシュラはパタパタと
「……リロットごっこって?」
「
「それを
「血は争えないということですね」
「そのうち、お
「
「
――
王都に巣くう悪を
「いいではないですか。アルシュラお
「ぐ」
「いいではないですか。自由に生きられるというのは」
――自由。
人の心を、胸を焦がさせる言葉。
「それに、政略
「そうね……」
「――それで。もう、お子様は五人で打ち止めということですか?」
「あとひとりは
「あとひとり?」
首を傾げて見せたフィルフィナに、リルルはうなずいた。
「あとひとり、男の子が
「
「……
リルルは背中の大きな
「その男の子には、なんにも強制しない。家の名前も
自分たちの、
――決意と
「あ…………」
フィルフィナの
それはもう、ずっと
あの時、この庭を
「あの旅立っていったねこちゃんたちがどんな最期を迎えたのか、知る
「ええ、わかります。わたしは信じています」
フィルフィナは言った。言い切った。
「あの猫たちは、たどり着いた新天地で
「
「きっと。わたしは信じます」
「――うん」
リルルとフィルフィナは、少しの
ふたりの
かつての
「あの猫の一族のように、己の心のままに生きる男の子、ですか……」
「もう、次に
――『ジュアー』」
「『ジュアー』……」
「永遠なる自由、という意味らしいわ。この名前、気に入ってるの」
「永遠なる、自由……ですか……」
フィルフィナは口の中で
「ですがおそらく、いえきっと、その前にもうひとり女の子を産むことになるでしょう」
「え……どうして?」
「今まで、男子、女子、男子、女子、男子と
「そんなものかしら」
「続くものですよ。女の子の名前も考えておいてあげてください」
「それについては、もう案があるんだけどね。ふふ……それはいいとして――」
リルルの口から、ふぅ、と短い息が
「じゃあ、もう二回は
「昨夜も、
「
――ねこさんは」
リルルの顔が横に向けられる。
テーブルの上には、葉書大の写真立てが三枚、並べられていた。
そのどれにも白い紙が納められている。線と
五
父
――そして、あの、
「
リルルが手を
「――その窓に」
リルルの視線を追って、フィルフィナも視線を向けた。開け放たれ、心に染みる風を入れてくれる窓。フォーチュネットの庭を望む窓。
「子どもたちが生まれる前の夜……最初のアルスを生んだ時から、ねこさんはその一晩だけ生き返ってくれる。
「…………」
フィルフィナは、体験したことのないその不安に、目を
出産が
こうしてフィルフィナがリルルに
「……そんな
「はい……」
それは、フィルフィナも
「ふっと気がつくと、いるの、ねこさんが。――昔、
「――だいじょうぶだよ、心配ないよ。
ぼくが見ているから。ぼくがついているから。ぼくが見守っているから。
だから、安心して。リルル、元気な子を産んで。がんばって――って」
「…………」
フィルフィナの心に、リルルの思いが再現される。そのまま見え、聞こえる。
「それで、気持ちがふわっと軽くなって……安らいで……気がついたら
「……あの
「
また
愛するものに、
「あのねこさんは、
たくさんのしあわせをおみやげにして、ねこさんに、ねこさんたちに
ねこさんや、ねこさんのお
フィルフィナも、満たされた心で共に顔を寄せた――その世界を切り取った者として。
「ああ……」
幼い少女が、あの時のリルルが、愛する
――ずっと、ずっと、いつまでも、いつまでも。
永遠という言葉の意味を音もなく歌い、音もなく
それは、決して解かれない
そして、リルルは
これから先、生きている間も、死んだ後でも永遠に
「――ずっと、ずっと、いつまでも、いつまでも、大好きだよ……ねこさん……」
「にゃ」
リルルとフィルフィナは、その声に
窓の
灰色の毛をした、右の耳だけが真っ黒な
番外編「リルルと、フィルと、ねこ」――完
快傑令嬢 更科悠乃 @yunosukesarashina
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