第27話 そして神になる
痛い、イタイ、いたい。
身体が弾け飛びそうだ。これまで受けた痛みが全て現れたのか。気を保つので精一杯。
「オズ………」
レイラが心配そうな顔でこちらに駆け寄って体を支えてくれる。
「オズ……目が……」
そういったレイラの顔が白と黒に変わっていく。それと同時に周りの景色も自分の手も足も何もかもが白と黒に染まった。
そうか……これも加護の代償か……
痛みに悲痛なうめき声を上げながら立ち上がり、剣をなんとか構える。痛みで体に感覚がない。それなのに力は溢れている。体が弾けるほどに。
レイラ……そんな顔するなよ。俺が逝きづらいだろう。
俺は白く変色し二色しか見えていない目で最高神を睨む。
「や、やめろ……くるな!………お、お前わかっているのか!……わたしは最高神なんだざぞ!……そ、それにお前死ぬのが怖くないのか!」
最高神と自分で言いながらその態度はひどく
「これで終わりだ………すべて……」
最後の力を振り絞り、剣を振り下ろす。防いだ聖剣などものともせず俺の魔剣は最高神を切り裂いた。
「な……なぜ………こう……なった…………」
最高神はブレイブの体ごと塵と化しに舞って消えた。これで短くも長かった戦いは終わったのだ。
そして俺の命も………
「ブレイブ………体が………」
レイラはさっきからずっと目に涙を浮かべている。正直俺も限界だ。身体中の骨は折れ、至る所から血が噴き出している。視界は歪み、痛みでろくに立っていられない。
膝から崩れ落ち、頬を地につける。
いつかこの体勢で地獄をみたことがある。今は可愛い精霊の女の子が涙を流している光景が目に映る。あの時は赤々と燃えていた炎が今は白黒は涙だ。
レイラが自分の膝の上に俺の頭をのせる。
今はあの時あった怒りや悲しみ、憎悪も何もない。復讐は終わった。俺は目的を果たした。村のみんなの……ブレイドの仇を討ち、レイラの憎しみの元凶を殺した。
俺に思い残すことは何もない。ただ……もし叶うなら……この涙を拭いてあげたい。それは傲慢か……ここまで無理をした。もう手も上がらない。
「レイラ、もう教えていいのではないのですか?あなたの正体を。」
復讐の三神の一人がレイラに向かって話しかける。なんとなく気づいていたよ。神たちをみていたら。
「そうですね………オズ……実はね……私は復讐の神の最後の一人なの。」
やっぱりな。さっきの会話を聞いていればわかる。でももう返事をする体力もないな。
俺は少しだけ口角をあげる。それが精一杯だった。
「知ってたの………」
レイラの涙が頬に落ちる感覚がする。だんだん意識が
「レ………ラ……………」
「オズ!しっかりして!」
「あ………り……と……………う」
久しぶりに言ったその言葉は
でも俺は満足だった。もう十分だった。そのまま目を閉じ次にその肉体が目を開けることはなかった。
*
目覚めた時、そこは『無』だった。無としか表現できないその場所に俺は一人立っている。
「オズー!」
この声は!
いつか聞いたことのある声が聞こえる。どこだったか。毎日聞いていた声。毎日隣に居て喋りかけていた人。
「オズ!」
そこにいたのは身長160くらいで肩甲骨あたりまで伸びた灰色の髪をふわふわと揺らし、真っ青な碧眼を持った女の子。笑顔で俺に向かって手を振りながら禍々しい翼を羽ばたかせてこちらに飛んでくる女の子。
隣に居てくれっるのが当たり前だと思って気づかなかったこの気持ちを伝えるなら………今しかない。
「レイラ!」
俺の前に降り立ったレイラは俺をジロジロとみて微笑む。
「よかった。ここでは傷も治ってるみたいね。」
満面の笑顔で俺の無事を祝ってくれるが今はそんなのどうでもいい。もちろん治ってくれて、痛みも無くなったのはいいことだが俺には伝えなきゃいけないことがある。
「レイラ、聞いてくれ。」
「なに?聞くよ。これから長いからね。どんなことでも聞いてあげる。」
俺は憎しみに隠れて気づかなかった感情をいま打ち明ける。
「ずっとレイラのことが………」
【了】
AVENGE〜復讐の権化〜 一条 飛沫 @Itijo
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