第26話 失って強くなる

 「あ……ああ………」


死んだ。俺じゃない。死んだのはジェームズとシャーロットだ。俺はまだのうのうと生きている。あの二人の最後の言葉、それは『勝て』。そう言ってあの二人は死んでいった。


「お前はまた奪うのか………」


「ん?何か言ったか?愚かな人間よ。」


「お前は、また!俺から奪うのか!」


「愚問だな。お前が弱いから奪われる。まあお前はかなりいい暇つぶしになった。もう死んで良いぞ。」


最高神が剣を高く振り上げる。あの剣にはかなりの魔力がこもっている。あれを喰らえば確実に俺も死ぬだろう。そうすれば二人の後を追える。これでいいのかもしれない。


いや、だめだ。俺は決めたんだ。復讐を絶対に果たす。全ての元凶はここにいる。こいつを殺すだけなのだ。


ブレイブを脅し、ジェームズをシャーロットを殺し、レイラを苦しめた。


こいつが。憎い。憎い。殺す。殺す。殺してやる。


(あなたの憎しみが増加しました。力が大幅に上昇します。力の暴発にご注意ください。)


「何?!まさかお前!」


あたりを眩しい……いや、黒い……黒く、眩しい光が包み込んだ。それはモヤのようでありながら禍々しさは一切感じない。


なんだ?!力が溢れる。俺は一体どうなったんだ。傷が消えた?この万能感、この無限に湧き出す魔力。


「……これが俺……」


もやが晴れた時、俺の姿があらわになった。自分でもわからなかった変化が目に見えて現れる。指先から前腕にかけて真っ黒に肌の色は変化し、その様子は人間ではなくなったよう。


俺は察した。これはきっと限定的な力。この戦いに勝とうが負けようが俺はおそらくこの力に体が持たずに死ぬ。それを察してしまった。しかし、それなら十分だ。この戦いに勝てるなら体はもういらない。


「おまえ、その体になってしまったのなら、もうどうにもならんぞ。」

「わかっている。だが、それでもいい。この力はお前を倒すためにある。ならばお前を倒して死ぬまでだ。」


「オズ………」


レイラがそこにいた。目を覚ましたのだろうか。どこか不安そうに何処かがっかりしたようなそんな顔を俺に向けている。それもそうだろう。今の俺を見れば明らかに無理をしているのが誰でもわかる。それどころかレイラは加護を見ることができる。どんなふうに見えているのか知らないが、おそらく今の俺は酷いことになっているはずだ。


「レイラ……すまない……先に逝きそうだ。」


俺は最後にレイラにを向けると最高神に向かって走り出す。


これが本当に最後だ。俺の命も、この戦いも、この復讐も、この世界も。


これで勝てなければもううつてはない。最高神が魔族を滅ぼし、この世界のことわりは変わってしまうだろう。


それに復讐を果たせなかった俺が後悔しながら死んでいくだけだ。


剣と剣がぶつかるたびに轟音と爆風を巻き起こす。気づけばもう誰も戦っていない。俺たちの戦いを呆然と見ているだけ。


体が悲鳴をあげる。轟音を鳴らすたびに骨がきしみ、爆風を上げるたびに血が噴き出る。


対する最高神も人間の体では限界があるようでだんだん動きが追いつかなくなっている。


ここで仕留めるしかない。剣を振る力にありったけを込め一振り一振りに命を削る。


「クッ!まさかここまで……お前それは神の領域にあるぞ……人の分際で神の領域に足を踏み入れるとは許せん!ここで必ずほふる!」


最高神は剣におそらく最大の魔力を込める。避けきれない。剣で受けることも出来ない。死んだ。


「待て!」


止まった?寸前で剣が止まりなんとか命を拾う。


空を見るとまた暗く染まっている。ということは……


「すまない、待たせたな復讐の子よ。」


悪神アーリマンが再び降臨した。いや、俺にとっては悪ではない。悪は最高神だ。


「少々檻のカギを探すのに手間取ってな。」


するとさらに禍々しい光が空全体を覆い尽くす。それは悪神アーリマンの暗い光ではなく、最高神の眩しい光でもない。


「初めましてだな。我が化身よ。」

「久しぶりですね、レイラ。」


空に現れたのは二柱の神だ。あれは神なのか?禍々しいオーラを纏う神は俺に、そしてレイラに向かって挨拶を交わす。


「な、なぜ……なぜあなた達が………あそこはわたし以外開けられないはず……」


「だから言っただろう。少しカギを探すのに手間取ったと。」


どうやら檻に閉じ込められていた復讐の二柱がアーリマンによって解放されたらしい。でも、もうひと柱はどうしたんだ?


「グハッ」


俺は血を地にぶちまけた。もう体が本当に限界だ。


「お二方!どうか、オズをどうにか出来ませんか?!」


「すみません、レイラ。私たちは直接人を助けてはいけない決まりなのです。それと同時に神が神を殺すことも禁止されている。だから、あなた達を頼ったんですよ。」


「その通り、しかし礼を言わなければならない。最高神の位を持ちながら異端の行動をとる者の粛清を代行してくれていること。改めて礼を言う。」


「礼はいいですから、オズをどうにか出来ないんですか?!」


レイラが必死に神達へ訴えるが神達は首を振るばかりだ。


「レイラ、あなたはなってすぐ封印されたから知らないことも多いでしょうけど神には決まりが多いのですよ。」


「しかし、最後にそいつを倒してもらわねば困るのだ。本当に酷なことを言っているおは重々承知のうえだ。最後にとっておきの力を授ける。どうか頼まれてくれないか。」


神に頭を下げられるのは2回目か。


「わかった……元々は俺が復讐を望んで始まったことだ。それにこいつを殺すことが俺たちの目的だ。」


「ありがとう………では最後の力だ。『復讐の加護』……それは失ったものの大きさの分だけ力ご増幅する。我の与えた『復讐の神の化身』の加護はどれだけ大きいか………それを剥奪することは『復讐の加護』によって無効化される。しかし、加護を与えた神が死んだならそれは有無を言わず消えるだろう。」


何を言っている?こいつは自分の命を捧げるのか?ということは………


「我の与えた加護がなくなれば『復讐の加護』のデメリットが全て降りかかるだろう。しかしどうか頼む………それでは……」


そういうとひと柱の神は自分の心臓を貫いた。

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