第25話 神の力
天は光に満ち溢れ、大地は真っ赤に血で染まっている。周りでは武器がぶつかりあい、人が魔族が死んでいく叫びが聞こえる。
別に魔族がどうなろうとどうでも良いが、己の目的のため、レイラの目的、ブレイブの無念を晴らすために敗北は許されない。神を殺せばそれこそどうなるか分からない。それでも俺はこいつを殺し、復讐を終わらせる。
憎しみを振り絞り、俺は力を剣に込める。おそらく最高神は加護などものともせずに俺を殺すことができるだろう。ここまで命をかけることは初めてかもしれない。
「レイラ、俺のわがままを聞いてくれるか?」
そういうとレイラは少し困ったような困惑したような顔を一瞬だけ見せた後、何を悟ったか静かに頷いた。
「ありがとう………どうか……俺と一緒に死んでくれ。」
「ええ、喜んで………それが復讐をこんなことを続けてきた私たちの定めだもの。」
レイラはそういうが違うだろう。お前の過去はお前の人生は復讐して当然のこと。それだけお前は惨憺で悲惨で不憫な人生を送ってきたはずだ。それなのに……それなのに……
「お前はすごいよ……」
ぼそりとつぶやいたが、どうやら聞こえていないようだ。俺はもう一度ブレイブの姿をした最高神を睨みつける。今さらながらブレイブの強さを再確認した。ブレイブの肉体に入った最高神は俺の父親に入った時とは比べ物にならないほどの正気と強さに満ち溢れている。
初めてだ。負けるかもなんて思ったのは。これまで何だかんだ負けそうなど思ったことはなかった。しかしこいつは本当に強い。今の俺でもどうなるか分からない。
「大丈夫よ。オズ………あなたは強いもの。それに……」
そこまでいってレイラは言うのをやめた。
「いいえ、なんでもないわ。」
「いつまでこうやって
最高神がブレイブの声で催促する。
「ふぅ〜、覚悟は決まったか?」
「ええ、とっくに。」
俺たちは背中を合わせ、最高神を睨みつける。剣を向け、憎しみを苛立ちを魔力を込める。
「さぁ来い!最高神たる私が相手をしてやろう!」
地をありったけの力で踏み込む。地面が割れたのがわかる。だが、そんなの構っていられない。レイラは左の脇腹を俺は右を。
しかし、ことごとく避けられ、俺たちの剣は空を切る。
「なかなか良いではないか!それでは今度はこっちがいくぞ!」
そう言うと、最高神はブレイブの聖剣を抜く。
「ぐはっ!」
俺たちは壁に背中を叩きつけられる。幸いレイラは俺がクッションになって軽傷のようだが、これで意識を失ってしまった。
「クッ!痛い……これが痛み……人間の体とはなんともろい。」
どうやらブレイブの体に入ったことで復讐の加護が効くようになったようだ。俺の受けた痛みが最高神にも与えられる。
これは好機。レイラを払い除け最高神に突進する。
「死ね!」
「あまい!」
それでも俺の剣は奴には届かない。弾かれ俺の攻撃は無に帰す。
これではさっきと同じだ。それどころかレイラがいない分俺が少し不利。
「詰んだだろ!降参したらどうだ?まあ降参したところでどうにもならながな。」
そう言って最高神は大口を開けて笑う。こんな奴が最高神を名乗っているこの世界が嫌いになる。もとより俺はこの世界を滅ぼすだけだが。
「はっ、何言ってる?俺は全然痛くないぞ。それよりお前、実は痛いんだろ!顔が歪んでるぞ。」
分かっている。こんなこと言っても逆効果なのは。それでも……姿勢だけは……たとえ戦いで負けても、その姿勢だけは最後まで戦い抜きたい。
最高神の姿がぼやける。どうやらさっき頭を打ったようだ。回復する時間はあるか?いや、そんなことしてる間に殺される。
これは詰んだな。相手は神だ。しょうがないのかもしれない。これが自然なことなんだ。
「師匠〜!」
この声はジェームズか!
「ジェームズ!来るな!」
あいつがきても足手まといになるだけだ。すぐに殺される。止めないと!
「来るな!ジェームズ!」
ジェームズが視界に入った。それは千里眼を使わなくても見えるような距離。そもそも今の俺は千里眼を使えるような状態にない。よそ見をしようものなら死んでいるだろう。しかし、そんな俺にも見える距離、最高神に集中していても視野に入る距離。隣にはシャーロットを連れている。それは最高神の目にも入っただろう。
一瞬だった。ジェームズの右肩から左の脇腹にかけて斬撃が走る。血が噴き出るのが見えた。その次の行動など容易に想像できる。
俺は走った。最速で。
遅かった。シャーロットは血を吐き、地面にうずくまる。
「離れろ!」
無闇矢鱈に剣を振り、最高神を二人から引き剥がす。
「滑稽滑稽、実に愉快だ。愚かな人間よ。仲間を守れなかった気分はどうだ。」
致命傷だった。ジェームズは傷が深くて血を流しすぎている。シャーロットはおそらくほとんどの内臓を潰されただろう。
「し……しょ…う……勝って………ください」
「オズ……さん……これで………強く。」
「何言ってるんだ。お前たちも……」
これじゃ無理だ。助からないのは分かっている。どんな魔法でもこの傷を治すことはできない。ならばこいつらが息のあるうちに復讐を果たす。それならこいつらも安心していけるはずだ。
「覚悟しろ!もうどうなろうと関係ない。お前の結末は死だ。」
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