夢の共演

 さて、この小説を開いて最初に目に映るのは奇妙な数字。
 二の倍数ですが、最後の方は「67108864」とあまりにも大きい。
 一体これは何なのでしょうか。
 興味をそそられる目次です。

 さて、内容についてのレビューをしましょう。
 作者様はゴジラVSウルトラマンと仰っていますが、世代ではない私からすればザムザVSウルトラマンといった風情なんですね。
 まあそれはそれでとてもロマンがあります。
 きっと分かった方が面白いのでしょうが、分からなくても十分に楽しめるよさがこの作品にはあります。

 主人公は「人間であった頃と全く変わらない理性を維持している」のですが「人間らしさ」というものは失われていきます。
 普通の人間なら、呑気に、戯れに、ウルトラマン的な何かと戦おうなんて、自分が大怪獣になったとて考えやしないでしょう。
 それは怪獣になったことが原因ではないのかもしれません。
 望みとは裏腹に世界を破壊しつくすという苦しみに耐えられなかった彼の防衛機制によるものなのでしょうか。
 どっちにしろ、胸を小さく刺すような切なさがあります。

 最期の一文も、ガガーリンじみた聞きなれた言葉ではありますが、それまでに積み重ねてきた文章がこの作品ならではの悲しさ輝かしさを生み出します。

 ウルトラマン的な何かに抱えられながら成層圏を突破するなんて、人類史上めったにない経験でしょう。

 本当ならもっと激しく嘆くような罪悪感と絶望があったはずです。
 ですが、作者様は文章に貫かせたカフカ的な穏やかさで決してそれを語らせません。
 その寡黙が、余計にこの絶望を際立たせるのです。

 「ふくれあがる」というシンプルかつ柔らかな「肉の巨人」然として大変マッチした題名も、読み終わる頃にはさらに奥行きの深いものとなるでしょう。
 作者様の実力の光る、素敵な短編です。