第85話 俺たちの冒険はこれからだ!

〝聖使徒計画〟を阻止してラグールカが死んでから、早いもので半年が経過した。

 当時の大聖堂内部は大混乱、誰が敵で誰が味方なのかも分からない無秩序な有様であったのだが、それを見事に収めたのがピエールカであった。


 悪皇ラグールカは隣国に戦争を仕掛けようとしていたが、彼の双子の兄と息子であるピエールカとルカがそれを阻止。

 英雄となったルカを担ぎ上げて、誰かに文句を言われる前にトントン拍子でルカを教皇にしたのである。



 勿論それに反対する神官も多数いたが、12人いた枢機卿の内10人が死亡し、教会内部に複数あった派閥が根こそぎ弱体化。

 ピエールカの手腕を前にすれば、吹けば飛ぶようなものであり、誰もルカの戴冠を阻止することが出来なかったらしい。


 そういう政治的なことは、俺は専門外故にどのようなことがあったのかは不明だが、腐敗気味である中央教会の風通しが良くなったのは確からしい。

 なお大聖堂も俺達が暴れまわったせいで、各所が崩壊してしまい、物理的に風通しがよくなってしまっている……。


 しかしルカも教皇の血を継いでいるとはいえ、つい最近まで役職を持たないシスターだった身。

 教会の運営や政治が出来る訳もなく、それらは全て叔父に当たるピエールカが摂政となり代理で行うことになった。



 また枢機卿の席もすぐに埋める必要はないと判断され、現在埋まっている席は3つのみ。

 第1席にピエールカ、末席に当たる12席にはライノルト・フロンタルが引き続き任命された。



 しぶといもので剣豪枢機卿ライノルトは、サーニャとの死闘の末、虫の息ではあるものも脈があり、マリアンヌの回復魔法で息を吹き返した。


 元教皇の懐刀であった奴を生かしておいて良いのか? と疑問に思ったが、曰くライノルトは主人を守る剣であり、剣は意思を持たない、主人である持ち主に命令にただ従うだけというスタンスらしく、今はルカの直属の護衛についている。



 左右を武力のライノルト、知略のピエールカで固めた形である。

 ただライノルトは主の命令に忠実とは言いつつも、戦闘狂のきらいがあるもので、暴走の可能性はゼロではないらしい。

 俺としては是非とも暴走せず大人しくルカの護衛に付いてくれるのを願うばかりである。



 そして枢機卿第7席には引き続きボルボルス・ボルスが座ることになった。

 あの老爺は〝聖使徒計画〟において数々のアーティファクトを作り出したマッドサイエンティストではある。

 だが前述のライノルトと同じく教皇への忠誠心は薄く、ただアーティファクトの研究をしたいだけの研究者だった。


 ピエールカによって弱体化した教会の守りを固めるために、防衛の要となるアーティファクトの研究を任されているらしい。

 ちゃんと監視さえしていれば、害はなくむしろ役立つ人材とのことだ。

 ライノルトと同じで、自分のやりたい事が出来れば上司には拘らないタイプというやつだ。



 それからライノルトの部下であり、〝聖使徒計画〟の現場仕事の責任者を任されていたアイザック・アイスバーンも引き続き第1聖騎士団の副団長を続けている。


 アルティアナや〝シスターズ〟からはかなり評判が悪いが、その実ピエールカが潜入させたスパイであり、悪者を演じていた偽悪者であったらしい。

 まあ胡散臭いおっさんであることには変わりないが、奴の功績も大きく、マリーからの恩赦もあって引き続き中央教会に籍を置いている。




 続いてマリーについて。

 マリーは小聖女から聖女へとなり、それに伴いアルティアナ率いる小聖女聖騎士団も聖女聖騎士団となった。

 今代の聖女は冒険者に寄り添った存在になるという目標を掲げ、前代の聖女ラファエラよりも頻繁に表舞台に顔を出しており、教会内部のみならず冒険者からも評判が良い。


 蘇生魔法の料金を引き下げを掲げたのも、支持を高める要因の1つとなっている。

 中にはマリーに蘇生して貰いたいからわざと死のうとする奴がいるとかいないとか……。



 そんなマリーの母親である元聖女ラファエラ・デュミトレスだが、〝シスターズ〟を生み出す苗床としてボルボルスの研究室に廃人状態になっていたのが発見された。

 切り落とされていた四肢はマリーが回復魔法で生やしたが、それでも廃人状態からの回復は見込めず、隔離塔で幽閉生活を送っているらしい。

 可哀想と思わないもないが、彼女は元々マリーを暗殺しようとしていた前科があるので、やはり同情は出来ないというのが俺の意見である。




 続いてブラックロータスについて。

 マリーを助けるためとはいえ、いきなり大聖堂内部で暴れて軍事クーデターと捉えられてもおかしくない挙動に出たブラックロータスであったが、諸悪の根源は悪皇ラグールカであることが無事証明されたことで、むしろ功績者として教会からは感謝状が贈られている。


 サーニャは教会と王宮からの圧力で胃を痛める生活を送っていたが、少なくとも今後は教会側から無茶振りを振られることはなさそうだ。



 サーニャの腹心であるテティーヌ・ブルーローズも、大聖堂へ潜入した際にライノルトに敗北して死亡説も囁かれたが、生きたまま捕らえられていたことが判明、無事救出されている。





 そして俺がどうしているかと言うと……。

 相も変わらずロリエルフから出される課題を律儀にこなす日々だ。

 でもある程度強くなったのが幸いして、デイリークエストからウィークリークエストに緩和され、ゆっくりと身体を休める時間も取れている。



 妹もついに外出出来るまでに体力が回復し、外食をしたり都会の娯楽施設などに遊びにいったりと、今まで寝たきり生活だった遅れを取り戻すように、様々な場所へ連れていってあげている。

 金なら余る程あるので、次はどこへ遊びに行こうかと俺も楽しみでしょうがない。




 ――で、現在俺がいるのは、ダンジョンの62層最奥。


 63層へ続く階段を守護する階層主のいる玄室の前に立っていた。

 1人ではない。

 左右に並ぶのはデュミトレス教教皇ルカ・カインズに、同所属・聖女マリアンヌ・デュミトレス。

 そしてブラックロータスが首魁サーニャ・ゼノレイである。


「いよいよ、ね。以前エドワードと入った時に、海竜型の魔物だということは判明しているわ。皆気を引き締めて」


「ウチもエドさんの力になるために沢山修行しましたからね! これからも一緒に冒険しましょうねっ!」


「わたくしもおりますわ!」


「ああ、そうだな」


 かつては権威だ制約だなんだで腰が重たかった教会も、今はそんなことなく、教皇が自らダンジョンの最前線に立つフットワークの軽さを見せている。

 こうして完成したのが、ソロの冒険者と教皇と聖女と冒険者貴族の4人パーティ。


 この4人でこれから62層の階層主に挑む訳である。


 ルカはかつて金髪の〝天賦〟を授かっているとは思えない貧弱なステータスであったが、それは封印が施されていたせいなのが発覚。

 ピエールカによって封印が解除され、教皇の血筋である継承ステータスも顕現、更には【真空魔法】という強力な魔法まで獲得して王都1、2を争う冒険者になっている。


 マリーもあれから更にレベルを上げ、また〝聖使徒計画〟を経て精神的にも成長を見せている。


 サーニャもライノルトとの戦いを経て、正宗の呪縛を完全に払拭することに成功し、以前より遥かに成長しているのが見てとれる。

 かつての冒険者貴族としての重圧に押しつぶされて、精神的に不安定になっていたものも、それらも吹っ切れて今後益々強大な冒険者になるのであろうことが伺えた。


 そして俺も、そんな才能ある仲間達に負けないよう、ロリエルフから貰った鑑定眼とクエストボーナスで日々成長し続けている。


 この4人なら、もしかしたら、本当にダンジョンを完全に攻略する日が来るかもしれない。


 ダンジョンの最奥にいる管理者、プリムとは果たして何者なのか、どういう存在なのか、それらもきっと、俺達が階層主を倒して100層まで辿りついた時に判明するかもしれない。



 だから俺は、62層の階層主がいる玄室の扉に手をかけた。



 その先に眠る、数々の冒険を、ロマンを、世界の真理を求めて。




 俺達の冒険は、これからだ。



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【あとがき】

ここまでお読み下さりありがとうございました。

これにて完結となります。

近況ノートにて、本作のあとがきや、各キャラクターに関する小話などを書いております。

もしよろしければ、そちらも併せてお読み下さいますと幸いでございます。


近況ノートのURL

https://kakuyomu.jp/users/nasubi163183/news/16816927860976811967

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