第84話 追悼の祈り
かくして、デュミトレス教が教皇、ラグールカ・ルカノーヴァが企てた〝聖使徒計画〟は、エドワード達の奮闘により倒れた。
悪皇として名を残すことになったラグールカは死亡。
また12人いた枢機卿も10名が死亡し、中央教会に所属する多数の聖職者が殉職する未曾有の大事件となった。
物理的にも組織的も深い傷を負った教会。
そんな教会が最初に執り行ったのは、〝聖使徒計画〟により命を落とした聖職者、そしてブラックロータスの団員を悼む葬儀であった。
盛大に開かれた葬儀の後――現在。
大聖堂の一角に建つ聖火葬場で、〝シスターズ〟を弔う葬儀がひっそりと、身内のみで行われていた。
〝聖使徒計画〟によって生み出されたマリアンヌの複製体である〝シスターズ〟。
彼女達もまた〝聖使徒計画〟を頓挫させるために奮闘した英雄達であり、33人いる少女達の内、4名が命を落とすことになった。
最初は可能な限り蘇生魔法を試みようとしたのだが、それに反対したのが他でもない、マリアンヌであった。
『彼女達は私の手で洗礼を受け、神の教えを学び、母神に祈りを捧げ、そして信仰を抱いたまま命を落としました。彼女達は立派な信徒であり、彼女達の魂はこれ以上穢れを落とす必要なく、清廉に清められています。であれば、彼女達を再び現世に呼び戻す必要は皆無であり、祈りでもって弔うことこそが、わたくし達がすべきことであると考えます』
マリアンヌは自ら葬儀の神官を買って出て、今こうして火葬場の前で跪き、祈りを捧げていた。
マリアンヌの後ろに並ぶのは、生き残った29人の〝シスターズ〟、そして今回聖女奪還作戦に参加したブラックロータスのメンバーと、エドワード。
そして葬儀を執り行うマリアンヌの補佐として、ルカとピエールカ。
灰となった死者を、天上にあるとされる天国へ送り届けるという解釈の元、教会は火葬を教義としている。
「…………」
〝シスターズ〟が見守る中、最前に立つマリアンヌは追悼の祈りを捧げはじめた。
「天に召します掛けまくも畏き我らの母神よ、
願わくば御許に召された子羊に、一時の安らぎを与え給え――」
小聖女が思い浮かべるは、初めて彼女達と出会った時のこと。
「穢れし魂を清め汝の真なる徒と成ったが為、
温大なる愛満ち満ちた胸へ導き給わん事を――」
地下室での生活は辛く、何度も心が挫けそうな日々だった。
「繰り御魂廻るも汝の子は道違える事無く、何度でも汝の胸に還るが為、
どうか柔らかな灯で彼女達を照らし給え――」
それでもマリアンヌには〝シスターズ〟がいて、〝シスターズ〟にはマリアンヌがいた。
マリアンヌは少女達に神の教えを説き、そしてマリアンヌも少女達に大切な事を多々教わった。
「斯く在るべき魂を、斯く在るべき御許へ、
斯く在るべき母の元へ、斯く在るべき姿で還りし子を慈しみ給え――」
これは別れの言葉であるが、一時の別れであることを、彼女は祈る。
少女達が天上の母神によって受け入れられること、自分もいつかそこに行くことを。
切に切に、祈り続ける。
「親愛なる姉妹に一時の安らぎ叶いせし事を、畏み申す、
天と地と窟と力と知と栄えとは、厘の違えなく汝のもの也――」
――どうか、どうか、私の大切な
「――祝福在れ」
誄詞の終わりと共に、後列の参列者もまた「祝福在れ」と、少女達の旅立ちが幸福なものであることを切に祈った。
「「ホーリーファイア」」
聖火炉の側に立つ、ルカとピエールカが、同時に光属性魔法の火を炉に灯す。
天に伸びる煙突からは煙が立ち上り、敬虔な信徒を母神の元まで送り届ける。
「鎮魂歌、斉唱」
祈りの後に、マリアンヌが死者を送る聖歌を奏でる。
続くように〝シスターズ〟の透き通る声が重なり合い、残りの参列者もまた彼女達の歌に声を重ねる。
「(
灰と聖火は天へと昇り、彼女達を見送るかのように、ブラックロータスが飼っている鷹が、甲高く鳴きながら翼を広げて煙突の上を旋回していた。
――その3日後、マリアンヌは聖女へと、ルカは教皇への戴冠式が執り行ることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます