最愛なる使い魔へ
@21glamb
第1話 孤独で退屈
過去を振り返って余韻に浸るのではなく、今この瞬間を楽しめる人間になれ。
俺の育ての父が大好きな野球選手が言った言葉で、俺と、血の繋がってない優秀な弟が大好きな名言でもある。
「センシング・ファースっていう野球選手の言葉なんだけどさ、今の俺にピッタリの言葉だと思わない?過去なんて、つまらない。大事なのは今この瞬間。」
ね?そうでしょ?
にっこりと笑って、虚ろな目をした女に問いかける。
この女は、俺が派遣の事務員として働いてる会社の隣のデスクの2つ歳上の先輩の彼氏を寝とったらしい奴。
名前は興味無いから覚えてないけど、会社も違うし、住んでる場所も俺とだいぶ離れてるし、何よりあの女の先輩に「聞いてよ八重くん」と言ってグチグチと恨み
まぁ、1番の理由は、趣味の1つが人殺しだからなんだけど。
殺す相手のリアクション見るのが最高に好きなんだよね、俺。
「ね……ねぇ……」
俺が手足を切断して、ついでに腹にナイフを突き刺した女が、文字通り虫の息になりながらも話しかけてきた。
わー、生命力ヤバいね。
「なーに?」
「な……なん……で……わた……し……を……?」
「んー、先輩の愚痴これ以上聞きたくなかったから?あと強いて言うなら、趣味だから」
虫の息の女は、大きく目を見開いて息を飲んだ後、ホラー映画の化け物でも見るみたいな目で俺を凝視した。
あー、これは理解できませんって顔だなあ。
だいじょーぶ、俺、そういう人にも寛大な心を持って、すぐにさくっと殺すから。
「あー、楽しかったー。」
仲のいい死体処理業者に頼んで、殺した女の死体を処理してもらった後、俺は自宅マンションのリビングのソファに座ってテレビを観ながらくつろいでいた。
きっと、俺が殺した女の行方不明者届けは出るとしても、死亡届けは出ないだろうから、女が使い魔になることもないんだろうな。
まぁ、だいたい今までと同じだよね。
「なんか、退屈だなあ」
テレビに映っている人気タレントを見て思う。
こいつらは楽しいフリして笑ってんだろうな。
本業での俺と、副業での俺を思い出して思う。
楽しいフリして笑うのも、最初の頃に飽きちゃったよ。
「あはは、久々のセンチメンタル。」
右手で目頭を抑えて、頭をだらんと後ろに傾ける。
とりあえず、テレビ消して寝るか。
うん、こういう時は一眠りして脳みそリセットするのが1番。
リモコンでテレビの電源を切って、さぁ寝るぞと伸びをした時だった。
プライベート用のスマホから電話の着信音にしている、昔好きだった戦隊ヒーローものの主題歌が流れた。
電話の相手を見てみると、血の繋がってない姉のよもちゃんだった。
このままやり過ごしてもいいけど、拷問を生業にしているとはいえ根っからの善人である、よもちゃんの電話に出ないのは気が引けたから、電話に出ることにしよう。
「もしもし?よもちゃん、どしたの?」
「よもちゃんじゃねぇよ、よもぎだ。俺の主人を気安くあだ名で呼ぶな。」
よもちゃんのスマホから聞こえるはずのない声が聞こえた。
まぁ、声とか口調とかで、誰だか分かってるんだけど。
「あかね?どしたの?何かあった?よももは無事かい?」
電話の主である、よもちゃんの使い魔のあかねの小さな舌打ちが聞こえる。
あれ?おかしいな。
俺がふざけると、いつもなら盛大な舌打ちかました後に、「1発殴るぞ?!」っていうのがワンセットなんだけど。
今日は舌打ちも小さいし、なんなら怒鳴っても来ない。
それに、声小さくない?電波悪いの?
「あのなぁ……俺は今……腹の虫の居所が悪いんだよ……お前のよもちゃん呼びも……よもも呼びも許せるくらい寛大な心を保てねぇんだよ……」
「そっか、何かあったの?あと、声小さいね。そっち電波悪いカンジ?」
「今……
「尼芷って、あの
「リサイクルショップに買い取りさせるノリで、死体を尼芷の組織に引き渡そうとすんじゃねぇよ。あと、俺はお前と呑気に尼芷の話で盛り上がりたいんじゃないから。あのな、その、これ言っていいのか?」
だよね、そんな気はしてた。
けど、何でもハッキリ言えるタイプのあかねが、なんでそんなに言い悩んでるのかが、俺には理解できなかった。
まさか、よもちゃんが尼芷に捕まって、そのことを知ってるあかねが隙を見て、よもちゃんのスマホから、慌てて俺に電話をかけて、緊急要請しようとしてるの?
いや、けど、よもちゃんの家に乗り込んで拷問なり何なりしようものなら、スマホとか持ち物はボコボコに壊すと思うし、尼芷さんはよもちゃんの拷問の腕を買っててよく依頼してるから、よもちゃんに何かヤバいことするとも思えないし、よもちゃんも何かされたらされたで返り討ちにすると思うし、よく分からん。
「なぁ、八重、聞いてるか?」
「ねぇ、よもちゃんは無事?」
「はぁーーー……」
血は繋がってないとはいえ、大事な姉の安否を確認した俺に、あかねは盛大なため息をついた。
「やっぱり聞いてなかったんだな、テメェは。」
「うん、よもちゃんが心配で、完全に自分の世界にいた。」
「よもぎは無事だ。けど、俺のメンタルが無事じゃない。」
あ、それなら良かった。
けど、よもちゃんが無事なのに、あかねのメンタルがヤバい?よく分からん。
俺の脳内が疑問符で埋まったことを察したのか、あかねが話し始める。
「あのな、尼芷のおっさんが、よもぎを今夜開かれる人身売買のオークションに『一緒に行かないかい?』とかほざいて誘ってんだよ。」
「あぁ、なるほど。あかねくんは独占欲が強いから、よもちゃんがホテルとかに連れ込まれないか心配なんだね。」
「そういう心配してるなら、俺も一緒に行くわクズ。あのな、俺が電話かけたのは、そのオークションに名家の使い魔が出るから、よもぎがソイツのことオークションで競り落としそうで心配なんだよ。」
「え?よもちゃんは、あかねに一途だから買わないと思うよ?それに、嫌なら止めればいいじゃん。」
「はぁああああぁああああ……」
またしても盛大なため息が聞こえた。
解せぬ。
「あのなぁ、人身売買のカタログ見たけど、その使い魔、女なんだよ。よもぎは前に、『女の子は恋愛対象じゃないけど、可愛い女の子の使い魔を妹みたいにしたい』って言ってたから、心配なんだよ。」
「あー……よもちゃん……妹欲しがってたことあったな……」
「まぁ……よもぎも……顔見る限り……『とりあえず行ってやるか』って感じだったから……断る理由が出来れば断ると思うんだけど……お前さ……使い魔……ほしくないか?」
「……ん?」
「よもぎの代わりに、オークションに行ってくれ。尼芷のおっさんには、適当に言っておくから。」
「うん??」
「ありがとう、恩に着る。礼は駅前のチーズケーキワンホールで。」
疑問を了承と勘違いしたのか、聞き返そうとした次の瞬間には、あかねに電話を切られて、数分後には尼芷辰郎から電話がかかってきた。
あ、これは確定演出ですね。
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