第2話 オークション開始まで

はい、そんな訳で、よもちゃんの代わりにやってまいりました!

人身売買オークション!いえーい!



「八重くん、好みの子がいたら買ってあげるよ。今日は童心に返って、思う存分、楽しみなさい。」


「本当ですか?尼芷さん、ありがとうございます。」


「君は、使い魔がいないようだからね。いつもお世話になっているせめてものお礼だよ。欲しいと思った使い魔は、即購入した方がいい。」


そう、裏表関係なく、世界の人間のほとんどは、よっぽどの理由がない限りは、使い魔を所有している。

使い魔は故人がなるもので、生前の全盛期に限りなくつくりが近い、生身の肉体を造形職人が型やら錬成陣やらで創り出す。


素人がネットの知識で使い魔の身体をつくった日には、とんでもない化け物が誕生すると言っても過言でないほどの精密な作業なのは知ってるし、その作業工程に金がかかるから、使い魔の身体の制作費を払えなくて、借金する奴がいることも知ってる。


大体の奴らが、高額な制作費を払いたくなくて、元の主人が制作費を払い終えた後に、何かしらの理由があって用済みになり捨てられた使い魔を自分のものにすることも知ってる。


まぁ、オークションに出される使い魔は、造形職人に払う制作費よりも値段が高いんだけど。


「……使い魔っていたら楽しいですか?」


それとなく、尼芷さんに聞いてみると、彼は目を輝かせて、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりの態度になる。


あれ?尼芷さんって組織のボスで、最近、臓器売買も始めたんだよね?


「気になるかい?」


「とっても。」


ポーカーフェイスを崩さない、常に笑顔の仮面を貼り付けた初老の英国紳士のような、いつもの尼芷さんは何処へやら。

そこに居たのは、初老の英国紳士ではなく、孫と虫取りでもして遊んでそうなノリのいい田舎のお爺さんの顔をした尼芷さんだった。


「私の使い魔は、少しお転婆だが、とっても可愛いんだ。いや、愛らしいのほうが正しいかな?けど、いい使い魔だよ。愛嬌もあるしね。」


「確か、ももこさんでしたっけ?」


「そうそう、よく覚えていてくれたね。私の自慢の使い魔は、ももこと云うんだ。ちゃんと礼儀正しく振る舞うことが出来るんだけどね、」


あ、これは長くなるな。


「ももこは、私の孤独を、退屈を埋めてくれたんだ。長くなるから出会った時のことは少し端折はしょるけど、私の中に電流が走った。」


「孤独……退屈を……埋めた……」


尼芷さんに聞こえるかどうか分からないくらいの声量で、ポソリと言葉を噛み締める。

自分も、そんな存在に巡り会えたらいいなという心の表れかもしれない。


「八重くんにも今日、そんな出会いがあることを願うよ。まぁ、私はどちらかといえば、願われる側の人間なんだけどね。はは。」


うん、正しくは命を乞われる側のね。

俺もそうだから何とも言えないけど。


「パパ!始まるみたい!司会の人が来たよ!」


尼芷さんと話をしていると、俺達の2つ前の席にいる、仮面舞踏会の参加者ような仮面をかぶったふたつ縛りの少女が、父親と思われる仮面の人物に興奮気味に話しかける声が聞こえた。

確かに、スーツを来た真面目そうな司会者らしき男がステージに立っている。


「そうだな、値段は遠慮するな。欲しいものは、自分の心に従って買いなさい。」


「うん!」


「あの子……オークションの太客なんですか?」


仮面の少女が少し離れた席にいたため、聞こえないだろうと思って、尼芷さんに少し小さな声で聞いてみる。


「あぁ、あの子はかなりの太客だね。いつも仮面をつけているから、仮面少女と呼ばれているよ。素顔は誰も知らないけど、きっと、どこかのご令嬢なんだろうね。」


「へぇ……」


別に驚きはしなかった。

こういう所に来る子供は誰かの付き人か、裏社会に顔が利く親の元に生まれた奴だって相場は決まってる。

それに、裏の世界は何でもありの後出しジャンケンが基本中の基本だから。


「八重くん、大丈夫。私も負けないよ。欲しい子は、仮面少女がひっくり返るくらいの値段で競り落としていいからね。」


いや、俺はまだ誰か買うなんて言ってないよ。

まぁ、尼芷さんがその気なら別にいいけど。


「みなさま、今日はお忙しい中、ご足労いただきありがとうございます。これよりオークションを開催します。」



司会者がオークションの開始を告げた。


さて、面白そうな子はいるかな?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る