第7話 血よりも大事な

さて、親睦を深めるために、買い物でもするか。

一応、袖はあるけど、クリスマス間近の真冬にワンピース1枚じゃ寒いだろうし。


「なのはちゃん、行きたいところある?」


「……」


俺に怒られるのかとでも思っているのか、なのはちゃんはずっと暗い顔をして俯いている。


そんな顔してほしいわけじゃないんだけどなあ。




「あの、なのはちゃん?」


「……」


「洋服、買ってあげるよ。半袖のワンピース1枚じゃ寒いでしょ?」


「……え?」


大きな目を見開いて、なのはちゃんが俺を凝視する。

予想だけど、ホテルにでも連れ込まれるんじゃないかとか、どっかで殺されるとか考えたんだと思う。

俺、そんなことするつもりないんだけど。


「……質屋に売り飛ばすのかと思ってた」


あー、ヤバい、さっきの俺をぶん殴りたいなー。



「……ふっ……ははははは!なのはちゃん可愛いね!その発想はなかったよ!」


「ば、馬鹿にしないでよ!」


「はははははっ!だいじょーぶだよ、そんなことするつもりは少しもないから。で、どこで洋服買う?ここ、深夜でもやってる店ばっかりのメインストリートだから服屋も食べ物屋も、何なら雑貨屋もあるよ。」


「……バンボラ・ディ・アビディ」


なのはちゃんの口から出てきたのは、よもちゃんが中学生くらいの頃に興味を持っていたロリータファッション専門店の名前だった。


俺が中学生になったばっかりの頃、同じく中学生で大絶賛反抗期中だったよもちゃんがカジュアルロリータにハマって、屋台のクレープや大手チェーン店のケーキを交換条件に、俺が荷物持ちを任されていたのはいい思い出だ。


「あー……はいはい……あの店ね……」


「知ってるの?」


「うん、俺のお姉ちゃんのよもちゃんが、中学生の頃にバンボラの常連で、俺はよく荷物持ちでお供してたから、すっごいよく知ってる。」


「……お姉ちゃんいるの?」


「うん、歩きながら話そうか。お手をどうぞ。」


車を降りる時はエスコートに失敗したけど、今度はうまくいきそうな気がして、俺は車道側に行って、なのはちゃんに右手を差し出す。

俺が手を差し出したとき、なのはちゃんは小動物みたいに少しびくっとしたけど、言われるがままに右手を握ってくれた。


「お……お姉ちゃんと……仲良いの……?」


「うん、離れて暮らしてるんだけど、今でも仕事の都合でよく会うし、よもちゃんの使い魔ともそれなりに仲良いから、家にゲームしに行ったり、ご飯食べに行ったりもしてるかな。」


「いいな……羨ましい……」


本当に、心の底から羨ましいですという気持ちが伝わってくるくらい、羨ましそうな、それでいて悲しげな声だった。



「お姉ちゃんって言っても、血は繋がってないんだけどね。」


「……え?」


「そんなに驚くことじゃないよ?血の繋がりがあっても『こんな奴、家族じゃない!』って叫びたくなるくらいの蛆カス野郎が家族っていうこともあるから。大事なのは、血の繋がりよりも、精神的な繋がりだと思うんだよね。」


やっぱり、家族のことで何かあったのか、俺の言葉を聞いたなのはちゃんは黙りこくってしまい、誰か死んだのかと思うくらいには冷たくて暗いオーラを発していた。


うん、早くバンボラに着くように裏道通って行こう。

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