第5話・出し切る意味を履き違えた男の悲惨な末路
人生の中で、ここまで四六時中エロい妄想だけを膨らませた期間はない。昔、脳内メーカーというアプリが流行ったが、今の俺の脳内は調べる必要もなく、エロ一色である。
「今夜を逃して退院したら、もう2度とこの病院に来ることはないだろう。後悔なき夜にするために、もう絶対に出し切って、エロい展開に持っていくぞ!」
大怪我をした病人とは思えない、無駄な情熱を胸に秘めて、今夜の最終決戦で実行する奇策を練る。いや、奇策ではなく、もうストレートに行こう。
「こうなったら、はだけるというレベルではなく、下半身が完全に見えてしまっている形で、ズボンをおろしておいてやる!」
俺は背水の陣で、己の全てを出し切って、夜を迎えることにした。
そんな俺は結果的に、自分の全てを曝け出した惨めな姿のままで、何事もなく朝を迎えることになった。
「おせわになりました・・・。」
「お大事に。」
高知県の入院経験を通して、俺の人生に一つの教訓ができる。
それは『待っているだけじゃ何も始まらない』ということだ。
病院を出てた俺は、空港に向かう。飛行機で大阪に帰り、現地で兄が待っているとのことだった。
「入院生活は、大丈夫だったか?」
「えっ、ああ、おかげさまで、雑誌があったから暇な時間も楽しめたよ。」
怪我の状態を心配しながら、伊丹空港まで迎えに来てくれた兄。まさか、この1週間の入院中、エロいことしか考えていなかったなんて、言えるはずもない。このことは自分だけの秘密にして、墓場まで持っていこう。
「怪我の状態は、どうや?」
「そうやな、順調に回復してて、全治3ヶ月やけど、もしかしたらもっと早くに回復するかもしらんわ。」
頭が包帯でぐるぐる巻になっていて、片足もギブスで固定されている。しばらくは、松葉杖で行動しなければならない。帰る道の途中で空港のショップにあったショーケース。そのガラス越しに映る自分を見て、心の中で我に返る想いにもなっていた。
「いや、もう完全に昨夜は血迷ってたな。頭包帯ぐるぐるで、ギブスもついてる中で、下半身が見えてる状態。ムードもへったくれもないし、エロい展開になりようがないな・・・。何を根拠に俺はいけると思ってたんや・・・。」
そうやって、うつむきながら昨夜の反省をしていると・・・
「やっぱ、辛そうやな。今回のことは、ほんと悪かったな。ショックやろ・・・。」
「えっ、いや、あの、別に、大丈夫やで・・・。」
兄は完全に、罪悪感に苛まれている。そして俺が相当ショックを受けていると、捉えてしまっている。大丈夫だ。大怪我をしたことは入院初日で忘れ、そこからはエロしか頭になかったんだから。とも、素直に言えない自分。無駄に、なんて言えば良いのか悩む自分がいると、またそれを見て兄が悩んでいく。
「まだ病み上がりやし、しばらくは、ゆっくりしとけよ。精神的にも、もし辛いことがあったら相談に乗るからな。」
こうして兄に自宅へと送ってもらい、大阪へと舞い戻ってきた。だが、こんな状態では仕事もできないし、またやることがなくて暇。夏休みもまだまだ残っている。
「ちょっと動きやすくなったら、気分転換でもしたいな・・・。」
LINEで地元の友人にメールをして、大事故にあったことを告げる。そして、この何気ない1通のメールが、俺の人生の流れを大きく変える思いも寄らない展開を生むことになっていった。
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