第3話・生きてるって、やっぱこういうこと。

「あれっ・・・?」


目覚めると、そこは病院だった。


「おお!起きたか!!!」


目の前には兄と、兄のガールフレンドがいた。



「あ、あぁ、俺、生きてる・・・。」


起き上がろうとすると、頭がクラッとした。俺が目覚めたのは、猛烈にトイレに行きたくなった自分がいたからだ。そう、生理現象によって昏睡状態から目覚めていった。映画やドラマのようにカッコよく目覚めるものではないのが現実だった。



「兄貴、ちょっとごめん、肩借りていい?」


大量に出血をしたからか、立ち上がるだけでクラクラする。まだ一人で歩くことも困難な状態だった。そのまま兄貴に抱えられながら、用を足す。その時間の中で生きていたことの実感を味わっていた。



「ああ、俺、生きてる。生きてたんだ。よかった・・・。」


 用を足した後に、ふと鏡を見ると。包帯でぐるぐる巻になっている自分がいた。それを見て兄にここまでの経緯を聞くと、事故をした場所が幸いにも病院から近い場所だったので、すぐに手術ができたことで一命を取り留めたらしい。そう思うとある意味、とてもラッキーだったのかもしれない。


「ピピピピーーーーっ」


独特の携帯音がなった。俺の携帯にコールがかかっている。



「誰かから、電話かかってるみたいだけど、どうする?」


兄から渡された携帯の着信履歴を見ると、パチンコ屋でバイトしている先輩からのコールだった。何か仕事での緊急の用事だろうか。話すことはできる状態だったので、俺は電話に出ることにした。



「あっ、龍司くん?いま大丈夫?あのね、ちょっとお願いがあるんだけど、シフト変わってもらえないかなと思って電話したの。悪いけど、明後日私のシフトと出勤を変わってくんないかなぁ?」


茶髪でイケイケの先輩。いつも勢いに押されていて、お願いされたら断れないでいたが、今回はそういう訳にはいかない。なんせ俺は大事故に遭っていたからだ。



「あ、あの先輩、ごめんなさい。俺、ちょっと事故に遭って、シフト変わるの無理なんです・・・。」


力ない声で、そう伝えると。



「なになに!事故!?そんなんええって!なんでそんな嘘つくん?嫌やったらハッキリ断ったらええやん!!なんかその対応、ウザいわ!もうええわ!あんたに電話して損した!」


そう、一方的に言い放たれて、通話は終了した。


「いや、ほんまに事故ってるんやけどな・・・苦笑」



声が通る先輩だったので、電話越しに兄にも声が聞こえていたらしい。このやりとりを聞きながら、なんとも言えない苦笑いをしていた。


「死にかけてたところで目覚めた一番最初に、バイト変わってっていう電話があるって、ある意味ミラクルやなぁ・・・笑」


散々な電話だったが、逆に生きてるって、こういうことだなと笑える自分がいる。


何より、まだ人生を進めていけることが、単純に嬉しかくて、こうした携帯電話のやりとりすらも幸せに思える自分がいた。

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