第4話・エロすぎる、病院生活。

頭を13針縫う怪我と、足も数カ所8針縫う怪我で、全治3ヶ月と診断された俺。さらに、1週間はここで入院して過ごすことになる。元気だけが取り柄で運動バカの健康優良児。そんな俺にとって、これは人生初の体験となる。


「今回は、ほんと悪かったなぁ・・・。俺たちは仕事があるから、また大阪に帰る事になるけど、また大阪に帰れるようになったら連絡してくれよな。入院中、暇だとは思うから、いくつか雑誌を買っといたで。」


少年漫画を含む雑誌を3冊兄から受け取った俺は、申し訳なさそうにしている二人を見て、逆に気を遣う気持ちになった。基本的に能天気な人間でもあるし、今回のことで特に二人を責めることもない。だから、あまり気にしないでいてほしい。辛いのはお互い様だし、兄の迅速な止血措置がなければ、確実にこの世にいなかったこともラッキーだと思っている。


病室で二人を見送った俺は、早速少年漫画を読むことにした。ただ、病み上がりということもあり、すぐに疲れて眠たくなる。入院生活1日目は、ひたすら眠ることだけで過ぎていった。


そうして目覚めると、次の日の朝になっている。もう、兄たちもいない。俺一人だ。


「はぁーっ、何もできない暇な時間が、だいぶ続くなぁ・・・。とりあえず、ひたすら雑誌でも読んでおくか・・・。」


俺は昨日読みかけて寝てしまった、少年漫画の続きを読むことにした。しかし、1時間も経たないうちにすぐに読み切ってしまう。暇なので、また他の雑誌を読むことにした。が、またすぐに読み切ってしまう。


3時間も経たないうちに、3冊を読み終えたあと、また眠気が出てきたので、そのまま眠ることにした。


目が覚めると、夕方だ。4時間ほど寝ていただろうか。体調も昨日より随分良くなっているのを感じていた。


「これ、1週間も入院生活って、暇すぎてヤバいなぁ・・・。何もできないし、本も全部読んだし、眠くもないし、これからマジでどうやり過ごそう・・・。」


血の気が引いていた昨日までとは打って変わって、ずっと眠っていたら体力がどんどん回復している。大怪我はしているものの、気持ちはもう病人ではなくなっていた。


血気盛んな男とはバカな生き物で、元気で何もやることがなくて暇になったら、真っ先に考えてしまうことがある。それが、エロい妄想だ。俺も例外ではなかった。


「いや、もう、この病院生活、苦痛でしかないわ・・・。漫画も何回も読んで飽きたし・・・。でも、やることないしなぁ・・・。あ、そうや、少年漫画の中で、できるだけエロいシーンを探してみよう。」


エロい要素が一切ない少年漫画の中に、可能な限りエロの要素を見出していく。大事故で入院生活を送っていなければ、ある意味一生思いつかない発想だろう。暇すぎて苦痛だった血気盛んな俺は、雑誌の中からエロを見出すことにした。


「いや、あかんわ・・・。どう考えても、健全な内容や・・・。」


何度も読み込んだが、少年漫画に一切エロい要素はない。いや、そもそもエロ本ではないから、当たり前ではあるのだが。


「まてよ・・・、エロいシーンはないけど、エロい解釈はできるかも!?」


暇すぎることで、無駄に探究心が湧き上がる。事実ではなく、己の解釈によってエロを見出す発想に切り替わった。どんだけ暇やねん。俺。


「おっ、ここちょっとエロいかも!!」


国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。無理矢理エロを発見した瞬間に、なぜか川端康成の一節が思い浮かぶ。真面目な少年漫画の長い考察を抜けると、そこにはエロがあった。暇すぎてもう、頭の中が性欲と妄想にまみれ、どえらいことになってきている。


「龍司さーん、お身体はどうですかー?」


俺が一人で想像力を掻き立てていると、担当のナースが定期検診にやってきた。


「はい、おかげさまで、だいぶ元気になってきました。(色んな意味で)」


「それはよかったです。もう、ほんと昏睡状態が続いていたので、一時はどうなることかと思っていましたが、無事に回復傾向になっていることで安心しました。」


俺を担当してくれているナースの愛美さんは、年齢は30代前半といったところだろうか。好みのタイプ・・・、というわけではないが、アリな範囲だなと見定める。そう、なんせ俺はエロモードに入っていたからだ。


「また見にきますが、何かあったらナースコール使ってくださいね。」


何かはないが、何かがある感情を抑えながら、愛美さんが立ち去ることを最後まで確認した。


「いやー、なんか、ナースといえば、エロだよなぁ・・・。」


一般的にナースといえば、エロという関連性はないが、龍司は日頃からエロ本やAVの見過ぎで、ついつい、いかがわしい妄想をしてしまう。


「もしかして、もしかするかも。なんかそういう展開になっちゃったりして・・。」


暇すぎて頭の中は、もうエロのことしかなくなっている。想像力が広がって、愛美さんと何かあるんじゃないかと考え出す俺。


「また見回りにくるっていってたし、ちょっと、はだけておこうかな・・・。そしたら、何か、ムフフなことが起きるかも・・・。」


そうやって龍司は意識的にはだけておきながら、愛美さんが巡回に来ることを待ち侘びていた。来たときは寝たふりをしながらも、しかるべき展開がやってくる時のために心の準備をしておくこともイメージしている。そして、愛美さんが巡回にやってきた。


「あーあー、龍司くん寝相が悪いね。布団かけてあげておかなきゃね。」


こうして龍司が、はだけたことには何の効果もなく。何一つエロい展開は発生しないまま、翌日の朝を迎えた。その後も、日中は少年漫画をエロい解釈をして、夜はあの手この手でエロい展開になることを想像しながら実行する。しかし、まったく何も起きないのが現実である。


「大怪我した当初は1週間は長いと思っていたけど、なんか、あの手この手でエロい展開を考えていたら、あっという間にもう明日に退院になるやん!なんかこのままやったら不完全燃焼やわ!!もう、今夜は出し切るぞ!!!」


エロい妄想をしながら、エロい展開を期待する1週間。それがもう、今夜で終わりを告げる。ほんの数日前までは大事故で死にかけていた自分はどこへいったのだろうか。それにしても悔しい。どうしても本格的なエロい展開を期待してしまう俺がいる。そこでもう、俺は最終手段に出ることした。

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