第4話 記憶の刷り込み

 母は休みの日、夜になるとお酒を飲みながらアルバムを開いた。アルバムの中には、父も、楽しかった時間も写されている。だから私も、アルバムを見るのは好きだった。


「あーちゃん、覚えてるー? これはねぇ、パパが……」


 母は必ず、アルバムの写真一を枚ずつ説明をしてくれた。何度も、何度も、何度も、何度も……。覚えていないはずの私の記憶が、増えていく。この時はどうだった。あの時はどうだった。これはこうしたんだよ。そうだったよね? 母のと会話は、楽しい時間のはずだった。それなのに、なにかが違う。でもその違和感がなんなのか、表現することは出来なかった。ただ、優しく語り掛けてくれる母がいる。それだけで私の心は満たされていたから。


「ママ、この時パパは遊園地の帰りに道間違えたんだよね」

「あーちゃん、よく覚えているねー。そうよ、大変だったのよ。日帰りで帰って来るハズが、帰れなくて泊まったんだから」

「うん。でも楽しかったね」

「そうね。あーちゃんはよく覚えてて、頭がいいわね」

「えへへ」


 そう覚えてる。母が話したから。覚えてる。母が褒めてくれるから。全部、全部。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る