<神>に頼って責任を擦り付けてるわけにはいかないんだ。人間が責任を擦り付けている神は存在しない。人間の振る舞いは人間が背負わなきゃいけないんだ

「コーヒー飲む?」

「うん、いただくよ」

 子供達が寝ていて二人きりのリビングで、アオと言葉を交わして、僕もソファに座る。

「お疲れ様」

「ううん。アオの方こそ、椿のこと、ありがとう」

「あはは♡ 面倒見てもらってたのは私の方だけどね。ホントにダメな母親だと思う」

「そんなことないよ。もしそうだったら、椿があんなに笑顔じゃいられないと思う」

「そう言ってもらえると嬉しいな。だけど、ミハエルだって悠里と安和のこと、ありがと。いろんなことを学んできたんだなってすごく感じる」

「確かに。二人はとてもいろんなことを学んでくれたな。人間と折り合いを付けて生きることがどういうことかを、大事なことをね」

「ビデオ通話で話してるだけでも、二人がどんどん成長してるのを感じた。私だけじゃ教えられないことをたくさんね」

「うん。それは間違いない。二人にとっては楽しいことばかりじゃなかったけど、それ自体が人間の世界というものだから。必要なことだったよ」

「吸血鬼は長生きな分、人間よりもたくさんのことを知れるから、逆にたくさんのことを知っておかなきゃいけないんだね」

「そうだね。僕達は大きな力を持ってる。それを制御するためにはそれだけ多くのことを知らなきゃいけない。知らないままで力を使うのはとても危険だ」

「本当は人間もそのはずなんだけどね。個人の力はたかが知れてるけど、集団になるととんでもない力を発揮するし」

「まったくだね。先の大戦でも、まさか本当に核まで使えるようになるとは思わなかった。もっと先だと思ってたから」

「そこが人間という生き物の怖さなんだね」

「ああ、そういうことだと僕も思う。大変な力を手にしてしまった以上は、人間も知らなきゃいけないね。<神>に頼って責任を擦り付けてるわけにはいかないんだ。人間が責任を擦り付けている神は存在しない。人間の振る舞いは人間が背負わなきゃいけないんだ。人間はもう、<神という名の親>から親離れしなきゃいけない。自分達の行いの責任を、<神という名の親>に擦り付けてちゃいけないんだ」

 僕は改めてそう口にした。とても重要だと思うことを。

 人間はこれまで、自身の行いや振る舞いの責任を<神>に擦り付けてきた。自身の悪辣な振る舞いさえ、

『神がそう望むから』

 と、神の所為にしてきたんだ。こんな人間が、

『親の所為にするな』

 と言う。本当に滑稽な話だよね。自分は己の行いや振る舞いを<神の所為>にしておいて、子供が何かしでかした時には『親の所為にするな』と言うんだ。

 結局、自分が責任を負いたくないというだけの話じゃないか。

 <神>が現に存在する世界なら、確かに神を敬うことに意味もあるだろうけど、現に存在しないんだから、いもしない神に責任を擦り付け、その上、親としての責任も負おうとしないなんて、どうかしてる。

 そんな親にどんな威厳があると言うの?

 信仰は自由だよ。必要な人間には必要なんだと思うし、

『信仰を捨てろ』

 とは言わない。ただ、

『神に責任を擦り付けるのはそろそろやめるべきなんじゃないの?』

 と思うだけなんだ。

 親離れして親の下を離れても、感謝の念を持つことはできるよね? だから人間もいい加減に自分達の責任転嫁に神を利用するために神に縋るんじゃなく、自分達を育んでくれた神に対する感謝と共に、自ら責任を負うことを考えた方がいいんじゃないのかな?


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蒼井ミハエル ~吸血鬼から見た人間という生き物~ 巻の二 京衛武百十 @km110

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