第57話 明日は明日の風が吹く


 厨房から飛んで来たのは、大量のイモを乗せた大皿だった。

 大皿は風妖精シルフの力で宙に浮かんでおり、自動的に配膳が完了する。


「わー! すごーい!」


 マジックショーに子供たちは大はしゃぎ。

 クロも両手を叩いて喜んでいた。

 ひと仕事終えたダイアナはエプロンを外したあと、清々しい笑顔を浮かべながら俺の隣に座る。


「ふふっ。大成功。子供たちも大喜びね」


「ご苦労さん。子供の相手するのも楽しいだろ?」


「そうね。今までは食わず嫌いだったというか。クロの世話をするようになって目覚めたというか」


 ダイアナは頷き、子供たちと楽しくお喋りをするクロを見つめる。


「イモを口いっぱいに頬張りながら笑顔を浮かべる子供たち、か。ふふっ。素敵な光景ね」


「わかる」


 ダイアナと肩を寄せ合いながら平和な光景を眺めていたら、隣にいたエイラが抗議の声を上げた。


「おいこら! 私の時と反応が違うぞ!? シズは嫁に甘い!」


「うるさいぞ、ヘンタイ。嫁さんはいくらでも甘やかしていいんだよ。反応が可愛いんだから」


「可愛いとか本当のこと言わないでよ。もぅ~♪」


 俺の肩を軽く叩きながら、照れてるのか怒ってるのかわからない反応を示すダイアナ。

 俺たちが放つラブラブオーラを前に、エイラは長いため息をついた。


「はぁ…………私もクロとラブラブしたい。ついでに食べちゃいたい」


「エイラおばさん。おイモ食べたいの?」


 エイラの呟きを耳にしたのか、クロは小皿に分けた吹かし土鬼芋ノムイモを持って近づいてきた。

 それからイモをフォークで突き刺し、エイラの前に差し出す。


「はい! クロが”あーん”ってしてあげるね!」


「ありがとぅございますぅぅぅぅ! この口、一生洗いません!」


「近いうちに感染症で死ぬぞ」


 エイラはクロの前で土下座を決めて、なぜか敬語になって拝んでいた。

 俺は突っ込みを入れつつ、クロが差し出していた吹かし土鬼芋ノムイモを横取りする。


「あっ! シズこらおまえ! 私の宝を横取りするな! そのイモがあれば向こう100年は魔物と戦えたというのに!」


「イモは1日で腐るから早めに食べろ」


 エイラの抗議の声を無視して、俺はクロの頭を撫でながら言い聞かせる。


「いいか。エイラはS級モンスター並みに危険な存在だから、絶対に目を合わせちゃいけないぞ。襲われたらハンターズギルドに言うんだ。翌日には討伐されてるはずだから」


エルフを害獣みたいに言うな!」


「えー? エイラおばさん、クロに優しいよ。悪く言っちゃダメだよ」


 クロは首を横に振ると、土下座したまま床で四つん這いになっていたエイラに近づいた。

 そして、そっと優しく頭を撫でる。


「エイラおばさん泣かないで。いい子いい子」


「ふぉぉぉ! 頭を撫でるつもりが逆になでなでぇぇぇぇ! 一生お世話させていただきましゅぅぅぅ!」


「おまえ、ホントうるさい。子供たちがドン引きしてるぞ」


「たたたた大変ッス!」


 エイラにツッコミを入れつつ土鬼芋ノムイモを食べようとしたら、血相を変えたヨシュアくんが孤児院の扉を解き放った。

 目を丸くするシスターをスルーして、迷わず俺の元へ駆けつけてくる。

 ……嫌な予感がする。俺の勘はよく当たるんだ。


「シズさん、大変ッスよっ! 王の遣いがギルドにやって来たッス! スプリガンを倒した噂が王都にまで広まったみたいで」


「その噂を広めたのヨシュアくんだよね? 報奨金で一緒に飲み食いしながら、大声で俺のこと宣伝しまくってたよね?」


「黙ってるわけにはいかないッスよ! 石になってる間もシズさんの活躍はこの目で見てましたよ! やっぱり師匠は最強ッス! マジで弟子にしてください!」


 ヨシュアくんは鼻息荒く、俺に詰め寄ってくる。

 これはアレか。俺が勇者だとバラすまでもなく、面倒事が向こうからやって来る流れか。


 アガートラムの真の力は、望む未来をこの手で掴むことだ。

 けれど、力を使った反動として”俺の望まない厄介事”に巻き込まれやすくなる。

 女神スクルド曰く。因果の辻褄合わせ、だとか。

 だから、今まで力を隠して過ごしてきたのだが――


「シズ殿はおられるか!」


 開けっ放しになった扉の前に、今度は甲冑に身を包んだ若い騎士が姿を現した。


「この地方を治める領主、エメリッヒ=ワールドダルト様が貴殿に会いたいと仰せだ。今すぐ我と共に屋敷へ参られよ」


 騎士に続いて、学士風のマントを羽織った女性が修道院に入ってきた。


「見つけましたよ、賢者ディアナ! プラジネット霊術院復興の件で院長からお呼び出しがあります!」


「裏の畑にサンドワームの大群が出たぞーーー!」


「シズのおっちゃん、おかわり!」

「わたしもわたしもー!」


 俺とダイアナの元へ、次々に押し寄せてくる厄介事の嵐。


「パパ、ママ~」


 最後にクロが駆けつけてきて俺の胸に飛び込んできた。


 厄介事? 冗談じゃない。

 これは俺が望んで、この手で護り抜いた未来だ。


「よ~し、パパ。クロのために今日も元気に働いちゃうぞ~!」


「お~!」


「ってわけで、ダイアナも手伝ってくれ」


「仕方ないわね。天才精霊術士兼、最強のお嫁さんにすべて任せなさい」


「ふっ……。私がいることも忘れるなよ」


「エイラは森へお帰り。おまえにも家族がいるんだろう?」


「私の扱いだけ本当に雑だな!?」


 俺はクロの頭を撫でて、隣に寄り添うダイアナに笑顔を向ける。

 俺は明日への希望を胸に抱き――――



「何はともあれ腹ごしらえだ!」



 イモを腹一杯に食べて、明日の仕事に備えることにした。




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神造人間として世界を救ったので、ご褒美に幼妻と結婚しました。邪魔するヤツはワンパンで倒す! ~仮面の勇者アガート~ 空下元 @soranosita_h

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