第七話

 すると史織しおりは、微笑ほほえんで答えた。

「どう、面白おもしろい? 私、小説も書ける女優を目指していたでしょう? ちょっと面白いアイディアが浮かんだから、書いてみたの」


 鹿島かしまは、真顔まがおでツッコんだ。

「面白いも何も、この小説には間違いがあるぞ!」

「え? 何が?」

「まず、日高ひだかが泊っているホテルだ。それは、ビジネスホテルじゃねえ! でっかいホテルなんだよ! そこのVIPルームに、泊まってんだよ!」


 史織は、笑顔でしたを出した。

「あら、そうなの。クイズの問題を考えるために出版社が用意したんだったら、てっきりビジネスホテルだと思ったわ。てへぺろ」


 鹿島は、キレた。

「てへぺろじゃねー! 日高は出版社に才能さいのうを買われていて、でかいホテルのVIPルームに泊まってんだよ! それにあいつは、これから発想力はっそうりょくクイズをノートパソコンで清書せいしょするって言ってたんだよ。二回目の電話をかけるわけがねえんだよ! こんな訳が分からねえ、埋蔵金探まいぞうきんさがしなんかに、出かけねえんだよ!」

「あら、そうだったのー」


 鹿島は、更にツッコんだ。

「それに何が天使の笑顔だ?! お前の笑顔は、悪魔の微笑みだ! それに、べっぴんさんだ、可愛かわいい嫁だ、人妻アイドルだあ? よく自分をそこまで、良く書けるなあ?!」

「えー、ちょっと、それってひどくなーい? 私は今も可愛いと思っているわよ、ぷう」

「ぷう、じゃねえー! だいたい何で徳川埋蔵金を守っている謎が、充電式掃除機じゅうでんしきそうじきで解決するんだよ! で、更に更に更に! 何で徳川埋蔵金の正体が、〇ナソニックの食器洗しょっきあら乾燥機かんそうきなんだよ! おかしすぎるだろ!」


 すると史織は、あっさりと答えた。

「いやー、その方が斬新ざんしんかなって思って。てへぺろ」

「だから、てへぺろじゃねー! はあ、もういい。何か疲れた……」


 そんな鹿島に史織は、ケ〇ズデンキのチラシを見せた。

「あ、そうそう、食器洗い乾燥機っていえば……、ねえ、直君なおくん、ちょっと見て」

「何だよ?」

「今、ケ〇ズデンキで特売をしているの! いつもより安いのよ!」

「何が食器洗い乾燥機だ! 食器なんか手で洗えば良いだろ?!」


 すると史織は、人差し指を振った。

「ちっちっちっ、分かっていないなあ、直君は。食器洗いは家事の中で、最も大変な仕事って言われているのよ。それに今じゃあ、手で洗うよりもキレイに洗えるから、レストランでも使われているのよ!」

「へえー、そうなんだ……」

「それにほら、掃除機っていえばチラシをよく見て! 〇イソンの掃除機も安いのよ!」

「へえー、〇イソンの掃除機か……。それって良いのか?」 


 史織は目を輝かせて、力説りきせつした。

「〇イソンの掃除機は、サイクロンの遠心力えんしんりょくを利用して吸引きゅういんするの! 強力な吸引力が、変わらないの!」

「へえー……」

「だからさ、このさい、買っちゃおうよ! 〇ナソニックの食器洗い乾燥機と、〇イソンの掃除機を!」


 鹿島は、取りあえずしぶった。

「でもなあ、特売っていっても、やっぱり高いんじゃねえのか?」

「何、言ってんのよ、臨時収入りんじしゅうにゅうがあるくせに!」

「臨時収入?」

「日高さんの仕事の手伝いをして、百万円をもらえるんでしょう?」

「え? 何でお前、そのことを知ってんの?」


 史織は、笑顔で答えた。

「だって今朝けさ、スマホで話していたじゃない」

「あー、そっかー、聞かれてたかー……」

「ね、だからこの際、買っちゃおうよ! 安いし便利だし、お金はあるし。買った方が絶対に良いよ!」


 鹿島は、納得なっとくした。

「うーん、そうか……。安くて便利か……。よし、分かった! 買おう!」


 史織は思わず、鹿島にきついた。

「わーい! ありがとう、直君!」


   ●


 ケ〇ズデンキからの帰り道。史織は、悪魔のように微笑んだ。くっ、くっ、くっ。全ては計画通り……。この計画は今朝、ケ〇ズデンキのチラシを見た時に考えたの。それに日高さんの仕事を手伝って、百万円の臨時収入があるって知って、実行に移したの。


 普通に直君に、家電を買ってって言っても渋るのは分かっていたから小説に、目立つように書いたの。良い話をする、きっかけを作ったの。


 くっ、くっ、くっ。全ては計画通り……。



                             完結

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【改良版】発想者が、徳川埋蔵金を見つける話 久坂裕介 @cbrate

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