第6話 サンタクロースになれる魔法

 家に帰るなり俺は美涼みすずに洗いざらい全てを話した。美涼は口を挟むことなく、黙って俺の話を聞いてくれた。聞き終わると「……そうだったんだ」と一言だけ、淋しそうに言った。

 反応を見るに、どうやら美涼も親がサンタクロースだということを知らなかったようだ。


 面接官によれば、通常は成長する過程で友達に教えられたり、親に打ち明けられたりするものらしい。そして、それを知った子供はサンタクロースを信じなくなるのだという。

 俺と美涼にはそれを知らせてくれる人間がいなかった。

 友達は、ある程度の年になると気を使ってかサンタクロースの話をしなくなったし、孤児院の大人たちも自分たちがサンタクロースになることができない負い目からか、その話題を避けていたように思う。


 知らされていたら、どうだっただろう。


 きっと、俺はサンタクロースになってくれなかった親を恨んだだろう。俺を産んですぐに死んだ母親と、その後を追った父親がサンタクロースになれるはずなどないのに。

 サンタクロースは、親に向けられたであろう恨みを一手に引き受けてくれていた。サンタクロースのおかげで、俺は両親を恨まなくてすんでいた。

 その事実を知って、俺はあれだけ嫌いだったサンタクロースに感謝していた。

 そして、世の親と同じように俺もりょうのためにサンタクロースになろうと思った。


「俺、サンタクロースになるよ」


「うん。私も一緒にサンタさんになる」


 美涼は満面の笑みで答えてくれた。


「でも……サンタさんって、どうやったらなれるのかな」


「大丈夫だよ。俺には『サンタクロースになれる魔法』がある」


 それがスノーナイトがくれた魔法なのかは分からないが、俺はもうその魔法を知っていた。美涼もきっとその魔法を持っているはずだ。


「涼のこと、大好きだろ? それだけで十分なんだよ。涼への愛情で俺たちはサンタクロースになれるんだ。今年は、涼をこれでもかっていうくらい喜ばせてやろう」


 美涼は一瞬きょとんとした顔を見せたが、すぐにぱぁっと表情を輝かせた。


 無性に涼の顔が見たくなる。


「寝てるから起こさないでね」という美涼にうなずき返して、涼の寝ている寝室に向かう。


 静かな寝息を立てて眠っている涼にそっと触れると、暖かい胸が小さく上下に動いてるのが分かった。思わず笑みがこぼれる。


 涼が寝返りを打った拍子にベッドサイドに置かれたロケットペンダントが目についた。

 いつも身に着けているはずなのに置き忘れていたらしい。


 そっと手に取ると、あれだけ開かなかったロケットが何の前触れもなく、いとも容易く開いた。

 そこには、産まれたての赤ん坊と若い女が写った写真が入っていた。


 俺には『Ryousuke&Yukiyo』と書かれたそのペンダントの中で笑う若い女が、スノーナイトにそっくりだと思えてならなかった。




【了】

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サンタクロースになれる魔法 宇目埜めう @male_fat

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