一週間後――

 その家に産まれたのは、双子だった。一人は男、もう一人は女。

 タクシーで産院から家に戻った母親は、真っ先に尋ねた。

「ネコの出産はどうだった?」

「僕は何もしなかったよ。勝手に産んでくれた。みんな元気だ。君の方は?」

「私も快適……とは、ちょっと言えませんけどね」

「病院へ行けなくて、悪かったね」

「いいんですよ。あなたにはネコの世話があったんですから。それより子供の名前、私が決めちゃいましたから。男は健一郎、女は恵子よ」

 主人は眉をつり上げて驚きをあらわにした。

「病院で考えていたのか?」

「そうですけど……なにか?」

「いや……僕も同じ名前を考えていたから。なんか……ちょっと不気味だな」

 母親はうれしそうに笑う。

「不気味なことなんかないわよ。私たちの気持ちがぴったり合っただけじゃない。名前で喧嘩になる心配もないし。それより、ネコの名前は決めちゃった?」

 母ネコは、飼い主の双子の出産とほぼ同じ時間に三匹の子ネコを産み落としていたのだ。

 それは、ミニーとコジロウが息絶えた直後のことだった。

 主人はうなずいて、子ネコを指差しながら言う。

「しまネコがコジロウ。白はミニー――」

 母親が目を丸くして後を引き継いだ。

「そっちの、一回り大きな黒は……ボス?」

「ありゃ。当てられちゃった。君、もしかして、僕の心が読めるようになった?」

「そんなことはないけど、ただ心に名前が閃いたの」

「それも僕と同じだね」

「やっぱり不気味?」

 主人は少し考えてから首を振った。

「いや。みんなクリスマスの朝に生まれた子供だ。これぐらいの奇跡が起こったってかまいやしないさ。みんなが仲良く幸せに暮らせれば、僕はそれでいい」

 それぞれに生まれたばかりの子供を抱いた二人は、笑い合った。

 黒ネコは母ネコと一緒に、目も開いていない子ネコたちの毛づくろいにいそしむ。

 子供たちも子ネコたちも、暖かいまどろみの中で暖かい夢を見ていた。

                                                                     ――了

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クリスマス・キャッツ 岡 辰郎 @cathands

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