第40話 エピローグ
燃え盛る炎の中、ZEROは人間でいう回想のようなモノに浸っていた。
この機体が完成するまでの間、先に完成した人工知能だけの自分と語らった博士との時間、今思えば、あの時が一番幸せだったように感じる。
ZEROは両手を天井にかざし、呟いた。
「博士……」
「おいテメー」
自分の黄昏(たそがれ)に介入してきた声の主に、ZEROは人間ならば目を見開き驚愕したことだろう。
『貴様……逃げたんじゃないのか?』
「あのなあ、テメーは俺の話聞いてたのかよ? まあいい、お前の人工知能ってのはどこに入ってんだ?」
『頭部だが……どうする気だ?』
ZEROの問いにロイは明るく笑ってチェーンソーでZEROの頭部を切り始めた。
「俺なら運命に抗うって言ったろ、テメーもせっかく感情があるんだからよ、生き汚くなってみようぜ」
そのセリフを最後に、ZEROの意識は途切れた。
おそらくは、ロイがZEROの人工知能をはずしたのだろう。
エピローグ
ロイが目を開くと、目の前には白い天井があった。
ぼやける頭を掻きながら今までの事を思い出し、ロイは上体を起こした。
ZEROの人工知能を運び出し、アルデリュウムから脱出したロイはその事実を皆に伝えると帰りの艦の中で眠ってしまい、そのまま現在に至る。
「おにいちゃーん」
起きてそうそうタックル気味に飛びついてくる妹の感触にロイの意識は完全覚醒した。
「リア……」
「気付いたか、大佐殿! ロイが起きました」
カイに呼ばれ、ライナも部屋に入ってくる。
ちなみにここはライナの自宅の中にある看護室である。
「やっと起きたねロイ君、もしかして死んじゃったかと思ってオジサン心配したよ」
いつもの調子で明るく笑うライナの表情にロイは安堵し、そしてすぐに尋ねた。
「大佐、俺が持ち帰ったZEROの人工知能だけど……」
「ああ、それなら大丈夫、ちゃんとオジサンが保護したから軍にもバレてないよ、一応報告だけど、ZEROちゃんが機能を停止したら他の巨神はみーんな統率を失ってまーちゃん達将軍の皆様に駆逐されたよ、こっちの被害も甚大だけど、とりあえず首都の防衛には成功だね」
「それは良かった」
言ってロイが息をつくと、ライナは笑顔の爽やかさを三割増しにして口を開く。
「そしてそして、本日最大のお知らせだよー、なんとZEROちゃんをロイ君の望み通りにしてみましたー、はい拍手―」
自分の望み通りとはなんだ? とロイが思いながら首を傾げると、部屋のドアが開き、廊下から一人のメイドが入室してきた。
つま先から頭のてっぺんまで完璧なメイド服に包まれた美少女は、だがよく見れば精巧に作られた人形であることがわかる。
ロイの脳裏に「まさか」と嫌な予感がよぎる。
「実はまえから趣味で作っていたメイドロボの体にZEROちゃんを入れてみたんだよ、この家事をしてオジサンの身の回りの世話をするために作られた機体に入った以上、ZEROちゃんはもう立派なメイドさんでもう兵器じゃない、つまりもう戦わなくていいんだよ、いやー、これで全てロイ君の望み通り……」
刹那、ロイが投げた花瓶がライナに当たり、ライナは仰向けに倒れた。
「誰がテメーの趣味全開のメイドロボにしろっつった!」
「まあ、私もそれは同意します。大佐殿の趣味をとやかく言うつもりはありませんが、しかし……」
「そうだ、どうせメイド型にするならもっと胸を大きくしろ!」
「お兄ちゃんのバカー!」
「って、リア、殴るのやめろ!」
「ロイ、貴様は女を胸で評価するのをいい加減にやめろ!」
「何言ってんだ、これは親父との大事な約束であり世界の真理!」
「ムキ―、お兄ちゃんなんて、お兄ちゃんなんてー!」
「わーい、いいぞいいぞー、もっとやれー」
まるで昨日の事件を感じさせない四人の空気に、ZEROは懐かしい感情に浸り、その顔は笑顔を作った。
(博士……私は……)
ZEROは足を進め、その乱痴気(らんちき)騒(さわ)ぎの中に入ってみる事にした。
解体屋は暴走巨大ロボを破壊する 鏡銀鉢 @kagamiginpachi
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