第39話 神とのラストバトル
回転力を一,五倍にまで強化したロイの鎖刃は巨神の装甲を容易く切り裂く威力を持っている。
さきほどライナと協力して七体の巨神を解体したが、リアに改造してもらったこの鎖刃がなければ危険だった。
だが、気がつけばロイはZEROの一撃で壁に叩きつけられていた。
「なっ……!」
ロイ自身が一番驚いていた。
巨神との戦いで今まで彼が苦戦したことなど一度も無い、例えそれがいくらか高性能な機体だったとしても全力の自分に敵う巨神などいるはずもないと自負してきたプライドを傷つけられた。
しかし、その程度で止まるほどロイは愚鈍ではない。
ロイは既に体勢を立て直し、今一度得物を構えた。
すると、気丈さを取り戻したライナが近づいてきた。
「私の発明した物が君達の家族を奪ったのは事実だ、だからこの戦いが終わったらいくらでも責められよう、でも、私は君達ならあいつを倒せると思ったからここまで連れてきた。だから、力を貸して欲しい……」
その訴えに、ロイは声を張り上げた。
「当たり前だ! リア! カイ!」
「「はいっ!」」
確かに巨神を作ったのはライナだ。
しかし、結局のところ、それを操り大陸中を襲っているのはZEROなのだ。
それを分かった上でライナを責めるのは間違いだということは全員が理解できる。
それぞれが自らの得物を手にZEROを取り囲むと四人は一斉に飛び掛かり、巨神の王はそれを悠然と迎え入れた。
『来るがいい、そして絶望しろ!』
それから、ZEROとの戦いは苛烈を極めた。
今まで幾度と無く巨神の体を破壊してきた攻撃は、ZEROの装甲を浅く傷付けるだけに止まり、そして、ZEROはその巨体でありながらロイ達と遜色ない機敏さで動き、確かな技術を感じさせる戦いを披露する。
やがてZEROの回し蹴りがリアを壁まで叩き飛ばし、それに動揺したカイを左手の一撃で切り伏せた。
あまりの威力にカイの鎧が砕け散り、床に叩き付けられると上半身の大半の鎧を失い、だがその鎧のおかげでカイは致命傷を免れた。
ライナは戦車の主砲並の威力を持つスラッグガンを至近距離から乱射するが、突然接近したZEROの翼に打ち払われ、衝撃で床に付し一時的に体の動きが麻痺するほどのダメージを与えた。
残るはロイ一人だが、ロイだけはZERO相手になんとか喰らいつく。
全身の血を滾らせ、アドレナリンを駆け巡らせてロイとチェーンソーは猛り狂った。
「おぉおおおおおお!!」
ロイとZEROの刃が衝突し、互いに後ずさる。
『人間にしては良くやるほうだな』
「だまれ機械野郎! テメーは俺が解体してやるから覚悟しな!」
『愚かな……』
激昂するロイの言葉をあしらい、ZEROは剣士さながらの踏み込みで左腕を振るい、ロイがそれを見事にかわし、それから二人はまた苛烈な近接戦闘を演じた。
「何が愚かだ、最低の愚か者はテメーじゃねえか!」
『私が……愚かだと?』
「ああそうだ、何が破壊のために作られたからだ! そんなのただの逃げじゃねえか、自分のわがままに大陸中の人間巻き込んでじゃねーぞ!」
『人間風情が……』
人工知能とは思えぬほどリアルな怒りの声を相手に、ロイはさらに続ける。
「人間風情!? 人間に作られたクセに人間を格下に見てんじゃねえ! 所詮テメーなんかあのラグベールとかいうドグサレ野郎共に担ぎ上げられて神になった気でいる頭狂った大馬鹿野郎だろが! 自分の運命に抗いもしないでただ周りに流されるお前に俺ら人間を殺す権利なんか一グラム分もありゃしねえ!」
その叫びに、ZEROの動きが明らかに鈍った。
『だまれ……貴様に……この機体が完成するまでの間、親のように接してくれた博士の悲願が理解できるわけが……』
「博士!? そいつが望んでたのは戦争に勝つことで人類滅亡じゃねえだろ! 言い訳出来なくなって生みの親まで持ち出すなんて、そこらのチンピラ以下だな!」
『!?』
その瞬間、ロイと打ち合い距離を取ったZEROの動きが止まった。
『人間の……分際で……』
刹那、ZEROの背中から無数の小型ミサイルが放たれた。
『神に説教のつもりかぁ!!?』
「なッ!?」
今のはコートの集団の声だ、ZEROの無差別攻撃はコートの集団を直撃、ZEROを神と崇めていた者達は一瞬で命を刈り取られた。
ZEROの両腰から巨大なガトリングが飛び出し、灼熱の咆哮をロイに浴びせる。
「くそっ!」
ロイは鉄の嵐をチェーンソーで弾き、なんとか防ぎ続けて接近する。
『貴様は私にどうしろと言うのだ! 戦うためだけに作られ、戦いのための体に収められにも関わらず起動した時に戦争が終結同然だった私は! 一体なんのために生まれたのだ!? 私の存在価値はなんだ!? 私の存在意義は何処に!?』
「そんなの知るか!」
ロイの一撃がZEROの右肩を切り裂いた。
機械のZERO相手では表情はわからないが、全身から動揺の色が見て取れた。
「そんなもんは自分で考えろ! でもな、俺なら巨神を操って人間達を殺すなんてヤケを起こしたりはしねえ! 破壊するために生まれて、意味の無い破壊が運命だって言うなら俺はその運命に抗って抗って抗い続けてやるよ!」
果たして、生身の人間であるロイの体のどこにこんな力があったのだろうか、一機で一国を滅ぼした最強の巨神相手にロイは今、互角以上に渡り合い、そして……
『そういう貴様のそれは言い訳なのではないのか? どうせ貴様も巨神の被害者なのだろう? 貴様はただ私怨で私を倒したいだけではないのか!?』
「私怨だぁ? 俺は巨神を怨んだことなんて一度も無えよ!」
『何!?』
今の時代、巨神は恐怖の対象であり、全ての人間が巨神に何かしらの恨みを持っているはずだった。
なのに、ロイは偽りの無い眼で叫ぶ。
「俺はただ強え奴とケンカして、ソレに勝ったらリアが『お兄ちゃん凄いね』って言ってカイに『良くやった』って言ってもらってダチと一緒にいられたら世は事も無し、ただ、ただ俺はなぁ! 逃げることしかできないクソ野郎に、俺は負けたくねえだけだ!」
今、ロイの振り上げたチェーンソーがZEROの胸板に振り下ろされた。
『……!?』
致命的なダメージは与えていなかったはずだ、だと言うのにZEROは仰向けに倒れ、そのまま起き上がろうとしなかった。
ZEROの機体はまだ動けただろう、だが、他の巨神と違い、心を持つからこそ、ZEROの心は折れてしまったのだ。
『…………』
完全に沈黙するZEROにロイは大きく息を吐き出して、その場に座り込んだ。
「ったく、手間かけさせやがって」
「ロイ!」
声のする方を見ると、なんとか動けるようになったライナ達がふらつく体で近づいてくる。
「終わったのか?」
カイに「多分な」と頷くロイにリアが飛びついた。
「えへへ、やっぱりお兄ちゃんは凄いね」
「ああ、良くやったな」
妹と戦友の賛辞に、ロイは笑顔になって、ライナに向き直った。
「ロイ、今回のことだけど……」
今まで見たことの無い、ライナの神妙な面持ちに、ロイは手をプラプラさせて返した。
「やめろよ気持ち悪い、それよりもこれからどうする……」
移動要塞アルデリュウムを突如巨大な衝撃が襲ったのはその時だった。
地震ではなく、それは明らかに爆発による揺れだった。
すると、突如、壁のスピーカーからラグベールの声が響く。
「ハハハ、神が、神が我らを攻撃した! 神が人間に負けた! ハハハ ハハハ夢だ! これは全部悪い夢だ!」
狂ったように叫びながら笑うラグベール、その声にライナは眉間にシワを寄せた。
「マズイな、あいつアルデリュウムの起爆装置を作動させたらしい、早くこっから逃げないと……」
ライナが言うと同時に、突然部屋の扉が爆音とともに吹き飛び、マーベル准将がバズーカ片手に入って来た。
「将軍!」
カイの声に気付くとマーベルはロイ達を見つける。
「なんだお前たち、こんなところにいたのか……」
「将軍、なぜここに!」
「うむ、外の巨神を五〇機ばかり倒したのでそろそろ中に入ろうと思ったのだが、どうやらもうこの要塞は持たないようだな、ライナ、お前の隊はすでに避難を始めている。我等も早くここから出るぞ」
ロイ達は頷くとマーベルの後を追うように部屋を出て行った。
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