第15話 本能寺


 あまりの痛みに声も上げられない。


 防具をつけた剣道でも、泣き叫ぶほどの痛みはさんざん味わって来たが、これはそんな甘いもんじゃない。


「ふはははは! 霊力切れとは情けない、霊力のペース配分もできぬとは、貴様余程の素人と見える」


 霊力切れ……そういう事か、でもまさか体にここまで影響するなんて。


 血が溢れる自分の腹と腿を見て、本当に的にその槍に手を伸ばしてしまう。


「抜いては駄目よ!」


 弾丸の嵐が吹き荒れる中、舞華は走り寄り、居合で槍の柄を短く斬ると俺を抱き上げて鉄砲隊の後ろに避難する。


「ごめんなさい歴人君、まさかこんな……私が歴史師になってなんて言ったから……」


 俺を地面に寝かせて、舞華は必死に呼びかける。


 その声に違和感を感じて、かすむ目を必死にこらして見ると、舞華は今にも泣きそうな顔だった。


「馬鹿言うなよ……舞華はちゃんと危険だって言ってただろ? ……それより、あいつらをどうするかだよな……」


 顔を倒すと、スパルタ兵達は盾を前に構えて一糸乱れぬ動きで距離を詰めて来る。


 銃撃の連発に古代の盾が耐えきれず、前衛の兵士の中には撃ち殺される者もいるが、流石は最強の勇者達。


 距離はみるみる詰まり、撃ち殺されたのは僅かな数だ。


「でも、私は今日二戦目で、もう霊力もそんなに残っていないし……」

「安心しろって」


 ハッタリじゃなくて、俺は本心から言って、舞華の頭を撫でた。


「舞華言ってたよな、歴史召喚に必要なのは歴史への情熱だって……なら、歴史召喚バトルは歴史への情熱比べだ、俺と信長についてあれだけ熱く語れるお前なら大丈夫だ、絶対勝てる、俺が保証する」


 俺の言葉に、舞華はハッとして、唇を噛んだ。


「……分かったわ」


 何かを決意したように舞華は立ち上がると、大我へ向かって声高らかに言い放つ。


「神代大我! 貴方のソレが最強召喚ならば、私も最強召喚を見せるわ! 隠れていないでここまで来なさい!」


 途端に消える鉄砲隊。


 スパルタ兵は走らず、歩いて舞華との距離を詰める。


「よかろう! ならば見せて見ろ! 貴様の最強召喚をな!」


 スパルタ兵が左右に開き、奥から大股に大我が進み出る。


 背後に最強の勇者達を控えさせ、自身の表れか無防備に近寄る大我。


 そして互いの距離が一〇メートルまで詰まった瞬間、


「出でよ! 魔王最期の地、本能寺!」

「ぬ?」


 電光をまき散らしながら世界が歪む。


 地面が畳張りになり、俺らの体を持ち上げて壁が、天井が出来上がり、いつの間にか俺達は寺の中と思われる座敷にいた。


 スパルタ兵は残り三〇人ぐらいにまで減っていたが、逆に言えばその全員を楽に収容できるほど広い座敷だ。


「本能寺? 日本史属性の無い我でも知っているが、ここは織田信長が死んだ場所であろう?

 貴様が信長属性の歴史師である事は理解したが、だからなんだと言うのだ?」


 大我の言う通り、戦う場所を本能寺に変えたからと言って事態が好転するとは思えない。


 舞華は何を考えているんだ。


 だいいち本能寺で利用できる物、本能寺にしか無い特徴なんて……まさか。


「知ってるかしら? 記録によれば、焼けた本能寺は不自然なくらい炎が激しかったそうよ、何故だかわかる?」

「む、それは明智軍が油を撒いたからであろう? 本能寺は木造、そこへ油を撒かれれば激しく燃えるは必定」

「焼き討ちするなら油は使って当たり前、なのに当時の人がわざわざ『不自然なほど激しい』なんて書き残すと思うの?」

「何が言いたい?」


 舞華の挑発的な態度に、大我は眉間にシワを寄せる。


「火矢兵!」


 舞華の隣に、名もなき弓兵が姿を現す。


 燃え盛る火矢で弓を引き、そして射る。


 だが当然のように大我も、スパルタ兵も簡単にかわして、火矢は背後の壁に突き刺さる。


「だからどうした? 我らを火災に撒きこもうとするなら……ほう」


 大我が振り向き、自分達の背後の壁、そこにいくつもの壺の山が積まれている事に気付く。


「なるほど、あれの中身は油か、だが残念だったな、中世時代に使われていた油は所詮ただの油、ガソリンではない。

 油壺に火が燃え移ったところで、この壺の山が燃えるだけで爆発が起こる訳ではないし、この部屋に火に包まれるのには時間がかかる」


 火矢の刺さった壁が徐々に燃え始め、壺山に近づくが大我は至って冷静だ。


 大我の言う事は正しい、でもそれは、壺の中身が油だったらの話だ。


「教えてあげる、中国地方最大の大名、毛利軍を倒す為に行軍中だった信長はね、本能寺に大量の」


 舞華はタネを明かす。



「火薬が貯蔵されていたのよ!」



「なぁっ!?」


 全身で勢いよく振り返っても、もう遅い。


「歴人君!」


 舞華が倒れる俺に飛びかかりながら木の巨大な盾を召喚して、俺を守るように覆い被さってきた。


 次の瞬間、巨大な爆音が俺の耳を呑み込んだ。


「くそがぁああああああああああああああ!!」


 大我の叫び声が爆音に掻き消されて、俺の意識は一時的に飛んでしまった。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 昔書いたのはここまでです。

紹介文に書いた通り人気になったら本格連載したいです。

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歴史召喚術師 鏡銀鉢 @kagamiginpachi

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