第14話 スリーハンドレッド
その通り。
正直、俺でも信じられないというか、それだけにレオニダスは世界で一番不遇な英雄だ。
何せ彼の偉業は『凄過ぎる』からという理由で学会から否定されているのだから。
当時最強と謳われた大国ペルシアの王ダレイオス。
その一〇〇万の軍勢がギリシャ半島に降伏を迫った。
だがスパルタ教育の語源にもなったスパルタ国の男達は幼い頃から軍事学校で闘争心と殺人技術を磨き、自身を人間兵器とするのが常識だった。
そしてスパルタ国のレオニダス王は王の身でありながら自ら三〇〇人の精鋭を率いてダレイオス王の軍勢と衝突、だが三〇〇対一〇〇万という、あまりにも馬鹿げた戦力差に誰もが一瞬で終わると思った戦いは一瞬で伝説になった。
なんと三〇〇人のオトコ達は一〇〇万の軍勢を圧倒。
丸三日間戦い続け、数え切れないほどのペルシア軍人を殺し、そして四日目、背後を突かれるという奇襲戦で一人残らず死んだ。
死角からの奇襲戦……少数の側が大群を倒す時に使う、それこそ信長が大群の今川軍を倒した時に使った手を一〇〇万の側が使い、そこまでしてようやく三〇〇の小勢を倒せたのだ。
しかしレオニダスの活躍はそれだけでは終わらない。
彼らの活躍で稼がれた四日間という時間、その間に他のギリシャ半島の国々は戦争準備を万全の状態にできて、そしてダレイオス軍は敗れギリシャ半島は救われた。
それでもただ戦争準備を整えられただけでダレイオス軍に勝てるわけも無く、その背景には、スパルタ兵の恐怖を植えつけられたダレイオス軍の士気が大きく下がった事が大きい。レオニダス達は死してなおギリシャを守ったのだ。
だが、いくら鍛えようと、人間が三千倍以上の数の軍相手にそこまで戦える筈が無いとして、レオニダス軍は本当はもっとたくさんいたんじゃないか、ダレイオス軍はもっと少なかったんじゃないか、という学者は多い。
それでも大我の言う通り俺も言いたい。
人類史に確かにその名を残した最強伝説を讃えたい。
だからこそ彼らは。
レオニダスと三〇〇の勇者。
その軍に雑魚は無く、雑兵は無く、一人一人が一騎当千、いや、一騎当三千の掛け値なしの英雄達。
最強のオールスターチームなのだ。
「歴人君、それでそのレオニダス軍の弱点は? 私は何をすればいい?」
「弱点なんてねぇよ」
「で、でも」
ああそうだ、弱点なんか無い、だってあいつらは、
「なんの特性も小細工も無い、本当に、純粋にただ屈強な益荒男の軍勢、単純過ぎて弱点なんてありゃしねぇよ」
悔しいが、そうとしか言いようがない、でも、
「だったらこっちも三〇〇人の益荒男だ! 島津軍召喚!」
ただの刀と違って流石に強力な召喚は違う。
ごっそり霊力が持って行かれて、空間に雷が走る。
召喚されたのは日本中が東西に分かれて戦った最大の戦、関ヶ原の戦いでの退却戦で、背後では無く、敵の軍勢に突っ込み敵中突破をしたとされる、まさしく戦国最強の勇者達だ。
敗北が決定し、後は逃げるのみというさ中、島津軍は三〇〇という小勢ながら、いや、小勢だからこそ、全員命を捨てる覚悟で敵と戦い玉砕し、逃げ切った時には八〇人しか残らなかったという。
この戦いを『島津の退き口』と言う。
「行け島津軍!」
「殺せスパルタ兵!!」
俺の召喚した島津軍と大我が召喚したスパルタ軍が夜の公園で激突した。
俺がイメージしたのは当然、関ヶ原で戦った島津の退き口の時の島津軍だ。
そのせいか、俺がただスパルタ軍と戦うよう意志を込めただけで、玉砕覚悟の咆哮を上げて敵に襲い掛かる。
その覇気たるやスパルタ軍の比じゃない。
こんな凄い連中と戦うハメになった東軍の連中は本当にご愁傷様だ。
戦いは僅かにこちらが不利。
東軍を敵中突破と言っても東軍全員と戦ったわけではない島津軍のほうが僅かに戦力が劣るらしい。
それでも時間稼ぎになる、この隙に次の作戦を。
そう俺が考えると、不意に謎の脱力感に体が襲われる。
「ぐっ……」
片ヒザを付いて倒れ、手も地につけてしまう。
「どうしたの歴人君! 大丈夫!?」
「なんだ……急に体が……!?」
顔を上げると、数の減った島津軍が押し切られそうになっている。
「まずい!」
俺は駆けよる舞華を振りほどき島津軍に向かって走る。
「島津軍再召喚!」
さらに島津兵を三〇人ほど召喚する。
だが何秒もしないうちに再召喚した兵を含めて、俺の島津軍が虚空に掻き消える。
「な!?」
壁の無くなったスパルタ兵が迫る。
軽い革製の鎧を着たスパルタ兵は健脚を以って疾走し、俺を盾で殴り飛ばした。
「ぐあっ……!?」
大柄なスパルタ兵の盾は俺の顔面を直撃、それでもまだましだ。
俺とスパルタ兵の距離が詰まっていて、剣を振りあげる間も無く、島津軍がいなくなった勢いで突撃してきたから盾で済んだが、剣で切り裂かれていたらあの世生きだったに違いない。
「殺せ!」
大我の命令にスパルタ兵が走る、そして走りながら槍兵が獲物を投げた。
「織田鉄砲隊!」
火縄銃の連射に晒され、槍は威力を落としたり、軌道を逸らすが、投げられた八本の槍のうち日本が俺の腹と右脚に刺さる。
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