第13話 人類最古の英雄神王


「神の復活」


「神ですって!?」


 感情をあまり表に出さない舞華でさえ、はっきりと驚きの声を上げた。

 俺も驚いたが、でも復活って、それは召喚とは違うのか? ていうか神様って神話?


「この世界は腐りきっている、世界が救われるには必要なのだ! 人智を越えた。全人類を統一できる最高の王がな! 故に我らは望む、人類史上最高の支配者をな!」


「だから神かよ……」


「そうだ、我らは探した、全世界を統治するに足る王を、だが五大陸全てを、六五億もの人類を全て導くには人間では駄目なのだ。

 もっと、誰よりも強く、誰よりも偉大で、この世の何者にも屈しない最強の存在、それは神しかいない!」


 拳を掲げ語る大我の演説に、舞華が口を挟む。


「だ、だけど神の召喚なんて、歴史召喚は今も生きている者を呼び出す事はできない、天上の神々を歴史召喚で召喚するなんて」

「いるのだよ一人だけな!」


 舞華の言葉を切り、大我は息をつく。

 それで検討がついた。


「聞かせてやろう、その神の名は……」


 神で、歴史上の存在で、もう死んだ統治者、王、それは……



「英雄王ギルガメス」



「!?」


 やっぱりな。


「流石にこの名は知っているか」

「当たり前だ」


 言葉を失う舞華の代わりに俺が答える。


「英雄王ギルガメス、人類最古の英雄で世界四大文明の一つメソポタミアのウルク第一王朝の王、だけどギルガメスの凄いところはただ古いだけじゃない、ギルガメスは人間と女神の間に生まれた半神、ただそれだけならギリシャのヘラクレスやアイルランドのクーフーリンがいる。

 でもギルガメスは違う、神の血が圧倒的に濃かったギルガメスは体の三分の二が神だったんだ」


 俺の説明に、大我は不敵に笑い、知らなかったであろう信長マニアの舞華は息を呑んで俺を見る。


「神と人間の中間じゃない、人間よりも神に近い、もう神って言っていいかもな、神との間に生まれた超人の英雄伝説は世界にいくらでもあるけど、ギルガメスは地上を直接支配した神なんだ。

 その強さはお前の言う通り確かに最強だろうぜ。

 なんせ世界中の英雄が伝説級の武器を持ってて、最強の肉体で知られるヘラクレスだって獅子の毛皮とオリーブの木の棍棒を装備してたんだ。

 なのにギルガメスは、その神の体であらゆる怪物を素手で倒して、数々の冒険をくぐり抜けてきた」


 そう、だから。


「そうだ小僧! 故にギルガメスこそは人類最古にして最強の英雄王、人々の上に立つ英雄の頂点に、まさしく全人類の上に君臨する絶対者なのだ!」


 両手を広げ、声高らかに宣言する大我。

 悔しいが、そんな規格外召喚されたら勝てる気がしねぇ。


「でも復活って、生き返らせるとでも言うの!? そんなのは歴史召喚でも」

「可能だ、無論大掛かりな儀式を必要とするがな、我らは歴史師協会の資料庫にてその方法を見つけたのだ」


 得意げに、遠くから俺達を見下ろし大我は続ける。


「この儀式では二一六の魂を糧にギルガメス王を召喚物ではなく、完全な、一つの人格を持った存在としてこの世に降臨させる。

 後は一〇八の生きた人間を依り代にすることでこの世に永遠に繋ぎとめておける。否、王がこの世に長くとどまり、世界と魂を馴染ませれば存在は固定化し、依り代を必要とせずにこの世で第二の生を得られるのだ!」


 もはや絵空事にも取れる妄言だった。


 でも、これだけのファンタジーを見せられては、俺も信じるしかない。


 こいつは本当にギルガメスを生き返らせる気で、そしてギルガメスの蘇生は可能なんだろう。


「そんな事させないわ!」

「ならば我を止めて見よ! 我が最強召喚にて貴様らの最後を飾ろう!」


 大我が両手の拳を握り、静かに、だが熱く呟く。


「彼の者達は生まれながらに最強を義務付けられし者、殺す為に生まれ、殺す為に生き、戦場で散る事を誉とする」

「そうはさせないわ、魔王軍最強の隊よ、今ここに力を示しなさい!」


 大我と舞華が詠唱し、同時に叫ぶ。


「レオニダスと三〇〇の勇者達!!」

「織田鉄砲隊!」


 鋼の突風が吹き荒れる。


 公園を召喚の光りで埋め尽くしながらこの世に再臨した兵達は一斉に敵へ銃口を向けて引き金を引いた。


 だが死の弾丸は届かない。


 大我の目の前に召喚された益荒男達の持つ盾が、その全てを防いだ。



『雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄!!!!!』



 怒号が耳をつんざく。


 広いとは言っても公園ではさすがに全員は召喚できなかったのだろう。


 レオニダス軍は三〇〇人には程遠い人数で、せいぜい一〇〇人くらいだろう。


 でも、その一〇〇人の声が、屋外で轟音となり響き渡る。


 革製の鎧の上からでも分かる鍛えこまれた筋肉、屈強な魂。


 その迫力は、一人一人が巨漢の大我にも匹敵する。


「レオニダスってなんだったかしら?」


 信長マニアの舞華が耳を押さえながら俺に質問してくる。


「古代ギリシャのスパルタっていう国の王だよ。言っとくけど強さだけは征服王以上だぞ、兵の平均レベルなら人類史上最強、一〇〇万の軍に三〇〇人で四日間戦い続けた伝説的な王とその仲間達だからな」


「ひゃ、一〇〇万人!?」

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