十八 僻村
倚杖 行村路
茫茫 地僻丘
野林 紅日没
雲影 似仙遊
杖に倚りて 村路を行けば
茫茫たり 地僻の丘
野林に 紅日没し
雲影は 仙遊に似たり
愛車を走らせ、細い山道に入り込んだ。離合のできない山の道ゆえ、引き返すことができないまま奥へ奥へと進む。たどり着いたのは、已に誰も住まなくなった村。携帯電話の圏外になってもいる。
Uターンできるスペースを確認して、とりあえず歩いてみることにした。夏草の生い茂る丘の上、見事なくらい何もない。なだらかな西側の斜面は、雑木の生い茂る小さな林となっている。聞こえるのは蝉の声だけだ。
夕刻。木々の向こうに、日が沈もうとしている。逆光のためただのシルエットと化した木々は、逆に存在感を増してきた。蝉の声も少なくなる。たった一人で相対しているうち、少々不安な気持ちにもなってきた。
黒々と影残す夕焼の名残
日没前の空は、朱に染まる。ちぎれかけた雲が、木々をつまみ上げているようにも見える。自分の手でも同じ事ができそうな気になった。仙人でもあるまいし、と頭(かぶり)を振って、家路を急ぐことにした。
漢詩の風景 西久史 @nishihisashi
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