第5話

目を覚ました。


「生……き……てる……」


声も出る、聞こえる。


「お?起きたか!?

ったくよぉ、てめぇは人んちで勝手に何やってやがったんだよ」


横にシドがいた。


「……シド……どうして……」


言いながら、あぁ、病院か、と漠然と察し、恐らくシドが助けてくれたのだろうと思った。


「実際に何かやったわけじゃねぇってんで、意外と早く出て来れたんだよ。

そんでとりあえず家帰ったらいきなり目の前で全部吹っ飛んじまいやがって、地下に隠してたもんが自然発火でもしたかと思って見に行ったらお前が死んでたんでな」


シドが珍しく冗談めいた物言いで軽く笑った。


「そう……やっぱり……ありがとう……。

……でも……シド……。

……ごめん、シドのこと警察に言ったの……俺だ……」


「知ってる。

まぁ別にそれはもういいんだよ。

それよりもよぉ、どうせやっちまうんなら、俺がお前んちのクソ一家を吹っ飛ばしたって良かったんだぜ?

その方が俺だってアートぶった世直しみてぇに斜に構えねぇで、ただダチを助けるためだったっつって格好ついた気がするぜ」


「?……シド……なんか変わったね……」


「あぁ……とっ捕まって久し振りに外の歯車みてぇな人間たちとばっかり喋ってたら、なんか急に客観的になっちまったっつーか、冷めちまったっつーかな……。

つっても戻ってきちまったら結局俺にできることなんざアレしかねぇんで、これからまたどうしたもんかっつーとこだ」


「そう……まだやるの……。

俺は……もう何もできないよ、何もやりたいことも無い。

何もかもどうでもいい……いっそ死んでた方が良かった……」


「は、ガキみてぇな泣き言を言いやがるな。

失くした両腕なら、俺がお前の腕になってやる。

そもそもはお前を追い出さず知識を与えちまった俺のせいでもあるしな」


「そんなの……いいよ……もう……いい……」


「まぁそう言うなよ。

まだまだ本当は吹っ飛ばしてぇもんがあるんじゃねぇのか?

何でも吹っ飛ばしてやるぜ?

お前を助けなかった役所のやつらとか。

どうだ?怒りが湧いてこねぇか?

生きる闘志みてぇなのを思い出さねぇか?」


「……もういいよ……。

それよりも……何でも吹っ飛ばせるっていうなら……過去を……こんなことになった、シドと出会った過去を……あいつらの家に引き取られた過去を……その前の過去も全部吹っ飛ばしてよ……。

それで俺はもう一度最初から、産まれた時からやり直すんだ……」


「ほぉ、そういうのは思い付かなかったぜ。

だが悪いな、だったらやっぱり何でもは無理だったみてぇだ。

俺が、爆弾が吹っ飛ばせるのは、過去じゃなく未来なんだよ。

今そこにあるものを未来には存在しないものに変える。

そいつの未来を奪い去るだけだ」


「だったら……もういい……いいよ……ほっといてくれよ……。

俺はもう何もできないし何もいらない……」


すすり泣き始めたアキラに、


くそ、めんどくせぇな……他人を慰めるスキルなんかやっぱりゼロだぜ、ったくよぉ……。


至らない己の言葉の不甲斐なさにため息をついて立ち上がり、窓の外の夕暮れの空を見上げると、音も届かぬ程の遥か遠くで空に小さな光の輪が開くのを見た。


「花火大会でもやってやがんのか」


多種多彩な打ち上げ花火が休み無く上がり続けるのを眺めながら、


「……未来を吹っ飛ばさねぇ誰も何も変わらねぇくそつまんねぇ爆弾、か……。

くそダセぇな、そういうの……。

丸くなっちまったらアーティストなんて終わりなんじゃねぇのか……?」


つぶやいて再び大きなため息をついた。


それから十年近くの後、とある地方の花火大会で無名の二人組の花火師が打ち上げた数発の花火が「斬新かつ優雅、繊細にして大胆」と喝采を浴び、花火師の片割れには両腕が無いことがさらなる話題を呼んだが、二人は誰とも関わらずどこへとも知れず姿を消したため、その正体は誰にもわからなかったという。


















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アート・オブ・ボマー 遠矢九十九(トオヤツクモ) @108-99

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