3.ふうと  とカナ


——見えてきた。

目を閉じると、広がるもの。暗闇の底から、それは浮かんできた。

……シャボン玉だ。

虹色に輝いていた、透明な膜。それが、目の前でパチンと割れた。

……眩しい。

目の中に、飛沫が染みて。ズキンと、痛みが走ってきて……。

——見えてきたのだ。

チカチカとした、視界の中に。





「『久しぶり』」


届いた、この声……。


「『やっと、君に会えたよ』」


華菜なのは、分かっている。


「『ずっと、この時を待っていたけど』」


けれど。この、乾いた声色。


「『……まだ、覚えてる?』」


優しい響きは、まさしく。


「『昔の、約束の事』」


あの、男の子だ。


「『……忘れられないんだ』」


病室の臭いが、遠のく程に。


「『君が、誓ったから』」


毒々しくて、甘美な響き……。


「『僕は、生きていられた』」


胸一杯に、広がって。


「『……嬉しかった』」


浮かんで、きた。


「『僕を、捨てないで』」


水面みなもに咲いた、白い花。


「『頭の中で、大事にしてくれたから』」


空を覆う、黒々とした星々に。


「『ずっと、君の  でいられた』」


水平線上に立つ、子どもの姿……。


「『……本当に、ありがとう』」


身体は、鏡のように透明で。


「『僕の事を、信じて』」


その眼に、射抜かれたから。


「『自我エゴを、捨てないでくれて』」


あたしは、探し続けた……。


「『嘘つきだって、言われても』」


頭に浮かんだ、男の子。


「『僕の事を、訴えてくれたから』」


  を、信じる人を。


「『見つけてもらえたんだ……』」


そして、出会えたのだ……。


「『君にとっての、僕を伝える為に』」


「面白いね!」と言ってくれた、女の子に。


「『  から、色々な物を取り出して』」


  から感じたものを、文字にして。


「『カタチを作って、見せたから』」


ノートに纏めて、持っていったら。


「『僕は、『  』に変われた……』」


中身を、見てくれた。


「『君だけの、妄想じゃなくて』」


凄く、楽しそうに……。


「『二人で共有できる、文脈……』」


あたしの作品を、読んでいる最中。


「『語り合えるものに、なれた』」


急に、歌い出したのだ。


「『感じた  は、違うけど』」


乾いた声。


「『創るべき『  』は、一つだけ』」


柔らかな響きで、表現し始めた。


「『——君だけじゃ、ダメなんだ』」


思っていたよりも、カッコよくて。


「『二人で、作らなきゃ……』」


あたしの知らない、  の声を。





「もう一度」


……そうだ。


「もう一度、私に教えてよ」


確かに、そうだった。


「あなたが、書いてきたもの」


華菜が、教えてくれたから。


「『  』の中にある、光景を」


初めて、知ったのだ。


「……教えてよ」


頭に、浮かんでいたもの。


「昔みたいに、私に」


.。o((  )) にあった、光。


「これから演じる、舞台」


.✦゜が、焼き付いて。


「僕がいる、世界の事を……』」


ずっと、離れなかったのに。


「『教えてよ……』」


——逃げられない。


「『一度だけ』」


立っている。


「『一度だけで、いいから』」


瞼に蘇った、満天の。


「『僕を、見て……』」


.✦゜.✦゜.✦の、下に。


「『『  』の事を、語ってよ……』」


  が、立っている。


「『寂しかった』」


目の前に……。


「『ずっと、寂しかったんだ……』」


存在している、ベッドの上には。


「『華菜が、いなくなった後も』」


目を開けたら、華菜が立っていて。


「『僕を、見ていてくれたのに』」


『  』を、演じていた……。


「『  の事を、ずっと』」


完成しなかった、物語。


「『書こうと、してくれたのに』」


そこに出てくる、  みたいに。


「『……逃げちゃった』」


華菜の眼差しは、空っぽで。


「『何もかもから、目を背けて』」


開いた、目の中には。


「『僕を、追ってくれたのに』」


.●゜ .● が、覗いているのだ。


「『——君は、諦めた』」


……瞳の、奥底に。


「『見る事すら、止めて』」


広がっている、空の中には。


「『僕から、逃げようとした……』」


.✦゜.✦゜.✦が、煌めいていて。


「『そんなの、今更なのに……』」


湖を、照らしているから。


「『君には、無理だよ……』」


浮かび上がってきた。


「『そんな事が、出来るなら』」


水面みなもに咲いた、白い花。


「『遥か昔に、止めて』」


蓮の大輪に付いた、水の粒が。


「『普通の人生を、歩んでるよ……』」


.✧゜.⚪︎゜.✧と、瞬いて……。


「『僕らは、結局……』」


——離れない。


「『  にしか、なれないんだ……』」


滴り、やがて落ちゆく花雫。


「『一生、ここから逃げられないし』」


.. ✧゜... ⚪︎゜.... ✧゜..... ⚫︎ から、目が。


「『完成しなきゃ、何にもなれない』」


——離せない。


「『君が、始めた事だよ……?』」


だから、見えた。


「『責任を、取って……」


——見えてしまった。


「『  』を、終わらせて……?」


⚫︎ . * . * . * .  *   


「思い、出したの……」


焼け落ちている、雫。


「私はもっと、残酷で」


.✦゜の熱さに、晒されて……。


「才能に溢れた、人間だった事を」


.   と化してゆく、その様が。


「『  』が、私に」


目の前に。


「語ってくれたの……」


広がっている、湖の。


「『  から、目を背けて』」


その奥底へと、消えてゆく……。


「『人生、楽しかった?』って」


ぽつりと。


「『君が、感じているもの』」


華菜が、涙を流している。


「『  の事を、無視して』」


目に浮かんだ、しずく


「『生きていくって、決心した時』」


.✧゜が、こぼれて……。


「『——何か、忘れてなかった?』」


* .   ⚪︎   * .   ・   .


「そう、言われて……」


*   .   •   * .    ⚪︎   .


「やっと、思い出したの……」


* . ⚪︎  * .   ⚫︎   *   .


「ごめんなさい」


*  .  ✦


「やっぱり、無理だよね……」


             ●


「こんなにも、熱くて」


●    * .    ⚪︎    * .    ✦


「鮮やかに、感じる」


* .    ⚪︎   * .   ✦  * .  ●


「こんな、胸の高鳴り」


* .   ●  * .   ✧   * .   ✼


「昂ぶった、この気持ちに」


* .  ⚫︎   * .  ✼   * .  ⚪︎  * .   ●


「嘘を、つくだなんて……」


⚫︎   * .   ✧   * .   ✼


「私には、もう……」


* .   ⚫︎  * .   ✼


「——見て?」


目から、 ✼ が溢れて……。


「この、足元……」


シーツに染みた、湖。


「狂って、いるけど」


透き通った色の、水溜りに。


「やっぱり、綺麗……」


ぽつりと。


「……ごめんなさい」


また、花が落ちた。


「あなたから、逃げて」


宝玉のように、白くて……。


「『  』から、抜け出しちゃって」


金色のずいを持つ、蓮の花。


「……知ってたの」


清らかな、その花容が。


「外の世界は、寂しくて」


水面みなもに、浮かんで。


「本当は、何もない場所だって」


ベッドを、埋め尽くして……。


「ずっと、感じてはいたの……」


広がっているのだ。


「それでも、私」


蓮の、お花畑……。


「周りの人達みたいに」


花に溢れた、湖の鏡面が。


「[  ]の中に、入りたかった」


星の、明かり……。


「皆と、同じ (  )を眺めて」


宙に浮かんだ、シャボン玉の。


「[ () ]を、互いに演じ合って」


その光に、照らされて……。


「[ ( ● ) ( ● ) ( ● ) ( ● ) ]の、前に」


水の上に立つ、華菜。


「ずっと、自分を晒していたかった」


逆光に浮かんだ、そのパジャマ。


「普通の、事だから」


白くて皺くちゃな、サテンの生地が。


「皆にとっても、普通の事だったから」


サラサラと……。


「凄く、安心して」


目に、焼き付いて。


「  を、殺していられたの……」


——離れない。


「心を、削って」


感情を、捨て去った顔。


「  に、嘘をついて」


輝きを失った、その瞳……。


「ただ、自分を演じる」


淵に浮かんだ、一粒の。


「それだけの」


しずく……。


「それだけの、事だった」


ぴかぁっ。


「……なのに」


輝く涙は、鮮やかで……。


「思い、出したの……」


極彩色の、液晶みたいに。


「忘れようとした、衝動」


透き通った粒子の、一つ一つが。


「私が、死なせてしまった」


色鮮やかに、燃えている……。


「『  』の、産声が……」


だから、浮かんできた。


「頭の中で、ずっと」


. 。 o ((  ))


「ずうっと、反響してるの……」


. 。 o ((  )) . 。 o ((  )) . 。 o ((  )) . 。 o ((  )) . 。 o ((  )) . 。 o ((  )) . 。 o ((  )) . 。 o ((  )) . 。 o ((  )) . 。 o ((  )) . 。 o ((  )) . 。 o ((  )) . 。 o ((  )) . 。 o ((  )) . 。 o ((  )) . 。 o ((  )) . 。 o ((  )) . 。 o ((  )) . 。 o ((  )) . 。 o ((  )) .


「本当に、ごめんなさい」


かつては夢見た、幻想……。


「自分の事を、無視して」


書く事を止めた、風景が。


「あなた達を、見捨てて」


今、目の前……。


「現実に、逃げちゃった……』」


湖の上に立つ、華菜が。


「『だから、ずっと」


あの、男の子みたいに。


「ずうっ………と』」


涙を、流しながら。


「『頭から、僕が離れない……」


あたしに、手を。


「だから、もう一度』」


差し伸べて……。


「『もう一度、教えてよ……?』」


誘っているのだ。


「『僕が、歩むべき道筋』」


あの、生き地獄……。


「『創るべき、私の」


終わらない、推敲の果てに。


「わたし、達の……』」


あたしだけに、視えた。


「『『  』の、結末』」


物語の、運命……。


「『産まれずに、消えていった』」


誰もが、報われずに。


「『  の、生涯を……」


『  』から、出られないで。


「……そう、じゃなきゃ」


夢の中で、ずっと。


「そうじゃなきゃ、分からない」


ずうっ、と……。


「本当の、わたし自身……」


それが、嫌だから。


「隠してきた、自分の正体」


  を……。


「歩むべきだった、人生を」


物を書く事を、手放したのに。


「今なら、こうして……」


——離れない。


「現実に、変えられる……』」


声に、込められていたもの。


「『——だから、お願い』」


『  』に感じる、情景が。


「『僕を……』」


目から、溢れて……。


「『僕らの、世界を』」


涙の中で、光を。


「『——語り直して?』」


  を、放っているのだ。


「『じゃなきゃ、永遠に』」


その頬を、伝って……。


「『永遠に、終わらないんだ……』」


滴っている、雫の中では。


「『ねえ、お願い』」


透明な、あの子。


「『お願いだよ……』」


  が、泣いているから。


「『僕を、もう一度』」


湖が……。


「『『  』から、引き出して……』」


涙で出来た、湖の表面が。


「『本当に、  を』」


静かに、揺れて……。


「『生み出してよ……?』」


ぽつり。


「『——約束したよね?』」


また、ぽつりと。


「『僕らの、  を』」


広がってゆく……。


「『必ず、埋めてくれるって……』」


色の失せた、黒い波紋。


「『僕の全てを、文字にして』」


水面に響く、涙の名残が。


「『絶対に……』」


うっすらと。


「『「——絶対に、ヒトにする」って』」


崩れ去って……。


「『「  から、もう逃げない」』」


水の中に、溶けてゆく。


「『——君を、救ってみせる』って」


だから……。


「だから、ずっと」


ぽつん、と。


「ずうっと、待ってたのに……」




「でも、仕方ないよね……』」


沈んだ涙は、  色で。


「『だって、あなた……」


何もない、暗闇の底。


「才能、ないんだもの……」


星を映した、鏡面の奥を。


「——そうでしょう?」


生み出して……。


「あなたの、全て」


燃えているのだ。


「人生の全てを、捧げても……」


華菜が立つ、寝台のシーツ。


「『——僕には、届かなかった』」


布地から溢れた、黒い空が。


「『それでも、今なら……』」


足元にも、広がって……。


「『今なら、伝えられるの……」


喉に、込み上げてくる。


「だから、お願い……」


甘い味の、  。


「私を、見て……」


舌が焼ける程の、感情が。


「『一緒に、創ろうよ……?』」


まるで、星のように。


「『私たちの、世界……』」


お腹の中で、燃え上がって。


「『語るべき、物語を……』」


あたしを、蝕んでるから。


「『もう一度』」


だから……。


「『もう一度、始めよう……?』」


やっと、吐けそうだ。


「『ヒトを呪う、お伽話』」


溜め込んだ、  の黒さ。


「『  を祝った、作り話を』」


白い花のような、純粋さを。


「『互いに、演じて……』」


カタチに、して……。


「『世界を、  にしよう……?』」









「『   ……』」


   、      。


「『   、     ……』」


 、         ……。


「『     』」


——  、       。  


「『   、     』」


      ……。


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あたしは空白少年 ポテトマト @potetomato

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