第3場 目標は全国制覇!再始動した聖暁学園演劇部

 聖暁学園の寮に戻ると、俺と航平は合宿から戻った部員たちと合流した。去年の俺と航平を超える美形BLカップルの登場に、合宿は去年以上の盛り上がりを見せたらしい。希が基礎錬終わりにこっそりシャツを脱いで見せたその身体にはキスマークが何個もついていた。女子生徒に迫られる希に嫉妬した優が、希の身体に噛みつきまくったらしい。航平もビックリの焼餅焼きだ。


 だが、演劇部としての本番はこれからだ。急ピッチで秋の地区大会に向けて稽古を進めていかなくてはならない。美琴ちゃんは、全国大会の稽古に集中する余り、遅れに遅れていた今年の大会用の台本を俺たちに見せた。でも、大丈夫。地区大会までは二か月ある。自主公演を一か月で仕上げたことを考えれば、これだけの期間があれば大丈夫だ。主演は希と優の史上最高の新入生コンビ。脇を二年生の部員で固める。今度は自主公演と違って、俺と航平にもしっかりとしたセリフや出番が与えられた。


「今回の芝居のキーパーソンはつむつむとこうちゃんなの。主人公は、BLカップルのつむつむとこうちゃんに引っ張られて、BLに目覚めていく物語なのよ! 聖暁学園演劇部史上最高のイケメン、のむのむとつむつむ。そして、同じく史上最高の美少年、ゆうゆとこうちゃんが揃っているのよ! 今年の舞台は、『再会』を超えるものになるのは確実ね!」


 美琴ちゃんの鼻息は荒い。タイトルはその名も『ようこそ、BL学園へ!』。まさかの「BL」をタイトルに入れて全面に押し出して来るとはね。でも、これでいいんだ。BLをやる演劇部というのが、聖暁学園演劇部の一つのアイデンティティのようなものだからな。


__________


 希演じる主人公の希空のあは、学校一イケメンでスポーツ万能で、クラスの女子にもモテモテな中学三年生。全てが完璧な希空の唯一の弱点は勉強が壊滅的に出来ないこと。高校入試で受験した全ての県立高校と私立高校を落ち、まさかの高校浪人をすることになる。訪れた人生のピンチに焦りを覚える希空の前に、仲良さげに恋人繋ぎをした不思議な美形の高校生が二人、彗星のごとく現われる。


「君、行く場所がないんだってな」


「だったらおいでよ、BL学園に」


 二人に依れば、この学園に入るためには試験もないという。無試験で入学できる高校を見つけた希空は深く考えることもなく、この怪しげな学園への入学を決意する。だが、その学園を訪れた希空は驚愕する。希空をBL学園に引き連れて来たのは、学園の生徒会長月夜つきや(俺)と、副会長洸史郎こうしろう(航平)だったが、その二人は何と男同士のカップル。希空の前で堂々とキスをする姿に希空は思わず目を覆う。


 だが、BL学園に通う生徒たちは全員男同士のカップルだった。クラスメートのかい(奏多)と怜生れお(漣)も希空の前で仲睦まじく抱き合っている。一体この学園はどうなっているんだと恐怖を覚える希空。そんな希空に、生徒会長たちから衝撃的な事実が伝えられる。このBL学園の卒業試験では、BL学園で見つけた彼氏との愛の力が試される。つまり、BL学園を出るためには、男と付き合うしかない。


 とんでもない学園に入学したことを後悔する希空だったが、固く閉ざされた校門を前に脱走することも出来ない。そんな希空の前に現れたのは、希空が今まで見たこともない美しい少年・祐真ゆうま(優)だった。希空の心に芽生える祐真への恋心。だが、自分は男など好きになるはずがないと、飽くまで自分の恋心に抗おうとする希空。だが、祐真と二人で学校生活を送る中で、どんどん希空はBLの沼に嵌まり込んでいくのだった……。

__________


 俺たちは台本を読みながら大爆笑だった。これ、全員、それぞれの役を演じる俺たち役者のオマージュになっているよな。ちょっとこんな役を演じるのは恥ずかしい。でも、面白そうだ。『再会』はシリアス全開だった分、今回はラブコメでどんどん観客を笑わせていく作戦だ。もちろん、ラストシーンとなる希空と祐真の卒業試験のシーンは感動的だ。しっかりとラストで泣かせるシーンに向けて、物語のテンションが一気に高まって行く感じ。流石、美琴ちゃんだ。


 そして、演出は俺、舞台監督は航平が任命された。俺も航平も役者との二足の草鞋を履くことになり、役者に専念出来た『再会』や、スタッフに注力できた自主公演よりも大変になるだろう。だが、助手として奏多と漣がついてくれることになった。俺たち二年生が、主役の一年生コンビを輝かせるために引っ張っていかなくてはならない。俺たちは決意を新たにした。


 そして、聖暁学園演劇部の新部長は、一ノ瀬紡。この俺が満場一致の賛成で任命された。そして、俺を支える副部長のポジションに航平が就くことになった。「史上最高の逸材」である俺と航平が導く聖暁学園演劇部の未来は絶対に明るいものになるはずだ。俺たちが紡ぐ新たなステージへの挑戦が今、始まる。夢は大きく。次こそ、全国大会制覇だ。


     ―完―

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ヒロインは男の子 ひろたけさん @hirotakesan

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