推しが尊くてつい

マドカ

推しが尊くてつい

45歳の時に長年勤めていた所を辞めた。



辞めた理由は多々あるが、精神的な苦痛が凄まじかったのが一番の理由かな。

辞めようと決意した時は、将来への不安云々よりもとにかく逃げたかった。

少なくともあと20年この環境に居続けると、確実に頭がおかしくなると思った。



そういうわけで俺は全てを投げ出して、家も安家賃の所へ引っ越し、自由を得たわけだ。

しかし、やることがない、、、。

今まで仕事ばかりしてきて、友人も居ないし趣味も無い。



そんな時に俺は天使に出会った。







部屋中に飾られたポスター、グッズ、CDにチェキ、彼女が関わっている商品なら全て買った!!!!

さて今日も掲示板パトロールだ。

彼女を荒らしているクズ共を俺は駆逐せねばならぬのだ。




仕事を辞め1年が過ぎ体重は30kg太った。

普段の外出は必要最低限スーパーへ行くだけ。

そう、スペシャルな日は、、、

イベントやライブへ行くのだ!!!

その為の苦労は惜しまない!!!!




俺は1年前、ただなんとなく地下アイドルのイベントへ行ってみた。

なんというか、仕事を辞めてやることが無さすぎた。



イベントのチラシを駅前で受け取った時に、そういう文化と触れ合ってなさすぎて興味本位で行ってみようと思っただけ。




ステージで踊る彼女の動きや仕草、歌と笑顔を見て、、

俺は全身に雷を落とされたようだった。

世の中にはこんなにも神々しく綺麗な物があったのかと、一人で涙を流していた、、。



この感謝を伝える為に、物販の前にいる彼女の前に並んだ。

どうやらチェキを買わなきゃいけないらしい。

800円なら安いもんだ。



「ありがとうございました!! あれ? 初めましての方ですよね? またよかったらお願いします! お顔覚えましたっ!」



「え、あ、う、あ、あ、凄くか、、か、可愛かったです、、」



そこからはもう音速でハマっていった。

3回目で名前を覚えてもらった。

5回目でツーショットチェキというものを撮った、家宝だ。



今ではイベントに行くと、色んな友人いや同志が話しかけてくれる。

年齢や性別は様々だ。

しかし我らは彼女の為に生きているのだ!!!




こんなにも心満たされる日々は経験が無かった。

彼女が生きている、それだけでこの世は薔薇色に見える。。

彼女をもっともっと上のステージに!!!

なぜなら彼女は俺の女神、夢を載せているのだ、、、!




いつものように家でコーラとポテチ、ビッグマックとピザを食べている。

仕事?今更何でそんなもんをしなきゃいけないんだ。

俺には暇なんてないのだよ。



彼女のTwitterを見ていたら

久々に握手会をするらしい。

1年で彼女はオリコン50位前後くらいには入るアイドルに成長していた。




これは、、!

応募せねば、、!



幸運なことに当選したぁ!!!

100枚CDを買った甲斐があった、、

彼女に感謝と、少しばかりの雑談をしよう。

そうしたらまた暫く生きられる。

生きる活力!!!




イベント、握手会の日。

1週間ぶりに風呂に入り、手は石鹸で洗いまくった。

行列、17列目くらいに俺は居る。

あと30分くらいか、、と何気なく頭の中で彼女と話す内容をまとめていると。




「うわぁぁぁあああ!!!!」

ととんでもない大声で奇声を上げ、

包丁と手榴弾を持った男が彼女の元へ走っていった。




ほへ????

え?????




刹那の戸惑いと思考停止。



しかし一瞬でこの男が何をしたいのかわかった。

あれだ、ニュースとかで見てた、自分の物にならないなら的なこれは通り魔だ!!!



警備員さん!!!



あぁ、明らかに間に合っていない。

これはもう無理よりの無理!!!!

俺の女神に何をするつもりかぁ!!!!!









目の前にはビクビクと痙攣を起こし、気絶している男が居る。

包丁は放り出され、手榴弾に関してはダミーだね、重みも無いしドンキででも買ったんだろう。



あーーーー、やってしまったんだなぁ俺は「また」。

たぶん首の骨は折れちゃってるし、、、。

彼女も俺にドン引きしてる、、、

終わった、、、。



「ゴォフッ!!!ゲホゲホゲホ!!!」

あれ?

なんと男が息を吹き返した。

首折れてなかったか、、

鈍ったなぁ、、と思っていると。



「佐藤氏!!!あなたのお陰で我々の我々の!!!」とヲタ仲間が泣いている。

気づけば周りも泣いていたり、拍手したりしてくれている。



ええええ????!!!!

いや、まぁ、うん、殺してなかったからよかった、、

正当防衛?なるのかな。

警察は嫌だなぁ、、、



いやそれよりも彼女のイベントには今後も来れるのかなぁ。


俺の最大の不安そこなんだよなぁ。。




前職のスキルがまさか人助けに繋がるとは思ってなかった。

太っても体って動くもんだ。

まぁ15の頃から30年やってたことは体に染み付いてしまっているということで。。





え?前職?


あ、言ってなかったね。






殺し屋だったよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

推しが尊くてつい マドカ @madoka_vo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ