しろいきつね と あかいたぬき

林奈

白いキツネと赤いタヌキ

 1


 昔々 山奥に、いたずらなタヌキと いたずらなキツネが 住んでいました。


 二匹は それぞれ 違うお山に 住んでおりました。

 いたずらなキツネは、西のお山。

 いたずらなタヌキは、東のお山。


 そんな二匹が 顔を合わせるのは、年に四回。

 お日様が 一年で 一番早く隠れてしまう日と、

 お日様が 一年で 一番長くお顔を出している日と、

 あと その二つの日の 真ん中。


 その日になると、二匹は 順番に 何かのいたずらを 考えて来ては、相手をびっくりさせる。そして、お互いに持ち寄った 美味しいものを 一緒に食べて、一緒に笑う。

 そんな時間を 過ごしておりました。



 2


 今回、いたずらの順番が 回ってきたキツネは、悩んでいました。

 かくれんぼをして驚かそうと 決めたのは良いけれど、どうやって隠れたら 面白いだろうかと、そんなことを 悩んでいたのです。


 そんなキツネの元に、真っ白な体をした ふわふわなウサギが やってきました。



「もしもし、いたずら好きなキツネさんのお宅は こちらですか?」

「はいはい、私がいたずらキツネです。何かご用ですか?」



 真っ白なウサギは、言いました。



「ウサギ同士でかくれんぼをすると、私は真っ白すぎて、すぐに見つかってしまうのです。だから、見つかりにくくなるように、お山を真っ白に 変えてはくれませんか?」

「お山を、真っ白に?それはそれは、面白そうだ。」



 狐はそう言って笑うと、ご自慢の力で ふわふわのかき氷を お空から降らせ、お山一つを真っ白に変えました。ウサギは喜んで帰って行きました。



「真っ白な世界で、かくれんぼ。自分の体も真っ白にしてしまえば、きっとタヌキは驚くだろう。」



 そう思ったキツネは、タヌキへのいたずらに 使うことを決めました。


 キツネが毎日毎日練習したせいで、向こうのお山も、その向こうのお山も真っ白。

 そして、キツネの体も真っ白でふわふわになった頃には、真っ白なお山はとても寒くなり、葉を落としてしまった木々もあるけれど、大好物のお芋やニンジンが甘くなったので、今回のお土産は これにしようと決めました。



 真っ白になったお山でかくれんぼ。


 真っ白になったキツネは 全然見つからなくて、タヌキは「ずるい、ずるい。」と言いながら、それでもとても楽しそうに探し回り、夜は美味しいお野菜のお鍋で温まって、今回は解散となりました。




 3


 次の番が回ってきたタヌキは、昨日遊んだばかりだというのに、次は何にしようか考えていました。


 キツネが山を真っ白にするために、たくさん練習していたことを 知っています。タヌキもそれに負けない、あっと驚くことを したいと思っていました。


 そんなタヌキの元に、一匹の蝶々がやってきました。どうやら、少し元気が無いようです。



「もしもし、いたずら好きなタヌキさんのお宅は こちらですか?」

「はいはい、私がいたずらタヌキです。何かご用ですか?」



 蝶々は言いました。



「お花がみんな枯れてしまって、仲間の元気が 無くなってしまったのです。」

「あらあら、それは大変だ。でも、真っ白にするのは 昨日で終わり。もう大丈夫。」



 タヌキはそこで、ぱっと思いつきました。



「たくさんのお花を咲かせて、蝶々たちと追いかけっこ。それはきっと楽しいに違いない。」



 タヌキはそう言って笑うと、ご自慢の力でお花をぽぽぽんと咲かせ、お山一つをお花でいっぱいにしました。ピンク色のお花をつけた木もあって、とても素敵になりました。蝶々は追いかけっこに協力することを約束すると、嬉しそうに帰って行きました。


 タヌキが毎日毎日練習したせいで、向こうのお山も、その向こうのお山もお花でいっぱい。

 そして、追いかけっこに負けないくらい、いっぱい走れるようになった頃、にょきにょきと芽を出し始めたお野菜と、真っ赤になったイチゴを見つけ、今回のお土産は これにしようと決めました。



 お花がいっぱいのお山で 追いかけっこ。


 蝶々達もいっしょになって走り回り、すぐに捕まってしまうキツネは「ずるい、ずるい。」と言いながら、それでもとても楽しそうに走り回り、夜は美味しいイチゴの乗ったサラダを食べて、今回は解散となりました。




 4


 再び順番が回って来たキツネ。

 次は何をしようかと 悩んでいると、のしのしと一頭の子熊が 歩いて行くのが見えました。どうやら、少し落ち込んでいるようです。



「熊さん、どこに行くんだい?」

「ああ、キツネさん。お母さんに頼まれて、そこの川に魚を捕りに行くんだよ。ただちょっと水が冷たくて、本当は行きたくないんだけど。」

「あらあら、それは大変だ。それならお日様にお願いして、暑くしてもらえば良い。そしたら冷たい水も、とても気持ち良いに違いない。」



 キツネはそこで思いつきました。



「今度は川の中で水遊び。そして、魚を捕まえて 焼いて食べたらどうだろう。」



 キツネは、すぐにお日様にお願いをして、汗をかくぐらいお山を暑くしてもらいました。

 山々は、葉を茂らせた木々に染められて緑色。


 それからは、喜んだ子熊に魚の獲り方を教わって、毎日毎日練習しました。

 そして、たくさん獲れたお魚を 今回のお土産にすることに決めました。



 照りつける日差しの中で、水遊び。


 いっぱい水をかけられて、目をまん丸くして驚いたタヌキは、「やったなー!」と言いながら、それでもとても楽しそう。夜は獲れたての美味しいお魚を焼いて 食べて、今回も解散となりました。




 5


 再び順番が回って来たタヌキ。

 次は何をしようかと悩んでいると、一匹のスズムシが汗をかきながらやってきました。



「もしもし、いたずら好きなタヌキさんのお宅は こちらですか?」

「はいはい、私がいたずらタヌキです。何かご用ですか?」



 スズムシは、汗を拭き拭き言いました。



「最近、やたらと暑くなったせいで、羽が汗でベトベトで 音が出なくなってしまってね。」

「羽がベトベトに?それはそれは、大変だ。それならお日様にお願いして、そろそろ涼しくしてもらおう。」



 タヌキがお日様にお願いすると、あっという間に 涼しくなって、森の葉っぱは 赤や黄色に色づき始めました。

 スズムシは喜んで、タヌキに一曲 弾いてくれました。


 タヌキは、そこで思いつきました。



「次は、虫たちの演奏会。どうか、協力してくれないかい?」

「タヌキさんが指揮者をしてくれるなら、みんな喜んで協力するよ。」



 スズムシは今回のお礼だと言って、仲間を集めるために嬉しそうに帰って行きました。


 それから、指揮者を任されたタヌキは、虫たちと毎日毎日練習しました。

 そして、いつの間にか森に実った美味しい果物ときのこを、お土産にすることを決めました。



 タヌキは 赤い一張羅に着替えて指揮を執り、虫たちは それに合わせて演奏しました。

 スズムシ、コオロギ、マツムシ、クツワムシ。途中から、蛙たちまで集まって、お山を挙げての大演奏会。


 キツネは、「良いな、良いな。」と羨ましがりながら、それでもとても楽しそうに演奏を聞き、夜は獲れたてのお芋とキノコを焼いて食べて、演奏が終わった虫たちもお土産に果物をもらって、今回も解散となりました。




 6


 どうやら次の演奏会からは、二匹で指揮をすることに決めたらしいと噂が流れ、その時期になると赤い服を着たキツネとタヌキをよく見かけるようになりました。

 そうして二匹が遊ぶたび、山は様々に景色を変え、その度に美味しいものを運んでくるようになりました。


 山に住む仲間たちは、赤いキツネとタヌキを見かけると、演奏会を楽しみにしながら、次は冷たい氷が降るからと、急いで食べ物の準備をするようになりました。そして、演奏会の終了と共にお家で眠り、蝶々の羽音で目を覚ます。そんな生活になりました。


 そんな風にしている内に、いたずらタヌキといたずらキツネが楽しく暮らすお山は、美味しいものがたくさん採れる、素敵なお山になったのでした。




 おわり

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