行き場を失った狐神と侍による、妖怪退治オムニバス

明治維新直後の横浜。かつて幕府軍として戦って敗れた侍は鬱屈した日々を送っていたが、稲荷狐と出逢うことで退魔の剣を手に入れる。『リュウ』という新たな名前を手に入れた侍は、稲荷狐の『コンコ』と共に、西洋の風が吹き込む横浜で次々と巻き起こる怪異に立ち向かっていく――。

まず時代設定が明治初期で、舞台が横浜という時点で既にオリジナリティがありました。
そして14万文字というボリュームながら、オムニバスのように各エピソードが簡潔にまとまっており、最後まで退屈したり『重さ』を感じることなく読み進めることができたのも良かったです。
かといってそれらのお話がバラバラに取っ散らかっているわけでもなく、物語全体として一本筋が通った起承転結や、キャラの葛藤・成長が描かれ、実に巧みな構成でもあると感じました。

日本妖怪だけでなく赤い靴や人魚の伝承、朝鮮半島のプルガサリなども登場し、まさに和洋入り乱れた怪異モノなのも特徴的で個性的です。外国の文化や西洋人が流入する『横浜』という舞台と、作中のテーマや展開がしっかりリンクしており、とても好印象でした。
そして単に霊剣で妖怪達を容赦なく斬り捨てるのではなく、知恵で出し抜いたり説得したり新たな活躍の場所へ導いてあげたりと、まさに古き良き『妖怪退治』の構成でもあります。それを令和の現代で読むことができて、非常に満足感がありました。

少年でも少女でもない狐っ子コンコと、侍としての誇りや意地を捨てきれずにいるリュウのコンビも魅力的でした。
時代の流れと共に不要とされ打ち捨てられるところだった二人が、妖怪退治という仕事で居場所を見つけ、協力し寄り添い合い、ラストには新たな人生へと踏み出す姿が実にエモかったです。

ただストーリーも設定もテーマもキャラも魅力的だったのですが、それらを表現する文章のみがやや不足しているのだけは気になりました。
オムニバス形式でサクサクと進み、テンポの良い展開や文章ではあるものの……描写までもが必要最小限といった感じで、読んでいて「ん? つまりどういうこと?」と疑問に感じて読み返してしまう部分が結構ありました。
作者さんの脳内ではイメージとしてハッキリ浮かび上がっているのでしょうが、読者は説明がないと理解することができません。
なので、どの情報を開示するのか、どこまでを描くのか――その描写の『取捨選択』を、もう少し吟味して欲しかった気がします。

そうすればこの魅力的な作品を、更に多くの読者に届けられると思います。内容としては凄く面白かったです。

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