第26話 今更すぎた自覚
そもそも、薄ぼんやり覚えている前世を含めて恋愛をしたことがなかった。
第二王子も、愛しているというよりは支配したいと思っていた。あの生意気で傲慢な子供を、私なしではいられないようにして、羽をもいで、手元で愛でておきたいと思っていた。それはきっと、愛ではない。支配欲とか所有欲だ。第二王子がどう思っていようとも、私はかまわなかったから。そりゃあ第二王子も私を嫌うだろう。私は私の都合とエゴでアレを籠の鳥にしたのだから。
自由なようで、アレは私の籠の中でさえずっていたのだ。今はもういらないから、籠から出してあげたけど、飼いならされた鳥が野生で生きられるはずもない。まあ、どうなろうと知ったことではない。
でも、ジャニスは違うのだ。与えられたものを返したい。私が幸せにしたい。嫌われたくない。愛されたい。こんな気持ち、知らなかった。
「うふふふふふ」
ジャニスをブラッシングする。今日から毎日させてもらうことにした。妻としての特権だ。妻……とてもいい響きだ。
「ご、ご機嫌ですね?」
「ええ。美しい夫が私の手でさらに美しくなるだなんて、楽しくないわけがないわ!」
大変楽しいのだが、多少不満がある。尻尾はデリケートゾーンになるらしく、ブラッシングさせていただけないのだ。こんなにフサフサでモフモフで魅惑的にパタパタして私を誘っているのに……!
新妻だからでゴリ押せないかしら。顔を埋めさせて吸わせてとまでは言わないので、ブラッシングぐらいは……!
「ジャニス……尻尾にブラッシングは」
「駄目です色々耐えられません」
「チッ。……わたくしのお願いでも?」
上目遣いでおねだりしてみた。
「………………だ、ダメ、です」
かなり葛藤があった!これは押せばイケる!!
「今日だけ……でもだめ?」
涙目でおねだりしてみた。
「ウウウウウ………わ、かり、ました………」
なんか唸っていたけど了承してくれた。
「やった!ジャニス大好き!!」
ぎゅうっと抱きしめる。はあ……ブラッシングしたての毛皮ってサイコー!ふかふかもふもふー。頬ずりしちゃえー。吸っちゃえー。すーはーすーはー。いい匂い!
「……尻尾にブラッシングする意味を、後でエクレアあたりから聞いておいてください。そういう意味でないのはわかってますが……知っておいてくださいね」
尻尾へのブラッシングには、何か特別な意味があるようだ。
「わかったわ」
やはり尻尾のモフモフ具合は最高だった。他と比較しても毛量が多いし触り心地がよい。トリートメントもジャニスように良いものを揃えなくてはね!いつか、この尻尾に顔を埋めたいわ。とりあえずブラッシングさせてくれただけでも大進歩よ!
気になったので朝ごはんを食べ終わったエクレアちゃんに聞いてみた。食後の紅茶を飲んでいるので、今なら問題ないだろう。ショコラちゃんはまだ食べている。
「エクレアちゃん、聞いてもいい?」
「なんスかー?」
「尻尾をブラッシングさせてって言う意味って他に意味があるの?」
エクレアちゃんが盛大に飲んでいた紅茶を噴出した。正面にいたショコラちゃんが一瞬でびしょ濡れになった。
ショコラちゃん、何故ご飯だけに防御結界?自分を含めてやればよかったのに……。
「なん、そん、せ、セクハラッスか!?」
「エクレア!それより謝りなさいよ!人をビショビショにしといてー!ご飯はなんとか無事だけど、汚いでしょ!!」
「あ、マジごめん。ビビったから噴いた。マジョリカ様、朝からビビらせないで欲しいッス!」
「……そんなに驚くような意味なの?」
「あーまー、知らないのが普通ッスよねぇ……。アタシらもなんとな~く身についた知識っていうか」
エクレアちゃんが明らかに言いたくないご様子。でも、これ知らないとまずいんじゃないかしら。今後も尻尾にブラッシングしたいし。
「ええと……ごめんなさい。まわりくどい表現無しでストレートに教えてください」
「ええと……その……尻尾って尻じゃないッスか」
「そうね」
まあ、お尻と繋がってはいる。
「そこをブラッシングさせてってのは、事後じゃないっすかね……?だから、性行為しようぜってのの隠喩ッス」
「ええええええ!?」
まさか、ブラッシングするだけで!?そりゃジャニスにも注意されるわ!
「あと、結構な性感帯らしいんで。アタシは尻尾無いから知らねッスけど……パイセンが理性崩壊してもいいのなら止めねえッスが、やるならヤられる覚悟がいるかと」
「わかったわ……」
とりあえず、その覚悟ができるまで尻尾ブラッシングはおあずけね。流石の私も当面は諦めるしかないと理解したのだった。
悪役令嬢は次元の壁を超えたくない 明。 @mei0akira
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