第25話 結婚報告しておこうか
とりあえず、すぐできそうなのを……と思ったら時間帯の条件があるらしい。面倒だわ。ほとんどが昼間なので、今日は解散となった。
エクレアちゃんとショコラちゃんは引っ越したばかりだから荷解きもあるだろうし、家の使用人がフォローしているとはいえ、家族もいきなり連れてこられて不安だろう。
「とりあえず、ウルフィディア侯爵家に結婚報告をしましょう」
「ああ、そうですね」
「今日はそちらに泊まろうかしら。乳首も確認したいし」
ジャニスが柱に顔面を強打した。
「泊まり……確認……」
何やらブツブツ言っている。当面は美狼男姿でいてもらうために、服も新調しなくてはね。個人的にはこの胸毛もっさりがむしろツボなんだけど、人によっては見苦しいと思うだろうから。
「そういえば、騎士服はどちらの体格に合わせているの?」
「ああ、獣人用のものがあるんですよ。伸縮性の高い布地を使うか、魔法で体型に合うものもあります。割高ですが下着なんかは脱げたら困るので必ずそれにしてますね」
「まあ!ではジャニスの服に魔法をかけていただかなければいけないわね」
でも、あの抜け目ない支配人だもの。しれっと加工してくれていそうだわ。
「え、でもものすごく高額なので……」
「わたくしを誰だと思ってますの?」
「マジョリカ様です……」
ちなみにこの会話の間もジャニスの尻尾はブンブンしている。ぐぬう……触りたい!
「ほほほほ!当然ですわ!わたくしにとっては端金でしてよ!」
そんな会話をしていたら、ウルフィディア邸に到着した。今回は予めお邪魔すると連絡したからぬかりはない。いざ、結婚報告!!
「うちの愚息が何か粗相をいたしましたでしょうか……」
「何卒……何卒婚約破棄だけは……!!」
「とりあえず、避難先ですが隣国の知り合いがたまたま商談に来てまして」
何故ご両親からは土下座で婚約破棄しないでと泣かれ、義兄からは逃亡先の斡旋をされているのかしら。おかしいわ。
「ええと……婚約破棄どころか、本日ジャニスと結婚いたしました。本日はその御報告に参りましたの」
「ジャニス、でかしたがバカタレ!!」
「結婚披露宴は!?いくら好きだからって、していいことと悪いことがあるのよ!泣き落としたの!?でもおめでとう!」
「マジ?えええ……友達に自慢していい?あ、愚弟が無理なら言ってね。なんとか逃がすから」
ご両親は混乱しているのか本音と建前……いや、本音がだだ漏れている。義兄様は何故私を逃がそうとするのか。むしろ私が逃さないつもりなのだけど。
「ありがとうございます。泣き落としてはいません。ええと、マジョリカ様の希望で先に結婚して、マジョリカ様が卒業したら披露宴をします」
ですよね?とジャニスがこちらを見る。
「ええ、わたくしがジャニスと結婚するのはもう決定事項ですし、両親も快諾しましたの。お義父様とお義母様に相談なく結婚してしまったことをお許しくださいまし」
「いやいや!こんな愚息をもらっていただいて感謝しかありません!」
「ええ、ええ!この子ときたら、マジョリカ様以外は愛せないと言ってまして」
「母上!」
「まあ……」
まあ、あの部屋を見れば一目瞭然ではあったわ。そんなジャニスだから好きになったわけだし。
あら?
すき?
ん??
ンンンンンンンンソソソソソソ??
「マジョリカ様?」
私が大混乱しているのに気がついて、ジャニスが寄ってきた。しかし、今はよろしくない。
うあええええええ!?い、いつから!?条件に合うからと婚約して、この人しかいないと思って……。ンンンンンンんンンン??
「え、ええと!わたくし火急の用件を思い出しましたわ!!大変申し訳ありませんが、これにて失礼いたします!!」
言うが早いか走り去り、馬車に飛び乗った。
「出して!うちに全速力!!」
「は、はい!」
馬車はすごい勢いで自宅についたのだが……そこにはジャニスがいた。馬車より早い美狼男。なんだか輝いて見えるような気がする。
「マジョリカ様、捨てないでください!!」
「え?」
美狼男が泣きながら土下座した。美狼から微妙な狼にクラスチェンジした瞬間だった。
「俺が粗相したなら謝罪します!ですな、何卒離婚だけは……!」
「離婚も何も、粗相なんてしてないけど……」
困ったわ。このどうしようもない微妙な狼男が、好きで好きでたまらないだなんて。その泣き顔に、僅かな罪悪感と強烈な優越感を感じているだなんて。
でも、そうね。私は泣かせるよりも喜ばせたいわ。
「本当ですか!?」
「うん。貴方への恋愛感情を自覚して動揺したの。だから気にしないで」
「…………………え?」
口に出したらスッキリしたわ。まあ、結婚したわけだし旦那様に恋するのは全く問題ないわよね!
「…………………………え??」
ジャニスが固まって動かないので、とりあえず使用人に運んでもらった。そんなに驚く事を言ったかしら?よくわからないわ。
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