電力会社
言うまでもなく、電力会社というのは公益企業である。公益企業であるが故に独占を許されてきた。2008年の法改正により民間企業の電力事業への新規参入が容易になったが、こんなものは世間の目を欺く隠れ蓑である。実際は、巨大発電所と送電網を握る電力会社の市場独占は続いている。メガソーラー事業が成長し始めたと見るや、途端に新規参入を阻んでいるのが何よりの証拠である。
さて、問題である。
公益企業は営利活動を行ってよいのか。
設備投資や新技術開発の費用、また、事故が起こった際の補填費用。こうした費用を賄う為の利潤は電気料金に転嫁されても、誰も文句は言えない。いわば必要経費である。では、広告宣伝費はどうか。市場原理の下他社との競合を余儀なくされる民間企業であれば、販売促進の一つの手段として広告を打つことは許されるだろう。しかし、公益企業の場合、独占が許されるが故に他社と競合することがない。競合がなければ、広告を打つ必要はないはずである。
ところが、現実は、電力会社は大手メディアの大口のスポンサーとなっている。広告宣伝を行う必要のない電力会社が、なぜテレビ局に多額の広告宣伝費を払うのか。
理由は明白である。
自社や電力事業に不利になる報道をさせないためである。テレビ局は嘘の情報を流すわけでも、世論を煽るわけでもない。しかし、情報を流さないことによって情報操作を行うことは可能だ。これが慣例となっているとしたら、メディアは大衆に真実を伝えるという本来の役割を果し得ていない。
福島原発の事故が起こるまで、メディアの原発に関する報道が活発であったとは言えない。世間には原発の危険性を訴える声がたくさん上がっていたにもかかわらず、そうした情報を一般市民に伝える事を避けていた節がある。むしろ、テレビ局は大口のスポンサーである電力会社の意を汲んで、反原発の風潮が広がる事を押さえ込んできたように見える。
これが、公益企業である電力会社が広告宣伝費を必要とする理由である。公益とは名ばかりの、国策企業ではないか。その国策にしてからが、本来は国益に資する方策を打ち出さねばならぬものを、一部の人間の利権を守るための策しか出せぬようでは、この国の政治家・官僚は国民の代弁者たる機能を失っていると言わざるを得ない。かてて加えて、裁判所までが国策におもねり日和見の裁定を下すに至っては、民主国家の基礎である三権分立の原則さえも危ぶまれる。
原発を推進することに何一つ良い点などない。国民は一刻も早くそのことに気付き、電力会社の不誠実を正さねばならない。
電力会社が太陽光発電の導入を忌避する理由は、太陽光発電は天候に左右される為、電力の安定的な供給ができなくなるということである。しかし、この点に関しては、すでに技術的な解決法が提示されている。
天候不良や夜間など、太陽光で電力を賄えない際の予備電源の設置である。
予備電源の候補となるものはいくつもある。
リチウムイオン電池による蓄電。
フライホイール蓄電器。
燃料電池。
水素エンジンによる発電。
上に挙げたような予備電源施設(いずれも二酸化炭素を出さないクリーンエネルギーである)を、地域ごとに、または家庭ごとに設置すればよいのである。何も巨大発電所ばかりが電力供給の手段ではない。電力会社は、太陽光の導入を進める一方で、こうした小型予備電源施設の敷設や維持・管理を事業の主体に置き換えればよい。
そして、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスを排出しない脱炭素社会を目指す上で、光明となるのが水素エネルギーの活用である。燃料電池や水素エンジンは、水素と空気中の酸素をエネルギー源とし、排出されるのは水のみである。燃料となる水素は、水という形でこの地球上に大量に存在する。電気分解すれば簡単に生成することができる。水素エネルギーは自動車のエネルギー源としても活用でき、燃料電池自動車はトヨタ自動車によってすでに実用化されている。水素エンジン自動車については、マツダが開発中である。マツダは自動車の動力源としてロータリーエンジンを採用してきた世界唯一の自動車会社だが、このロータリーエンジンは水素との相性がよいとされる。
太陽光発電により余剰電力が出る時間帯に、蓄電するなり電気エネルギーを水素に変換するなりして予備電源施設に蓄えておけば、発電制限を行って折角発生したエネルギーを無駄にすることもない。こうしたエネルギーの循環を促進すれば、地球環境に負荷をかけることなく必要な電気を生産することが可能になる。
電力会社の従業員はこの方面で専門技術を生かすことができ、而して、生き残りの道を模索することもできる。官僚の天下り先が必要であれば、政府はこうした事業にこそ資本投下すべきである。官僚に国の行く末を案じる心も、貫くべき信念もないとしても、そこに彼らの欲を満たすだけの権益が生ずるならば、彼らは簡単に宗旨替えするだろう。原子力推進派から自然エネルギー推進派へ。
自然エネルギーにも、太陽光発電以外に数多の候補がある。
風力発電。
地熱発電。
潮力発電。
潮流発電(海底に凧のように発電機を浮かべ、潮流の力でタービンを回すもの。IHIなどで研究が進められている)。
こうしたエネルギー源と太陽光発電を組み合わせていけば、人類が抱えるエネルギー問題、さらに環境問題の多くは解決できるはずだ。
グローバル化の波に乗って新自由主義なる思想が台頭してきている。日本においても、社会格差が広がりつつある。エリートと一般大衆の乖離が進み、その上、国家までもが国民に目を向けなくなれば、アナーキズム(無政府主義)の思潮が芽生えるのも時間の問題である。そうならぬために、ごく常識的な人間のまともな意見が通る社会を取り戻さねば、世界は混沌の渦と化すであろう。エリート層に属する人間とて、そんな世界の到来を望んでいるわけではあるまい。現社会体制の根本が揺るがされれば、彼らも安穏と暮らしてはしていられないのだから。
エネルギー問題 Hiro @jeanpierrepolnareff
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