第6話 秘密基地


–––––目が覚めると、どこからか漂うコーヒーの香りが鼻腔をくすぐった。



徐々に意識がハッキリとしていき、ゆっくりと目を開ける。


するとそこには、


知らないベッド。


知らない天井。



寝返りをうつと、外からはカーテン越しに、朝日が差し込んでいるのが分かった。


一瞬、頭が混乱しかけたが、昨日の出来事をすぐに思い返した。


「‥‥ホントに、来ちゃった、、、」


色んなことが一気に起きすぎて、今冷静になってみると、ちょっと思い切りが良すぎたかもしれない。


いきなり【大遺跡】に挑戦し、勢いでここまで来てしまった。


そして、リュウと名乗る謎の男性と出会った。


–––––そもそも、あの人は何者なのだろうか?


そう。彼のことをよく理解もしないまま、ついてきてしまった。


「‥‥どうしよう。」


とりあえず、上体を起こして周りを見回してみる。


物がほとんどなく、壁が白い無機質の部屋。


広さもそこまであるわけではなく、寝室専用といった感じだった。


慣れない場所にも関わらず、昨日の夜はすぐに寝付くことが出来た。


目覚めもスッキリしていて、気分が良い。



ぐるっと何も無い部屋を観察していると、ドアをノックする音が鳴った。


「‥‥起きてる?」


男の人の声だ。


しかし、リュウの声ではない。


彼の仲間、、

いや、今となっては私の仲間である人物の声だ。


私のことを警戒しているのか、恐る恐るこちらを伺っている様子が伝わってきた。


「–––––はい、どうぞ。」


起きていることを伝えると、部屋のドアがゆっくりと開いた。


すると、コーヒーの香りが一段と強くなった。


「お、おじゃましまーす、、、」


ゆっくりと、彼が部屋に入ってきた。


朝日の中で彼の姿がはっきり見えた。


ひょろっとした体型で、メガネをかけ、少し姿勢が猫背なことから頼りなさそうな印象を受ける。


思わず、彼が持ってきてくれたお盆の上のコーヒーが、溢れてしまわないか不安になってしまうほどだ。


「‥えーと、、朝食、食べる?」


「‥‥あ、はい。ありがとうございます。

 –––ロックさん?」


「あ、うん。

 昨日はいきなりだったからね、、

 改めて、ロックだよ。よろしく、、」


彼は私の近くにある、小さなテーブルの上にお盆を置くと、ぺこっと頭を下げて挨拶をした。


「こちらこそ。

 ユキと申します。」


彼につられて、堅い挨拶をかわす。


「あ、あのさ、あいつに言われて朝ごはん持ってきたから、よかったらどう?」


「ありがとうございます。

 いただきますね。」


卓上にあるコーヒーに手を伸ばす。


私がコーヒー好きなことを知っているはずはないのに、何の確認もなくブラックコーヒーが出てきた。


私はコーヒーには何も入れないのが好みなのだが、どうして分かったのだろうか。


–––––しかし、今はそれよりも気になることが一つあった。


「‥‥ロックさんは、リュウとはどういう付き合いなんですか?」


彼の“あいつ”呼びから関係性が気になった。


コップを両手で持ち、コーヒーを啜りながら彼の顔を見つめた。


温かい液体が、身体を芯から温めてくれる。


「あー、僕は奴隷だよ。

 彼の無茶振りに全力で応えるだけ。

 あいつ、ホンットに人使いが荒いんだ。

 君も気の毒だね、、、」


リュウの話になると、急に感情を表に出して饒舌に話し始めた。


内容はともかく、二人はどうやら仲が良いらしい。


「どこで知り合ったんですか?」


「学生の頃にね。

 この国の学校に俺たちは通ってたんだ。」



–––––学校か。



私にはそうした、学生からの友達はいない。


貴族の関係者ばかりの所謂、上流階級層が集まる学校に通っていたため、毎日のように権力争いや、ご機嫌取りが至る所で起こっていた。


新しいことが学べる勉強は楽しかったが、毎日起こる駆け引きにうんざりしていた。


「‥‥いいですね。」


口からこぼれ落ちたように言葉が出てきたが、心からそう思っていた。


「え、奴隷だよ?」


「ふふっ、そっちじゃないですよ。

 それに、奴隷はご主人様のことを“あいつ”なんて呼びませんよ?」


学生からの友達ということは、けっこう長い付き合いなのかもしれない。


それに二人ともここが地元なのだろうか?


というか、そもそもここはどこだ?


「今更なんですが、この国って、どこですか?」


「え、なに。

 あいつに教えてもらってないの?」


「あ、はい。」


マジかよ、とロックが呆れたように呟いた。


確かに、私も何も聞かなかったが彼も教えてくれてはいない。


秘密基地というくらいだから、どこかの辺境の地下とかにあるのかと勝手に考えていた。


「ここはね、サティーヤ首長国。

 知ってると思うけど、世界で最も裕福で平和な国だよ。

 ‥‥ほら、窓の外を見てごらん?」


ロックがカーテンを開けて、外が見えるようにしてくれた。


私は言われた通り、身を乗り出して窓の方へ寄る。


朝日が差し込む外を覗き込むとそこには、、


「‥‥うわっ、、嘘でしょ?」


まず驚いたのは、自分達がいる場所の高さだった。


高すぎて、視線の先には青い空以外何も見えず、覗き込むしかなかった。


そして、眼下に広がるは、ミニチュアのように細かく整列した高層ビル群。


たくさんの人々が、そこを行き交っているのだろうが、距離が遠すぎて人影は全く見えなかった。


まるで観光地の展望台にきたかのようだった。


「‥‥ここって、、」


「僕たちが今いるのはね、ヴィンセントタワー。人工の建造物としては世界で二番目に高いタワーだよ。」


聞いて驚いた。


なんとここは、観光地としても有名な「ヴィンセントタワー」だった。


サティーヤ首長国の政治的中枢でもあるこのタワーには、世界中から観光客が押し寄せる。


皆、世界で二番目の景色を求めてやってくるのだ。


そして中には、この国の重要な機能が集結している。


しかし疑問なのは、なぜそんなところに秘密基地が存在しているのかということだ。


「–––––なんで、そんなところに、、?」


思ったことをそのまま言葉にしてみた。


すると、ロックは


「‥‥うーんとねぇ。そうだなぁ、、

 まぁ、言ってもいいか、、」


若干、何かを隠しているような素振りを見せた彼だったが、打ち明けることに決めたようだった。


しかし、一つ秘密基地の秘密が聞けると思えたが、それはまたの機会にお預けとなった。


ガチャンっと音を立てて、彼が入ってきた。


「おはよー!

 早速だけど、空への鍵。見つけたよ。」


リュウが勢いよく部屋に入ってきた。


すると、右手に持ってる広告のような紙をこちらに向かって広げた。


【世界一最大規模!ロンバルディアオークション!!】


新しい冒険の匂いがした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新世界アドベンチャラー! 〜強さと好奇心が新世界を切り拓く〜 @wh1sper

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ