第5話 それぞれの望むもの
–––––消えた?
瞬間移動か?
.....いや、何かが違う。
待てよ、、、
あの輝きはまさか、、
「–––––八大秘宝か!!」
スペクターがリュウの姿を探すかのように、大声を上げた。
霧深い塔の森に、彼の声がこだまする–––––
辺りを見回すが、深い霧で何も見えない。
リュウの姿を完全に見失ってしまった。
完璧に不意をついた最速の一撃を、いとも簡単に対応されてしまった。
既に逃げられたと考えるべきだろう。
何にせよ、この遺跡の外へ逃れたに違いない。
ここを出ても、必ず捕まえてみせる。
–––––それにしても、あの大秘宝。
能力からして〈空間〉の秘宝だろう。
この世に8つ存在すると言われている、最高最強の秘宝。
八大秘宝の一つ。
〈時間〉〈空間〉〈創造〉〈破壊〉
〈秩序〉〈混沌〉〈自由〉〈平等〉
8つある秘宝はこれらそれぞれを司り、所有者に特殊な能力を与える。
大秘宝は自ら所有者を選ぶため、手にした者全員が能力を得られるとは限らない。
そして今、所有者が分からなかった〈空間〉が明らかになったと考えていいだろう。
大秘宝の回収も必ず成し遂げてみせる。
始祖神十傑の一人として、大怪盗スペクターとして、どれだけ時間がかかろうとも、奴を必ず捕まえる。
–––––久しぶりに現れた強敵だ。
今まで、どんなに厳重といわれる警備でも、相手でも、全て容易くくぐり抜けてきた。
始祖神十傑となった今でも満足感はなく、どこか人生に物足りなさを感じていたところだったのだ。
「‥‥攻略は後回しだな。」
そう呟くと、彼が再び青いオーラを纏い、その場から姿を消した、、、
始祖神が十傑に課している重大な任務の一つが【大遺跡】の攻略だ。
それを後回しにしてでも、やるべきことが出来た。
仮面の下の彼の顔には、笑みが浮かんでいた。
––––––––––
「–––––よっと、、」
何もない空間から、いきなり男女が二人現れた。
男は両腕に抱えていた女を下ろし、どこか達成感を感じている様子だった。
「–––––え、ここって、、」
抱えられていたユキが、足場に立つ。
驚いた様子で辺りを見渡している。
「うん。さっきは邪魔が入ったからね。
また戻ってこれたらと思って、マークしといたんだ。」
見ると、そこは一面の大雲海–––––
二人はファントムシティの上空に空間転移していた。
「‥‥すごい、、」
「んね。」
どこまでも続く、白い絨毯。
濃く、厚く、一歩踏み出しても人間の体重くらいは支えてくれると錯覚するほどの重厚感が伝わってくる。
所々に見られる凹凸が本物の波のようで、まさに雲海と呼ぶに相応しい。
青い空とのコントラストもまた、絵画では表現出来ないような美しさがあった。
「さっきは楽しむ余裕なかったでしょ?
ここを後にする前に、もう一回見ときたくてさ。」
「・・・」
ユキは完全に景色に見入っていた。
彼女はこうした体験がしたくて、家を出てきた。
煩わしいことばかりに気を取られ、外には出れず、一生あの家の中で暮らすことなんて考えられなかった。
息のつまるような環境から飛び出し、世界を自由に飛び回りたい。
何も考えず、ここに来てしまったが、素晴らしい風景に出会うことが出来た。
「–––––ありがとう、ございます。」
自然と彼女の目から涙が流れていた。
彼女の涙が何を示しているのか。
その感謝は、何に対するものなのか。
リュウにはそれが分からなかったが、一言。
「‥‥うん。ありがとう。」
そう、返した。
––––––––––
そして暫くの間、二人がじっくりと絶景を堪能していると、ユキがあるものに気づいた。
「‥‥ん? あれ、なんですかね?」
「どれ?」
「あの、空に浮いている黒い点です。
なんか少しずつ動いているような、、、」
彼女は腕を目一杯に伸ばして、遥か遠くに存在する物体を指差した。
「あぁ、よく気づいたね。
–––––待てよ。
もしかしてあれは、、
‥‥天空世界(スカイワールド)かも。」
「なんですか!?それ!?」
名前を聞くと、彼女がまるで子供のように目を輝かせて、こちらを振り向いた。
どうやって行くんですか!?って口に出さなくても、顔がそう訴えかけていた。
「あれも【大遺跡】の一つだよ。
空を漂う遺跡で、どうやって行くかは分からない。もちろん攻略はされていないし、到達者ですらたったの一人。」
「へぇー。空にある遺跡かぁ。
でも、到達者はいるんですね!」
「うん。行き方のヒント頂戴って言ったら、発想を逆転させるんだよ!ってよく分からんことを言ってたよ。」
「え!?知り合いなんですか?その人と。」
「うーん。まぁ、、そんなところ。」
「‥‥‥」
そう言うと、彼女はじーっとリュウのことを見つめ始めた。
「‥‥なんだよ」
リュウは若干のむず痒さを感じ、視線を雲海へと戻す。
「いや、なんでもないです。」
そう言うと、彼女も再び視線を大雲海へ。
そして、遥か遠くに存在するスカイワールドをじっと見つめていた。
リュウはチラッと彼女の横顔を見ると、ふと思ったことを口にした。
「‥‥行ってみる?」
すると、彼女がその言葉を待っていたかのように勢いよくこちらを振り向き、言った。
「–––––はい!」
いつかはチャレンジしてみようと思っていた大遺跡の一つではあったから、こちらとしても願ったりといったところだ。
ただでさえかなり標高の高いところにいるのに、それでもまだ見上げるほどの上空に【天空世界】は存在している。
誰が、いったいどういった目的で作った物なのだろうか?
それとも神がいるなら、神の御業か。
そこには何がいるのか?
何もいないのか?
あそこからの景色は?
–––––好奇心は尽きない。
そして気がつくと、太陽が徐々に沈み始めており、夕暮れが近づいていた。
夕焼けに染まる雲海もまた、美しかった。
いくら見ていても飽きない光景だったが、いつまでもここにいるわけにはいかない。
黒龍がまだ俺たちを探しているに違いない。
「そろそろ行こうか。」
横に立つユキに声をかけた。
「–––––そうですね、、
あ、でも、どうやって、、、?」
それを聞くと、リュウが少し笑うと同時に、悔しさを滲ませながら言った。
「さっきのやつだよ。
ホントは脱出まで含めて冒険だと思ってるんだけど、しょうがない。
ハイ、、掴んで。」
そう言って、右手をユキの方へ伸ばす。
「‥‥あ、はい。」
すると、彼女は少しうつむきながらリュウの手を握った。
「えっと、、どこに飛ぶんですか?」
「秘密基地♪
一瞬だから、この景色を目に焼き付けといて。」
勢いで飛び込んでしまった初めての大遺跡。
あの気色悪い生物に追いかけ回されていたときは、こんな無謀な挑戦をした自分を恨み、一刻も早く外に出たかった。
それでも、今となってはどこか寂しい気持ちがあった。
またいつか。
そんな思いがつのる、、、
–––––じゃあ、行くよ。
そう彼が言うと、一瞬で周囲の光景が変わった。
そしてそこには、新しい出会いが–––––
待っていた。
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