第2話満天屋放火事件

春日井市西小学校に通う岡辺学戸は、学級委員長でありながらも推理力がずば抜けている彼は、ある一つの事件と遭遇した。

それは岡辺がお使いに行った帰り道でのことだ、彼が上を見上げると空に立ち上る灰色の煙に気がついた。

「あれは・・・、火事だ!」

岡辺は走って現場に向かった、現場についた岡辺は驚愕した。

「満天屋が・・・、燃えてる。」

満天屋はこの近所では有名な駄菓子屋、岡辺も遠足のおやつ購入で行ったことのあるお店だ。

その後消防車が来て火は消えたが、この出来事は近所で有名になった。

「満天屋がなくなったなんて・・・。」

「あそこのたません、美味しかったんだけどなあ・・・。」

「おれたちの、いこいの場がなくなってしまったぜ・・・。」

子どもたちからは落胆の声が相次いだ。

しかし岡辺はすでに、探偵の顔になっていた。

「満天屋の火事は事故か放火か・・・、もし放火だとするなら、これは事件だ。」

そして翌日、岡辺の調査が始まった。

まず、満天屋の近所の人に聞き込みをした。

「怪しい人・・・?見てないなあ。」

「満天屋も田子たこばあさんも、普段通りだったよ。」

田子ばあさんは、満天屋の経営者。あの火事があった日、娘の尚美さんと一緒に避難したおかげで助かった。

「あの日もいつも通り経営してたよ、それが火事になるなんてな・・・。」

「それじゃあ、満天屋について何か悪い話というのは・・・?」

「うーん、田子ばあさんは恨みを買う人とは思えないなあ・・・。強いて言うなら息子との仲が悪かったことくらいか。」

「その話、教えてください。」

話を詳しく聞くと、田子ばあさんには米司という息子がいて、米司は満天屋を潰して服屋を新しく開店しようとしている。しかし田子ばあさんはそれに反対、それから二人は口論になって今では互いに口も聞かなくなった。

「米司さん、犯人の可能性ありだな。」

しかしそれから聞き込みを続けても、有力な情報は無かった。

「ニュースで見た情報を踏まえると・・・、うーん・・・放火が可能性高いな。」

朝見たニュースの内容によると、火災発生時刻は午前十一時二十分、火元は満天屋の裏側の左端の和室であることが判明。しかし田子ばあさんは喫煙者ではないし、和室には火元になりそうなものは無かった。

「となると、誰かが火をつけたとしか考えられないんだよな・・・。」

結局この日の進展はなく、明日大貫に相談することにした岡辺であった。








翌日、学校の用務員室へ向かった岡辺は、大貫と会った。

「大貫さん、満天屋の火災事件って知っていますか?」

「ああ、田子ばあさんのところであった火災だろ?田子ばあさん、店を失って気の毒だなあ・・・。」

「それはそうとして、満天屋に放火したのは誰だろう?」

「ほう、君も放火だと思うか。となると犯人は誰かということだが、それは田子ばあさんに詳しい話を聞きに行こう。」

「ですが、田子ばあさんがどこにいるのかご存知ですか?」

「ああ、私のアパートに田子ばあさんの娘さんが住んでいてな、田子ばあさんは娘の部屋に同居することになったんだ。」 

「では、土曜日に行ってみますか。」

そして大貫から田子ばあさんに連絡が入り、今週の土曜日に話をうかがうことが決定した。

そして土曜日、岡辺は大貫と一緒に田子ばあさんがいる部屋にやってきた。

部屋のインターホンを鳴らすと、田子ばあさんが顔を出した。

「おや、よく来たねえ。さあさ、おあがり。」

「おじゃまします。」

岡辺と大貫はソファーに座り、田子ばあさんから話を聞いた。

「あの日は、いつも通り店を経営しておった。店にいたのは私と尚美だけ、じゃが火事が発生する二十分前、長谷川という男が来てな、米司を訪ねて来たと言って奥の和室に通したんじゃよ。それからあの火事が起きたんじゃ。」

「火事になったとき、長谷川さんはどうしていたんですか?」

「あの時は火事で気が動転していたから、どうなったかはわからないよ。でもこの火事の死者がいなかったということは、長谷川さんは運良く逃げることができたに違いない。」

「それで長谷川さんは息子さんよ知り合いですよね、息子さんは今どこにいますか?」

「すまないねえ、もう口すら聞いていなくてどこに住んでいるかわからん。ただ、尚美が息子の住所を知っているから、帰ってきたら私が聞いといてやるよ。」

そして岡辺と大貫がのんびりしていると、尚美が帰宅した。

田子ばあさんは尚美に事情を説明し、息子の住所をメモすると、ちぎって岡辺に手渡した。

「ここに行けば会えるよ。」

「お手数おかけしました、これで失礼します。」

岡辺と大貫は田子ばあさんの部屋を後にした。

「これから息子のところへ行きますか?」

「そうだな、大曽根だしそう遠くはない。」

岡辺と大貫は駅に行って、電車で大曽根まで向かった。

駅から降りてメモに書かれた住所を目指して歩くと、五階建てのマンションに到着した。

「えーっと、オートロックなんだよな。」

メモにはオートロックの番号もちゃんと書かれていた。

403と押すと、スピーカーから声がした。

「どちらさんですか?」

「満天屋の火事について調べている、岡辺と大貫です。話を伺いにきました。」

「ん?とりあえず、玄関にきてくれ。」

入り口のドアが開いた、二人はそこからエレベーターで四階へ向かった。

403号室に来ると、米司がドアを開けて待っていた。

「はじめまして、米司です。どうぞお上がりください。」

二人は米司の部屋の椅子に座ると、米司が座って「母の満天屋のことについてのことですか?」と言った。

「はい、その時にあなたの知り合いの長谷川という男がたずねてきたそうですが、どういう人か知っていますか?」

すると米司はポカンとした表情になり、そしてこう言った。

「あの、長谷川さんって誰でしょうか?」

「え?ご存知ないのですか?」

「はい、あの母からどんな話を聞いたのか話してください。」

岡辺は米司に田子ばあさんから聞いた話をした、そして米司は次のように言った。

「確かに満天屋を無くして服屋にしようとしましたが、それは諦めてビルの部屋を借りて服屋を始めました。店が忙しいので母とは会っていませんが、ケンカなんてしていませんよ。」

そして岡辺と大貫は米司から、服屋のパンフレットを見せてもらった。

「うーん、これは田子ばあさんがウソをついたということ?」

「どうもそうらしい・・・。」

「でも長谷川さんなら、母の知り合いにいますよ。母と同い年の男で、妻に先立たれて一人暮らしをしていたな。」

「本当ですか!それでどこに住んでいるか、わかりますか?」

「すみません、そこまではわかりません。」

「そうですか、お時間とらせました。失礼します。」

岡辺と大貫は部屋を出て、マンションを後にした。

「まさか、田子ばあさんがウソをつくなんて思わなかったなあ・・・。」

「となると、田子ばあさんの自作自演ということだな。そうなると、動機がなんなのか調べないと・・・。」

岡辺と大貫の捜査はここで中断した。













その翌日、今日は日曜日なので岡辺は一人で尚美さんに聞き込み捜査をすることにした。

昨日向かったマンションの部屋に来てノックをすると、尚美さんが顔を出した。

「また来たのね、岡辺くん。」

「今日はあなたにお話があって参りました、話してもいいですか?」

「丁度一人だし、いいわよ。」

岡辺は部屋へと上がって行った。

「そういえば、田子ばあさんは今日はどちらに?」

「今日は人に会うと言って出かけたわね。」

「それって、長谷川さんのとこですか?」

岡辺が言うと、尚美の表情が固まった。

「どうして長谷川のこと知ったの?」

「昨日、米司さんから聞きました。何か知っていたら、教えてください。」

岡辺の鋭い視線に、尚美は隠し事はできないと悟った。

「実はね・・・、母は長谷川と再婚しようとしているのよ。」

岡辺は冷静な顔で、話しの続きを聞いた。

「それで、いずれは満天屋を辞めて二人で暮らそうとしているんだけどね・・・。私は正直、反対よ。」

「それは長谷川さんが、気に入らないから?」

「違う、借金よ。」

「借金?」

「長谷川には二百万の借金があるのよ、長谷川は超がつくほどのパチンコ好きでそれでこしらえたのよ・・・。それで長谷川は、借金の返済を母にお願いしたのよ。」

「それで、田子ばあさんは?」

「あたしに任せなさいと張り切っていたわ、あたしは猛反対したんだけどね・・。」

「そうでしたか・・・。ではあの時、田子ばあさんに何か不審な動きはありませんか?」

「無かったわ、ただスナック菓子の補充をするために奥の部屋へ行ったくらいね。」

「それで、田子ばあさんがいつも持ち歩いているものはありますか?」

「持ち歩いているもの・・・?拡大鏡かしら、母は目が悪いから新聞などの細かい文字を見るために、肌身離さず持っているわ。」

「なるほど・・・。」

岡辺の頭の中で全てがつながった。

「それでは失礼します、ありがとうございました。」

「いいよ、それじゃあね。」

そして岡辺は部屋から出ると、大貫の家へ電話した。













それから六日後の朝七時、田子ばあさんは日課の散歩を終えて家へ帰るところだった。

「田子ばあさん、久しぶりです。」

「おや、岡辺くんに大貫さん。こんな朝早くから、どうなさいましたか?」

「単刀直入に言います、満天屋に火を放ったのは田子ばあさんですね?」

田子ばあさんの笑顔がひきつった。

「おや、そんな酷い冗談はやめておくれ。」

「冗談ではありません、あなたはあの日、満天屋の奥の和室に行き火を付けて火事を起こした。いつも持っている拡大鏡をつかってね。」

田子ばあさんは「これかい?」と、ポケットから拡大鏡を見せた。

「満天屋の奥の和室は南側にある、前日大貫さんと現場に行って確認した。常に太陽の日差しが差し込む和室で、あなたは拡大鏡を使って火を起こした。燃やさせたのはスナック菓子、油が多く含まれているから燃えやすいんだ。」

田子ばあさんはしかめっ面のまま、口を閉ざした。

「そしてあなたが満天屋に火を付けた理由・・・、それは火災保険で長谷川さんの借金を返済するためだ。」

岡辺が言うと田子ばあさんは口を開いた。

「おや、そこまで突き止めたのかい。でも保険金はもうないわよ、それどころか長谷川さんの借金を返済してから、長谷川さんと連絡がつかないのよ。」

「その長谷川という人ですが、警察に逮捕されましたよ。」

大貫が言った。

「ええっ!長谷川さんがどうして・・・?」

「あの人は詐欺の常習犯だったんだ、あんたに近づいたのも最初からお金目当てだったんだ。」

「そんな、長谷川さんが・・・。ハハハ!」

それから田子ばあさんはショックで、狂ったように笑った。









逮捕された長谷川はその後、満天屋の事件についても供述し「借金の話は嘘、あの放火は婆さんが勝手にしたこと。」と言った。余罪も多数あり、長谷川は重い罪になるだろう。

一方の田子ばあさんは被害者ながらも、放火と火災保険金の不正受給で逮捕された。

帰り道で、岡辺は大貫に言った。

「結局、可哀想なのは田子ばあさんですね。」

「ああ、恋は盲目というが罪を犯してしまったことはしょうがない。」

「長谷川が田子ばあさんに近づいてこなけりゃ良かったのに・・・。」

岡辺は満天屋がやっていたあの頃を思い出し、切ない気持ちになった。










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学級委員探偵と用務員刑事 読天文之 @AMAGATA

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