学級委員探偵と用務員刑事
読天文之
第1話図書室盗難事件
「おーい、みんな席に着け!」
担任の
クラスの学級委員長の
福平は教卓の所にいくと、「みんなに悪いお知らせがある。」と厳しい顔で言った。
「ここのとこ相次いでいる図書室の本が盗まれる事件について、犯人が明らかになった。波田間侑、何か知っているんじゃないか?」
福平とクラスの視線が侑の方を向いた。
「私は犯人じゃありません・・・。」
侑は立ち上がり、うつむきながら言った。
「福平先生、侑は犯人ではありません!」
菊乃ナミが言った、福平は菊乃を制すると話を続けた。
「気持ちは解るが、そういう情報が校長の耳に入ったのだ。侑、後で職員室に来なさい」
そう言うと福平は無理矢理話を切り上げてしまった。
「本当に侑が犯人なのか・・・?それよりも図書室で本が盗まれていることが問題だ。」
岡辺は放課後に調査することにした。
そして放課後、菊乃は侑と一緒に岡辺のところへやってきた。
「岡辺くん、侑が図書室の本を盗んでいないって証明してよ!」
「はぁ・・・、言われなくても今から調べにいくよ。侑さんが本を盗むとは思えないからな。」
「さすが岡辺くん!よろしくね。」
「岡辺くん・・・、よろしくお願いします。」
侑が頭を下げると、岡辺は「気にするな」と言って図書室へと向かった。
まずは図書委員への聞き込みを始めた岡辺、そして次のようなことを知った。
・盗まれている本は児童文庫や歴史のマンガなどの、全て子ども向けのもの。
・本が盗まれたことに気づいたのは、図書室を開けてからのこと。
・盗まれたのは、学校に生徒がいない時間。
さらに岡辺は図書室の外側も調べた、窓に割られた形跡はなく、図書室の窓は室内側しか開けられないので、外から窓を開けて侵入するのは不可能だ。
「すると犯人は図書室の鍵を持てる人物に絞られるな・・・。」
図書委員である侑が犯人だと疑われるのは納得だが、侑が犯人である証拠はない。
岡辺が考えていると、菊乃が走ってきた。
「大変だよ、岡辺くん!侑のロッカーから、盗まれた本が見つかったって!」
「え!?」
菊乃の話しによると、職員室に呼び出された侑は先生に尋問されるも、盗んでいないと言い続けた。そこで教室にある侑の机とロッカーを調べると、盗まれた本が一冊見つかったという。
「ねえ、本当に侑が犯人かな?」
菊乃は心配そうに岡辺を見た。
「まだわからない、用務員さんに相談してみるよ。」
「私も行くわ。」
二人は用務員室へと向かった。
この学校の用務員である
岡辺は校舎の一階の左端にある用務員室をたずねた。
「大貫先生、いませんか?」
すると扉が開いて、大貫が現れた。
「岡辺、ひよっとしてあの本の盗難事件か?」
話が早い大貫に、岡辺はこれまでに調べたことを話した。
「なるほど・・・、実は本の盗難について一つ心当たりがある。」
「本当ですか!」
岡辺と菊乃は身を乗り出して言った。
大貫は二人を落ち着かせると、こんな話をした。
「最近夜の見回りをしていると、日口先生を見かけるようになったんだ。」
「日口先生って、図書委員の顧問だよな。」
日口先生先生は長い黒髪の美しい女性の先生で、生徒・先生を問わず人気のある先生だ。
「そこで日口先生に声をかけてみたら、図書室の点検をしていると言った。図書室での最終点検は図書委員の仕事なんだがな・・・。」
「その時間って何時?」
「午後七時頃だ。」
岡辺は大貫の証言に、犯人の可能性を見いだした。
「教えてくれてありがとうございます。」
「おう、またな。」
岡辺と菊乃は用務員室を後にした。
「ねえ、何かわかったの?」
「ああ、まだはっきりとは言えないがな。」
今日の捜査はここまで、続きは明日だ。
翌日、波田間侑は盗難事件の犯人としてみんなから冷たい視線をむけられていた。
「ドロボウ」などとふざけて言う男子もいたが、菊乃がその男子を度々止めてくれた。
岡辺は侑に、図書委員の一日の仕事を教えてもらった。
「まず朝に係の人が図書室のかぎを開けて、二時間めの放課と昼放課に係の人が貸し出しの受付をするの。それで昼放課がおわったら、最後に点検をしてかぎを閉めるの。」
「なるほど、では図書委員の仕事中に不自然な人を見かけなかったか?」
「ないわ・・・」
「そうか、それじゃあこのところ図書委員の間で変わった事件とかないか?」
「変わった事件じゃないけど・・・、図書室の鍵が失くなったことがあったの。その日は私が当番だったから、職員室へ鍵を取りにいったけど、鍵が無かったの。でも鍵は日口先生がすぐに見つけてくれたから大事にはならなかったわ。」
「日口先生がすぐに・・・!?」
岡辺の脳裏に一つの可能性が浮かんだ。
「ありがとう、ちょっと大貫さんの所へいってくる。」
「あっ、ちょっと待ってよ!」
菊乃の呼びかけを無視して、岡辺は用務員室へ向かった。
岡辺がドアを開けると、大貫が現れた。
「大貫さん、犯人がわかったかもしれません。」
「本当か?」
岡辺は大貫に犯人について話した。
「やはりそう思うか・・・、となると現行犯を押さえるしかないようだ。」
「大貫さん、犯人は来ますか?」
「来るだろう、連日来るとこを見ると味を占めたからな。」
その日、岡辺と大貫は犯人捕獲の作戦を企てた。
それから三日後の午後七時五分、図書室の顧問・日口は夜の学校の図書室へやってきた。
手提げ袋を片手に、持っていた鍵で扉を開ける。
明かりはつけずに懐中電灯を片手にすたすたと歩く。
「今日はこの本とこの本と・・・」
そして棚から本を出してカバンに入れた時だった、突然図書室の明かりがついた。
「キャッ!!」
「やっぱり、あなただったんですね・・・。」
図書室の入り口に岡辺と大貫が現れた。
「外部に侵入の痕跡がなかったということは、犯人は図書室の鍵を持つことが許される限られた人物・・・。つまり図書委員の顧問・日口先生、あなたが犯人だ!!」
「なっ・・・、私は図書室の点検に来ただけよ!!本を盗むなんて、そんなことしていないわ!!」
「じゃあ、これを見てください。」
岡辺は一つの鍵を日口を見せた。
「それは、図書室の鍵じゃない」
「そうだ。この鍵は事前に大貫さんが持っていた、つまり今日は盗みに入ることはできないはずだ。つまり図書室に入る事ができたあなたは、この鍵と似た鍵を持っているということだ。」
日口先生はぎくりと顔をこわばらせた。
「数日前、図書室の鍵が職員室から無くなったという事件が起きた。その時にあなたはすぐに鍵を見つけることはできたが、なぜすぐに見つけられたのか・・・?それはあなたが図書室の鍵を持ち出していたからだ、合い鍵を手に入れるためにな。」
「私はその時間にあなたが図書室から出てきたのを目撃している、それにこれを見ろ。」
大貫は自分のスマホの画面を見た、そこにはフリマアプリで出典されている本の写真がスクリーンショットされていた。
「この写真の本は、図書室に置いてあった本だ。犯人の動機が本の転売だと予想し、フリマアプリを調べた結果見つかった。」
「さらにあなたは疑われないように侑さんを犯人に仕立て上げる工作をした。夜中に侑さんのロッカーに盗んだ本の一冊を入れ、そして後は侑さんが犯人だと校長に言いつけば、侑さんのことが調べられ、ロッカーから本が見つかれば侑さんが犯人とされるからな。」
日口は観念してその場にへたりこんだ。
「岡辺、後は私に任せてもう帰りなさい。」
「ありがとうございました、大貫先生。」
岡辺は図書室から去った。
翌日、用務員室に岡辺と侑と菊乃がやってきた。
「大貫さん、ありがとうございました。」
侑は大貫に頭を下げた、大貫は笑いながら言った。
「いいってことよ、もう犯人扱いされることはねえ。」
「それにしても日口先生が犯人だったなんてね・・・、学校中の男子がショックを受けていたわよ。」
あれから日口先生は大貫と校長に促され自ら警察へ自首した。図書室の本を盗んだ動機はやはり転売で、なんとホストクラブへ通うための金が欲しくてやったという。
その後、校長と福平が侑の家に行き謝罪したことで、侑の疑惑は完全に晴れた。
「ホストなんてとこに通っていたなんて、あんなにいい先生だったのに・・・。」
「まあ、人にはそれぞれ裏の顔があるものだ。顔でその人の全てはわからないさ。」
岡辺は静かでありながらも、どこか悲し気に言った。
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