第7話 病みつきになるかもしれません。



 そんなに殿下に「何かしてあげたい」と思っているのなら。

 そして殿下がそれを「嬉しい」と思っているのなら。

 

「ならば、リズリーさんがなされば宜しいではありませんか。私は特に、殿下に対してそういった感情は抱けませんので」


 そう彼女に提案すると、彼女は「えっ」という顔をした。


 ただそれだけで、彼女が口だけの人間だという事が良く分かる。

 そしてそれは、他のメンバーも同じだった。



 結局みんな、面倒な裏方作業や方々との調整なんてしたくないのだ。

 だから面倒そうなものは全て、副会長時代にもいつだって私の所に集まってきていた。

 

 彼等はみんな、楽がしたい。

 だからその為の『面倒事を捨てる場所』必要で、だから私が必要なのだ。


 優しくて可愛いリズリーにそんな物を拾わせる訳にはいかないから、だから今困っているのだ。




 ――そんな人の事を何故、心配などしないといけない。

 ――そんな人に何故手など、貸さなければならない。


 『殿下の婚約者』から解き放たれた今の私は、もうそういう疑問を持つことができる。


「私は既に殿下の婚約者ではありません。ですから殿下を補佐する必要もありません」


 私はずっと、殿下が出来ない部分の穴埋めをするのが自分のすべき事だと思っていた。

 例え1人では国事を背負い切れなくとも、2人で背負えればそれで良い。

 そんな風に思っていた。


 その気持ちは変わらない。

 だからこそ、今それをすべきはリズリーだ。


「リズリーだって、まだ婚約者ではない」


 殿下がこちらを睨みながら言う。


 何だかんだで長い付き合いだ。

 これが、物事が思い通りにいかない時の彼が見せる怒りの前兆だという事は分かっている。



 以前ならば、そこで引き下がっていた。

 しかし今はその必要性を認めない。


「『まだ』でしょう? いずれはそうなる覚悟だから、殿下は私との婚約をあの場で破棄し、リズリーさんの名前を出した。ならば彼女の婚約者としての立場を固める為になるべく早く仕事に従事した方が良いのでは?」

「……彼女にはまだ、公然と『婚約者』と肩書きは使えない。だから生徒会にも籍を置けない」

「籍が無くとも問題無いでしょう? 先程殿下ご自身が仰ったではありませんか。未来の婚約者として『自主的に』仕事をこなせば良いのですよ」


 既に周りには公然と、殿下の婚約者らしく振る舞っているのだし。

 とは、流石に声には出さなかった。


 しかし実際に彼女がそういう振る舞いをしている事は知っている。



 ここまで言うと、彼はグッと押し黙った。

 きっともう、反論できる言葉を思いつかないのだろう。



 しかしそれにしても。


(今まで言えなかった事を今ここで吐き出せて、何だかとてもスッキリしたわ)


 殿下にとっては盛大なブーメランで、さぞかし痛くて歯がゆい事だったろうけど、それは自業自得なので置いておいて、「やっぱり今まで溜め込んでいたのがいけなかったんだなぁ」と思う。


 そして、言いたい事を言った後の爽快さを今正に初めて体験してちょっと病みつきになりそうな自分に、内心で苦笑した。


「では殿下、お話はもう終わったかと存じますので私はこれで下がらせていただきます」


 そう言い置いて、私はその場を去っていく。

 多分今後誰かが仕掛けてきた時は、多分容赦など出来ないだろう。



~~Fin.



――――――

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