三題噺「隻眼」「オデッセイ」「フンボルトペンギン」

村崎 紫

星空を天井に、私は独白を繰り広げる。

オデッセイ、という単語がある。ギリシャの古代叙事詩「オデッセイア」が元となっていて、長い冒険旅行を意味する言葉であり……今私が寝転んでいる車がまさしくその名前を冠している。

 最初は悪趣味ながらもセンスがいいなと思っていた。名前に冒険旅行の意があるのなら、最後に迎えるのは死への道でもいいじゃないかと。思いついた時は面白い皮肉だと手を叩きながら大いに笑って、笑いが引いたら何事もなかったかのようにホームセンターへと車を駆った。

 要するに自殺だ。何事か気取られないように明るい雰囲気を出して練炭と養成テープを買い込んで車の後部座席に放り込んで。テンション自体は上がったままだからこういう雑な扱いをしたんだろうなと思い返しながら、後部座席の足場で中身が燃える七輪を横目に。運転席を倒して寝転がってるものだから、燃える様子がよく見える。

「そろそろ、かぁ……。」

 つい最近までよく遊んでた妹に想いを巡らせる、といえば聞こえはいいが結局は未練だ。事故で帰らぬ者になった妹へ今更になって"こうすれば"だの"あぁすれば"だのと、ドラマや小説ではよくある光景で。

妹は動物が好きで、私が働き出してからはよく連れていった。生まれつき片目が悪く、

「見えづらいならいっそ!」

と、プライベートでは厨二病満載の痛い眼帯をつけて片目生活をしていた。よく連れていく動物園には妹と同じく片目の悪いペンギンがいた、確かフンボルトペンギンと言ったかな、自分と同じだーなんて笑ってペンギンに手を振る妹の姿を想起する。先天性の己の病害にネガティブな感情を抱えず、多数の友達に恵まれて、成長し続けても私に懐いてた。アニメや漫画のキャラみたいと同時に、群れの中での争いを避けて友好を築くフンボルトペンギンとやらの生態に、大層似ていたようにも思う。

「流石に限界か。」

 苦しさが増して、たまたま言った独り言があまりに掠れてて息も絶え絶えとはこんな感じなんだな、という気持ちになる。

身を捩らせる、つられて車内も軽く揺れ、少しずつ車の揺れは増す。


今から、そっちにいくね。


妹の最後のプレゼントのペンギンのぬいぐるみを、力強く抱きしめた。

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