第3話 私と貴方は誰よりお似合い



「先輩。コレ、午後一の会議の資料です」

「んー」


 おいなりさんを噛み切ってカップに戻し、「ありがとう」と言って受け取る。


「っていうか君、相変わらず真面目だねぇー。昼休み、いわば休憩時間だっていうのに、わざわざ仕事の用事だなんて」

「いや、ははっ」


 そんな風に言葉を向けると、彼はもしかして照れたのだろうか。

 空笑いというか、誤魔化すように笑ってきた。


 そして取って付けた様に聞く。


「ところで先輩、いつもそのカップ麺ですよね」

「あ、気付いてた?」

「勿論ですよ。いつもその赤いうどんで、いつも黙々と美味しそうに食べてるから」

「えー、何ソレ恥ずかしいなぁー」


 そんなに分かり易かったか。

 そんな風に思っていると、彼は「あの」と聞いてくる。


「先輩は昼休み、外食とか行かないんですか……?」

「んー、行かないねぇー」

「きつねうどん以外に好きな物は?」

「うーん、何だろ。割と何でも食べるけど……」


 このカップ麺が特別好きなだけで、別に嫌いや苦手な食べ物は無い。

 

 そう答えると、彼は「そうですか……」と言って苦笑した。

 何でだろう。

 ちょっと残念がっているような気がしなくも無い。


「……明日は俺も、赤いきつねにしようかな」

「おぉっ!」


 彼の声に、私は大いに喜んだ。

 自分の好きな物を誰かと共有できる幸せは、何物にも代えがたい。


「じゃぁさ、明日はあっちのミーティングスペースで一緒に食べよう! 赤いきつね談義しよう!」


 嬉しい彼の提案に、私はテンションが上がって思わずそんな提案をする。

 指さしたのはオープンになっているミーティングスペースで、使っていなくて後片づけさえちゃんとすれば、誰が使っても問題ない。


 ズイッと身を乗り出してしたその提案に、彼はちょっと驚いたような顔になった。

 私が寄った分だけ仰け反ったので「もしかして、ちょっと迷惑だったかもしれない」と思い直す。


 しかし彼は、思いの外嫌そうにはしていなくって。


「分かりました。じゃぁ明日、一緒に」

「うん、そうしよう」

「……絶対、ですよ?」

「? うん、分かった」


 こんなに念押ししてくるって事は、もしかしたら彼も実は赤いきつねファンであり、誰かと談義をしたかったのかも。

 そう思えば、もう既に明日が楽しみになる。



 お昼の仕事も、それから明日の午前中の仕事も、いつも以上に頑張れそうだ。


 そう思った私はまさか、この時から数えて6回目の赤いきつね座談会の時に私個人への熱い思いを伝えられるなどとは、まさか思っていなかった。

 そして何より結婚式で着るお色直し用のドレスを「『赤いきつね』にあやかって、やっぱり赤にしてみる?」なんて話をするとも、それが現実になるなんて事も全く予想していなかった。


「皆さん、驚きますかね? 引き出物に赤いきつねが入ってるのを見たら」

「間違いなく驚くでしょう。だってそんなご夫婦の方、20年ブライダルプランナーしてきて今回初めてお会いしましたし」


 ベテランの係の人と、二人して顔を見合わせて笑う。

 


 因みに再入場の直前、隣に立つ白いタキシードを着た彼は、私にだけ聞こえる声でちゃんとこう耳打ちしてくれた。


「似合ってますよ、『きつね』とお揃いの赤」


 そんな彼にこう返す。


「『きつね』のパッケージにいつも寄り添う白が隣にいるんだから、これ以上ないくらいに完璧よ!」



~~Fin.

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