第2話 消しゴムアタック犠牲者の彼
会社の昼休み。
私は今日も温かく食べれて即席的で、ツルッと行けちゃうアレを食べる。
そう、この赤いきつねを。
なに、別に本当のきつねではない。
カップうどん・赤いきつねを、だ。
給湯室で沸かされたお湯を入れ、5分間。
それできつねうどんが出来てしまうんだから、カップ麺というものは素晴らしい。
料理がそれほど上手くなく、手間もかかるし洗い物も増えてしまうお弁当より、こっちの方がよほど美味しい。
もちろん選択肢は他にもある。
毎朝出向先の会社の一階に併設されているコンビニで買うのだが、給湯室には電子レンジだってあるんだから別に弁当やおにぎりでも良いのである。
熱い麵物が食べたいんなら他にも色々あったりもする。
それなのに、いつもこの赤いうどんを選んでしまうのはどうしてだろう。
……否、たぶん分かってる。
“安定して美味しい”。
“間違いなく美味しい”。
あと、“あの甘くて汁を良く吸うお揚げがいい”。
結局のところずっと変わらぬ味付けと具とパッケージ。
その安心感が決め手である事は、多分きっと間違いない。
お湯を入れたカップを持って、すれ違う同僚に笑顔で会釈の挨拶をしながら席に戻る。
席に腰を掛けいつものようにスマホを弄る。
すると今日も、先を折っていただけの蓋が挑戦的にピヨッと開いた。
挑戦的なやつめ、コノヤロウ。
平井がそれをもう一度閉め、先っぽをよく折って固定し直してからまたスマホ弄りを再開する。
と、視界の端でまた蓋が開いた。
コノヤロウ。
ここまで来ると「それなら何か上に乗せればいいんでは?」と思うかもしれない。
が、それは私にとっては鬼門だ。
というのも、前に消しゴムを乗せたら蓋が開くのと一緒に飛んで行って後輩を攻撃してしまったし、「これなら間違いない」と思って文鎮みたいな置物を置いたら、なんと、蓋ごとうどんにドボンした。
冗談だろ、と思うなかれ。
だってあの時の虚しさったら無かったのだから。
気に入ってた置き物だったし、大切な昼ご飯だったのだ。
まぁ結局、置物は洗って事なきを得たし、うどんは普通に食べたわけだが。
そういう訳で、最も軽いものと最も重いものを重しにして失敗した私は、その間の何かで検証する事はしなかった。
その代わり、途中からは左手を蓋の上にペタンと置いて、両手フル活用であと1分になった待ち時間の残りを過ごす。
5分経って早々にペリペリと蓋を開けていくとふんわりと、昆布や鰹節のだしの香りが鼻の裏の食欲を刺激してきた。
あぁ今日ももう、それだけで十分美味しい。
蓋を全部、綺麗に容器から取り払い。
そうして完全に容器から離れた蓋を私はまず二つに折り、また二つに折り、もう一度二つに折り。
きっちり扇形にしてから、テーブルに置き箸を握った。
うーん、美味しい。
ツルツルッとうどんを食べて、誰に言うでもない感想を心の中で密かに唱える。
この平麺がとても良い、好き、むしろもう愛してる。
このおいなりさんも……うん美味しい。
やっぱり美味しい、ほら見ろ美味しい。
「あのー、先輩?」
「うん?」
もう一口と加えたおいなりさんをそのままに声の方を振り向くと、すぐ隣に立っていた後輩が苦笑した。
彼が、前に消しゴムの犠牲者だ。
因みにだが、ゴメンね代わりにお菓子をあげて以降彼とは、ちょっと仲良くなれた気がする。
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