無題⑥(描写練習)

 暗い暗い森の底で、色濃く染まった紅葉がざわめく。木々の織り成す深闇に、ぼんやりと揺れる個々の木の影。

 天の隙間から微かに零れた寂光が、細糸のように真っ直ぐ伸びて、葉に触れ、木に触れ、森の袂に色を落とした。それから光は、葉の裏に溜まった闇を連れて地面に降りて、丸く木漏れ日を象った。

 手を差し出して、掌上に木漏れ日を掬いとる。影は冷たく、光は温い。陰陽が生んだ温度差は掌で踊って肌をくすぐった。

 降り来る光に赤い薄紙の傘を透かすと、赤い紅葉が見えなくなった。

 ふと森と土の間をすり抜けてきた風が、柔らかに、清々しく香る。そっと袖を揺らしていったそよ風は、また森の中に消えていく。去り際ざわりと歌ってみせた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

短文供養塔 しうしう @kamefukurou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ