しらす
しらすを愛してやまない。ふっくらと炊き上げた程好い塩味のしらすと熱々のごはんがあれば、他におかずはいらない。
カルシウムもたっぷり。時々混じっている小さな海老や蛸を探すのも楽しい。得した気分になる。
摘まみ上げて繁々と観察すると、黒っぽい蛸のような小さな干からびた生き物。しかし蛸と決定的に違うのは、手足含めて4本ほど足りない事だ。つまりは手2本、足2本。禿頭の棒人間のような……。
「さすがにこれは食べられない…」
そっと取り除いてティッシュの上に乗せ、後で廃棄しようと思い卓袱台の端に置いた。
―あ…
「すう、食べちゃダメだよ」
―あ、あ…
「ちゃんとしらすあげるから」
すうの分もしらすを小鉢に分けて、御飯と一緒に台の端に置いた。いくらすうが食いしん坊でも、あんな得体のしれないものを食べないだろうと私は思っていた。
食事を終えて食器を片付けようと思い、卓袱台の端を見ると、空の茶碗と小鉢。毎度の事ながら何時の間に食べたのだと不思議に思う。
しかし、それと同時にティッシュの上の黒い物体がない事にも気付いて慌てた。
「すう!?あれ食べたの」
―しらない…
―しらない…
―にげた…
「逃げた!?」
あの状態で生きていたと言うのか…。私はゴキブリでも探す気持ちで部屋のあちこちを目で辿ったが、あの黒い棒人間は何処にも見当たらなかった。
諦めて食器を流しに入れて洗っていると、満腹でご機嫌になったらしいすうが、歌い踊りながら周辺を漂っている気配がした。
―しらす…しらす…にげた…しらす…
―しらす…にげた……うみぼうず…
すう 鳥尾巻 @toriokan
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