第12話 第1回公式イベント 2日目(後編)
「魔王の使い⋯⋯だと?」
「腕6本ありそう」
「そうじゃねえ。しかもそれは怒られる」
「君ら緊張感とか無いのか!?」
何それ、食べられるの?(ショゴス脳)
「ニャ⋯⋯ノーフェイス君さ、何しに来たの?」
「⋯⋯顔見せ?」
「それ、最終日で良かったんじゃない?」
「あとは⋯⋯時間稼ぎかな?」
『えっ?』
時計を見る。13時50分。
時計から目を戻した時には、もうニャルラトホテプは消えていた。ブラフだったか⋯⋯。
「それにしても、2時間近くかかってたんだな」
「それな」
「あと、2日目の1ウェーブ目でムンビって中々ハードね」
2ウェーブ目何が来るの? もう怖いんだけど。
とりあえず、美味しくない携帯食糧と水で満腹度と水分値を回復。少しだけログアウトして、ペットと眷属に餌を与える。
⋯⋯最近、食が細くなってきたわね。そろそろ寿命なのかしら? 人狼とはいえ、出来損ないのシベリアン・ハスキータイプだし、30年はよく生きた方かしら⋯⋯?
それはそれとしてログイン。
「ただいま」
「おかえりー」
「今どんな感じ?」
「2ウェーブ目がどうなるかわかんないから、とりあえず柵とかの補強だけやってるな」
「⋯⋯ないよりはマシよね」
「むしろ、柵で対策できない生物とかどうしたら良いんだよ⋯⋯」
それが神話生物っていう超常の存在なのよ。こちらの常識なんて知らんと言わんばかりに、私達の正気を削ってくる生物学に反した存在なの。
⋯⋯まあ、私は使役する側なんだけどね?
「あと10分で始まるぞ〜」
「さあ、始まるザマスよ!」
「行くでがんす!」
「ふんがー!」
「まともに始めなさいよ!」
「「「「いぇーい!」」」」
やりたかっただけなんだろうな⋯⋯。
私もやりたかった。
「あれはなんだっ!?」
「鳥か、飛行機か!?」
「いや、⋯⋯なんだアレ?」
それは、飛行する鳥のような生物だった。羽毛の代わりにウロコが生え、霜と硝石にまみれた翼を持ち、馬のような頭部とトカゲに似た尻尾を持っている。
数は人数と同じくらい。大きさは⋯⋯私が知る限りで最大に達するだろうか。頭から尻尾まで4mくらい。翼を含めると幅は6mを超えているだろう。
こんなところで最大金冠シャンタク鳥の群れとか出さなくていいんですけど⋯⋯?
「シャンタク鳥⋯⋯このタイミングで出てくるなんて⋯⋯」
「知っているのか聖女様」
「ええ、あれは⋯⋯この世界における神々の奉仕者の乗用馬よ」
「えぇ⋯⋯?」
「馬⋯⋯まあ、馬面だが⋯⋯」
「ちなみに機動力と持久力は人間と同程度しかないわ」
『それが乗用馬って嘘だろ!?』
ところがどっこい、真実です。
まあ、再生能力はない代わりに頑丈な皮膚があるから⋯⋯ムンビより苦戦するでしょうね。
私が倒し続けるのもよくないと思うし。
「じゃ、頑張って!」
「ああ、クソっ! 遠距離攻撃出来るやつはどんどん撃て!」
無駄に高いSTRを活かしてシャンタク鳥の上に跳び上がり、八艘飛びのように足場にして最後方へ向かう。
当然足蹴にされたシャンタク鳥が噛み付いてくるけど、棒高跳びの棒のようにロンギヌス・インペルフを使い距離をとる。
「悪いけど、私の為に死ねっ!」
シャンタク鳥の頑健なウロコで勢いが弱まるけど、弱まるだけで刺さらないわけじゃない。
翼の付け根を狙って突き刺した槍は、狙い通りにシャンタク鳥の羽ばたきを邪魔して墜落させる。高さはそこそこ。ダメージが入るほどじゃないけど、私が槍を離さなければその分運動エネルギーで槍が深く突き刺さる。
あっヤバい⋯⋯抜けない。
「プラン変更! やっぱり肉体こそ至高の武器!」
握ったこぶしを変質させ、人間の柔らかさからムーンビーストの槍の硬さへ。
現状、このゲームにおいて最も硬い物質はムーンビーストの槍。何で出来てるかは知らないけど、へファ曰く鉄等の並の金属より硬いらしい。しかも加熱すると変形する点から、人間の知らない道の金属である可能性が高いとのこと。
「その身に刻みなさい、鼓動のビートを!」
ドパパパパパッッともはや殴る音じゃない乾いた音が響き、シャンタク鳥が絶命する。消える前に捕食吸収しないと。
「やっぱ聖女様イカれてるわ」
「波〇使いだったか⋯⋯」
「波〇使いなら仕方ないな」
「聖女様リ〇リサ先生説あると思います」
「サボってねえで集中しろ!」
「みんながんばえ〜(笑)」
(((いつもなら嬉しいと思うのに、今言われるとすごい腹が立つ⋯⋯!)))
とりあえず、服に隠れてるところはウロコを生やして防御力を上げておこう。
私以外のプレイヤーは、攻撃に合わせてカウンターをしているっぽい。まあ、普通の弓矢じゃ上手く刺さらなそうだしね⋯⋯。
そうして見ていると、何人かエフェクトをまき散らして消えていくのが目に入る。仕方ない、もう2、3匹(羽? 体?)倒してあげよう。歩いてゆっくりと近づき、跳躍して後頭部に槍をバックスタブ!
「首か頭を狙いなさい! 切り落とせる奴は切り落とせるはずよ!」
「ああ、クソっ! 俺たちはまたおんぶに抱っこかよ!」
「聖女様だけ異次元すぎん? つーか、聖女様居ないと勝てないって難易度設定ミスってね?」
多分、難易度はその場にいる戦力の平均で決まるんじゃないかしら。⋯⋯つまり、ここまで難しいのは私のせいね。
そう思うと罪悪感が湧いてくる。もう少しキルスコア増やしても大丈夫かしら? 大丈夫でしょう。知らんけど。
擬態と変質を使って、もう何羽かのシャンタク鳥の命を奪う。せめてもの罪滅ぼしよ⋯⋯だから、面倒な難癖をつけるのはやめて欲しい。この難易度もきっと私のせいなんだ⋯⋯多分。
「首置いてけぇ!」
「その翼貰ったぁ!」
「チェスト関ヶ原!」
「良チェストでごわす。こや目当てのシャンタク鳥じゃ」
「島津しかいないのか? ここには戦闘民族しかいないのか?」
薩摩あたりも混じってるかもしれない。
「聖女様強すぎんよ〜」
「まあ、聖女様だし⋯⋯」
「聖女様だからな⋯⋯」
「聖女様に許可とってWikiでも作るか?」
「武勇伝とか伝説が眉唾すぎてアンチコメめっちゃ出そう」
「「それな!」」
私のWiki⋯⋯信者増えるかしら? まあいいや。とりあえず、最後の1羽を槍で殺す。時間は⋯⋯16時52分。2時間近くかかってるわね。
ポーションの使用頻度も高いみたいだし、次のウェーブまでにポーション作って配った方がいいかもしれない。
「へファ、ポーションの使用状況ってわかる?」
「ポーション⋯⋯ですか。そうですね、少なくとも1人5本はもう使ってると思います。それでも足りない人は死に戻りしてますし」
「やっぱり? じゃあ、ポーションの生産はした方が良さそうね」
「⋯⋯錬金か薬学の技能持ってたんですか?」
「錬金よ」
「生産系は持ってないと思ってました⋯⋯」
「これも全部殴殺の聖女とかいうふざけた二つ名が悪い」
最近槍使ってるから殴ってな⋯⋯いや、殴ったわね。槍抜けなくなって殴ってたわ。殴殺の2文字に胸を張って誇れるほどの良い拳が入った記憶がある。
若干落ち込みつつ、街で瓶や回復ポーションの素材を買い集めていく。そしたら、あとはMPが無くなるまで錬金。錬金して錬金した物を錬金錬金。
回復ポーション同士って錬金出来ないのかしら? やってみましょう。
そして、出来たものがこちらになります。
─────────────
2倍濃縮回復ポーション
レア:一般級
種別:ポーション
効果:通常のポーションの2倍回復するが、味も倍になっている。
─────────────
はい、センブリ茶と同レベルの薬液が完成しました。飲んでみると⋯⋯吐き出したくなる苦味、咳き込みたくなる青臭さ、捨てたくなるエグ味に襲われ、バッドステータス:味覚麻痺が付いた。
これは最早経口毒の類だわ。二度とやらない。
「イベントは終わっていない! 貴方達の欲深き理想は、決して絶やしてはならない! イベント勝利の意思は、常に私達と共にある! ポーションの配布をするわ。皆、私の元に集え!」
「ポーションだ!」
「聖女様のお手製!」
「そうだ、イベントの勝利は我々にあるっ!」
やっぱり、中々古いネタを知っているわね⋯⋯。オタクってそういうものなのかしら?
気持ちはわからなくもないけど。
「はい、1人5本ね」
「ありがとうございます!」
「握手券とかは付いてないからね」
「ありがとうございます!」
「後ろつっかえてんだよ! 早くしろよ!」
「うるさいなぁ、ぶっ殺すよ?」
うるさい輩は大地の養分にしちゃいましょうね。はい、お命しまっちゃおうね〜^^*。
輩を1人始末したら、気に食わなそうな顔をしていた人達はみんな顔を青くして散っていった。やはり暴力⋯⋯暴力は全てを解決する。
「返答待たずに殺したよ⋯⋯」
「まあ、自業自得じゃないか?」
「喧嘩売る相手が悪すぎるよな⋯⋯」
その後は滞りなくポーションを配り終え、難癖をつけてきた輩はどこかに行ってしまった。
3ウェーブ目まで残り5分。何をしようか⋯⋯?
「今回のイベントはこの待ち時間が暇すぎる」
「それな」
「何が来るかわからんから対策もできん」
「それな」
「みんな武器清めた?」
『清められる武器がない』
「まぁ、昨日の今日だもんね⋯⋯」
残り10秒⋯⋯カウントダウンでもしようかと思った時、突然地面が揺れだした。
立っていられないほどでは無いものの、気を抜いていたものは例外なく転んでしまうほどの揺れ。
18時ピッタリ。赤い角の丸い三角の真ん中にビックリマークの入ったシステムウィンドウと共に機械的な警告音がWARNINGと鳴り響く。そして、警告音と地面の揺れとともに地中から顔を出したのは、巨大なミミズのような、イモムシのような姿をした超大型の蠕虫だった。
その口は家を数棟丸々飲み込めそうな大きさで、634mの電波塔も丸呑み出来そうな程。
端的に言って、ドールと呼ばれる超大型の蠕虫型神話生物だった。
『で、デケェぇぇぇ!?』
『IRREGULAR RAID ENEMY:Gigantic Dhole The Over Eater』
『警告。非常に危険です。正常な者は直ちに避難し、命知らずな異常者は好きにしてください』
『警告。もし街が破壊された場合、リスポーン地点が消滅し、ランダムな地点にリスポーンが行われるため、正常なゲームプレイが困難になります』
つまり、戦うしか選択肢はないってわけ。
いやぁ、それにしてもこれは⋯⋯まともに戦ったら確実に負けるわね。ショゴスロードとか人間とかそういう次元じゃない。私でも、下手すれば地面のシミにされかねない。
全長は見えないけど、多分こいつはこれでも成体じゃない。おそらく、亜成体かそこら辺のはず。
「多少傷つけても無駄、それなら⋯⋯飛びながら攻撃し続けるまで!」
「今こそ生産組の力を見せるときです! みんな、アレを使いますよ!」
「おお、アレか!」
「待ってたよ! この瞬間を!」
「最早ロマンの類だからな⋯⋯」
へファを筆頭とした生産組は何かを作っていたらしい。まさか⋯⋯爆弾かしら?
銃が出来るなら爆薬も作れそうだし、意外と可能性はあるかもしれない。
「これこそ、実用性とロマンを追求して作り上げた我々生産組の汗と涙の結晶! クラスターボムランチャーです!」
「オスロ条約違反じゃねえか!?」
「照準合わせ! 目標、レイドエネミーの口腔内です!」
「ちなみに命中率と耐久性は?」
「命中率は照準係次第、耐久性は使い捨てです!」
「おいおい、本当にロマン兵器じゃねえか⋯⋯」
つまり、私は気を引いて口を向けさせれば言い訳だな⋯⋯? 理解した。私が全力で囮役を買って出よう、これは肉体の保護を詠唱するべきだわ。
先程からチクチクと攻撃しているおかげで、ヘイトは常に私向き。ツバを飛ばしてきたり、飲み込もうとしてきたりと私にばかり構っているから、やることはもう簡単だろう。
「準備出来たら合図よろしく!」
「任せてください!」
「発射準備完了! 後は照準とタイミングだけです!」
「セカトさん! こちらへ!」
「了解!」
ドールの動きを予測し、発射台に対して直線となるように全力で飛ぶ。
こういう時は掛け声でもするべきでしょう。どうせやるなら、全力で!
「
「ここでネタに走る辺りが聖女様なんだよな」
「どうやってんのか知らねえけど、青白く光りながら突っ込んでくるの手が込んでて好き」
「よくわかんねえけど、多分炎色反応か何かじゃね?」
「燃えるほど速く飛んでんの草」
「照準良し! 砲身は根性で固定!」
「お前にふさわしい最後は決まった!」
「狙い撃つぜ!」
引き金が引かれ、炎を吹き出しながら大量の爆弾に囲まれた爆弾を内包したロケットが飛ぶ。⋯⋯というか、飛んでくる。
そんな危険物をバレルロールしながらスレスレで回避し、進行方向を上空へ。
それを追って上空へと頭を向けるドール。丁度そのタイミングで、その口から爆炎が吹き出す。
「燃えろ! 召喚獣、フェニックス!」
面白そうだから全身をシャンタク鳥とその他の鳥をまぜこぜにした擬態で鳥型に変化し、爆炎を捕食吸収で捕食できないかと試みる。出来なかった。
せめて雰囲気が出るほうがいいだろうと思い、表面を枯れた杉の葉に変化させる。爆炎で燃え始め、私は全身で炎を纏いながら飛ぶ鳥となった。めちゃくちゃ熱い。ショゴスじゃなければ燃え尽きていただろうと思える火力だ。
「熱っっっっっつい! 私じゃなければ焼け死ぬわ!」
「最初から最後まで、演出に凝りましたね⋯⋯」
「めちゃくちゃ楽しかったわ!」
「聖女様はノリに乗ってくれるから大好き」
「ロマンって、大切よね⋯⋯」
「聖女様⋯⋯大好きです付き合ってください!」
「無理」
「知ってた」
『Congratulation!』
『第1回公式イベント2日目のボス『過食な巨大ドール』が討伐されました!』
『第1回公式イベント2日目の防衛に成功しました!』
『称号獲得【第1回公式イベント2日目MVP】【召喚獣(笑)】【ノリに生きる】』
『討伐報酬
・ドールの肉×497』
『防衛成功報酬
・100,000Dm
・魔導書『ドール讃歌』
・ムーンビーストの槍×82
・ムーンビーストの触手×122
・ムーンビーストの骨×201
・ムーンビーストの皮×6
・ムーンビーストの肉×12
・シャンタク鳥のウロコ×84
・シャンタク鳥の翼膜×8
・シャンタク鳥の肉×151
・シャンタク鳥の骨×327
・シャンタク鳥の歯×14
・シャンタク鳥の爪×25』
『MVP報酬
・溶けて混ざりあった神話生物だった物』
MVP報酬は後でショゴス培養槽に突っ込もう。あと、神話生物の肉は本当にどうしたらいいのか教えて欲しい。ショゴスの餌か? 野生の神話生物に餌付けでもしてテイムでもすればええんか?
とりあえず、後で美味しい味付けを探ってみよう。
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