第13話 第1回公式イベント 最終日(前編)

 昨日は楽しい楽しい焼肉パーティー(神話生物肉)だった。

 今度何かのタイミングで、眷属と一緒に現実でも食べてみよう。海産物系は食べたことあるけど、他はショゴスくらいしかないし。

 昨日よりも早い8時ちょっと過ぎにログイン。

 とりあえず満腹度と水分値を回復。方法? 昨日の焼肉パーティーの残り物だよ。ムンビの触手の串焼き(塩味)と焼きシャンタク鳥串。水分は教会の井戸水。

 今日のお供え物は〜ジャジャン! 『ムンビとシャンタクの合い挽きハンバーグ ショゴスソースを添えて』


「バースト様、昨日〆た新鮮なムンビとシャンタクのハンバーグです」

『臭みもありませんし、思ったよりしっとりしていて美味しいです。神話生物を食料にしようとする、日本人の食への探求には驚かされます』

「エヘへ⋯⋯」


 いくらバースト様が猫だとしても、うみみゃあは関係ない。(通じにくいネタ)

 さて、ショゴスの様子はどうかな?

 私の細胞取り込んでるし、確率的にはロードになる可能性もあると思うんだけど。


『残り時間 01:55:56』


 あと2時間弱。培養槽の中では、深い緑色をした髪の私に似た少女が目を閉じ、胸の前で手を組んだ状態で浮かんでいた。

 そう来たか⋯⋯。そう来たか⋯⋯!

 なるほど、私という要素をそういう形で取り込んだのか⋯⋯。ちょっと、これは予想外というかなんというか⋯⋯読めなかった。この百合のセカトの目をもってしても!!

 服用意してないや⋯⋯自切でいいかな? 初期服を捕食吸収で取り込んで、シャンタク鳥のウロコ、ムーンビーストの皮、黒い仔山羊の肉体の特性を盛り込めば⋯⋯出来た。

 自切して切り離したら、ちゃんとアイテムとして機能するらしい。


─────────────

名称未設定

レア:異物

種別:上半身装備

効果:自動修復、防物理、防炎、防電、防弾、ダメージ軽減

─────────────


 なんか凄いのができた。STRとCONが少し減ったけど凄いのができた。名前は⋯⋯母の愛(上)でいいかな? 見た目は無地の長袖Tシャツ(薄灰色)なのに、能力が下手な鎧より強い。

 大量にあるシャンタク鳥のウロコとムーンビーストの皮、黒い仔山羊の触手を捕食吸収で取り込んで、今度は長ズボンを作って自切。


─────────────

母の愛(下)

レア:異物

種別:下半身装備

効果:自動修復、防物理、防炎、防電、防弾、ダメージ軽減

─────────────


 ついでだし、他の装備も作ってあげよう。靴は外側にムンビの槍とか骨とかも混ぜて硬く、内側にはウサギの毛皮を付けて履き心地良く。頭は⋯⋯ちょっと現状じゃ作れない。捕食吸収で保存してある素材データが不足し過ぎている。

 武器は⋯⋯あ、なんかよくわからない骨拾ってたわね。チュートリアルで。

 インベントリから何か確認できるかしら?


─────────────

猟犬のお気に入り玩具

レア:遺物

種別:アーティファクト

効果:空に投げると、ティンダロスの猟犬を1度だけ召喚できる。

─────────────


 要らんわ。

 投げナイフにするくらいしか使い道を思いつかない。というか、チュートリアルエリアに埋めておかないでよこんな危険物!

 よく見たら母の愛シリーズのレア度が遺物じゃなくて異物だし。確かに異物だけどさ。

 ユニーク扱いじゃないのは簡単に作り出せるからってこと?

 さて、あとどれ位で終わるのかしら?


『残り時間 00:05:38』


 思ったより服を作るのに時間がかかったわね。装甲とか銃撃ダメージの最小化とか、そういうのをいいとこ取りするのが一番時間かかった。


『残り時間 00:00:00』

『培養液を除去します。完了しました』

『培養槽の展開。完了しました』

『機能を停止します』

「⋯⋯」


 少女が培養槽から降り立ち、無言で歩いてくる。

 その姿はどこか神秘的で、場所が場所なら神話の一節にすら数えられそうな程。

 しまった、下着を用意していない。後で一緒に買いに行こう。


「おはよう、私の愛しい娘」

「⋯⋯」


 顔を向けては来るものの、返事がない。発声の方法が分からないのかしら? 発声は本能で可能なはずなのだけど⋯⋯。ロードじゃないショゴスだって、テケリ・リって鳴いてるし。


「とりあえず、お着替えしましょうか」

「⋯⋯」


 無言の少女に服を着せ、抱き上げる。もしかしたら、まだ意思を示すという行為が学習できてないのかもしれない。一応、服を着る時にバンザイをしたり、足を上げたりしていたから、何も出来ないという訳ではなさそう。


「とりあえず名前をつけないとね」

「⋯⋯」


 名前は特に考えてなかった。実際、こんな可愛らしい少女が生まれるとは思ってなかったから。

 我が子の名前は悩む。流石に神たる私と言えど、レズビアンな上に強姦されるほど弱くもないため、出産経験なんて無い。妊娠した経験もない。男性経験すら無い。

 自分の名前だって、下の名前がうさぎだから古代エジプト語にしてセカトという安直な名前だし。

 いっその事、うさぎ頭の神でウェネト⋯⋯いや、それはダメな気がする。どうしよう、全く思いつかない。そうだ、半分私だし神名のもう片方『リーリウム』がラテン語で百合だから⋯⋯そのまま百合でリリィにしよう。


「命名、リリィ」

「⋯⋯!」

『称号獲得【命名者】【使役者】』

『初めて奉仕者及び血縁者を手に入れたプレイヤーが現れました! 奉仕者は様々な手段で手に入れることが可能です。反逆されないよう人道的に扱ってあげましょう』

『称号獲得【使役の先駆者】』

「よろしくお願いします、お母様」


 命名する必要があったのね。それはわからなかった。


「よろしくね、リリィ。まずは貴方の特殊能力を教えてくれる?」

「はい。私はお母様と同じ擬態、変質、捕食吸収、自切、密度変化、自己再生が行えますが、どれもお母様の劣化にしかなりません。お時間が頂ければ解決できると思われます」

「なるほどね。じゃあ、次はステータスを教えて」

「かしこまりました」


 そう言って表示されたのは、システムウィンドウだった。奉仕者もシステムウィンドウ開けるんだ。


『名前:リリィ 種族:ショゴス・ロード

STR :50 CON:32 POW:10 DEX:10 APP:18 INT:10』


 私よりステータス高ーい。娘に負けてるー。

 ウソでしょ⋯⋯。技能値によっては、私より強くなるじゃないこの子⋯⋯。

 くっ、これが種族間の格差⋯⋯!(同種)

 打ちひしがれていると、あと10分で正午という時間だった。娘と過ごす時間というのはこんなにも早く過ぎるものなのか⋯⋯!

 激戦が予想される3日目の戦場にリリィを連れて行っていいものか⋯⋯。


「⋯⋯下手なプレイヤーより強いわよね。リリィ、行くわよ」

「はい、お母様」


 リリィを抱き抱え、北門に行くとざわめきが起こる。そら(髪色以外そっくりな娘を抱えてたら)そう(なる)よ。

 オマケに装備だって少し色が違うだけの初期装備で、武器らしいものを何も持っていないし。


「紹介するわ。私の娘で奉仕者のリリィよ」

「リリィと申します」

『な、なんだってーーー!!』

「まあ、でもそんな気はしてた」

「最近さ、ワールドアナウンスが鳴る度に聖女様の仕業なんじゃないかって考えるようになったんだ」

「ワールドアナウンスのほとんどが聖女様だし、実際に間違いではない」


 私のことをなんだと思ってるんだ⋯⋯。

 確かに北の森も私だし、種族変化も私、信仰の復活も私、ユニークアイテムも私、今回の件も私だから⋯⋯あれ? 少なくとも過半数は私の仕業だわ。

 これは何も言い返せない。言い返せなくても仕方ない。事実なんだもん。


「流石はお母様です」

「さすおか」

「ロンギヌスの糧になりたいようね」

「許し」


 1人のバカが死に戻ってしまいました。襲撃前だと言うのに、悲しいことです。


「で、ちゃんと説明はしてもらえるんだろ?」

「もちろん。まぁ、簡単な話⋯⋯私の1部を使って培養したショゴスよ」

「ショゴ⋯⋯え?」

「リリィたんが、ショゴス⋯⋯?」

「あれ? ってことはつまり⋯⋯」

「下手なプレイヤーより強いわ」

『【悲報】俺ら生後1日未満の幼女より弱い』

「ぅゎょぅι"ょっょぃ」

「もうこの親子だけでいいんじゃないかな」

「親が親なら子も子か⋯⋯」

「リリィ、1人残らず打首にしてやりなさい」

「はい、お母様」

『やめろぉ!?』


 そうこうして戯れ(死者数名)ていると、昨日の最終ウェーブの時のように警告音と共に警告表示が現れた。


『WARNING! WARNING!』

『警告。非常に危険です。正常な者は直ちに避難し、命知らずな異常者は好きにしてください』

『警告。もし街が破壊された場合、リスポーン地点が消滅し、ランダムな地点にリスポーンが行われるため、正常なゲームプレイが困難になります』

『警告。現在のプレイヤー側の戦力では、勝率が10%を下回っています。早急の避難を推奨します』

『警告。プレイヤー側の勝ち目は10%未満です。戦闘は推奨できません』


 地響きが鳴り、ドールの開けた穴の底から、悪臭を放つ玉虫色の粘性体が染み出してくる。

 それはあまりに大きく、少なくとも昨日のドールと同じかそれ以上はあった。オマケに、ほんの少し透けた体からは、脳だと思われる器官がうっすらと見えている。

 ──すなわち、それは並のショゴスではなくロードである事を示していた。


『RAID BOSS ENEMY:Shoggoth Lord The Avenger Leader』


 なるほど、今回のバックストーリーは⋯⋯何らかの実験施設から、このショゴス・ロードに率いられた神話生物達が脱走した感じ? そして、それをニャルちゃんが誘導したと。昨日のドールは、大規模な神話生物達の移動を察知したドールが、餌だと思って食べたら異常成長したってところかしら?

 いやー、ちょっとこれだけ言わせてもらっていいかな⋯⋯?


「こんなん研究対象にするとか、ないわー⋯⋯」

「総体積どのくらいだ、アレ⋯⋯」

「円柱とみなして、底面×高さだから⋯⋯高さいくつだ?」

「ちょっと待ってろ、えっと⋯⋯距離は約1km、俺の腕の長さと指の割合で概算して⋯⋯三平方の定理的に700mくらいか?」

「底面を昨日のボスと同じくらいとしたら⋯⋯体積は約2,580,000㎥か?」

「平均身長の男性何人分?」

「えっと、人間が約70リットルだから⋯⋯約3700人分か」

『デカすぎんだろ⋯⋯』


 この間、約30秒。どうやら理系がそこそこいるらしい。

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