第14話 第1回公式イベント 最終日(後編)

 はてさて、私たちはこの超巨大ショゴスロードをどう対処すれば良いのでしょうね⋯⋯?

 勝率10%未満ってことは、0%では無いってことよね? つまり、勝てる可能性も無くはない。無くはないと言うだけで、常に最善の行動をしても勝てない可能性の方が高そうだけど。


「推定STRいくつかなぁ⋯⋯あれ。三桁とかそういう次元じゃない?」

「未だに明確な動きを見せてないのがせめてもの救いか?」

「多分、秒速1m未満で動き続けてますよ。よく見たら、さっきより近くなってます」

「正直、私とお母様が全力で戦っても勝てるとは限らないかと」

「私、空飛んでアウトレンジから攻撃もできるけど」

「対抗手段あるのかよ⋯⋯」


 そりゃあ対抗手段の一つや二つくらいある。ベストは呪詛とか、パラジウムの箱とかだけど。

 空飛びながら呪詛れるかと言われれば、ミスって墜落してそのまま死にそう⋯⋯と言うのが本音なんだけど。


「サイズ的に、私が本気で攻撃して100分の1%削れるかどうかって感じじゃないかしら?」

「聖女様が100人いれば数分で終わるな」

「武器が足りなすぎる⋯⋯」

「結局、清められた武器を持ってる人は?」


 誰も手を挙げない。特攻武器があるの、私だけ?

 ⋯⋯というか、プレイヤーの数減った? え、もう既に十何パーティーか逃げ出してる?

 まあ、あのサイズだもんね。私の擬態解除の何百倍って大きさだし。コイツだけで旧支配者殲滅できそうなくらい大きいんだけど。

 多少燃やされてもクトゥグアに勝てそう。ショゴスって、本来はクトゥルフの半分より少し小さいくらいなのよね。それで、このショゴス・ロードはその10倍弱くらい。

 貴方の大元である自存する源の4倍くらいあるわよ。いくらゲームだからって、やっていい事とやっちゃダメな事があるでしょ!?


「決めた。私は特攻する」

「やはり特攻ですか。私も同行しますお母様」

「いや、みんなの避難誘導をして欲しいかな⋯⋯」

「そんなっ!?」


 だって私の移動は飛行だけど、飛行関係を捕食吸収出来ていないリリィは飛べないじゃない。動く的と言っても過言じゃないでしょ。

 私はシャンタク鳥の翼と、昨日こっそりへファから融通してもらったロケットを参考に、某ハンティングゲームのパッケージドラゴンを模倣することにした。擬態と変質でロケット推進のための圧力に耐えられる翼を作り、移動速度を無理やり作り出す。


「オイオイオイ、バルファ〇クだわ聖女様」

「彗聖龍セカトチャンサマ」

『チャンサマwww』

「あー、ちょっと大物前にシャワー浴びたくなってきたなぁ〜。血のシャワーとか、温かくてちょうどいいと思うのよね!」

『黙って避難するので殺さないでください!』

「早くしなさい!」


 ロケットが飛ぶ原理は、簡単な話燃料が燃焼する事で大量の気体が発生するから。私の場合は、それを溜まりに溜まった素材を燃料とすることで解決出来る。問題は、軌道制御が難しいこと。

 ついでに、私の体積と質量でロケット飛行をすると簡単に音速を超えるから、ソニックブームが撒き散らされること。

 つまり⋯⋯環境がぶっ壊れる。


「見守っててください、バースト様!」


 翼を作り出し、1分ちょっとかけて肉体の保護を全力で展開。MPはすっからかん、この時ほど擬態と変質にMPを消費しないことを感謝した時は無いかもしれない。

 いかにゆっくりなショゴスロードと言えど、これだけ時間をかければ相応に近づいている。実際の距離は目と鼻の先という程ではないけれど、大きさが大きさだけにとても近く見える。

 目標は脳を含む重要器官。槍を構え、大量の空気を吐き出し、地を離れて飛び出した。


「────!」


 一瞬で目の前に迫る玉虫色の壁。

 次の瞬間には生暖かい水に包まれたような感覚を感じ、また直ぐにそれが終わる。

 2秒しないうちに雲が目の前に迫り、加速を停止させて超巨大ショゴスを見やる。

 私が突撃したせいか大きな風穴がと共に細胞を撒き散らし、明確な敵意──否、殺意をこちらに向けていた。

 私と言う敵を正しく認識するためか、身体中に作り出された目玉は全てこちらを向いている。復讐の指導者の名に違わぬその視線は、復讐を誓っていた。

 私という存在に対する復讐。私がもう一度攻撃を仕掛けたなら、必ず返り討ちにしてみせると⋯⋯。

 なんとなくグラップラー漫画みたいなナレーションをつけてみた。それにしても、大量の目がこちらを向く様はバ〇よりもFG〇⋯⋯やめよう。


「テケ⋯⋯あ、あ⋯⋯んんっ。貴様、何故人間の味方をする?」

「喋った⋯⋯喋れたのね」

「貴様とて同種であり人の言葉を解するだろう。それと同じことだ」

「⋯⋯そう。それで、何故人の味方をするかだったかしら? 別に味方はしてないわよ。私は私のために街に迫ってくるヤツらを殺しただけ」

「そうか、ならば⋯⋯私も私のために貴様を殺すとしよう」


 先程とは比べ物にならない速度で、私を叩き落とそうと伸びてくる。明確な殺意を持った攻撃。久しく感じることのなかった──命の危機。

 自然と口角が釣り上がり、横にスライドしながら槍を振るう。体積と再生能力的に見れば、ささくれにも満たない小さな傷。30秒も放っておけば完全に回復されてしまうだろう傷も、短い間隔でその数が増えれば再生が追いつかなくなる。


「大は小を兼ねるかもしれないけれど、自分より小さすぎる相手は攻撃が当てにくくて大変ね? 私にとっては大きな的なんだけど」

「減らず口を⋯⋯!」


 体をいくつもの細い線状にして、それを網のように交差させて押しつぶす⋯⋯か。考えたわね、確かにそれは避けられない。避けられないけれど、迎撃はできる。

 網に合わせて落下し、落ちながら槍を振るって網に穴を開ける。そこに体を滑り込ませ、網の落下によって巻き上げられた土埃が私の体を覆い隠した。

 ──そして、手に持った朱槍が何かを訴えるように振動する。


「⋯⋯なるほどね、このタイミングか。ええ、わかるわよ⋯⋯のね?」


 システムウィンドウを開き、装備欄からロンギヌス・インペルフを選択。


─────────────

ロンギヌス・インペルフ

レア:希少

種別:武器:槍

効果:吸血成長、神話生物特攻(極小)

状態:成長限界、昇格申請


  [承認]  [拒否]

─────────────


 今まで無かった状態の欄。たった4文字の言葉の並びと、その下の2つの選択ボタンが全てを物語っている。

 砂埃で隠れているとはいえ、今は戦闘中。時間も無いが、やることが決まっているなら時間をかける必要も無い。

 人差し指を、承認ボタンに持っていく。──その直後、光が天を貫いた。

 朱く、赤く、紅く。血液よりも、宝石よりも紅い深紅の光。いずれ神殺しとなる槍は、未完成という称号を捨て去った。未完成だった槍は、完成品の幼体へと一歩を踏み出したのだ。

 新たな称号は幼体を表す物。それはすなわち、この槍が正真正銘『』であると、世界から、神から認められたことに他ならない。


─────────────

ロンギヌス・ラーヴァ

レア:遺物

種別:武器:槍

効果:吸収成長、HP・MP自動回復、神話生物特攻(小)

─────────────


 祝福の宴を開きましょう。新たな神殺しの聖誕を祝う、玉虫色の血祭りを⋯⋯!


「新しいロンギヌスは、今までよりももっと飢えているわよ」

「まだ生きていたか⋯⋯。だが、それもここまで。この距離ならば、小細工を弄する必要も無い!」


 ただただ巨体とそれに伴う質量でもって押しつぶす。その大きさなら、クトゥルフだって殺しうるだろう。けれど⋯⋯もう私はその程度では殺せない。

 避ける必要なんてない。私はその手に持った武器を信じ、全力で迎え撃つのみ。新しいロンギヌスの刃は、ただそれだけで神話生物の体を破壊し、自らの糧として捕食する。

 私だって刃に触れればタダでは済まない。神話生物にとっては、もはや槍の形をしただけの劇毒。それがロンギヌス・ラーヴァという名の槍。


「消える⋯⋯私が、消えていく⋯⋯。まだ、こんなところで⋯⋯死ぬ、訳には⋯⋯!」

「いいえ、おしまいよ。運が悪かったわね。もしもロンギヌスが成長しなかったら、もっと長い戦いになっていたはずよ。それでも私が勝つけど」

「減らず口を⋯⋯貴様さえ、いなければ⋯⋯!」


 まあ、私がいなければユナの街は滅んでいたでしょうね。今回のイベントのバックストーリーだって、作為的なものをかなり感じるし。

 脱走したのも、こんなイカれたショゴスが出来上がったのも、全部ニャルちゃんのせいだろうし。

 ⋯⋯全部ニャルラトホテプが悪いんだ。多分。


「おやすみなさい。貴方は強かったわ。私ほどじゃないけどね」


 もう聞こえてないか。

 超巨大ショゴスの消滅を見送ると、パチパチと乾いた音が聞こえてくる。ノーフェイスを名乗るニャルラトホテプの化身、今回の説明役。


「お見事でした。やはり、歴戦にして現役の探索者はひと味違いますね」

「そう、ありがとう。観戦料は可愛い女の子とのワンナイトラブでいいわよ」

「なるほど、考えておきましょう。それはそれとしてですが、これ以上人間側で活躍するのは控えていただきたいのですが⋯⋯いかがでしょう?」

「別にそれはいいけど、もう少し待って欲しいわね。活動拠点が教会しかないから、最低でもあと1つ拠点が欲しいわ。そうしたら、私はPK側に回るつもりでいるから」

「それは何よりです。お早い拠点の入手を願っておりますよ、

「ゲーム内で外の称号を出すのはご法度でしょ、


 彼は目を細めて微笑むと、空気中に溶けるようにして消えていった。


『Congratulation!』

『第1回公式イベントの最終ボス『復讐の指導者ショゴス・ロード』が討伐されました!』

『第1回公式イベント最終日の防衛に成功しました!』

『称号獲得【第1回公式イベント最終日MVP】【殿】【絶対防衛セカトたん】【神殺しの担い手】』

『討伐報酬

・ショゴス・ロード細胞×9999』

『防衛成功報酬

・1,000,000Dm

・隕鉄のホイッスル』

『MVP報酬

・ショゴス培養液

・とても旧い石版』


 なるほど、ビヤーキーに乗って何処か遠くへ移動しろと言っているのね? ここドリームランドなんですけど?


「お疲れ様でした、お母様」

「リリィ、明日街を離れるわ。準備を手伝って」

「かしこまりました」


 まずは移動先。これは北の森の先⋯⋯二グラスの街へ向かう。そして、そこから更にエリアボスを超えた先へ向かいましょう。

 次に移動手段。私もリリィもそんなに足は早くないから、どうにかする必要がある。こんな時にカキョウくん(眷属の駆り立てる恐怖、性別:オス)が居てくれたら楽だったのに⋯⋯。馬車か何かを借りるか買うかした方がいいかもしれないわね。乗馬とか経験ないんだけど⋯⋯。

 荷物は全部インベントリに突っ込んで、フレンドにはメッセージを送る。猫神教会を飛び出すのは心苦しいけど、これも門を開くまでの辛抱⋯⋯! 道中も捧げ物は必ずするので許してください、バースト様!

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