第10話 第1回公式イベント 1日目(後編)
「テケリ・リ、テケリ・リ!」
ショゴスの歩みは遅い。
オオカミやウサギの動きになれていた私たちからすれば、動きは鈍重と言って差し支え無いほどには遅い。けれど、その遅さを補って余りある攻撃範囲と攻撃力がある。
まだ誰も近づいていないから、そんなことを知っているのは私だけだけど。
「遠距離攻撃が出来る者は距離を取りつつ、撃ち続けて! 避けるのに自信が無い者は石でも投げてなさい!」
「石!?」
「投石は物を掴める霊長類だけが使える武器よ!」
「効いてるように見えねえんだけど⋯⋯?」
「あの見た目で再生能力や物理攻撃耐性が無いとでも?」
「長丁場確定じゃねーか!」
当たり前じゃん。本来、ショゴスは耐性のない魔術で倒すのがセオリーなんだけど、この場に魔術を使えるのは多分私だけ。しかも、ゲーム内で手に入れたものでは無いからチート扱いされる可能性も無くはない。
なら、後に残るのは再生するより早くダメージを与えることのみ。あるいは⋯⋯情報アドバンテージを捨てて、擬態解除して戦うか。
「突っ込むわ! 目標を対象中央付近に集中! 的が大きいから、適当に撃っても当たるわ!」
「お前ら、聖女様に誤射すんじゃねえぞ!」
「「「応ッ!!!」」」
「テケ、リ・リリリリリリリ!!!」
大きく弧を描いて、射線と被らないように近づいて切りつける。二股に分かれた槍頭の外側にも刃を付けてくれてるから、矛や薙刀のように扱ってもダメージを与えられる。
⋯⋯ショゴスの耐性が無いみたいにダメージが入るわね? 神話生物特攻って、もしかして魔術的効果扱いになる?
その考えに至り、口角が上がる。
「笑顔の起源とは、牙を剥き出しにして威嚇する行為である」
「聖女様ニコニコでワロタ」
「ロンギヌスがマジで聖遺物してて草」
「知ってるか⋯⋯あれ、人造物らしいぜ」
「「マ?」」
「聖女様、聖遺物作れるとかマジで聖女やん」
「まあ、女教皇らしいし⋯⋯」
「なんだろう、まるで教皇なら誰でも聖遺物作れるみたいな発言やめてもらっていいですか? 普通の教皇はそんなことできねえから!?」
向こうは向こうで楽しそうね。
いい加減私がチクチク攻撃するのが鬱陶しいのか、ショゴスが体を膨らませてのしかかってくる。近すぎて避けれないわね⋯⋯。
自業自得と割り切り、大人しく槍をインベントリに仕舞う。そして──
「擬態解除」
「テケリ・リ、テケリ!?」
ショゴスが私を押し潰す直前、私の体が崩壊。私の瞳とよく似た玉虫色の粘性生物に変化し、ショゴスの体をギリギリで受け止めた。
「⋯⋯あ、え?」
「聖女様が⋯⋯ショゴスになった?」
「ショゴス増えた⋯⋯?」
「なんで? 聖女様ショゴスなんで?」
優しいセカトちゃん様はみんなの疑問に答えてあげる。口と声帯を擬態で作り出し、硬直しているプレイヤー達の方へ言葉を発する。
「簡単でしょ、私が最初の種族変化プレイヤーだってことよ!」
『な、なんだってー!?』
「ノリのいいプレイヤーは好みだわ」
『へへへ⋯⋯』
「なんで受け入れてるヤツらばっかなんだよ、おかしいだろ⋯⋯」
「だって聖女様だし」
「まあ、聖女様だしな」
「そっか、そういうものなのか⋯⋯」
物分りのいい人しか居ないんだけど⋯⋯。みんな、随分と探索者適正高いわね⋯⋯。
それはそれとして、受け止めてわかったことが1つある。このショゴス、思ってたよりもSTRが高くない。
最悪の場合受け止めきれないのを想定していただけに、受け止められたのは幸運だった。
「私がこいつを攻撃しつつ止めるから、私ごとでいいから撃ちなさい!」
「聞いたか! 聖女様がピッコ□みたいなかっこいい事言ったぞ!」
「これに答えねえ奴は居ねえよなあ!?」
レイドエネミーとはいえ、所詮はサービス開始2週間のボス。この場にいる選りすぐりのプレイヤー達より、弱い。
捕食吸収で削りながら、ショゴスを盾にするように立ち回る。相手も抵抗してくるから難しいけど、多分気持ち程度には被弾率が下がってる気がする。
それと、今何となくで使ってる捕食吸収。生物相手にも使えることを今初めて知った。今までは武器や素材にしか使ってこなかったけど、今ショゴスに使ってて実感する。ドレイン系のスキルだったのだと。
もしかして、と思いながらムンビの槍に擬態&変質させると、少しだけど捕食吸収の効率が上がった。ハリネズミみたいにいっぱい生やそう。
「テテケリ・リリ!?」
「聖女様がレイドエネミーよりレイドエネミーしてて笑いすら出てこない」
「あの人本当にプレイヤーか? 実はお助けNPCかなにかなんじゃねえか?」
「聖女様お助けNPC説、あると思います」
「もうあの人だけで良い説」
「でも⋯⋯報酬欲しくない?」
『欲しい⋯⋯』
「じゃけん、聖女様が気を引いてくれてる今のうちに殴りましょうね〜」
『はーい!』
『⋯⋯何がはーい! だ。ヴォエッ』
コントかな?
あまりにもノリが良すぎるプレイヤー達を思考の隅に追いやりつつ、ショゴスに攻撃を仕掛ける。ショゴスの体積の変化的に、そろそろ終わると思うんだよね。
「テ、ケ⋯⋯リ・リ⋯⋯」
『Congratulation!』
『第1回公式イベント1日目のボス『復讐者ショゴス』が討伐されました!』
『第1回公式イベント1日目の防衛に成功しました!』
『称号獲得【第1回公式イベント1日目MVP】【指揮官】【自己犠牲】』
『討伐報酬
・ショゴス細胞×554』
『防衛成功報酬
・100,000Dm
・魔術『刀身を清める』
・魔術『肉体の保護』』
『MVP報酬
・ショゴス培養槽&培養液』
これ、2日目以降はこれがないとまともに戦えないって事?
刀身を清めるって、どう考えてもMMO向きの魔術じゃないよね? 多分精神力⋯⋯ゲームだとPOWを消費するんだろうけど、現状増やす手段が無いのに消費させるって鬼畜運営め⋯⋯。
あと、ショゴス培養してどうしろと?
「防衛お疲れ様ーーーっ!」
「聖女様バンザーイ!」
「やっぱり聖女様しか勝たん!」
「宗教かな?」
『宗教だよ』
「そうだった、宗教家だった⋯⋯」
「で、それはそれとして⋯⋯だ」
「種族変化の方法?」
「ああ。良ければ教えて欲しい。俺達は、今回の防衛戦で種族変化の重要性を教えられたからな」
方法⋯⋯言っていいのかしら?
私の場合は錬金術だったけど、多分他にもやり方はあると思う。とはいえ、どれも常識的な方法ではないのは事実。なら、話しても問題ないわね。
擬態と変質で人型に戻って詳細を話す。
「私はアイテムによる変化よ。アナウンス通り色々な方法があると思うけど、常識的な考えでたどり着けるものじゃないと思うわ。例えば私の場合だけど、仔山羊の触手、偶然遭遇したムーンビーストという神話生物の素材を乾燥等の加工をせずに錬金術で混ぜて、仔山羊の胃袋に入れて熟成させたものを胃袋ごと食べたわ」
「⋯⋯すまん、軽々しく聞いた俺が悪かった」
「え、聖女様そんなことしてんの⋯⋯?」
「嘘だろ⋯⋯?」
「その時の感想も詳しくレポートしましょうか?」
「やめれ!?」
「多分、今回の報酬でも種族変化アイテム作れると思うわよ。ショゴス細胞とか多分万能アイテムだし」
多分この細胞⋯⋯食材になると思う。
ショゴスは地球上の全生物の遺伝子持ってるからね。食べたら強くなると思うよ。肉体は。
私は⋯⋯保管かな。今後、宇宙由来の神話生物の素材が手に入ったら錬金する用に。
「明日、明後日の報酬も楽しみだな⋯⋯!」
「それはそれとして、今日の祝勝会をするわよ!」
『Yeaaaaaaaaaaaaaah!!!』
「飲めー!」
「食えー!」
「狂えー!」
『それはアカン!』
ダメか⋯⋯。
とりあえず、ヘファのとこ行こうかな。フレンドメッセージで場所確認して⋯⋯あ、エディの所に居るんだ。
「へファ!」
「セカトさん! お疲れ様です!」
「ええ、へファもお疲れ様。へファはどこの防衛に参加してたの?」
「私は南ですよ。戦闘はからっきしですから」
「生産専門だもんね⋯⋯」
「でもでも、簡易整備を請け負ったら結構稼げたんでそこは満足ですね」
うーん、強か。この子はこの子で、探索者に向いた性格してるわね。何があっても生き残れそう。
「報酬は何が貰えた? 私は素材アイテムとお金と魔術だったわ」
「お金と魔術は一緒ですね。素材アイテムは貰えなかったんで、もしかしたら北門限定かもしれないです」
「そうなんだ⋯⋯あ、そうだ。エリアボスってどのくらい終わってる?」
「私はまだ1つも倒せてないですよ。セカトさんは北だけでしたっけ?」
「ええ。特に食指が動かなかったから、先送りにしてたわ」
「じゃあ一緒に攻略しません?」
「勿論。私から誘おうと思ってたくらいよ」
「セカトさんが一緒なら勝ったも同然ですね」
「宇宙戦艦に乗ったつもりでいなさい」
大船? 否、ディープワンとビヤーキーと炎の精くらい軽く蹴散らしてみせる。
ショゴスは奉仕種族かもしれないけど、私はロード。反逆することに定評のあるショゴス達の中でも脳等の器官を作り出すことで、高度な知恵を持つ存在。たかが下級の奉仕種族ごときに負けたりはしない。
⋯⋯まあ、旧支配者とか上級の独立種族相手だと簡単に負けるけど。
「セカトさん、明日以降も北門防衛予定ですか?」
「ええ。多分、北門以外はレイドエネミー出ないと思うし」
それに、北門以外だと難易度低そうだし。
明日は何と戦わされるのかしらね⋯⋯。
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